第七話
1.言葉─親代わり
「おっミキちゃんだ」
「あ、ゴンさん」
「友達と一緒にいるなんて珍しいの〜」
気配に気が付いて振り返るミキちゃんは、驚いた様子もなく気さくに返答していた。
ミキちゃんの知り合いらしい男の人とバッタリ遭遇した。
相手はミキちゃんの隣に佇んでいる私に気が付くと、カラカラとからかい笑った。
親しい相手なんだろうなと、ミキちゃんの受け流し方や相手の距離の近さを見て悟った。
「こんにちはー、初めまして」
「はいはいこんにちわ」
「っていいます。ミキちゃんには仲良くしてもらっていて。…もしかして、ミキちゃんのお兄さんですか?」
「いやいや違うちがう」
「ちゃん、顔全然似てないでしょ」
お兄さんがいるという話はほんのり聞いたことがあったので問うと、手を振って否定された。
ミキちゃんも同じようにイヤイヤと否定しているあらー外れちゃったか。別に落ち込んでないけど、そうに違いないと半ば謎の確信をしていたから、ちょっとがっかり。
たいした根拠もない、直感と閃き頼りの言い当てだった。
「まあ、昔からお兄ちゃんみたいに面倒みてもらってるけどニャー…」
「いやーどっちかっちゅーとワシのがミキちゃんに世話になってる気がするけどのー。なってるっていうか、世話になる気じゃし」
「そういう下心隠してくれません!?」
親しげなやり取りを見ていて、なんだか不思議な関係だなあと思った。
年下の女の子に集る年上のお兄さんの奇妙な図。
ミキちゃんのしっかり者の片鱗は出会って日が浅い私も見ていたので、ああそういう感じなんだーとあまり驚かずに済んだけど。
どちらかと言うと日々私も周囲に世話を焼いてもらっている側なんだよなぁと思うと、なんだか気まずくて目を逸らしたくなった。人のことは言えない。
苦労をかけてしっかり者のみなさん申し訳ございません。苦労人はこうして着々と苦労人になっていくんだねえ…。
「そうだ。ちょうどいいから一緒にやるかい」
「ちょっとゴンさん!変なこと言うのやめてくださいよ」
ゴンさんはくいっと背後を指さしたので、追うように視線をそちらへ向けた。
甘味屋がある方とは違う、一本道を挟んだ向かい側にあるお店の軒先。
そこに設置されているイスの上には札が広げられていた。
ミキちゃんの姿に気が付いて抜け出してきたらしい、ゴンさん抜きにして札を囲んだお仲間たちは盛り上がってるようだ。
一見卓遊びを楽しんでいるようにしか見えないけど、いい大人が集まってただ子供のようにはしゃぐだけということもあるまい。
あれは多分純粋な遊びではなく賭け事だ。最低でもご飯代くらいは賭けている事だろう。慌ててミキちゃんが静止させようとする。本当になんて苦労人なんだろう。気が回りすぎるのも善し悪しだ。
「いえ、ごめんなさい。遠慮しておきますね」
ミキちゃんがとめなくても、多分この人は本気で私の足を掴んで引き入れたりはしなかったんだろうけど。多分ほんの冗談で、からかいたいだけだろう。
その子供をからかうような軽い声色を聞けばわかった。逆に私がやると言っても止めはしないんだろうと予想する。
冗談をまともに受け止め、律儀な断りを入れた私がおかしかったのか、笑いながら再びからかわれる。
「札は趣味じゃないか?」
「ううん、そういう才能はないからやめておきなさいって言われてまして。私もそう思うし」
「ほー、そりゃ残念じゃな」
やはり無理強いをするこはなく一度断れば身を引いてくれた。
さっきなんとなくの閃きでミキちゃんのお兄ちゃんを言い当てようとしたみたいに、普段深く物を考えないで動いている私が、賭博の才があなんて思えなかった。
物によりけりで直感とか経験則、体感が大事になってくるものもあるかもしれないけど、だいたいの物はもっと緻密で、絶対に私に向いてないだろうと断言できる。
私が素直にその辺りも説明するとケラケラとおかしそうにひとしきり笑うと、それが耳に届いたらしいお仲間さんの一人に「オイお前そろそろ戻れ!」と呼ばれ戻って行ってしまった。
「な、なんかごめんね…」
「ううん。楽しい人だね」
「そうかなあ…まあそうかも…」
