第六話
1.初対面─殺意と隷属
予想した通り、あの後数年が経つ頃には、定期的に肝試しをする者たちが訪れるようになった。
予想外だったのは、遊び半分でやってきた者とは違い、"祓い屋"という霊能力者が混じっていた事だった。
彼らは霊感があるので私達の姿を目視する事ができる。
札やら塩やら聖水やらを吹っかけて祓ってこようとするので、私達も応戦した。
私はポルターガイストを使って生身の人間に家具などをぶん投げ、力のない彼女は手で花瓶などを投げつけ。
それで追い払う事が出来ていた。けれど、いつまでも被害の出ない攻防戦は続かない。
「…殺してしまった…」
私の呟きと共に、ひえーと場にそぐわない、間抜けな声が響いた。
男の頭部にはナイフが突き刺さり、鼻からは血が出ている。
さっきまで恐怖で絶叫して、逃げまどい、息を荒くしていた身体も、もう動くことない。息絶えたんだろう。
しまった、とまるで後悔でもするような物言いをしてしまったけど、今更のことだった。
私がテイラー家の人間何人殺してきたんだって話。
殺し方だって優しくはなかった。それこそ惨殺。めった刺し。凶霊の力を使って、物を浮かせて凶器を飛ばせて逃げまどう人間を突き刺した。
地獄のような景色だっただろう。悪魔の所業だと誰かが囁いたのを聞いた。
分かっているけど…ちらりとあの子をみた。
あたしが今気になるのは、あの子の反応だ。あたしにとってはもう今更のことでも、あの子にとっては違う。
人の死に慣れている子かどうかなんて知らないけど、あたしが殺した所を目撃したのは今が初めてのことだ。
引かれるかな。幻滅されるか、少しだけ反応が怖かった。
「これを奴隷にしたらいかがだろう」
「…は?」
「リサイクルとかエコとか省エネとか耳タコじゃん?地球を大事にってみんな言うよね」
「だから?」
「死んだなら、使ってしまおう死後シモベ」
「韻踏みながら何言ってんの!!!?」
韻じゃないよーと笑顔で正される。どうでもいい。
引くとか肯定されるとか慰められるとかのレベルじゃなかった。
そうよねこの子ってこんな子だったわ。ようするにアホよ。
「どうやって生きたらそんな神経育めるの…」
「これは天性のものですねえ」
「あ、そう」
凄く納得した。環境がどうたら親の教育方針がどうのというよりも、彼女という人間がそうだったのだとひと口に言われたら、何故だかすんなり得心がいく。
そして自分でも神経がイカれてる自覚があったのかしらけた目を向けてしまった。
てへっとぶりっ子のポーズをしていたけどそれで誤魔化されてやるはずがない。
「でもだってさあ、やってしまったものは仕方ない」
「実も蓋もないわ」
奇天烈な事を言わない代わりに元も子もない事を言い出した。
この子と話していると頭が痛くなる。
霊体になった今血が巡る身体はなくて、だったら痛んでいるのはあたしの精神なのかもしれない。
死んだ後もスカーレットという人間の自我はそのまま引き継ぎされている。
頭が痛んでいると錯覚しているだけで、本当に痛んでるのは自我。
「殺すつもりはなくても、殺しちゃって後悔してる訳じゃないでしょ」
「…当然よ。祓い屋って言ってたから。無抵抗だったら殺されてたのはあたしだし」
今さらだというのもあったけど、そもそもこの男は悪霊を祓うという名目を掲げて屋敷へやってきていた。
肝試しとは話が違う。あたしの姿を目に入れた男はあたしに敵意を抱いて排除しようとした。
だとしたら、あたしがするのは脅かしでもなんでもなく、抵抗だ。
今さらとは思っても、人殺しに慣れたとは言わない。
あれは必要に迫られてやった事で、なんでもかんでも殺していいなんて思わない。
今回のことだって、惨い亡骸になろうが懺悔なんてしないけど。
「…ほんとおかしい子」
「えへ」
その亡骸(というか魂)を有効利用しようなんて考えもしなかった。
この子こそお調子者の皮を被った悪魔なんじゃないかと思う。
呆れて冷えた視線を送ると、その子は頬に片手を当てて再びかわい子ぶっていた。
「さあ、どうなるかしら」
「とりあえず激おこ所じゃ済まされないよね」
「そりゃ殺そうとしたのは向こうだけど、殺したのはこっちだものね」
溜息をついて、死んだ直後で輪郭がぼやけていた男の魂を引っ張り上げ、
相手に拒否権を与えない交鈔に乗り出した。
一人だった屋敷が二人へ。二人だった屋敷が三人へ。一層騒がしくなり始めた日だった。
