第7話
1.その恋に敗北する─冷たい人
「…大丈夫…私は捕まってないし、これからはあなたの言う通りに動けば捕まらない…そうでしょう?。そして私がLの名前を見る…私はあなたの目になる。だから…」
彼はじっと値踏みするように海砂を見ている。でも、海砂が一度言葉を切って俯くと、怪訝そうな反応を見せた。
「?……だから?」
彼が改めて問うと、海砂はぱっと顔をあげて…
「彼女にしてください」
…私ですら、予想もしていなかった要求を彼にぶつけた。
「……海砂…」
思わず、私の口からは唖然とした声がもれる。
海砂はずっとキラを崇拝していた。尊敬していた。会いたがってた──でも、まさか…
キラの恋人になりたがっていたなんて、思いもしなかった。
衝撃を受けてるのは私だけで、彼は大して心動かされた様子もなく、冷たい声できっぱり断る。
「無理だ。大体あの日の青山はいつもの三倍の監視カメラがついていた。あの日青山に行ったのなら必ず君はどこかに映ってる…僕もだ。その2人がその後接近したら…今こうしている事すらまずいんだ。それくらいわかってくれ」
顔を上げた海砂とは対照的に、今度は私が俯く番だった。
ちらりと、様子の変わった私を彼が伺う気配を感じたけど、気を配る余裕もない。
「これ…」
すぐ隣の海砂がバックを漁る音がする。何かを探しあてると、それをスッと差し出す気配がした。
「青山に行った日の私の写真です。化粧は全く違うし、カツラもつけてます。監視カメラに映っていたとしてこの私か私は結び付けられない…」
「…じゃあ、指紋は?君がテレビ局に送ったものには全て同じ指紋がついてる。君の指紋が警察採られるような事があれば、第二のキラと決定される…」
「あれは私の指紋じゃない。私だって少しは考えて行動してます。少し前まで私は関西にいて、オカルト好きな友達がいたんです」
海砂はインチキな心霊写真を作ってみせて、そのビデオを色んなテレビ局に送ろうと持ち掛けていた。
彼女とは私も一応…共通の友達だったので、一応現場に居合わせていた。
ビデオテープ十本にダビングさせて、撮影した状態等を書く便箋と切手を貼った封筒も十枚用意させていたのを覚えてる。
海砂の指紋がつかないように、そのビデオテープの上から、「KIRA」の映像を重ね撮りして音を入れて。
それを語ると、彼はじっと海砂を探るように見て…。
「……その友達は今どうしている?」
「……あなたが殺せと言うなら今すぐにでも殺します」
……夜神月…。…本当に、"キラ"らしい人…。痛いくらい、それを痛感する。
この人が世間を騒がすキラなのだと、疑いようがない言動ばかりだ。
彼の気にする所は鋭くて、そして冷徹だ。私は、二重の意味で愕然としていた。
フローリングに視線を落としながらじっと考える。
海砂がキラの恋人になりたいと望んだこと。
──"夜神月"という、聞き馴染みがありすぎる名前を持つ人間が…こんなにも怖い人だった事。
全てがショックで、言葉もでない。
「…どうしても信じられないなら、このノートあなたが預かってください。
預かるだけなら所有権は私にあるから目の力は持続する。そうよね?レム」
「……確かにそれならミサのノートの隠し場所が夜神月って事にしかならないが…」
「これなら私はあなたを殺せないし、あなたからしか警察はノートを奪えない。そして私が不要になったら殺せばいい」
「しかしもうこのノートから何ページか切りとって、隠し持ってるかもしれないじゃないか」
それを聞いた瞬間、私はバッと顔を上げて、思わず責めるような目で彼をみてしまった。
彼と視線がかち合ったのはほんの一瞬で、海砂が勢いよく椅子から立ち上がった事で、
その視線は解ける。
「そんな使い方私は思いついてもいないし、ノートが切れてるかくらいあなたなら分かるでしょう?なんでそこまで疑うの?それにこのノート、殺す人以外の名前書いても何も意味がないんでしょ」
「ああ…例えば「夜神月は弥海砂を好きになって…」と書いても僕の方は「弥海砂を好きになって」という部分は適応されず、その後に記された死に方をする。君の方は単に40秒後に心臓麻痺…大体デスノートで人の一生は操れない。死の前の行動として操れるのはノートに記すその日から23日後までだ。そして「キラに愛され…」等と書いて「キラ」「L」といった呼び名は何の意味も持たない」
彼は涼しい顔で淡々と語る。海砂の必死さに報いることをしない。
確かに、会ったばかりの人間だし、海砂の行動によって自分までもが捕まるリスクを考えたら、警戒して当然かもしれない。
でも…それでも。どうしてそうも冷たく突き放せるの?
