第6話
1.その恋に敗北する─夜神月
「海砂。今度は何作ってるの?ビデオは使わないんだ」
「うん。ノートみてたらいい事思いついちゃって…これはまだ未完成の下書き」
海砂はルーズリーフに何かを書き綴っていた。
2003年5月と書かれた一枚のルーズリーフ。どうやら下書きは終ったようで、「ふー、終わったあ〜」とため息をついていた
「見てもいい?」
「もちろん!みてみて。感想ちょうだい」
手渡されたルーズリーフの内容は、読みやすい日記調になっている。
目を通すのは一瞬で済むけれど、これを作るのは容易ではなく、神経を使っただろう事はすぐ理解した。
1日 GW中にサークル活動は不参加と言ったのに、また友人からの誘いの電話。
4日 さいたまスーパーアリーナへ友人とモー娘。のコンサートを観に行く。
5日 連休最後の日だが、何もせず家でゴロゴロしていた
7日 学校が始まったが、友人と出る授業とノートの分担をし、自分は休む。
10日 友人から飲み会の誘いがあった断る。横浜は遠い。
13日 貸す約束をしていたCDを友人が取りに来たので貸す
16日 レポートの提出を忘れていたので、友人に見せてもらい写させてもらう。
19日 久々にジャンプを買って読む。読み切りが面白かった。
22日 友人と青山で待ち合わせ。ノートを見せ合う
23日 学食であいつに遭遇。あいつはカツカレーを食べていた。
24日 友人と渋谷で待ち合わせ。今年の夏用の服を数点買う。
28日 PS2より凄いPSXというのが出るらしい。注目!
30日 東京ドームの巨人戦にて、死神を確認する。
大抵は関係ない日常の一コマを書き綴っているだけ。でも、デスノートを所有している…もしくは、私のように存在を知らされたものにしか理解できない暗号が各所に隠されていた。
海砂を見やり、微笑みながら褒める。
「…うん。よくできてる」
「やった♪のお墨付き〜」
海砂は昔から、私が物凄く頭がいいのだと思ってる。
実際には私の知能が優れてる訳ではなく、前世という土台があって、ただ抜け駆けをしているだけなんだけど…。
それでも、人生二回分の学びを得ているのは間違いない。海砂に持ち上げられても、謙遜はしなかった。
そんな私の目から見ても、悪くはない出来だと思えた。
けれど──。
「えっと…。まず青山ね。キラ、来てくれるかなあ」
「来るんじゃないかな。放ってはおかないと思う」
「そうだよね!」
寝ころがってた海砂はばっと跳ね上がった。
「もついてきてね!青山」
「え、私も…?でも、私が行っても…。目はもってないんだし」
ノートを持ったもの同士じゃ、寿命は見えないという仕組みになっているらしい。
だから、海砂は寿命が見えない相手を見つけて、キラを特定しようとしている。
「だってはミサの幼馴染で親友で家族で…──共犯者でしょ?一緒にいないとダメだよ」
ミサは無邪気に笑った。…共犯者。間違いではない。
私は海砂の行いを黙認し、否定も肯定もしなかった。時には計画を立てる際のアドバイスまでして…。
立派な共犯者だろう。もし人を殺した人間が地獄へ堕ちるなら、私も海砂と一緒に落ちたい。
でも実際にデスノートを所有して人を殺してるのは海砂で、一緒には連れていってもらえないのかもしれないとも思う。
それがとても──虚しい。
──5月22日の青山。
ミサとお揃いのセーラー服を着て、ウィッグを被った。海砂はショートヘアで、私はかっちりとした三つ編みだ。
伊達メガネをして、いかにも真面目な子って感じ。
海砂は普段、整っている容姿のせいと、派手な服装と髪色のせいで目を惹く。
印象の全く違うこの姿のせいで、きっと=弥海砂とは結び付けられないだろう。
私は普段海砂ほど派手な恰好をしている訳でもないし、大変身を果たせたってわけじゃない。
だからマスクをして、二重の目を一重のように見せるメイクをした。
眉も思いっきり形を変えて、マスクから覗く部分の印象を大きく変える試行錯誤をしたのだった。
「みっけ」
青山の喫茶店に入ると、海砂はあっという間にキラを見つけてしまったらしい。
タイミングからして、今通りがかった若者集団の中にいたのだろうけど…
私には、誰がキラであったのかは不明だ。
「さー、、レム、帰ろ」
「えっせっかく会えたのにもういいのか?」