ぐったりと項垂れながらミキちゃんは謝ってくれたけど、私は気を悪くする所かちょっと面白かった。
そういえば冗談でも真剣な賭け事に誘われたのは初めての事だ。
小さい頃おやつを賭けて遊んだことくらいはあるけど、それとは程度が違う。
二人で相談して甘味屋から離れ、違う店に赴くため再び歩き出しながら、遠ざかる度にだんだん小さくなっていく輪を最後に一瞥した。
周りに賭け事をするヒトはいなかったし、卓遊びに特別ハマってる子もいなかった。
買い物もせず、繁華街にも出ず、夜の街にも繰り出さず、とにかくだいたい缶詰になっていて、休日は昼間のグルメ街くらいしか出歩かない私は、その盛り上がる彼らの姿が新鮮に映った。
白澤さんの言う通り若干引きこもりの気のあるらしい私には、その賑やかな野次と、彼らの熱意が眩しかったのだ。
彼らはお金がかかっているだけあって、とても真剣だ。遊びに真剣、趣味に全力、賭博に熱心、大変結構なことだ。
「…もしかしてちゃんって、いいとこの御嬢さんだったりするのかニャ?」
「え、なんでそう思うの」
びっくりしてぱちぱちと目を瞬かせていると、ミキちゃんはうーんと考える素振りをみせる。
不慣れな様子だから…というだけなら早合点だ。いい所の御嬢さんでもやる時はやるだろうし、御嬢さんでなくてもやる人はやるしやらない人はやらない。
「そういう反応もなんだかそれっぽいし、止められてるって言うのがなんか…いや、普通ご両親が子供に賭博なんて推奨しないだろうけど」
律儀に言いつけを守ってる所とか、下手なことはしないようにと言い含められている所とか。
確かにそういう所を見ると、大事にしてくれる親と、素直に頷く子供という図が想像が出来た。
けれど私には親はいないし、年若い子供でもない。
釘を指されなくても、自分には向いていないと試す前から身に染みて理解していた。
「ううん、止めたの両親じゃないの」
「あ、そうなんだ…?」
「えーと……じゃあ親代わりってことで」
「えっじゃあって言った?」
ミキちゃんはとって付けたような返しを聞いて訝しげにしていたけど、私も変に思っていた。
私に博打の才能がないだろうと首を横に振ったのは実は鬼灯くんで、しかしいちいち彼の説明をするのも手間だし長くなるしと雑に省いたのだ。
幼馴染とか同郷だとか言って省略することはあっても、親代わりと言い代えたのは今回が初めてのことだった。
何も知らないミキちゃんが感じたように、その言い含めはまるで心配性の親のようだと思ったし、話の流れ的にこれでいいやと思って適当に言っちゃったんだけど。
なんだか不思議でおかしい。
座敷童の(外見は)幼い二人がやってきてから鬼灯くんは「なんか父親みたい」とたまに言われるようになっていたし、めずらしく甲斐甲斐しくしている姿を見て私もちょっとそう思った。
あとついでにちょっと笑っちゃった。
様になってるんだかなってないんだか分からない教育風景だった。指導者の素質はまああるだろうから、仮に親と称してもいいだろう。
「今更連絡先交換するのもなんか照れるね。もっと早くすればよかったニャ」
「いやいや、女の子がそう簡単に個人情報教えちゃだめなんだよ」
「あはは、ちゃんがお母さんみたいだよ」
「あーうん、でも多分ミキちゃんより私のが年上だし、それで間違ってないかも…」
二人で食事をした後、帰り際になってそういえば…と思い至り、お互いの連絡先を教え合う。
携帯をいじりながら話すと、ミキちゃんにエッと驚かれてしまった。とても年上らしくは見えなかったんだろう。自分でもそう思う。思わず苦笑してしまった。
大人になろうとも思っていないし、かと言って子供らしく振舞ってる訳でもない。
身体が成長する前だったらともかく、平均的な日本人女性の体格をしている今の私は、年齢不詳なんじゃないかと思う。
10代・20代にしか見えないのに、実は何百何千という月日を生きているモノだったというのはザラにある話だから、あの世での年齢当てクイズは中々難しい。全然検討がつかない。
なんか古風な喋り方してるな…なんか価値観が独特だな…と思っても、特定するためには古い時代への理解が必要だった。
