第三十八話
5.恋情かなしいこと


アーニャはあまり賢い子供ではないらしい。と、ヨルさんの夫…ロイド・フォージャーは語ったらしい。
名門イーデンでの勉強で遅れをとっていると。
入学する際は、確か答案を事前に入手し、カンニングもどきの暗記をさせて、試験に挑んでいた記憶が朧げにある。
そうは言っても、ギリギリ授業に食らいついて行けているだけ、世の中の平均的な子供よりは"賢い子"の部類に入るだろうに。それを賢くないと言われるのはかわいそうだと、同情してしまった。
とは言え、トップクラスの子供が努力なしに成績を維持しているのかといえばそうではない。天賦の才という言葉ですべてを片付けてしまうのは違うだろう。



「という訳で、姉さんに家庭教師役を頼まれた」
「へえ。いつ行くの?来週の休日とか?」
「今からだ」
「…急、だね…」


ユーリがアーニャの家庭教師をするという流れは覚えていたし、それが目前に迫ってると聞いても驚かなかった、が、今日、今すぐにと言われてしまうと驚いてしまう。
ロイドさんもユーリも休日出勤する事も多い。そんな中で、揃って家で休日を過ごしているというのは、貴重な日かもしれない。
テストは週明けのにあるのだというし、やはり今日が一番都合がいいのだろう。


「行ってらっしゃい…あの、優しくしてあげてね?相手は小さい子だなんし…」
「なんだよ。僕がお前をいじめた事あるか?……あるな」
「ああ…あんまり気にしてないから、ユーリも気にしないで」

私がブライア家に迎えられてからすぐ、「当然の事だと思うな!」と言って突き放した自分を思い出したのだろう。
思わず苦笑しまう。傷つかなかったし、姉一筋のユーリに圧倒されただけだった。
あの件に関しては、何もユーリが気に病む事はないだろう。

「いってらっしゃい…じゃなくて。も行くんだぞ」
「え?家庭教師を頼まれたのユーリでしょう」
「お前も一応、世間的には名門のお嬢様学校に通ってた優秀な人材だよ」


女手一つで公務員の弟を育てたヨルさん。優秀な弟。そして名門のお嬢様学校に通う末の子。三人寄れば文殊の知恵とでも言うのか。
つまり家庭教師役にうってつけだという話だ。
ヨルさんは、名前にもよろしく伝えてくれ、と念を押していたらしい。
毎度原作の流れに介入して、皆勤賞を取ってる気がする。
恐れ多くもブライア家の一員という立場を獲得してしまってる今では、自然の流れなのだろうか。
間違っても面倒だとものぐさになっている訳ではない。なんとなく不思議で、飛び込んでいいものかと少し躊躇いを覚えているだけだ。


「一緒に行こうよ」

そんな私に対して、ユーリは花が咲いたような笑顔で誘いかけた。
びっくりしてぎょっと凝視してしまった。


「どうしたの」
「…な、んでもない…」


そう否定しつつも、私の視線は無意味にさ迷う。何かがあるだろう事は明白だったけれど、ユーリはそれ以上の深追いはしなかった。
出かける支度をしてくると告げて、私は自室に入った。

「……」

もとより日用品の買い物には出かけるつもりだったので、朝から簡単に身支度は整えていた。
髪を整えて、カジュアルな上下を脱ぎ捨て、よそ様の家にお邪魔出来るような小奇麗なワンピースに着替える。
姿見に映った私は、情けない顔をしていた。眉は下がって、前世の頃より淡くなった瞳は、心なしか光を無くしている。
悩んでます、といった心情が顔に現れているかのようだ。
上着と鞄を手にしながら、はぁと暗い気持ちを吐露した。
さっきのユーリの笑顔や口調は、まるで愛する姉に接するようだったなと、そう思ってしまったのだ。
愛するものに対してするような言動を、私に対してする。その意味を深読みしてしまった事が、苦しかった。
時計を見ると、時計の針はいくつも進んでいた。ぼんやりとしていたら、もう20分も支度に時間がかかっていた。
最後に長い髪を後ろに結ってから、部屋を出た。

「ごめん、お待たせ」
「そんなに待ってないよ」


玄関の傍で待機していたユーリは、名前がパンプスを履いて外に出るのを促してから、戸と鍵を閉める。
そして私の手を自然な仕草で取り、歩きだしてしまった。

「…!?」

言葉にならない悲鳴が喉からこぼれ出る。何故か上機嫌なユーリは、そんな私を気にも留めずに歩みを止めない。
はぐれないようにだとか言って、こうして手を引かれる事は昔から幾度かあった。
けれどその時と違って、何故だか上手く受流せない。自然体ではいられない。
──平静にはなれない。私の心はどんどん変化して行っている。それがとても恐ろしい。


