第5話
1.その恋に敗北する─愛の為に。
死神レムは、ノートの所有主である海砂と…ノートに触れた私にしか視認する事ができない。
「なあ、おまえ…せっかくデスノートあげたのに、もっと自分の為に利用しなくていいのか?」
街中を歩きながら、終始海砂の後ろをついて回る死神…レムはそう問いかけていた。
海砂の隣を歩く私はちらりとその姿を視界に入れつつ、じっと見守る。
「自分の為に使ってるよ。だってキラに賛成だし、キラがどんな人か知りたいの…会ってお話したいとも思ってるよ」
何もない所に向かって話しかける海砂は、奇異に映るだろう。しかし今は雑踏に上手く紛れ、誰も気にしていない様子だ。
レムはそんな海砂を見て、なんとも形容しがたい目でみていた。海砂の理屈には納得がいかないのだろうと思う。
「その為にわざわざ関東にまで引っ越してきて、と2人で暮らしてるんだし…勿論、本格的にモデルの仕事したいっていうのもあったけど」
心機一転の為の引っ越しというのも一因で、キラに会いたいというのは上京の決定打だ。
Lという人物により、キラは日本の関東地区に住んでる…もしくは拠点としているだろうという推測が立てられていた。
「テレビにあんなの送ってキラに気付いてもらえる様にしたんだから…ね、」
「…うん。よくできてたよ」
ふふっと無邪気に笑って、私に同意を求めた海砂。頑張って試行錯誤し、知恵を絞って作っていた姿を、私はずっと隣でみていたのだ。
「キラはきっと興味持ってくれたよね…きっと。もしかしたら会いたいって思ってくれてるかもね」
「危ない遊びだなー。殺されるかもよ。わかってる?」
それは私も危惧している所だ。死神とは言っても、このレムという彼女は、倫理観が人と近い。話の通じる死神だったのだ。
けれど海砂は死神レムの懸念も私の危惧も、意に介そうとはしなかった。
「大丈夫だよ、キラはきっと純粋な子には優しいし…いざとなったら目を持ってるミサの方が強いもん」
…──目。その言葉を聞くと、胸がつきんと痛くなる。
海砂は死神・レムと"目の取引き"というものをした。私は止めたけど、こればかりは海砂が頷いてはくれなかった──…
取引をすることで得たものは大きいかもしれない。けれど、代償は同じくらい…いやそれ以上に大きいと私は思う。
──海砂は、目を手に入れる代わりに、その寿命の半分を差し出した。だというのに、それが全く惜しくないのだと笑ってた。あの笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。
「でも…より先に死んじゃうのは悲しいかな。私ずっと、死ぬならと一緒がいいって思ってたから」
目を取引をした後、海砂が言った言葉だ。私はそれを聞いて、ぶるりと全身が震えるのを止められなかった。
「先に逝っちゃうの決まっちゃった。ミサ、を置いていっちゃう…。…ごめんね…」
海砂は自分の命を軽くみてる。削られた事を痛みと感じてない。
ただ、私を置いて逝く事だけが心残りなのだという。その姿があまりにも痛々しくて。
…その決断が、私には悲しすぎて…耐えきれなかった。
「もー、苦しいよ」
「…っ馬鹿海砂…」
私は思わず、海砂を抱きしめていた。海砂は笑って、私は泣きそうになりながら。
死神はじっと、その様子を見守っていた──。
***
海砂と同居しているマンションは広くはない。
モデルの卵の私達は決して高級取りとはいえない。けれど過去ストーカーに殺されかけた事もある海砂をセキュリティの甘いアパートに住まわせるなんて考えられず…
けれど私とルームシェアすれば、家賃光熱費が折半に出来る事で多少はゆとりができるのは確か。
海砂は頓着しなかったが、私のゴリ押しでオートロックつきのマンションに入居する事となる。
けれど、私の主張が色濃いのはその辺りくらいだ。
インテリアはほとんど海砂が選んでいて、見事にゴシックな部屋が出来上がっていた。