昔の暮らしぶりや価値観なんて、現代を過ごものには無縁の話で、「人がウホウホ言ってたよ」とか言われても想像がつかないだろうし…
私が「昔は洞窟暮らしをしてたんだ」と今時の鬼の子に言ったらドン引きされると思うし。
よくその酷烈な環境で生き残れたねって驚かれると思う。
私もあんな環境じゃ絶対に無理だ死ぬと思っていたけど、案外なんとかなるものだった。
思えば暖房がないだけで生き物が死ぬんだとしたらとっくに全部が絶滅しているだろう。
十分に守られた環境で育った現代っ子は、やっぱり発想が軟弱だ。
そのうち大体のことはなんとかなるなるという究極の悟りを開いてしまった。
ミキちゃんからは端々から現代の気配を感じるので、年下なんじゃないかと勝手に思っているけど、迂闊に断言はできない。
もしかしたら私とは比べものにならないくらいに長く居るのかも。
流行に敏感で、常に新しい波に乗り続けている女性の噂も知っている。
実際の所は気になるけど、あまり詮索できなくて話を打ち切る。
「またご飯食べようね」
「うん、今度はちゃんのおすすめ教えくれる?」
「もちろん。えへへ、楽しみにしてるね」
ばいばいと手を振って別れた。夜7時を指している時計をみて、お開きにしようと帰り支度した私達は子供のように健全な大人だ。
純粋な子供だったとしたら5時の時報が鳴ると同時に帰宅していることだろう。
私は規則正しい生活&仕事をしているため、ミキちゃんは昼夜も問わず不規則に多忙なため、これから呑みに行こうということにもならず今日はすんなり別れた。
ミキちゃんと別れた後、通りすがった酒屋から、大量の酒を購入して出てきたゴンさんのお仲間さんを見かけた。
きっと賭博はまだまだ続いている事だろう。
また、という約束がいつ果される事になるかは分からないけど、多分示し合せなくてもそのうちまたばったり遭遇するだろうなぁ。
食の好みも似ているのもそうだし、やっぱり活動範囲が似通っているみたいだったから。
──とは言っても、まさかこんなにも近いうちに、あんなにも近い所でバッタリ出会うとは思っていなかった。
1.言葉─親代わり
「おっミキちゃんだ」
「あ、ゴンさん」
「友達と一緒にいるなんて珍しいの〜」
気配に気が付いて振り返るミキちゃんは、驚いた様子もなく気さくに返答していた。
ミキちゃんの知り合いらしい男の人とバッタリ遭遇した。
相手はミキちゃんの隣に佇んでいる私に気が付くと、カラカラとからかい笑った。
親しい相手なんだろうなと、ミキちゃんの受け流し方や相手の距離の近さを見て悟った。
「こんにちはー、初めまして」
「はいはいこんにちわ」
「っていいます。ミキちゃんには仲良くしてもらっていて。…もしかして、ミキちゃんのお兄さんですか?」
「いやいや違うちがう」
「ちゃん、顔全然似てないでしょ」
お兄さんがいるという話はほんのり聞いたことがあったので問うと、手を振って否定された。
ミキちゃんも同じようにイヤイヤと否定しているあらー外れちゃったか。別に落ち込んでないけど、そうに違いないと半ば謎の確信をしていたから、ちょっとがっかり。
たいした根拠もない、直感と閃き頼りの言い当てだった。
「まあ、昔からお兄ちゃんみたいに面倒みてもらってるけどニャー…」
「いやーどっちかっちゅーとワシのがミキちゃんに世話になってる気がするけどのー。なってるっていうか、世話になる気じゃし」
「そういう下心隠してくれません!?」
親しげなやり取りを見ていて、なんだか不思議な関係だなあと思った。
年下の女の子に集る年上のお兄さんの奇妙な図。
ミキちゃんのしっかり者の片鱗は出会って日が浅い私も見ていたので、ああそういう感じなんだーとあまり驚かずに済んだけど。
どちらかと言うと日々私も周囲に世話を焼いてもらっている側なんだよなぁと思うと、なんだか気まずくて目を逸らしたくなった。人のことは言えない。
苦労をかけてしっかり者のみなさん申し訳ございません。苦労人はこうして着々と苦労人になっていくんだねえ…。
「そうだ。ちょうどいいから一緒にやるかい」
「ちょっとゴンさん!変なこと言うのやめてくださいよ」
ゴンさんはくいっと背後を指さしたので、追うように視線をそちらへ向けた。