「人がいっぱいいる前で「キラさん、お会いできて嬉しいです」なんて挨拶したら悪いじゃない…名前わかったし、あとは簡単に調べられるわよ。変わった名前だしね」
簡単に調べられるほど変わった名前って、どんなだろう。
そんな興味はわいたけど、外で気軽に聞ける話題ではないだろうと、私は口を噤んだ。
…そして結局、海砂に名前を聞く事は、それから暫く叶わなかった。
ミサが教えてくれなかったのではなく、単純にタイミングが合わなかったからだ。
「海砂。私今夜からしばらくいないから…」
「ええっ…あっ撮影?スタジオじゃなくて屋外だっけ」
「そう。地方に行くから、今夜から移動する。朝早いの嫌だし…」
「要は前乗りでしょ?ホテル代もったいな〜」
海砂と私はプロダクションの戦略で、一緒に組んで撮影する事も多い。
でも別々に撮影する事だって当然ある。
明日からは緑豊かな土地で、神秘的な画を取りたいという企画担当の方針で、都心部から離れた所に移動する予定だ。
午前中から撮影開始かるらしい。となると、始発レベルで出かけなければならない。
そして現地について、慌てて撮影準備をするなんて、ちょっとキツい。
ホテル代がもったいないと言われればそうかもしれないけど、安いカプセルホテルを選べば大した痛手にはならないだろう。
私がいない間に海砂はネットでキラを特定して、二泊三日の撮影から戻ったあと…
『キラを見つける事ができました。テレビ局の皆さん。警察の皆さん。ありがとうございました』というメッセージを送ったという事後報告は聞いた。
ついでに「すっごい若くてイケメンだった〜♪」という嬉々とした感想も聞いた。
海砂の計画する通り、順調に進んでると思ってた。
****
キラからの返事がこないかなと、何気なく2人でニュース番組を見ていた時だった。
時刻は8時55分。
『もしまだあなたが誰なのかキラにわかってないなら間に合います。興味本位でキラに近づいては絶対いけない。キラに接触すればあなたは必ず殺されます。利用されるだけです。キラは大量殺人犯です。絶対手を貸そうとしてはいけません。今あなたにできる事は、人の命の尊さをよく考え、キラの情報を我々に教える事で罪を償い、キラの恐怖から世界の人々を救う──』
海砂はそれを聞くや否や、バッと立ち上がって、すぐに身支度を始めた。
私は海砂がこれからどうするのか察する事が出来たし、きっと共犯者である私に同行しろとまた望むだろうからと、一緒になって急いで出かける支度を整えた。
「どこ行くんだ?」
「名乗り出る」
「……」
マンションから出て、真っ暗になった夜道を街灯の灯を頼りにして2人歩く。
レムがようやくそこで海砂の行動の真意を問うと、黙り込んでしまった。
恐らく勘違いしてる。警察の言う通り、自首するために出頭しようとしてるのだと。
しかし海砂が向かったのは、「夜神」という表札がかかった、何の変哲もない一軒家だった。
…読み方…よる…かみ…いや、やがみ…かな…?
確かに、海砂の言っていた通り珍しい名字だ。全国に二桁いるかどうかも怪しいだろうと思えた。
海砂はインターホンを躊躇いなく鳴らして、家人を呼び出した。
ドアを開けたのは、パジャマ姿のあどけない女の子だった。
「こ…こんばんは。弥海砂と申します…」
「…私は、です…」
ただの付き添いだからと言って、私が名乗らないのもおかしいと思って、名乗った。
そんな私を、レムは意味心にじっと見ていた。
レムは海砂に、本名を明かさない方がいいとずっと説得していた。
殺されるリスクがあるからだ。デスノートは、名前を書いて殺す道具。
私自身も明かすという選択をした事で、更に複雑になっているのだろう。
「月さんが大学に忘れた大事なノートを届けに…」
「えっ…あっ…お兄ちゃんの…ち…ちょっと待ってください」
女の子は、"月さん"の妹であるらしい。
私は今初めて、キラの本名と、大学生であるということを知った。
若くてイケメンという情報しか知らなかった私は衝撃を受けていた。
──そして…強烈なデジャヴのようなものも。
「やがみ…らいと…?」
「そう。ほんと変わった名前よね。最初はつき君って読むのかと思ったら…ライトなんだって。びっくり」
「月に…らいと…」