『大変な事になりました。先日さくらTVにビデオを送り放映させたキラに対し、自分が本物だというもう一人のキラが現れました。本日午前11時頃、警察庁にビデオがとどき、刑務所内の犯罪者8人午後2時から10分おきに心臓麻痺で殺害。そして各テレビ局にメッセージを放映させる事を要求。警察庁はこのビデオに関しては、放映する事を許可しています。
こちらがキラなのか?これもキラなのか?まずこのキラから送られてきたビデオを御覧ください』
ニュース7というロゴをバックに、男性アナウンサーが19時のニュースで語り出す。
十字架の掲げられたキラキラした置物が鎮座するテレビを、海砂は前のめりになって眺めた。
『キラです。私が真のキラであり、先日さくらTVで放映されたビデオの主はキラではありません。』
「やった♪キラが返事くれた!」
ベッドに座り、ご機嫌な様子の海砂を横目に、私は夕ご飯の支度をしていた。
ドアを開け放っていれば、リビングルーム兼、寝室にいる海砂の姿はよく見える。
『現時点では私を名乗った者に対し、私に協力し、私の代弁をしようとしたと、歓談に受け止めています。しかし罪のな警察官僚などの命を奪ったり、盾に取るような行為は私の意思とは反する。世の中の混乱を招くだけであり、人々の私への理解を削ぐ行為です。
もし私を名乗った者が私に共感し、私に協力する気持ちがあるならば、勝手な行動は慎み、まず私の意思を理解することです。この忠告を聞かず暴走するならば、そちらから裁きます』
「さーっビデオビデオ。ちゃんと持ってきたはず」
海砂はベットから身を乗り出しねごそごそと荷物を探り出していた。
「この前使った映像のコピーテープはあるから、ここに音入れれば私の証拠になるし」
「何する気だ?」
「もちろんすぐキラに返事出すのに決まってるじゃない」
「…」
弾んだ声で海砂が言うと、レムは何かを考えるようにして黙り込んでしまっていた。
「問題は何て答えるかだな〜〜」
海砂は悩んだように言いつつも、実際作業に取り掛かってしまえば、案が浮かんで完成するまでに、そう時間はかからなかった。
私の作った晩御飯を食べながら、にこにこと笑顔で今後の計画を話す海砂の笑顔は、無邪気そのものだ。 「名前の作るごはん、やっぱおいしー。ヘルシーなのに味しっかりしてるし、満足感あるし」 「モデルの海砂のための料理だからね。色々工夫してみたの」 「あは。名前だってモデルのくせに!」
子供のように楽しそうに笑ってからかう海砂。いつもの冗談の応酬だ。そんな海砂を みていたら、私もつられて、思わず笑みが浮かべていた。
──2日後。完成したビデオは、無事さくらTVに郵送されたはずだ。もう到着した頃だろう。
海砂が付く上げたビデオのメッセージの内容は、こうだ。
『キラさん、お返事ありがとうございます。私はキラさんの言う通りにします。私はキラさんに会いたい。キラさんは目を持っていないと思いますが、私はキラさんを殺したりはしません、安心してください。何か警察の人にはわからない会ういい方法を考えてください。会った時はお互いの死神を見せ合え確認できます』
合成音声で性別すらわからないようにされたビデオメッセージ。
一般人であれば理解不能だろうが、デスノートを持つキラにはきっと伝わる。
死神…目…。それが意味する事を。
****
キラからの折り返しの返事を待つ間、私と海砂は、仕事中以外のほとんどの時間を、死神レムと対話する事にあてていた。
「死神はデスノートを持ってないとダメ。人間にデスノートを持たせて遊ぶには二冊必要…キラにノートを持たせたリュークは死神大王を騙して二冊目を手入れたってことね」
「そう」
「じゃあレムも?」
「違うよ。死神大王なんてそう簡単に騙せる相手じゃない」
「じゃあどうやって?」
海砂は純粋に二冊目を手に入れた方法を知りたがっていたけれど、私は別のことが引っ掛かっていた。
死神大王なんて存在がいるなんてと、驚いてしまっていた。
確かに死神がいるなら、それを統率する大王がいたっておかしくない…。
のだけど…。そもそもまだ死神が現実にいる事すら、夢心地に感じるというか…他人事といううか…。