「久しぶりに三人揃ってゆっくり過ごせるな。この間の料理教室は、仕事終わりの短い時間だけだったし」
「ユーリ、手、痛い…」
「ああ、ごめん。姉さんに手繋がれた時はもっと強かったから。加減って分かんないものだな」


家族水入らずで過ごせる事が嬉しかったのか、ぶんぶんと振り回さんばかりに容赦なく引かれるものだから、色んな意味で涙目になりながら苦痛を訴えた。
心底すまなそうな顔をして一度パッと離してから、ユーリは今度は手加減しながら再び握り直した。
そのまま離してくれると思ったので、再び手を取られた事に驚いて肩が跳ねた。
髪を結んできたことが悔やまれる。動揺した表情をユーリの視界から逃したいのに、これでは大げさに俯かなければ隠せないではないか。あまりに露骨な態度はとりたくない、けれど背に腹は代えられない。


ユーリは昔私に教えていた時も、きちんと時間割を決めていた。
徹夜で一夜漬けさせるなんて無茶はしないだろう、ならばせいぜい夕方には切り上げるだろうと予想した。
そうやって他愛ない事を考えて思考を冷静に戻そうとしているのに、ユーリは洪水のように私を動揺させる言葉を投げかけ続ける。


「今日の服も可愛い。この間履いてた靴は合わなかったみたいだから、帰りに見繕いに行こうか。店は大通りにあるが気に入ってる店でいいかな」
「いい、いいよ…それにあそこは高いから、」
「プレゼントするから、値段は気にしなくていいし」
「……ユーリ」


合わなかった靴なんてあっただろうか、と考えて、すぐにとある事に思い当たった。
カミラさんの家の玄関先で思わず靴を脱ぎ掛けて、無意味に履き脱ぎしたから、勘違いさせてしまったのだろう。
0.5センチの狭間に悩まされていたのは本当だ。でもあの日の靴は、実の所はぴったり合っていたのだ。
まさか前世の習性を思い出して脱いでしまったとはいえず、その勘違いを利用させてもらう他なかった。
それにしても、ヨルさんと私が洋服や靴の買い物に出かけても、積極的にお供をしたがる、ということはなかった。
やはりそういうのは男は邪魔になると引け目を感じていたのか、単純に興味がなかったのかはわからない。
だというのに、今日は恋人に贈ろうとするように積極的に買い物に付き合ってくれようとしているらしい。


「なんか、今日はへん」

思わず目を逸らし、俯きながら言ってしまった。
手を繋ぎながら町を歩く自分達は、どうやっても恋人同士にしか見えないだろう。
ここ数年は、そういう勘違いをされる事が多くなっていた。
その数年は、その事を何とも感じなかったのに。どうしてこうなってしまったのだろうか。どうして自分はこうも酷く心乱されるのだろう。
ドミニクさんがしきりに言っていたように、ユーリは俗にいう優良物件だ。
年々魅力的な人間に成長していく。それが微笑ましく、そして誇らしい。
それと同時に。


「……………良いと思うものは、ほしくならないのか」


あの日のユーリの問いかけの通り、"良い"ものだと。
──一人の男性として認め、意識するようになって来ているのは過ちなのだ。
あの日、私はあの問いかけに対して、こう返した。
神様は信じいなかった。ほんの些細な願いすら叶えてくれないものに縋るのは馬鹿らしいし、惨めだと。心の救いよりも、現実的なものが欲しかったのだと。

「叶うはずもない現実を想像するのは悲しい事でしょう?」


──私は、こう言ってしまったも同然だった。
ユーリが"私を選ばない事"は、悲しい事なのだと。
神様に縋る事を不毛だと思った事があるように、自分を好きになってくれないユーリの事を想像して、虚しくなったことがあるのだと白状したも同然だ。
その事に気が付いたのは、帰宅して、入浴している最中の事だった。一日の終わりにその日あった出来事を湯舟で思い出しているうち、ハッと気が付いてしまったのだ。
勘違いさせるような、意味深な事はもう言わないでほしいし、こんな風に触れないでほしい。だというのに、その願いもまた"叶わない"。