既視感…。そう、今感じているこれは、間違えようもない既視感だ。
初めて聞いた名前であるはずなのに、そうは思えない。聞いたことがある。
……いったいどこで…。海砂と私の行動範囲はほぼ一緒。海砂が初対面だというなら私だってそのはず。
…じゃあ、まさか…。私が知ってるのは…。
「お兄ちゃーん、友達が忘れたノート持ってくてくれたよーっ」
妹ちゃんが二階にいるであろう、お兄さんに向けて大きな声を出して呼びつけた。
ほどなくしてトントンと階段を下りる音が聞えたかと思うと…
茶髪の男の子が降りてきた。確かに、イケメンと呼んで差し支えない整った顔をしている。
でも…この顔には…見覚えがあるような、ないような…。わからない。
でも名前は知ってる。…それに──世間を今騒がせているLって……
「は…初めまして、弥海砂です。テレビ観てたら心配してるんじゃないかと思って、どうしても我慢できなくなって…このノートを…」
海砂は自分のノートをスッと差し出して、忘れ物を渡すフリをした。
彼はノートを受け取らす、端っこの方を触ると…海砂の背後に立つレムをハッキリと見て、難しい顔をした。
「あがっていけよ」
「えっ部屋にいれてくれるの?嬉しい」
玄関先では話せないと判断したのだろう、彼は家の中に私達を招きいれた。
ちらりと、彼は海砂の横に立っていた私をみる。
「……きみは?」
「ただの付き添いです。…っていいます。…本名ですよ」
ぺこりと頭を下げながら挨拶すると、彼は目を見張った。
素直に名乗ったこと…本名と念押しした事が意外だったのだろう。
「母さん、わざわざ届けてくれたんだ。お茶か何か」
「えっあっそうね、いらっしゃい…」
妹ちゃんもお母さまも、どこか動揺しているようだった。
この容姿なんだから、女の子には困らないだろうに。もしかして女の子を招くのはこれが初めてなのかな…なんて思っていたら。
「あ…あの人が礼のお兄ちゃんの彼女?パンツ見えちゃってるし…」
「ま…まさか、冗談やめてよ粧裕」
「あ、もう一人の女の人の方かな…?あっちはふつー…」
階段を上がる最中、ヒソヒソと話している声が聞えて、理解した。
海砂は初めて崇拝するキラに会いにいくのだからと気合をいれたのか、一張羅を纏ってる。
つまりは海砂の大好きなゴスロリを身に纏っていて、角度によっては下着が見えるほどスカートの丈が短い。
妹ちゃんが言う「ふつー」というのは、私の服装の事だろう。
一応、自分の顔とスタイルで稼いでいる以上、美醜に関して普通と言われてしまったら困る。
「座って」
「あっありがとう…」
彼は自分の自室に招きいれると、勉強机から椅子を引っ張ってきて、海砂を椅子に座らせた。
「…ああ、きみの分が…」
「お構いなく。私はただの付き添いなので…立ってます」
まるで海砂の付き人のように斜め後ろで立っていると、彼は口元を引きつらせて「そういう訳には…」と言った。
「…ちょっと待ってて」
一度部屋を出ると、隣の部屋へと入って行く気配がした。そしてすぐにまたこの部屋に戻っきて…
「これ使って。妹のだけど」
「…いいんですか、勝手に」
「まあ、文句は言うだろうけど。怒らないよ」
ピンク色の、いかにも女の子らしい座布団を持ってきた。
ここまでされて固辞するのもくどいので、私は素直にそれを借りて、座る事にする。
彼は自分のベッドを椅子代わりにして腰かけると、すぐに本題へ入った。
「何故わかった」
「あっやっぱり目の取引はしてないんですね…死神の目を持つと人間の寿命と名前を見ることが出来る…でもノートを持ってる人間だけは寿命の方が見えないんです」
「…」
海砂が言うと、じろりとどこか宙を睨んだ。彼の死神がそこにいるのだろう
「この娘の言ってる事は嘘じゃない…でなきゃ青山で擦れ違っただけでキラだとわかるはずがないだろ?それどころか私は「本名はキラに教えない方がいい」と止めたのに…どうもお前には嘘をつきたくないみたいだ」
「それはわかったが…君がもし警察に捕まっていたらキラの秘密がバレていた…」
キラ…夜神月は…とても厳しい表情をしていた。
海砂のかわいさに決して絆されるような人間じゃない事は確かだろう。
きっと人を簡単に自分の領域に入れたりしない…心許さず、犯罪者を淡々と捌き続ける事ができる──彼こそが、キラ…──
──夜神月。
