第七話
1.初対面─主従と友達
目が覚めた男は当然驚いた様子で、暫く錯乱状態が抜けきらず会話にもならなかった。
しかし自分が既に死んだことを理解すると、後は早かった。
祓い屋だという男はその辺りに造詣が深かったし、凶霊に圧し負けたのだとすれば、自分の末路は想像するに難くなかったのだろう。
隷属する事になったとはいえ、彼がやれやれ仕方ないぜと肩をすくめて笑ってくれるはずもなく。
「…別に何もしないわよ」
──警戒した様子で柱に隠れ、物凄い形相で威嚇して来る男を一瞥した。
あたしはそれだけ言って、それ以上は何も言わない。
こちらに対して友好的でない相手に友好的に話しかけた所でその警戒は解かれないだろうし、懐柔しようとするだけ無駄だと思った。
殺した方、殺された方。さあ今日から仲良くしましょうと言って円満な関係が築ける訳がない。
許す必要もないし許される必要もない。祓い屋と凶霊、どっちもどっちだ。
けれどある意味部外者のあの子は楽しそうにしながら無遠慮に近寄って、とても友好的に話しかけていた。
「そうだよチャッキー。私たち友達でしょ?」
「いつからなんだよ!!!!!」
友好的すぎる。それが感想だった。
彼が祓いにきたのはテイラー家の所以のある凶霊で、東洋人の浮遊霊ではない。
彼の殺生に関与していないのは確かだし、今回の件は完全に蚊帳の外た。
あの子はなんの負い目も感じず話しかけられるだろうけど。
なんて馴れ馴れしいの。段飛ばしで距離を詰めていった。どのタイミングでどうやっての話じゃない、もうあの子の中では友達になっていたんだろう。
彼のポッケから半分はみ出ているハンカチには名前が縫い付けられていて、あの子も私も自己紹介をされる前から彼の名前を知っていた。
「ねー仲良くしよーよー」
「そんなおっかないオバケと仲良くなんて出来るかよ!!!」
柱の陰から拒絶するけど、いやいや。
「アンタももうオバケよ」
「三人は類友だよね」
なんだか同意を求める感じで語り掛けられたけどあたしもチャッキーも無視した。
あたしはともかく、チャッキーも既にあしらうことを覚えているようだ。
「というか、もう何もしようがないわ。殺しちゃったし、オバケだし」
ぐっと言葉を呑みこんだ。"何かする"段階はもう通り越して今に至るのだから、今更警戒しようと無駄だ。
柱を掴んでいた拳の力を少し抜いて、強張らせていた肩を緩めた時。
「でも拷問にかけるとか出来るじゃん」
「敵か味方かハッキリしろアンタ!!!!!」
彼女が笑顔で追い打ちをかけると、チャッキーは悲鳴を上げながら二階へと駆けあがっていった。
「こういう風にいじめるとかね」
「いじめてる自覚あったのアンタこわい!!?」
無邪気を装ってなんてことをするんだこの女は。
まぁ、やれる事がもうないというのは確かに間違いだった。
チャッキーを追いかけて階段を上がると、二階の廊下の突き当たりでいい年したその男が泣いていた。
突き当りまで我武者羅に走って行ったんだろう。
…この状況、精神的にめちゃくちゃ苦痛なんだろうと心中お察しする。
退廃した血なまぐさい屋敷が怖い、凶霊が怖い。それも一因だろう。それでも祓い屋か?と聞きたくなる。
けれど彼の涙はそれだけが理由で流されたのではない。
「うっ…うぅ…」
「…いい年した男が泣かされるんじゃないわよ」
なんだか責任を感じて、隣室に入り、引出から比較的綺麗なハンカチを取り出してきた。
チャッキーのポッケのハンカチは、血に塗れて使えない状態なのだ。
差し出し慰めると、チャッキーは感動した様子で受け取り涙を拭う。
いかん。変な所で友情芽生えさせてしまった。共通の敵(お調子者)が絆を強固にしたようだ。
「あんた…意外といい霊だな…」
お決まりのベタな言葉まで出てきた上に、へへっと照れ気味に笑われた。
うーん仲が深まるのは良い事なんだけど、なんだろうこのコレじゃない感は。
「13歳の美少女に仕えられるとかこの条件いいですぞ」
「……俺13歳の女の子に負けたのか…」
彼女が妙な入れ知恵をするも、どうやら13の女には食指が動かないようで、彼はただ肩を落としていた。
ここで喜ばれても主従の契約を切りたくなるしソレでよかったけど良くない。
社交辞令でもいいからとりあえず喜ぶ素振りしてよ。ソレでこの職場の人間関係は円滑になるから。
少数精鋭の今現在、血を血で洗い流すかのような諍いが起こっても困る話だ。
「チャッキーはメンタルが弱いんだね」
「繊細だねとかもっと言えなかったのかよ!!!」
不憫そうに見やりながら、どんまいとでも言いたげに肩を叩く。
しかし励ましにもなっていない、ただの下げだった。
ほんと先が思いやられる凸凹トリオだ。
1.初対面─主従と友達