1.初対面─殺意と隷属
予想した通り、あの後数年が経つ頃には、定期的に肝試しをする者たちが訪れるようになった。
予想外だったのは、遊び半分でやってきた者とは違い、"祓い屋"という霊能力者が混じっていた事だった。
彼らは霊感があるので私達の姿を目視する事ができる。
札やら塩やら聖水やらを吹っかけて祓ってこようとするので、私達も応戦した。
私はポルターガイストを使って生身の人間に家具などをぶん投げ、力のない彼女は手で花瓶などを投げつけ。
それで追い払う事が出来ていた。けれど、いつまでも被害の出ない攻防戦は続かない。
「…殺してしまった…」
私の呟きと共に、ひえーと場にそぐわない、間抜けな声が響いた。
男の頭部にはナイフが突き刺さり、鼻からは血が出ている。
さっきまで恐怖で絶叫して、逃げまどい、息を荒くしていた身体も、もう動くことない。息絶えたんだろう。
しまった、とまるで後悔でもするような物言いをしてしまったけど、今更のことだった。
私がテイラー家の人間何人殺してきたんだって話。
殺し方だって優しくはなかった。それこそ惨殺。めった刺し。凶霊の力を使って、物を浮かせて凶器を飛ばせて逃げまどう人間を突き刺した。
地獄のような景色だっただろう。悪魔の所業だと誰かが囁いたのを聞いた。
分かっているけど…ちらりとあの子をみた。
あたしが今気になるのは、あの子の反応だ。あたしにとってはもう今更のことでも、あの子にとっては違う。
人の死に慣れている子かどうかなんて知らないけど、あたしが殺した所を目撃したのは今が初めてのことだ。
引かれるかな。幻滅されるか、少しだけ反応が怖かった。
「これを奴隷にしたらいかがだろう」
「…は?」
「リサイクルとかエコとか省エネとか耳タコじゃん?地球を大事にってみんな言うよね」
「だから?」
「死んだなら、使ってしまおう死後シモベ」
「韻踏みながら何言ってんの!!!?」
韻じゃないよーと笑顔で正される。どうでもいい。
引くとか肯定されるとか慰められるとかのレベルじゃなかった。
そうよねこの子ってこんな子だったわ。ようするにアホよ。
「どうやって生きたらそんな神経育めるの…」
「これは天性のものですねえ」
「あ、そう」
凄く納得した。環境がどうたら親の教育方針がどうのというよりも、彼女という人間がそうだったのだとひと口に言われたら、何故だかすんなり得心がいく。
そして自分でも神経がイカれてる自覚があったのかしらけた目を向けてしまった。
てへっとぶりっ子のポーズをしていたけどそれで誤魔化されてやるはずがない。
「でもだってさあ、やってしまったものは仕方ない」
「実も蓋もないわ」
奇天烈な事を言わない代わりに元も子もない事を言い出した。
この子と話していると頭が痛くなる。
霊体になった今血が巡る身体はなくて、だったら痛んでいるのはあたしの精神なのかもしれない。
死んだ後もスカーレットという人間の自我はそのまま引き継ぎされている。
頭が痛んでいると錯覚しているだけで、本当に痛んでるのは自我。
「殺すつもりはなくても、殺しちゃって後悔してる訳じゃないでしょ」
「…当然よ。祓い屋って言ってたから。無抵抗だったら殺されてたのはあたしだし」
今さらだというのもあったけど、そもそもこの男は悪霊を祓うという名目を掲げて屋敷へやってきていた。
肝試しとは話が違う。あたしの姿を目に入れた男はあたしに敵意を抱いて排除しようとした。
だとしたら、あたしがするのは脅かしでもなんでもなく、抵抗だ。
今さらとは思っても、人殺しに慣れたとは言わない。
あれは必要に迫られてやった事で、なんでもかんでも殺していいなんて思わない。
今回のことだって、惨い亡骸になろうが懺悔なんてしないけど。
「…ほんとおかしい子」
「えへ」
その亡骸(というか魂)を有効利用しようなんて考えもしなかった。
この子こそお調子者の皮を被った悪魔なんじゃないかと思う。
呆れて冷えた視線を送ると、その子は頬に片手を当てて再びかわい子ぶっていた。
「さあ、どうなるかしら」
「とりあえず激おこ所じゃ済まされないよね」
「そりゃ殺そうとしたのは向こうだけど、殺したのはこっちだものね」
溜息をついて、死んだ直後で輪郭がぼやけていた男の魂を引っ張り上げ、
相手に拒否権を与えない交鈔に乗り出した。
一人だった屋敷が二人へ。二人だった屋敷が三人へ。一層騒がしくなり始めた日だった。