甘味屋がある方とは違う、一本道を挟んだ向かい側にあるお店の軒先。
そこに設置されているイスの上には札が広げられていた。
ミキちゃんの姿に気が付いて抜け出してきたらしい、ゴンさん抜きにして札を囲んだお仲間たちは盛り上がってるようだ。
一見卓遊びを楽しんでいるようにしか見えないけど、いい大人が集まってただ子供のようにはしゃぐだけということもあるまい。
あれは多分純粋な遊びではなく賭け事だ。最低でもご飯代くらいは賭けている事だろう。慌ててミキちゃんが静止させようとする。本当になんて苦労人なんだろう。気が回りすぎるのも善し悪しだ。
「いえ、ごめんなさい。遠慮しておきますね」
ミキちゃんがとめなくても、多分この人は本気で私の足を掴んで引き入れたりはしなかったんだろうけど。多分ほんの冗談で、からかいたいだけだろう。
その子供をからかうような軽い声色を聞けばわかった。逆に私がやると言っても止めはしないんだろうと予想する。
冗談をまともに受け止め、律儀な断りを入れた私がおかしかったのか、笑いながら再びからかわれる。
「札は趣味じゃないか?」
「ううん、そういう才能はないからやめておきなさいって言われてまして。私もそう思うし」
「ほー、そりゃ残念じゃな」
やはり無理強いをするこはなく一度断れば身を引いてくれた。
さっきなんとなくの閃きでミキちゃんのお兄ちゃんを言い当てようとしたみたいに、普段深く物を考えないで動いている私が、賭博の才があなんて思えなかった。
物によりけりで直感とか経験則、体感が大事になってくるものもあるかもしれないけど、だいたいの物はもっと緻密で、絶対に私に向いてないだろうと断言できる。
私が素直にその辺りも説明するとケラケラとおかしそうにひとしきり笑うと、それが耳に届いたらしいお仲間さんの一人に「オイお前そろそろ戻れ!」と呼ばれ戻って行ってしまった。
「な、なんかごめんね…」
「ううん。楽しい人だね」
「そうかなあ…まあそうかも…」
ぐったりと項垂れながらミキちゃんは謝ってくれたけど、私は気を悪くする所かちょっと面白かった。
そういえば冗談でも真剣な賭け事に誘われたのは初めての事だ。
小さい頃おやつを賭けて遊んだことくらいはあるけど、それとは程度が違う。
二人で相談して甘味屋から離れ、違う店に赴くため再び歩き出しながら、遠ざかる度にだんだん小さくなっていく輪を最後に一瞥した。
周りに賭け事をするヒトはいなかったし、卓遊びに特別ハマってる子もいなかった。
買い物もせず、繁華街にも出ず、夜の街にも繰り出さず、とにかくだいたい缶詰になっていて、休日は昼間のグルメ街くらいしか出歩かない私は、その盛り上がる彼らの姿が新鮮に映った。
白澤さんの言う通り若干引きこもりの気のあるらしい私には、その賑やかな野次と、彼らの熱意が眩しかったのだ。
彼らはお金がかかっているだけあって、とても真剣だ。遊びに真剣、趣味に全力、賭博に熱心、大変結構なことだ。
「…もしかしてちゃんって、いいとこの御嬢さんだったりするのかニャ?」
「え、なんでそう思うの」
びっくりしてぱちぱちと目を瞬かせていると、ミキちゃんはうーんと考える素振りをみせる。
不慣れな様子だから…というだけなら早合点だ。いい所の御嬢さんでもやる時はやるだろうし、御嬢さんでなくてもやる人はやるしやらない人はやらない。
「そういう反応もなんだかそれっぽいし、止められてるって言うのがなんか…いや、普通ご両親が子供に賭博なんて推奨しないだろうけど」
律儀に言いつけを守ってる所とか、下手なことはしないようにと言い含められている所とか。
確かにそういう所を見ると、大事にしてくれる親と、素直に頷く子供という図が想像が出来た。
けれど私には親はいないし、年若い子供でもない。
釘を指されなくても、自分には向いていないと試す前から身に染みて理解していた。
「ううん、止めたの両親じゃないの」
「あ、そうなんだ…?」
「えーと……じゃあ親代わりってことで」
「えっじゃあって言った?」
ミキちゃんはとって付けたような返しを聞いて訝しげにしていたけど、私も変に思っていた。