目が覚めた男は当然驚いた様子で、暫く錯乱状態が抜けきらず会話にもならなかった。
しかし自分が既に死んだことを理解すると、後は早かった。
祓い屋だという男はその辺りに造詣が深かったし、凶霊に圧し負けたのだとすれば、自分の末路は想像するに難くなかったのだろう。
隷属する事になったとはいえ、彼がやれやれ仕方ないぜと肩をすくめて笑ってくれるはずもなく。
「…別に何もしないわよ」
──警戒した様子で柱に隠れ、物凄い形相で威嚇して来る男を一瞥した。
あたしはそれだけ言って、それ以上は何も言わない。
こちらに対して友好的でない相手に友好的に話しかけた所でその警戒は解かれないだろうし、懐柔しようとするだけ無駄だと思った。
殺した方、殺された方。さあ今日から仲良くしましょうと言って円満な関係が築ける訳がない。
許す必要もないし許される必要もない。祓い屋と凶霊、どっちもどっちだ。
けれどある意味部外者のあの子は楽しそうにしながら無遠慮に近寄って、とても友好的に話しかけていた。
「そうだよチャッキー。私たち友達でしょ?」
「いつからなんだよ!!!!!」
友好的すぎる。それが感想だった。
彼が祓いにきたのはテイラー家の所以のある凶霊で、東洋人の浮遊霊ではない。
彼の殺生に関与していないのは確かだし、今回の件は完全に蚊帳の外た。
あの子はなんの負い目も感じず話しかけられるだろうけど。
なんて馴れ馴れしいの。段飛ばしで距離を詰めていった。どのタイミングでどうやっての話じゃない、もうあの子の中では友達になっていたんだろう。
彼のポッケから半分はみ出ているハンカチには名前が縫い付けられていて、あの子も私も自己紹介をされる前から彼の名前を知っていた。
「ねー仲良くしよーよー」
「そんなおっかないオバケと仲良くなんて出来るかよ!!!」
柱の陰から拒絶するけど、いやいや。
「アンタももうオバケよ」
「三人は類友だよね」
なんだか同意を求める感じで語り掛けられたけどあたしもチャッキーも無視した。
あたしはともかく、チャッキーも既にあしらうことを覚えているようだ。
「というか、もう何もしようがないわ。殺しちゃったし、オバケだし」
ぐっと言葉を呑みこんだ。"何かする"段階はもう通り越して今に至るのだから、今更警戒しようと無駄だ。
柱を掴んでいた拳の力を少し抜いて、強張らせていた肩を緩めた時。
「でも拷問にかけるとか出来るじゃん」
「敵か味方かハッキリしろアンタ!!!!!」
彼女が笑顔で追い打ちをかけると、チャッキーは悲鳴を上げながら二階へと駆けあがっていった。
「こういう風にいじめるとかね」
「いじめてる自覚あったのアンタこわい!!?」
無邪気を装ってなんてことをするんだこの女は。
まぁ、やれる事がもうないというのは確かに間違いだった。
チャッキーを追いかけて階段を上がると、二階の廊下の突き当たりでいい年したその男が泣いていた。
突き当りまで我武者羅に走って行ったんだろう。
…この状況、精神的にめちゃくちゃ苦痛なんだろうと心中お察しする。
退廃した血なまぐさい屋敷が怖い、凶霊が怖い。それも一因だろう。それでも祓い屋か?と聞きたくなる。
けれど彼の涙はそれだけが理由で流されたのではない。
「うっ…うぅ…」
「…いい年した男が泣かされるんじゃないわよ」
なんだか責任を感じて、隣室に入り、引出から比較的綺麗なハンカチを取り出してきた。
チャッキーのポッケのハンカチは、血に塗れて使えない状態なのだ。
差し出し慰めると、チャッキーは感動した様子で受け取り涙を拭う。
いかん。変な所で友情芽生えさせてしまった。共通の敵(お調子者)が絆を強固にしたようだ。
「あんた…意外といい霊だな…」
お決まりのベタな言葉まで出てきた上に、へへっと照れ気味に笑われた。
うーん仲が深まるのは良い事なんだけど、なんだろうこのコレじゃない感は。
「13歳の美少女に仕えられるとかこの条件いいですぞ」
「……俺13歳の女の子に負けたのか…」
彼女が妙な入れ知恵をするも、どうやら13の女には食指が動かないようで、彼はただ肩を落としていた。
ここで喜ばれても主従の契約を切りたくなるしソレでよかったけど良くない。
社交辞令でもいいからとりあえず喜ぶ素振りしてよ。ソレでこの職場の人間関係は円滑になるから。
少数精鋭の今現在、血を血で洗い流すかのような諍いが起こっても困る話だ。
「チャッキーはメンタルが弱いんだね」
「繊細だねとかもっと言えなかったのかよ!!!」
不憫そうに見やりながら、どんまいとでも言いたげに肩を叩く。
しかし励ましにもなっていない、ただの下げだった。
ほんと先が思いやられる凸凹トリオだ。
2022.7.22
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