「僕の、どこが、変?」

ユーリはにこにこ笑っていた。とても優しく。まるで愛するものに接するような口調で、慈愛をこめて。
信じられないものを見たと思った。こんな事は起こるはずもなく、あってはならない事だとも思った。思わず顔に熱が集まるのが分かる。
ユーリの仕事は、人の心理を読まなければこなせない物だろう。
私の言葉にならない拒絶や、曖昧な言葉の裏にある意図を読めない程鈍くはないはずだ。
なのに、どうしてこんな事を繰り返すのか。
──私の事が、好きだから。
そんな自惚れた事を考えてしまう。ユーリのそれは家族愛の範疇なのか、それとも…。
苦し紛れに、私は俯きながら言う。


「……意地悪に、なった、ね」
「僕はいつでも優しいだろう、姉さんとに対しては」
「そうだけど…、でも今は、」


家族や妹扱いで優しくしてるのではない。これじゃまるで女の子扱いみたいだ。
そんな言葉を紡げるはずもなく、そのままフォージャー家に辿り着くまで、無言のまま歩いていた。




「来たよ姉さーん!」
「お久しぶりです、お邪魔します…」
「いらっしゃいユーリ、

カミラさんの家にお邪魔した時のように、何か軽食くらいは持参した方がいいかと思ったけれど、手ぶらで来ていいと事前に言われていた。
お邪魔しますと言いながら、つい靴を脱ぎ掛けてしまった。何度同じことを繰り返すのか。
言い訳をするなら、道中での出来事が尾を引いて、ぼうっとしていたせいだ。
サイズが合わなかったという勘違いをしてくれるうちはいいけれど、小さ違和感はやがて不信感に変わってしまうかもしれない。気を引き締めなければ、と思う。


「お久しぶりユーリくん」


ロイドさんが歓迎の言葉をかけ出迎えると、ユーリはムッと彼を睥睨した。
お久しぶり、と言われても、私は彼とたまに電話しているので、久しぶりに会ったといった感覚は不思議とない。
ロイドさんの足元には、ピンク色の髪をした小さな女の子が隠れるように張り付いていた。
そういえば、ユーリがアーニャちゃんと対面するのは今が初めてだったと思う。
じっとその大きく丸い目で、ユーリが敵か味方なのかを伺うかのように見上げていた。
アーニャちゃんがみているのは、外見ではなく心の内だろうけれど。お眼鏡にかなうだろうか。


「弟のユーリです、アーニャさん」
「ちちのこどものアーニャです…はじめまして」
「……」
「こらあなたも挨拶なさい」


ヨルさんはユーリをアーニャちゃんに紹介すると、彼女も恐る恐ると挨拶を返した。
子供でも出来る簡単な挨拶を、ユーリはしないままただ無言で突っ立っていた。
案の定、ヨルさんにこらこらと窘められている。
ユーリは流石にハッとして、口を開いた。


「こっちはうちの子のだよ、…アーニャと言ったっけ?」


自分は名乗らなかったのに、私の紹介はかかさず、ヨルさんの真似をするように、私の背を押してきた。


「そ、そのおねいさんは…すでにしっている」
「え?そうなの?」


どういう事だいうと視線をユーリから向けられて、思わず困り笑いを浮かべた。


「ちょっとヨルさんと話したい事があって…その時に挨拶したの」
「ああ…そんな事もあったっけ」


どこか腑に落ちないような表情をしていたユーリも、得心がいったように頷いた。
すると今度はアーニャちゃんの方が腑に落ちないような、珍妙なものをみるように目を丸くしていた。
今のやり取りは、原作にはない流れなので、彼女の心情を知る事は私には出来ない。


「バーリントラブ……?」
「え?なんですか?」
「アーニャむなやけしてきた…」
「あら大丈夫ですか?お勉強は少し休憩してからにしましょうか」


バーリント・ラブ。どこか聞き覚えのある響きだった。
そういえば、学校の同級生達がよく口にしているワードだ。


「今週のバーリント・ラブみた?」
「熱かったわよねーっ最早四角関係にまで発展しそうな勢いで」
「ヴィンセントのあの思わせぶりな…煮え切らない所がいけないのよ」
「その草食っぽさが魅力なんじゃないのかしら」
「ソニアの押しの強さ、見習いたいとこあるわよね」
「ねえ、さんは誰推しなの?」