海砂はノートも預けるといい、友達すら殺すと言って…それでも少しも歩み寄ろうとしない。
「私はあなたに利用されるだけでもいいの、信じて」
「……何故そこまで言えるんだ?」
彼が胡乱げに問うと、海砂は膝を震わせて、そのまま崩れ落ちてしまった。
涙で瞳を潤ませ、項垂れている。
「私と名前の両親はちょうど一年前、私達の目の前で強盗に殺された。絶対に許せなかった…殺したいとも考えた…でもそれはいけない事…私はどうしたらいいのかわからなかった…裁判は長引きそのうち冤罪の見方まで…そんな時犯人を裁いてくれたのはキラ。私にとってキラは絶対的な存在…」
そこまで言えば、例えキラであっても…いや悪を許さないキラだからこそ、少しは同情してくれるだろうと思った。
けれど、それも全くの見当外れだとすぐに知らしめられる。
「しかし…君は罪のない警官たちを殺した…それは君の両親を殺した人間と同じじゃないのか?」
…この人の心は、どうしてこんなに冷たいの。私が彼を責め、海砂を庇ってしまうのは、私が海砂を贔屓してるから…?
そのせいで客観視できなくなってしまってて、本当は全部彼が言うことが正しいのだろうか。
…罪のない人を殺した事は、両親を殺した人間と同じ。それは私も思っていた事で、
彼が正しいと思う。でも、海砂が罪のない人を殺したのは…全部あなたのためなのに。
「そんな事あなたに言われたくない…あなただって悪を裁いて行くには犠牲は出る。そう考えてやってきたはず…私も同じ考え…私にはああするしか思いつかなかった。私の存在をあなたに知ってもらう方法が…お礼を言う方法が…」
震える声で、最後に海砂はこう言った。
「──どうしてもあなたに会いたかった」
海砂がそう言うと、彼はベッドから立ち上がり、蹲って泣く海砂を勢いよく抱きしめた。
「わかった…彼氏にはなれないが、振りはしてあげられる。僕に会うため、僕の力になる為に残りの寿命を半分にした君の目は武器になる」
「…ありがとう…好きになってもらえる様、頑張る」
私は…彼が海砂に覆いかぶさるように抱き留める前のほんの一瞬、彼の表情をみた。
──彼の口角が上がっていた事を、見逃さなかった。
まるで獲物を狙う獣のような鋭い眼光をしていた事に、気が付いてしまったのだ。
私の瞳は潤んで、涙が零れ落ちそうになって…でも、必死で唇を噛んでこらえる。
レムと…恐らくは死神リュークだけが、そんな私達三人を等しく見守っていた。
「彼氏のふりかぁー。最初はそれでもいいや。いつかきっと本当に好きになってもらえる自信あるし」
抱き留めていた腕をそっと離すと、海砂と彼は至近距離で見つめ合う。
海砂は笑みを浮かべてそう言った。海砂の自身は、成功体験から来るものだ。
海砂は容姿も可愛い上に、性格まで愛嬌がある。だから、男の子はみんな海砂を好きになった。
私も…彼がキラでなければ…"夜神月"でなけば、いつかきっと海砂の事を好きになってくれると信じられただろう。
でも…。きっとそうはならないだろうという確信があった。
それはただの勘ではなくて、或る意味では経験則のようなものから来る確信だった。
「じゃあさっそくだけど、あなたの死神もミサに見せて」
「ああ…わかった。後ろを向いてくれるか?」
「はい」
海砂が椅子に座り直してくるりと背を向ける。ちらりと私の方も見られて、すぐにその視線の意図を察した。
海砂と同じように、彼の方を見ないように姿勢を変えて、窓の方を見る。
「…ちなみに…きみ…さん?彼女は付き添いと言うけど…どこまで知ってるんだ」
「全部よ。デスノートの所有権は海砂にあるけど、この子は共犯者。全部知ってるし見てるし、レムのことも見える。だから、この子にも死神みせてね」
「………。わかった」
彼の心情や表情は、振り返らなくともわかった。事情を知る面倒な邪魔者が増えたと思っているのだろう。
しばらくすると、私の手に何かが触れる感触がした。
「こっち向いていいよ」
「はい」
海砂と共に元見ていた方を振り返り直すと、そこには真っ黒な死神が佇んでいた。