現実としてきちんと受け止められていないのに、死神大王の存在まで受け入れられない。
「私は死神界でも数少ない──死神を殺す方法を知っている死神だから…とでも言っておこう」
「!へー。じゃあ死神殺してノート奪ってそれをミサにくれたんだ」
「……違うな…殺した訳ではない。たまたま死ぬ死神がいて、そこに私が居合わせた…」
「ねーっ死神殺す方法教えてよ」
海砂と私はベッドに隣合って腰かけ、死神レムを見上げていた。
死神レムはとても大きく、ベッドに座ったまま見下ろされると余計圧を感じる。
しかし海砂は、そんな死神相手に怯む事なく、どころかにじりよってまでして、笑顔でせがんだ。
「……誰にも言うなよ」
「あは♪」
海砂は釘を刺されたのに対して、イエスともノーとも言わなかった。…多分、言うつもりだろなあ…。伊達に付き合いは長くない。このくらいはすぐに悟った。
海砂はご機嫌な様子で私の腕を組み、しなだれかかって死神の言葉を待った。
「死神を殺す方法は…人間に恋させる事だ」
どんな物騒な方法かと思えば…まるで童話のような殺し方だった。
海砂も同じように感じたらしい。
「素敵な殺し方…」
愛のために死ぬというのは、物語としては感動的なものだろう。
そして実際、殺し方だけでなく…物語のような出来事が起こっていたらしい。
「死神界からずっと一人の少女を眺めていたジェラスって死神がいてね…私はすぐにピンと来た「こいつ、この娘に恋してる」ってね。今の死神界じゃ大笑いされる事だが、私は黙ってジェラスを見ていた…」
そうして、訥々と死神レムは語った。レムは語るのが上手く、童話のようなその出来事に引き込まれていった。
「ジェラスの死を見てわかった気がしたよ…まだ人間界の生と死に深く関わろうとしていた大昔の死神には、たまに死者が出た理由が…」
ジェラスは死神界からいつもいつもその娘を見ていたのだという。
そして寿命がつきる当日になって、元気そうなのに突然にその娘が死ぬ理由を見届けようと、レムとジェラスはじっとその時を待ったらしい。
その娘は夜道を一人で歩いて…突然路地から一人の男が現れて、娘に告白した。
「見ず知らずの男。当然娘は断った…」
そこまで聞くと、私には──…恐らく海砂にも──…察しがついていた。
この物語のような出来事が、いつ、どこで起ったのかということを。
「ジェラスは死神としてやってはならない事をした」
告白を断られて、「じゃあ君を殺して僕も死ぬ!」と男が刃物をつきつけたのを見て、ジェラスは娘を刺すはずの男の名前をデスノートに書き、娘を助けてしまったのだという。
「……」
海砂も私も何も言わずに聞き入っていた。愛のために人知れず死んでいった、死神の物語を聞いていた。
男は死神の手により娘を刺す事を止め、その数分後心臓麻痺とされ、1人道端で死んだ。
そんな事娘は知らない…とレムは語る。
「でも駄目なんだよ。死神は人間の寿命を短くする…いただく為だけに存在している。人の寿命を延ばすなんてもっての他…」
その瞬間、ジェラスは砂とも錆ともわからぬ物に変わり…死んだ。
そこにはデスノートだけが残り…その死神の命が助けられた娘に見合った寿命として与えられた。
「…その娘に恋してなければ、男を殺しても死神は死ななかったって事?」
「その通りだ。娘の寿命を延ばしたいという気持ちがあったからジェラスは死んだ。死神は人間の寿命を延ばす目的でデスノートを使ってはいけない。死神失格…死神は死ぬ」
海砂はぎゅっとノートを胸に抱きしめ…、そして私の肩に寄りかかって呟いた。
「じゃあ…あの時…私を助けてくれたのはジェラスって死神なんだ…」
「そう。だからそのノートはおまえの物だ」
「…うん」
海砂から、ストーカーに殺されかけたという話は聞いていた。
突然包丁を手放したかと思うと、踵を返して去って行ったのだと、不思議そうにしていた。
その背景には…こんな事情があったなんて。想像できるはずもない。
「そうかあ〜死神殺すには人間に恋させて助けないと駄目なんだ。それも誰かを殺したおかげで寿命を延びる人間に恋させなきゃだから難しいな〜」