1.その恋に敗北する─夜神月
「海砂。今度は何作ってるの?ビデオは使わないんだ」
「うん。ノートみてたらいい事思いついちゃって…これはまだ未完成の下書き」
海砂はルーズリーフに何かを書き綴っていた。
2003年5月と書かれた一枚のルーズリーフ。どうやら下書きは終ったようで、「ふー、終わったあ〜」とため息をついていた
「見てもいい?」
「もちろん!みてみて。感想ちょうだい」
手渡されたルーズリーフの内容は、読みやすい日記調になっている。
目を通すのは一瞬で済むけれど、これを作るのは容易ではなく、神経を使っただろう事はすぐ理解した。
1日 GW中にサークル活動は不参加と言ったのに、また友人からの誘いの電話。
4日 さいたまスーパーアリーナへ友人とモー娘。のコンサートを観に行く。
5日 連休最後の日だが、何もせず家でゴロゴロしていた
7日 学校が始まったが、友人と出る授業とノートの分担をし、自分は休む。
10日 友人から飲み会の誘いがあった断る。横浜は遠い。
13日 貸す約束をしていたCDを友人が取りに来たので貸す
16日 レポートの提出を忘れていたので、友人に見せてもらい写させてもらう。
19日 久々にジャンプを買って読む。読み切りが面白かった。
22日 友人と青山で待ち合わせ。ノートを見せ合う
23日 学食であいつに遭遇。あいつはカツカレーを食べていた。
24日 友人と渋谷で待ち合わせ。今年の夏用の服を数点買う。
28日 PS2より凄いPSXというのが出るらしい。注目!
30日 東京ドームの巨人戦にて、死神を確認する。
大抵は関係ない日常の一コマを書き綴っているだけ。でも、デスノートを所有している…もしくは、私のように存在を知らされたものにしか理解できない暗号が各所に隠されていた。
海砂を見やり、微笑みながら褒める。
「…うん。よくできてる」
「やった♪のお墨付き〜」
海砂は昔から、私が物凄く頭がいいのだと思ってる。
実際には私の知能が優れてる訳ではなく、前世という土台があって、ただ抜け駆けをしているだけなんだけど…。
それでも、人生二回分の学びを得ているのは間違いない。海砂に持ち上げられても、謙遜はしなかった。
そんな私の目から見ても、悪くはない出来だと思えた。
けれど──。
「えっと…。まず青山ね。キラ、来てくれるかなあ」
「来るんじゃないかな。放ってはおかないと思う」
「そうだよね!」
寝ころがってた海砂はばっと跳ね上がった。
「もついてきてね!青山」
「え、私も…?でも、私が行っても…。目はもってないんだし」
ノートを持ったもの同士じゃ、寿命は見えないという仕組みになっているらしい。
だから、海砂は寿命が見えない相手を見つけて、キラを特定しようとしている。
「だってはミサの幼馴染で親友で家族で…──共犯者でしょ?一緒にいないとダメだよ」
ミサは無邪気に笑った。…共犯者。間違いではない。
私は海砂の行いを黙認し、否定も肯定もしなかった。時には計画を立てる際のアドバイスまでして…。
立派な共犯者だろう。もし人を殺した人間が地獄へ堕ちるなら、私も海砂と一緒に落ちたい。
でも実際にデスノートを所有して人を殺してるのは海砂で、一緒には連れていってもらえないのかもしれないとも思う。
それがとても──虚しい。
──5月22日の青山。
ミサとお揃いのセーラー服を着て、ウィッグを被った。海砂はショートヘアで、私はかっちりとした三つ編みだ。
伊達メガネをして、いかにも真面目な子って感じ。
海砂は普段、整っている容姿のせいと、派手な服装と髪色のせいで目を惹く。
印象の全く違うこの姿のせいで、きっと=弥海砂とは結び付けられないだろう。
私は普段海砂ほど派手な恰好をしている訳でもないし、大変身を果たせたってわけじゃない。
だからマスクをして、二重の目を一重のように見せるメイクをした。
眉も思いっきり形を変えて、マスクから覗く部分の印象を大きく変える試行錯誤をしたのだった。
「みっけ」
青山の喫茶店に入ると、海砂はあっという間にキラを見つけてしまったらしい。
タイミングからして、今通りがかった若者集団の中にいたのだろうけど…
私には、誰がキラであったのかは不明だ。
「さー、、レム、帰ろ」
「えっせっかく会えたのにもういいのか?」