レムは白を基調とした明るい印象だけど、リュークという死神は、いかにもな容姿をしている。
「へえー死神といってもレムとは全然タイプ違うね、名前だけは聞いてるよリューク。よろしくね」
「はい、よろしく」
「そうそうライト、知ってる?死神が死ぬ方法」
「…もうライトって呼び捨てか…」
顔を顰めて、ため息でもつかんばかりに呆れた様子で言った。
「じゃあライトじゃなくてナイトって呼んでいい?ミサにとっては白馬の騎士だもの、そう呼びたかったの」
「……いやライトでいいよ…」
彼はナイトと呼ばれるかライトと呼び捨てられるか天秤にかけて、あっさりと後者に傾いたらしい。
海砂はにこにこと嬉しそうな笑みを浮かべて、彼に死神を殺す方法を教えた。誰にも言うなと釘刺されていたけれど、やっぱり秘密にするつもりは端からなかったらしい。
「特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を延ばす目的で他の人間を殺すと死神は死ぬって事か…」
「そう」
彼はベッドに腰掛け直して、興味深そうに言った。
「そんな事する死神がすいるとは思えないけどな」
「そうなだな…少なくともリュークは絶対なさそうだ」
レムは、ジェラスが人間に恋をしている事を他の死神が知れば、大笑いするだろうと言っていた。
それ程までに、人間に情を移すのは稀なことなのだろう。
「それともうひとつ…死神の目について聞いていいか?」
「何?」
彼は海砂から、その人の顔をみれば名前の判る目について聞きたがった。
海砂は勉強机を借りて、ノートとペンを手に取り、後ろ姿はダメだけど、サングラスならいいとか、細かに絵にかいて説明してみせた。
そうすると、海砂の手元を覗き見ていた彼が、感心したような声をもらす。
「結構上手いじゃないか。それにわかりやすい」
「…死神の殺し方、死神の目…次は何を教えてほしい?ライト…」
「…ああ…」
海砂はたった一言褒められただけで舞い上がり、頬を染めていた。
彼は覗き込んでいた状態から距離を取り、明らかに海砂と一線を引くような仕草をしている。
一歩離れた所から見守っていると、彼の言葉にしない本心が手に取るように透けて見えた。
「今までテレビ局にテープを送ったのはどこからだ?」
「えっと…最初は大阪。次が東京。この前は長野…新幹線使って場所の特定できないようにしたつもり」
「で、まだ友達の指紋つきのビデオテープや封筒は残ってるんだな?」
「うん」
それを聞くと、彼は明日最後のビデオテープを送った後に、ビデオ作成に使った全てを処分するように指示した。
ビデオテープの内容も全て彼が考えて、「この能力を与えるのにふさわしい人間にはどんどん力をわけ…」などと捜査を攪乱させる一文を加えるとも言う。
「できるか?」
「できるか?じゃなくてやれ!でいいよ!私はライトのいいなりになるから!」
「……それともうひとつ大事な事…」
「はい」
「もし警察に捕まったら…警察じゃなくてもだが…これは僕も君もだ。容疑者として捕まったとしても絶対互いのこととノートの事は喋らない。ノートを押さえ検証しない限り証拠はないんだから。これを守ると誓えるか?」
「誓いますっ」
弥海砂はピッと手をあげてると、にこにこ笑顔で、声を弾ませながら頷いた。
「それと…共犯者のきみも。このことを誓えるのか?」
両親を殺されたのは一緒。でも、あくまで付き添いと自称して、ただ傍観しているだけの私を…
彼は海砂に接する以上に厳しい目で見ていた。
1.その恋に敗北する─冷たい人
「…大丈夫…私は捕まってないし、これからはあなたの言う通りに動けば捕まらない…そうでしょう?。そして私がLの名前を見る…私はあなたの目になる。だから…」
彼はじっと値踏みするように海砂を見ている。でも、海砂が一度言葉を切って俯くと、怪訝そうな反応を見せた。
「?……だから?」
彼が改めて問うと、海砂はぱっと顔をあげて…
「彼女にしてください」
…私ですら、予想もしていなかった要求を彼にぶつけた。
「……海砂…」