私に博打の才能がないだろうと首を横に振ったのは実は鬼灯くんで、しかしいちいち彼の説明をするのも手間だし長くなるしと雑に省いたのだ。
幼馴染とか同郷だとか言って省略することはあっても、親代わりと言い代えたのは今回が初めてのことだった。
何も知らないミキちゃんが感じたように、その言い含めはまるで心配性の親のようだと思ったし、話の流れ的にこれでいいやと思って適当に言っちゃったんだけど。
なんだか不思議でおかしい。
座敷童の(外見は)幼い二人がやってきてから鬼灯くんは「なんか父親みたい」とたまに言われるようになっていたし、めずらしく甲斐甲斐しくしている姿を見て私もちょっとそう思った。
あとついでにちょっと笑っちゃった。
様になってるんだかなってないんだか分からない教育風景だった。指導者の素質はまああるだろうから、仮に親と称してもいいだろう。
「今更連絡先交換するのもなんか照れるね。もっと早くすればよかったニャ」
「いやいや、女の子がそう簡単に個人情報教えちゃだめなんだよ」
「あはは、ちゃんがお母さんみたいだよ」
「あーうん、でも多分ミキちゃんより私のが年上だし、それで間違ってないかも…」
二人で食事をした後、帰り際になってそういえば…と思い至り、お互いの連絡先を教え合う。
携帯をいじりながら話すと、ミキちゃんにエッと驚かれてしまった。とても年上らしくは見えなかったんだろう。自分でもそう思う。思わず苦笑してしまった。
大人になろうとも思っていないし、かと言って子供らしく振舞ってる訳でもない。
身体が成長する前だったらともかく、平均的な日本人女性の体格をしている今の私は、年齢不詳なんじゃないかと思う。
10代・20代にしか見えないのに、実は何百何千という月日を生きているモノだったというのはザラにある話だから、あの世での年齢当てクイズは中々難しい。全然検討がつかない。
なんか古風な喋り方してるな…なんか価値観が独特だな…と思っても、特定するためには古い時代への理解が必要だった。
昔の暮らしぶりや価値観なんて、現代を過ごものには無縁の話で、「人がウホウホ言ってたよ」とか言われても想像がつかないだろうし…
私が「昔は洞窟暮らしをしてたんだ」と今時の鬼の子に言ったらドン引きされると思うし。
よくその酷烈な環境で生き残れたねって驚かれると思う。
私もあんな環境じゃ絶対に無理だ死ぬと思っていたけど、案外なんとかなるものだった。
思えば暖房がないだけで生き物が死ぬんだとしたらとっくに全部が絶滅しているだろう。
十分に守られた環境で育った現代っ子は、やっぱり発想が軟弱だ。
そのうち大体のことはなんとかなるなるという究極の悟りを開いてしまった。
ミキちゃんからは端々から現代の気配を感じるので、年下なんじゃないかと勝手に思っているけど、迂闊に断言はできない。
もしかしたら私とは比べものにならないくらいに長く居るのかも。
流行に敏感で、常に新しい波に乗り続けている女性の噂も知っている。
実際の所は気になるけど、あまり詮索できなくて話を打ち切る。
「またご飯食べようね」
「うん、今度はちゃんのおすすめ教えくれる?」
「もちろん。えへへ、楽しみにしてるね」
ばいばいと手を振って別れた。夜7時を指している時計をみて、お開きにしようと帰り支度した私達は子供のように健全な大人だ。
純粋な子供だったとしたら5時の時報が鳴ると同時に帰宅していることだろう。
私は規則正しい生活&仕事をしているため、ミキちゃんは昼夜も問わず不規則に多忙なため、これから呑みに行こうということにもならず今日はすんなり別れた。
ミキちゃんと別れた後、通りすがった酒屋から、大量の酒を購入して出てきたゴンさんのお仲間さんを見かけた。
きっと賭博はまだまだ続いている事だろう。
また、という約束がいつ果される事になるかは分からないけど、多分示し合せなくてもそのうちまたばったり遭遇するだろうなぁ。
食の好みも似ているのもそうだし、やっぱり活動範囲が似通っているみたいだったから。
──とは言っても、まさかこんなにも近いうちに、あんなにも近い所でバッタリ出会うとは思っていなかった。