海砂は私を巻き込む形で押し倒し、ぽふんとベットに転がる。
「ちょっと海砂…苦しい」
「ねえ、頭いいんだし…何か名案思いつかない?」
押されて仰向けに倒れ込んだ私の上にのしかかり、枕にするようにしながら海砂は語った。
「諦めな。おまえたちに私は殺せない」
「あっバレてた?はは」
海砂は悪びれもせずに笑っていた。レムはなんとも形容しがたい表情を浮かべて押し黙ってしまう。
「でもこれでキラに教えてあげられる話がまたできたよ。知ってるのかな?死神のこ・ろ・し・か・た」
やっぱり海砂は誰にも言うなと釘刺された話を、最初から誰かに打ち明ける気でいたらしい。
当然ただの一般人相手になどいうはずもない。自分と対等な立場にいる人間…崇拝するキラに話すつもりで聞き出したのだろう。
「テレビでも「会ういい方法考えてください」ってちゃんと流してくれたのに、今度はなかなか返事がこないなー。」
またこっちから何か言ってみようかな〜と海砂は言う。
そして、枕代わりにしてじゃれついている私に向かって、こう問いかけた。
「、どう思う?」
「…動けば動くほど、リスクは増す。私は賛成しない、けど…」
「けど?」
「背負うリスクなんて、海砂も最初から承知してるだろうし…反対はしない。海砂の思うように動いたらいいと思う」
海砂は私にぎゅっと抱き着いて、肩口に顔を埋めて擦り寄ってきた。
「はいつだって海砂の味方!大好き」
「…当たり前だよ。だって私は海砂の幼馴染で…一番の親友で…家族で…」
「あはっ結局何なの?」
「……海砂のためなら、私は何にでもなれるよ」
大事な海砂の頭を撫でて、甘やかす。…私達はずっと、ずっと傍にいた。
そんな私たちを、ジェラスという死神はずっと死神界から見守っていたのだろう。
死神レムも同じように死神界で…そして今は、私達の目の前に降り立って。
死レムの目に、私達はどう映るのだろう。その死神は何も言わず、ただ私達をじっと見守っていた。
1.その恋に敗北する─愛の為に。
死神レムは、ノートの所有主である海砂と…ノートに触れた私にしか視認する事ができない。
「なあ、おまえ…せっかくデスノートあげたのに、もっと自分の為に利用しなくていいのか?」
街中を歩きながら、終始海砂の後ろをついて回る死神…レムはそう問いかけていた。
海砂の隣を歩く私はちらりとその姿を視界に入れつつ、じっと見守る。
「自分の為に使ってるよ。だってキラに賛成だし、キラがどんな人か知りたいの…会ってお話したいとも思ってるよ」
何もない所に向かって話しかける海砂は、奇異に映るだろう。しかし今は雑踏に上手く紛れ、誰も気にしていない様子だ。
レムはそんな海砂を見て、なんとも形容しがたい目でみていた。海砂の理屈には納得がいかないのだろうと思う。
「その為にわざわざ関東にまで引っ越してきて、と2人で暮らしてるんだし…勿論、本格的にモデルの仕事したいっていうのもあったけど」
心機一転の為の引っ越しというのも一因で、キラに会いたいというのは上京の決定打だ。
Lという人物により、キラは日本の関東地区に住んでる…もしくは拠点としているだろうという推測が立てられていた。
「テレビにあんなの送ってキラに気付いてもらえる様にしたんだから…ね、」
「…うん。よくできてたよ」
ふふっと無邪気に笑って、私に同意を求めた海砂。頑張って試行錯誤し、知恵を絞って作っていた姿を、私はずっと隣でみていたのだ。
「キラはきっと興味持ってくれたよね…きっと。もしかしたら会いたいって思ってくれてるかもね」
「危ない遊びだなー。殺されるかもよ。わかってる?」
それは私も危惧している所だ。死神とは言っても、このレムという彼女は、倫理観が人と近い。話の通じる死神だったのだ。
けれど海砂は死神レムの懸念も私の危惧も、意に介そうとはしなかった。
「大丈夫だよ、キラはきっと純粋な子には優しいし…いざとなったら目を持ってるミサの方が強いもん」
…──目。その言葉を聞くと、胸がつきんと痛くなる。