思わず、私の口からは唖然とした声がもれる。
海砂はずっとキラを崇拝していた。尊敬していた。会いたがってた──でも、まさか…
キラの恋人になりたがっていたなんて、思いもしなかった。
衝撃を受けてるのは私だけで、彼は大して心動かされた様子もなく、冷たい声できっぱり断る。
「無理だ。大体あの日の青山はいつもの三倍の監視カメラがついていた。あの日青山に行ったのなら必ず君はどこかに映ってる…僕もだ。その2人がその後接近したら…今こうしている事すらまずいんだ。それくらいわかってくれ」
顔を上げた海砂とは対照的に、今度は私が俯く番だった。
ちらりと、様子の変わった私を彼が伺う気配を感じたけど、気を配る余裕もない。
「これ…」
すぐ隣の海砂がバックを漁る音がする。何かを探しあてると、それをスッと差し出す気配がした。
「青山に行った日の私の写真です。化粧は全く違うし、カツラもつけてます。監視カメラに映っていたとしてこの私か私は結び付けられない…」
「…じゃあ、指紋は?君がテレビ局に送ったものには全て同じ指紋がついてる。君の指紋が警察採られるような事があれば、第二のキラと決定される…」
「あれは私の指紋じゃない。私だって少しは考えて行動してます。少し前まで私は関西にいて、オカルト好きな友達がいたんです」
海砂はインチキな心霊写真を作ってみせて、そのビデオを色んなテレビ局に送ろうと持ち掛けていた。
彼女とは私も一応…共通の友達だったので、一応現場に居合わせていた。
ビデオテープ十本にダビングさせて、撮影した状態等を書く便箋と切手を貼った封筒も十枚用意させていたのを覚えてる。
海砂の指紋がつかないように、そのビデオテープの上から、「KIRA」の映像を重ね撮りして音を入れて。
それを語ると、彼はじっと海砂を探るように見て…。
「……その友達は今どうしている?」
「……あなたが殺せと言うなら今すぐにでも殺します」
……夜神月…。…本当に、"キラ"らしい人…。痛いくらい、それを痛感する。
この人が世間を騒がすキラなのだと、疑いようがない言動ばかりだ。
彼の気にする所は鋭くて、そして冷徹だ。私は、二重の意味で愕然としていた。
フローリングに視線を落としながらじっと考える。
海砂がキラの恋人になりたいと望んだこと。
──"夜神月"という、聞き馴染みがありすぎる名前を持つ人間が…こんなにも怖い人だった事。
全てがショックで、言葉もでない。
「…どうしても信じられないなら、このノートあなたが預かってください。
預かるだけなら所有権は私にあるから目の力は持続する。そうよね?レム」
「……確かにそれならミサのノートの隠し場所が夜神月って事にしかならないが…」
「これなら私はあなたを殺せないし、あなたからしか警察はノートを奪えない。そして私が不要になったら殺せばいい」
「しかしもうこのノートから何ページか切りとって、隠し持ってるかもしれないじゃないか」
それを聞いた瞬間、私はバッと顔を上げて、思わず責めるような目で彼をみてしまった。
彼と視線がかち合ったのはほんの一瞬で、海砂が勢いよく椅子から立ち上がった事で、
その視線は解ける。
「そんな使い方私は思いついてもいないし、ノートが切れてるかくらいあなたなら分かるでしょう?なんでそこまで疑うの?それにこのノート、殺す人以外の名前書いても何も意味がないんでしょ」
「ああ…例えば「夜神月は弥海砂を好きになって…」と書いても僕の方は「弥海砂を好きになって」という部分は適応されず、その後に記された死に方をする。君の方は単に40秒後に心臓麻痺…大体デスノートで人の一生は操れない。死の前の行動として操れるのはノートに記すその日から23日後までだ。そして「キラに愛され…」等と書いて「キラ」「L」といった呼び名は何の意味も持たない」
彼は涼しい顔で淡々と語る。海砂の必死さに報いることをしない。
確かに、会ったばかりの人間だし、海砂の行動によって自分までもが捕まるリスクを考えたら、警戒して当然かもしれない。
でも…それでも。どうしてそうも冷たく突き放せるの?