「人がいっぱいいる前で「キラさん、お会いできて嬉しいです」なんて挨拶したら悪いじゃない…名前わかったし、あとは簡単に調べられるわよ。変わった名前だしね」
簡単に調べられるほど変わった名前って、どんなだろう。
そんな興味はわいたけど、外で気軽に聞ける話題ではないだろうと、私は口を噤んだ。
…そして結局、海砂に名前を聞く事は、それから暫く叶わなかった。
ミサが教えてくれなかったのではなく、単純にタイミングが合わなかったからだ。
「海砂。私今夜からしばらくいないから…」
「ええっ…あっ撮影?スタジオじゃなくて屋外だっけ」
「そう。地方に行くから、今夜から移動する。朝早いの嫌だし…」
「要は前乗りでしょ?ホテル代もったいな〜」
海砂と私はプロダクションの戦略で、一緒に組んで撮影する事も多い。
でも別々に撮影する事だって当然ある。
明日からは緑豊かな土地で、神秘的な画を取りたいという企画担当の方針で、都心部から離れた所に移動する予定だ。
午前中から撮影開始かるらしい。となると、始発レベルで出かけなければならない。
そして現地について、慌てて撮影準備をするなんて、ちょっとキツい。
ホテル代がもったいないと言われればそうかもしれないけど、安いカプセルホテルを選べば大した痛手にはならないだろう。
私がいない間に海砂はネットでキラを特定して、二泊三日の撮影から戻ったあと…
『キラを見つける事ができました。テレビ局の皆さん。警察の皆さん。ありがとうございました』というメッセージを送ったという事後報告は聞いた。
ついでに「すっごい若くてイケメンだった〜♪」という嬉々とした感想も聞いた。
海砂の計画する通り、順調に進んでると思ってた。
****
キラからの返事がこないかなと、何気なく2人でニュース番組を見ていた時だった。
時刻は8時55分。
『もしまだあなたが誰なのかキラにわかってないなら間に合います。興味本位でキラに近づいては絶対いけない。キラに接触すればあなたは必ず殺されます。利用されるだけです。キラは大量殺人犯です。絶対手を貸そうとしてはいけません。今あなたにできる事は、人の命の尊さをよく考え、キラの情報を我々に教える事で罪を償い、キラの恐怖から世界の人々を救う──』
海砂はそれを聞くや否や、バッと立ち上がって、すぐに身支度を始めた。
私は海砂がこれからどうするのか察する事が出来たし、きっと共犯者である私に同行しろとまた望むだろうからと、一緒になって急いで出かける支度を整えた。
「どこ行くんだ?」
「名乗り出る」
「……」
マンションから出て、真っ暗になった夜道を街灯の灯を頼りにして2人歩く。
レムがようやくそこで海砂の行動の真意を問うと、黙り込んでしまった。
恐らく勘違いしてる。警察の言う通り、自首するために出頭しようとしてるのだと。
しかし海砂が向かったのは、「夜神」という表札がかかった、何の変哲もない一軒家だった。
…読み方…よる…かみ…いや、やがみ…かな…?
確かに、海砂の言っていた通り珍しい名字だ。全国に二桁いるかどうかも怪しいだろうと思えた。
海砂はインターホンを躊躇いなく鳴らして、家人を呼び出した。
ドアを開けたのは、パジャマ姿のあどけない女の子だった。
「こ…こんばんは。弥海砂と申します…」
「…私は、です…」
ただの付き添いだからと言って、私が名乗らないのもおかしいと思って、名乗った。
そんな私を、レムは意味心にじっと見ていた。
レムは海砂に、本名を明かさない方がいいとずっと説得していた。
殺されるリスクがあるからだ。デスノートは、名前を書いて殺す道具。
私自身も明かすという選択をした事で、更に複雑になっているのだろう。
「月さんが大学に忘れた大事なノートを届けに…」
「えっ…あっ…お兄ちゃんの…ち…ちょっと待ってください」
女の子は、"月さん"の妹であるらしい。
私は今初めて、キラの本名と、大学生であるということを知った。
若くてイケメンという情報しか知らなかった私は衝撃を受けていた。
──そして…強烈なデジャヴのようなものも。
「やがみ…らいと…?」
「そう。ほんと変わった名前よね。最初はつき君って読むのかと思ったら…ライトなんだって。びっくり」
「月に…らいと…」
既視感…。そう、今感じているこれは、間違えようもない既視感だ。