海砂は死神・レムと"目の取引き"というものをした。私は止めたけど、こればかりは海砂が頷いてはくれなかった──…
取引をすることで得たものは大きいかもしれない。けれど、代償は同じくらい…いやそれ以上に大きいと私は思う。
──海砂は、目を手に入れる代わりに、その寿命の半分を差し出した。だというのに、それが全く惜しくないのだと笑ってた。あの笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。
「でも…より先に死んじゃうのは悲しいかな。私ずっと、死ぬならと一緒がいいって思ってたから」
目を取引をした後、海砂が言った言葉だ。私はそれを聞いて、ぶるりと全身が震えるのを止められなかった。
「先に逝っちゃうの決まっちゃった。ミサ、を置いていっちゃう…。…ごめんね…」
海砂は自分の命を軽くみてる。削られた事を痛みと感じてない。
ただ、私を置いて逝く事だけが心残りなのだという。その姿があまりにも痛々しくて。
…その決断が、私には悲しすぎて…耐えきれなかった。
「もー、苦しいよ」
「…っ馬鹿海砂…」
私は思わず、海砂を抱きしめていた。海砂は笑って、私は泣きそうになりながら。
死神はじっと、その様子を見守っていた──。
***
海砂と同居しているマンションは広くはない。
モデルの卵の私達は決して高級取りとはいえない。けれど過去ストーカーに殺されかけた事もある海砂をセキュリティの甘いアパートに住まわせるなんて考えられず…
けれど私とルームシェアすれば、家賃光熱費が折半に出来る事で多少はゆとりができるのは確か。
海砂は頓着しなかったが、私のゴリ押しでオートロックつきのマンションに入居する事となる。
けれど、私の主張が色濃いのはその辺りくらいだ。
インテリアはほとんど海砂が選んでいて、見事にゴシックな部屋が出来上がっていた。
『大変な事になりました。先日さくらTVにビデオを送り放映させたキラに対し、自分が本物だというもう一人のキラが現れました。本日午前11時頃、警察庁にビデオがとどき、刑務所内の犯罪者8人午後2時から10分おきに心臓麻痺で殺害。そして各テレビ局にメッセージを放映させる事を要求。警察庁はこのビデオに関しては、放映する事を許可しています。
こちらがキラなのか?これもキラなのか?まずこのキラから送られてきたビデオを御覧ください』
ニュース7というロゴをバックに、男性アナウンサーが19時のニュースで語り出す。
十字架の掲げられたキラキラした置物が鎮座するテレビを、海砂は前のめりになって眺めた。
『キラです。私が真のキラであり、先日さくらTVで放映されたビデオの主はキラではありません。』
「やった♪キラが返事くれた!」
ベッドに座り、ご機嫌な様子の海砂を横目に、私は夕ご飯の支度をしていた。
ドアを開け放っていれば、リビングルーム兼、寝室にいる海砂の姿はよく見える。
『現時点では私を名乗った者に対し、私に協力し、私の代弁をしようとしたと、歓談に受け止めています。しかし罪のな警察官僚などの命を奪ったり、盾に取るような行為は私の意思とは反する。世の中の混乱を招くだけであり、人々の私への理解を削ぐ行為です。
もし私を名乗った者が私に共感し、私に協力する気持ちがあるならば、勝手な行動は慎み、まず私の意思を理解することです。この忠告を聞かず暴走するならば、そちらから裁きます』
「さーっビデオビデオ。ちゃんと持ってきたはず」
海砂はベットから身を乗り出しねごそごそと荷物を探り出していた。
「この前使った映像のコピーテープはあるから、ここに音入れれば私の証拠になるし」
「何する気だ?」
「もちろんすぐキラに返事出すのに決まってるじゃない」
「…」
弾んだ声で海砂が言うと、レムは何かを考えるようにして黙り込んでしまっていた。
「問題は何て答えるかだな〜〜」
海砂は悩んだように言いつつも、実際作業に取り掛かってしまえば、案が浮かんで完成するまでに、そう時間はかからなかった。