海砂はノートも預けるといい、友達すら殺すと言って…それでも少しも歩み寄ろうとしない。
「私はあなたに利用されるだけでもいいの、信じて」
「……何故そこまで言えるんだ?」
彼が胡乱げに問うと、海砂は膝を震わせて、そのまま崩れ落ちてしまった。
涙で瞳を潤ませ、項垂れている。
「私と名前の両親はちょうど一年前、私達の目の前で強盗に殺された。絶対に許せなかった…殺したいとも考えた…でもそれはいけない事…私はどうしたらいいのかわからなかった…裁判は長引きそのうち冤罪の見方まで…そんな時犯人を裁いてくれたのはキラ。私にとってキラは絶対的な存在…」
そこまで言えば、例えキラであっても…いや悪を許さないキラだからこそ、少しは同情してくれるだろうと思った。
けれど、それも全くの見当外れだとすぐに知らしめられる。
「しかし…君は罪のない警官たちを殺した…それは君の両親を殺した人間と同じじゃないのか?」
…この人の心は、どうしてこんなに冷たいの。私が彼を責め、海砂を庇ってしまうのは、私が海砂を贔屓してるから…?
そのせいで客観視できなくなってしまってて、本当は全部彼が言うことが正しいのだろうか。
…罪のない人を殺した事は、両親を殺した人間と同じ。それは私も思っていた事で、
彼が正しいと思う。でも、海砂が罪のない人を殺したのは…全部あなたのためなのに。
「そんな事あなたに言われたくない…あなただって悪を裁いて行くには犠牲は出る。そう考えてやってきたはず…私も同じ考え…私にはああするしか思いつかなかった。私の存在をあなたに知ってもらう方法が…お礼を言う方法が…」
震える声で、最後に海砂はこう言った。
「──どうしてもあなたに会いたかった」
海砂がそう言うと、彼はベッドから立ち上がり、蹲って泣く海砂を勢いよく抱きしめた。
「わかった…彼氏にはなれないが、振りはしてあげられる。僕に会うため、僕の力になる為に残りの寿命を半分にした君の目は武器になる」
「…ありがとう…好きになってもらえる様、頑張る」
私は…彼が海砂に覆いかぶさるように抱き留める前のほんの一瞬、彼の表情をみた。
──彼の口角が上がっていた事を、見逃さなかった。
まるで獲物を狙う獣のような鋭い眼光をしていた事に、気が付いてしまったのだ。
私の瞳は潤んで、涙が零れ落ちそうになって…でも、必死で唇を噛んでこらえる。
レムと…恐らくは死神リュークだけが、そんな私達三人を等しく見守っていた。
「彼氏のふりかぁー。最初はそれでもいいや。いつかきっと本当に好きになってもらえる自信あるし」
抱き留めていた腕をそっと離すと、海砂と彼は至近距離で見つめ合う。
海砂は笑みを浮かべてそう言った。海砂の自身は、成功体験から来るものだ。
海砂は容姿も可愛い上に、性格まで愛嬌がある。だから、男の子はみんな海砂を好きになった。
私も…彼がキラでなければ…"夜神月"でなけば、いつかきっと海砂の事を好きになってくれると信じられただろう。
でも…。きっとそうはならないだろうという確信があった。
それはただの勘ではなくて、或る意味では経験則のようなものから来る確信だった。
「じゃあさっそくだけど、あなたの死神もミサに見せて」
「ああ…わかった。後ろを向いてくれるか?」
「はい」
海砂が椅子に座り直してくるりと背を向ける。ちらりと私の方も見られて、すぐにその視線の意図を察した。
海砂と同じように、彼の方を見ないように姿勢を変えて、窓の方を見る。
「…ちなみに…きみ…さん?彼女は付き添いと言うけど…どこまで知ってるんだ」
「全部よ。デスノートの所有権は海砂にあるけど、この子は共犯者。全部知ってるし見てるし、レムのことも見える。だから、この子にも死神みせてね」
「………。わかった」