初めて聞いた名前であるはずなのに、そうは思えない。聞いたことがある。
……いったいどこで…。海砂と私の行動範囲はほぼ一緒。海砂が初対面だというなら私だってそのはず。
…じゃあ、まさか…。私が知ってるのは…。
「お兄ちゃーん、友達が忘れたノート持ってくてくれたよーっ」
妹ちゃんが二階にいるであろう、お兄さんに向けて大きな声を出して呼びつけた。
ほどなくしてトントンと階段を下りる音が聞えたかと思うと…
茶髪の男の子が降りてきた。確かに、イケメンと呼んで差し支えない整った顔をしている。
でも…この顔には…見覚えがあるような、ないような…。わからない。
でも名前は知ってる。…それに──世間を今騒がせているLって……
「は…初めまして、弥海砂です。テレビ観てたら心配してるんじゃないかと思って、どうしても我慢できなくなって…このノートを…」
海砂は自分のノートをスッと差し出して、忘れ物を渡すフリをした。
彼はノートを受け取らす、端っこの方を触ると…海砂の背後に立つレムをハッキリと見て、難しい顔をした。
「あがっていけよ」
「えっ部屋にいれてくれるの?嬉しい」
玄関先では話せないと判断したのだろう、彼は家の中に私達を招きいれた。
ちらりと、彼は海砂の横に立っていた私をみる。
「……きみは?」
「ただの付き添いです。…っていいます。…本名ですよ」
ぺこりと頭を下げながら挨拶すると、彼は目を見張った。
素直に名乗ったこと…本名と念押しした事が意外だったのだろう。
「母さん、わざわざ届けてくれたんだ。お茶か何か」
「えっあっそうね、いらっしゃい…」
妹ちゃんもお母さまも、どこか動揺しているようだった。
この容姿なんだから、女の子には困らないだろうに。もしかして女の子を招くのはこれが初めてなのかな…なんて思っていたら。
「あ…あの人が礼のお兄ちゃんの彼女?パンツ見えちゃってるし…」
「ま…まさか、冗談やめてよ粧裕」
「あ、もう一人の女の人の方かな…?あっちはふつー…」
階段を上がる最中、ヒソヒソと話している声が聞えて、理解した。
海砂は初めて崇拝するキラに会いにいくのだからと気合をいれたのか、一張羅を纏ってる。
つまりは海砂の大好きなゴスロリを身に纏っていて、角度によっては下着が見えるほどスカートの丈が短い。
妹ちゃんが言う「ふつー」というのは、私の服装の事だろう。
一応、自分の顔とスタイルで稼いでいる以上、美醜に関して普通と言われてしまったら困る。
「座って」
「あっありがとう…」
彼は自分の自室に招きいれると、勉強机から椅子を引っ張ってきて、海砂を椅子に座らせた。
「…ああ、きみの分が…」
「お構いなく。私はただの付き添いなので…立ってます」
まるで海砂の付き人のように斜め後ろで立っていると、彼は口元を引きつらせて「そういう訳には…」と言った。
「…ちょっと待ってて」
一度部屋を出ると、隣の部屋へと入って行く気配がした。そしてすぐにまたこの部屋に戻っきて…
「これ使って。妹のだけど」
「…いいんですか、勝手に」
「まあ、文句は言うだろうけど。怒らないよ」
ピンク色の、いかにも女の子らしい座布団を持ってきた。
ここまでされて固辞するのもくどいので、私は素直にそれを借りて、座る事にする。
彼は自分のベッドを椅子代わりにして腰かけると、すぐに本題へ入った。
「何故わかった」
「あっやっぱり目の取引はしてないんですね…死神の目を持つと人間の寿命と名前を見ることが出来る…でもノートを持ってる人間だけは寿命の方が見えないんです」
「…」
海砂が言うと、じろりとどこか宙を睨んだ。彼の死神がそこにいるのだろう
「この娘の言ってる事は嘘じゃない…でなきゃ青山で擦れ違っただけでキラだとわかるはずがないだろ?それどころか私は「本名はキラに教えない方がいい」と止めたのに…どうもお前には嘘をつきたくないみたいだ」
「それはわかったが…君がもし警察に捕まっていたらキラの秘密がバレていた…」
キラ…夜神月は…とても厳しい表情をしていた。
海砂のかわいさに決して絆されるような人間じゃない事は確かだろう。
きっと人を簡単に自分の領域に入れたりしない…心許さず、犯罪者を淡々と捌き続ける事ができる──彼こそが、キラ…──
──夜神月。