私の作った晩御飯を食べながら、にこにこと笑顔で今後の計画を話す海砂の笑顔は、無邪気そのものだ。 「名前の作るごはん、やっぱおいしー。ヘルシーなのに味しっかりしてるし、満足感あるし」 「モデルの海砂のための料理だからね。色々工夫してみたの」 「あは。名前だってモデルのくせに!」
子供のように楽しそうに笑ってからかう海砂。いつもの冗談の応酬だ。そんな海砂を みていたら、私もつられて、思わず笑みが浮かべていた。
──2日後。完成したビデオは、無事さくらTVに郵送されたはずだ。もう到着した頃だろう。
海砂が付く上げたビデオのメッセージの内容は、こうだ。
『キラさん、お返事ありがとうございます。私はキラさんの言う通りにします。私はキラさんに会いたい。キラさんは目を持っていないと思いますが、私はキラさんを殺したりはしません、安心してください。何か警察の人にはわからない会ういい方法を考えてください。会った時はお互いの死神を見せ合え確認できます』
合成音声で性別すらわからないようにされたビデオメッセージ。
一般人であれば理解不能だろうが、デスノートを持つキラにはきっと伝わる。
死神…目…。それが意味する事を。
****
キラからの折り返しの返事を待つ間、私と海砂は、仕事中以外のほとんどの時間を、死神レムと対話する事にあてていた。
「死神はデスノートを持ってないとダメ。人間にデスノートを持たせて遊ぶには二冊必要…キラにノートを持たせたリュークは死神大王を騙して二冊目を手入れたってことね」
「そう」
「じゃあレムも?」
「違うよ。死神大王なんてそう簡単に騙せる相手じゃない」
「じゃあどうやって?」
海砂は純粋に二冊目を手に入れた方法を知りたがっていたけれど、私は別のことが引っ掛かっていた。
死神大王なんて存在がいるなんてと、驚いてしまっていた。
確かに死神がいるなら、それを統率する大王がいたっておかしくない…。
のだけど…。そもそもまだ死神が現実にいる事すら、夢心地に感じるというか…他人事といううか…。
現実としてきちんと受け止められていないのに、死神大王の存在まで受け入れられない。
「私は死神界でも数少ない──死神を殺す方法を知っている死神だから…とでも言っておこう」
「!へー。じゃあ死神殺してノート奪ってそれをミサにくれたんだ」
「……違うな…殺した訳ではない。たまたま死ぬ死神がいて、そこに私が居合わせた…」
「ねーっ死神殺す方法教えてよ」
海砂と私はベッドに隣合って腰かけ、死神レムを見上げていた。
死神レムはとても大きく、ベッドに座ったまま見下ろされると余計圧を感じる。
しかし海砂は、そんな死神相手に怯む事なく、どころかにじりよってまでして、笑顔でせがんだ。
「……誰にも言うなよ」
「あは♪」
海砂は釘を刺されたのに対して、イエスともノーとも言わなかった。…多分、言うつもりだろなあ…。伊達に付き合いは長くない。このくらいはすぐに悟った。
海砂はご機嫌な様子で私の腕を組み、しなだれかかって死神の言葉を待った。
「死神を殺す方法は…人間に恋させる事だ」
どんな物騒な方法かと思えば…まるで童話のような殺し方だった。
海砂も同じように感じたらしい。
「素敵な殺し方…」
愛のために死ぬというのは、物語としては感動的なものだろう。
そして実際、殺し方だけでなく…物語のような出来事が起こっていたらしい。
「死神界からずっと一人の少女を眺めていたジェラスって死神がいてね…私はすぐにピンと来た「こいつ、この娘に恋してる」ってね。今の死神界じゃ大笑いされる事だが、私は黙ってジェラスを見ていた…」
そうして、訥々と死神レムは語った。レムは語るのが上手く、童話のようなその出来事に引き込まれていった。
「ジェラスの死を見てわかった気がしたよ…まだ人間界の生と死に深く関わろうとしていた大昔の死神には、たまに死者が出た理由が…」
ジェラスは死神界からいつもいつもその娘を見ていたのだという。
そして寿命がつきる当日になって、元気そうなのに突然にその娘が死ぬ理由を見届けようと、レムとジェラスはじっとその時を待ったらしい。