彼の心情や表情は、振り返らなくともわかった。事情を知る面倒な邪魔者が増えたと思っているのだろう。
しばらくすると、私の手に何かが触れる感触がした。
「こっち向いていいよ」
「はい」
海砂と共に元見ていた方を振り返り直すと、そこには真っ黒な死神が佇んでいた。
レムは白を基調とした明るい印象だけど、リュークという死神は、いかにもな容姿をしている。
「へえー死神といってもレムとは全然タイプ違うね、名前だけは聞いてるよリューク。よろしくね」
「はい、よろしく」
「そうそうライト、知ってる?死神が死ぬ方法」
「…もうライトって呼び捨てか…」
顔を顰めて、ため息でもつかんばかりに呆れた様子で言った。
「じゃあライトじゃなくてナイトって呼んでいい?ミサにとっては白馬の騎士だもの、そう呼びたかったの」
「……いやライトでいいよ…」
彼はナイトと呼ばれるかライトと呼び捨てられるか天秤にかけて、あっさりと後者に傾いたらしい。
海砂はにこにこと嬉しそうな笑みを浮かべて、彼に死神を殺す方法を教えた。誰にも言うなと釘刺されていたけれど、やっぱり秘密にするつもりは端からなかったらしい。
「特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を延ばす目的で他の人間を殺すと死神は死ぬって事か…」
「そう」
彼はベッドに腰掛け直して、興味深そうに言った。
「そんな事する死神がすいるとは思えないけどな」
「そうなだな…少なくともリュークは絶対なさそうだ」
レムは、ジェラスが人間に恋をしている事を他の死神が知れば、大笑いするだろうと言っていた。
それ程までに、人間に情を移すのは稀なことなのだろう。
「それともうひとつ…死神の目について聞いていいか?」
「何?」
彼は海砂から、その人の顔をみれば名前の判る目について聞きたがった。
海砂は勉強机を借りて、ノートとペンを手に取り、後ろ姿はダメだけど、サングラスならいいとか、細かに絵にかいて説明してみせた。
そうすると、海砂の手元を覗き見ていた彼が、感心したような声をもらす。
「結構上手いじゃないか。それにわかりやすい」
「…死神の殺し方、死神の目…次は何を教えてほしい?ライト…」
「…ああ…」
海砂はたった一言褒められただけで舞い上がり、頬を染めていた。
彼は覗き込んでいた状態から距離を取り、明らかに海砂と一線を引くような仕草をしている。
一歩離れた所から見守っていると、彼の言葉にしない本心が手に取るように透けて見えた。
「今までテレビ局にテープを送ったのはどこからだ?」
「えっと…最初は大阪。次が東京。この前は長野…新幹線使って場所の特定できないようにしたつもり」
「で、まだ友達の指紋つきのビデオテープや封筒は残ってるんだな?」
「うん」
それを聞くと、彼は明日最後のビデオテープを送った後に、ビデオ作成に使った全てを処分するように指示した。
ビデオテープの内容も全て彼が考えて、「この能力を与えるのにふさわしい人間にはどんどん力をわけ…」などと捜査を攪乱させる一文を加えるとも言う。
「できるか?」
「できるか?じゃなくてやれ!でいいよ!私はライトのいいなりになるから!」
「……それともうひとつ大事な事…」
「はい」
「もし警察に捕まったら…警察じゃなくてもだが…これは僕も君もだ。容疑者として捕まったとしても絶対互いのこととノートの事は喋らない。ノートを押さえ検証しない限り証拠はないんだから。これを守ると誓えるか?」
「誓いますっ」
弥海砂はピッと手をあげてると、にこにこ笑顔で、声を弾ませながら頷いた。
「それと…共犯者のきみも。このことを誓えるのか?」
両親を殺されたのは一緒。でも、あくまで付き添いと自称して、ただ傍観しているだけの私を…
彼は海砂に接する以上に厳しい目で見ていた。