その娘は夜道を一人で歩いて…突然路地から一人の男が現れて、娘に告白した。
「見ず知らずの男。当然娘は断った…」
そこまで聞くと、私には──…恐らく海砂にも──…察しがついていた。
この物語のような出来事が、いつ、どこで起ったのかということを。
「ジェラスは死神としてやってはならない事をした」
告白を断られて、「じゃあ君を殺して僕も死ぬ!」と男が刃物をつきつけたのを見て、ジェラスは娘を刺すはずの男の名前をデスノートに書き、娘を助けてしまったのだという。
「……」
海砂も私も何も言わずに聞き入っていた。愛のために人知れず死んでいった、死神の物語を聞いていた。
男は死神の手により娘を刺す事を止め、その数分後心臓麻痺とされ、1人道端で死んだ。
そんな事娘は知らない…とレムは語る。
「でも駄目なんだよ。死神は人間の寿命を短くする…いただく為だけに存在している。人の寿命を延ばすなんてもっての他…」
その瞬間、ジェラスは砂とも錆ともわからぬ物に変わり…死んだ。
そこにはデスノートだけが残り…その死神の命が助けられた娘に見合った寿命として与えられた。
「…その娘に恋してなければ、男を殺しても死神は死ななかったって事?」
「その通りだ。娘の寿命を延ばしたいという気持ちがあったからジェラスは死んだ。死神は人間の寿命を延ばす目的でデスノートを使ってはいけない。死神失格…死神は死ぬ」
海砂はぎゅっとノートを胸に抱きしめ…、そして私の肩に寄りかかって呟いた。
「じゃあ…あの時…私を助けてくれたのはジェラスって死神なんだ…」
「そう。だからそのノートはおまえの物だ」
「…うん」
海砂から、ストーカーに殺されかけたという話は聞いていた。
突然包丁を手放したかと思うと、踵を返して去って行ったのだと、不思議そうにしていた。
その背景には…こんな事情があったなんて。想像できるはずもない。
「そうかあ〜死神殺すには人間に恋させて助けないと駄目なんだ。それも誰かを殺したおかげで寿命を延びる人間に恋させなきゃだから難しいな〜」
海砂は私を巻き込む形で押し倒し、ぽふんとベットに転がる。
「ちょっと海砂…苦しい」
「ねえ、頭いいんだし…何か名案思いつかない?」
押されて仰向けに倒れ込んだ私の上にのしかかり、枕にするようにしながら海砂は語った。
「諦めな。おまえたちに私は殺せない」
「あっバレてた?はは」
海砂は悪びれもせずに笑っていた。レムはなんとも形容しがたい表情を浮かべて押し黙ってしまう。
「でもこれでキラに教えてあげられる話がまたできたよ。知ってるのかな?死神のこ・ろ・し・か・た」
やっぱり海砂は誰にも言うなと釘刺された話を、最初から誰かに打ち明ける気でいたらしい。
当然ただの一般人相手になどいうはずもない。自分と対等な立場にいる人間…崇拝するキラに話すつもりで聞き出したのだろう。
「テレビでも「会ういい方法考えてください」ってちゃんと流してくれたのに、今度はなかなか返事がこないなー。」
またこっちから何か言ってみようかな〜と海砂は言う。
そして、枕代わりにしてじゃれついている私に向かって、こう問いかけた。
「、どう思う?」
「…動けば動くほど、リスクは増す。私は賛成しない、けど…」
「けど?」
「背負うリスクなんて、海砂も最初から承知してるだろうし…反対はしない。海砂の思うように動いたらいいと思う」
海砂は私にぎゅっと抱き着いて、肩口に顔を埋めて擦り寄ってきた。
「はいつだって海砂の味方!大好き」
「…当たり前だよ。だって私は海砂の幼馴染で…一番の親友で…家族で…」
「あはっ結局何なの?」
「……海砂のためなら、私は何にでもなれるよ」
大事な海砂の頭を撫でて、甘やかす。…私達はずっと、ずっと傍にいた。
そんな私たちを、ジェラスという死神はずっと死神界から見守っていたのだろう。
死神レムも同じように死神界で…そして今は、私達の目の前に降り立って。
死レムの目に、私達はどう映るのだろう。その死神は何も言わず、ただ私達をじっと見守っていた。