そういえば先週も、そのドラマの話題で盛り上がっていて、私にも話を振られたばかりだった。
その勢いの中で観ていないと言って水を差すのも憚られたので、「肉食よりは草食がいいかな…」と言ってお茶を濁した記憶がある。
東国で居間流行っている、恋愛ドラマのタイトルだ。
ロイドさんをあまり褒めると、義理妹の私と姉の旦那との三角関係に発展しかねない勢いにも感じられると、自分で自分に引いていたのはいつの日の事だったか。思わず口元が引きつってしまった。
その事を今アーニャちゃんに読み取られたのか。でもロイドさんの事なんて今考えていなかったのに…と疑問を抱きながら、アーニャちゃんと無言で視線を合わせる。
最早、アーニャちゃんには原作がどうのという事ですら、ありのまま全てを読んでもらって構わないというスタイルを貫いていた。未来を見る超能力犬も登場してくるのだから、私も未来予知する超能力者、という事で、この世界では済まされるだろう。…アーニャちゃん以外にバレなければ。


「ちち、三角関係…」


アーニャちゃんはぽつりと言う。やはり想像は当たっていたようだ。
これからも、あまりロイドさんに絡まないように気を付けようと思った。
お茶の支度をしているヨルさんとロイドさんは、アーニャちゃんのおませな発言は聞こえていなかったようで、少し安心する。
ただ、ユーリは理解の及ばない話を聞いて、ひたすら怪訝そうにしていた。


***


「最近はどうですか?先日は閣僚会議で外務省も大変だったでしょう?」
「え…ああ…まあ…」


ソファーに座り、ユーリとロイドさんは、お決まりのように上辺はにこやかに、しかし内心では過激な情報戦を繰り広げているようだった。


「今回の件で政府の方針は…」
「何はともあれ無事に会談を終えられたのは我々の努力の…」


お互い腹の探り合ってる二人をみて、アーニャちゃんはスパイと秘密警察のバトルを目前にして、心躍らせているようだった。丸い目がキラキラと輝いている。顔に出やすいアーニャちゃんに苦笑してしまった。
ロイドさんもそれに気が付いたのか、「何だお前元気なら勉強始めるぞ」と言って立ち上がった。

「ボクはお邪魔でしょうから買い物にでも出てますね」


にこやかに退室を宣言するロイドさん。ユーリは喜び、アーニャちゃんは落胆していた。
せっかくの休日だったのに、恐らく別任務とやらに赴くつもりなのだろう。
積極的に休日出勤をしたがるなんて奇特…気の毒…いや働き者である。
彼のような人達の頑張りで国の平和は維持されているのだろう。
感謝と憐れみを同時に抱きつつも、私は少し肩の力が抜けるようになり、安心していた。
優秀なスパイである彼に、些細な動作から何を探られるか分かったものではない。
悪い人ではないけれど、出来るだけ間近に居合わせたくはない存在だ。
じゃあ始めましょうか、とヨルさんが言う。
ユーリは不服そうな顔をしつつも、ヨルさんの言葉に従って家庭教師の役目をこなしはじめた。
けれどスラスラと紙に書き連ねているのは明らかに6歳が解ける問題ではなく、なんて大人げないのだろうと、ユーリの隣で私は肩を落とした。


「なに!?全問正解だと!?」
「ふふふ」
「勉強なんてしなくていいのでは…?」
「い…いまのはまぐれ…」
「う…ああ…だよな…?ありえない…」


ユーリの心を読んでカンニングしたのだろう。アーニャちゃんは満点を取ってドン引きさせていた。
全力で難問を吹っ掛けたユーリと超能力をフル活用したアーニャちゃん。その双方にがっくりしながらも、私も家庭教師役としての勤めを果たさなければと、ペンを取った。
何の問題を出そうか悩みながら、アーニャちゃんの好物のピーナッツの絵を描きだした。
絵心なんてものはない。上手ではないけれど、特徴は捉えられているはずだ。


「はい、アーニャちゃん。ここにピーナッツが三つあります。好きだよね、ピーナッツ」
「アーニャぴーなつ好き!」
「うん、そうだよね。ピーナツがたくさん入った袋を一つ買うと、50ペントでした。二つ買うと、1ダルク。アーニャちゃんには私達全員分のピーナッツ買ってほしいな。五袋買うと、全部で何ダルクになると思う?」
「…………父母アーニャおばの分で2D…ついでにおじの分買ったら1D50P…?」
「そう、正解だよ!アーニャちゃんはおつかいマスターだね」
「オイついでってなんだアホ娘」


こんな問題は、イーデン校のテスト対策として教える物ではないだろうと、ユーリに訝しまれてしまった。
けれど私には私なりの目的あってのことだった。ただ甘やかしたのではないと、問題の意図について説明をした。


「イーデン校って当然だけど、普通の子より頭がいい子が通うところだよね。世間一般の6歳児が苦戦する問題を、簡単に解かなきゃならないような」
「そうだろうな」
「勉強は簡単じゃないよね。失敗続きで挫けそうになってもおかしくないくらい。だったら、成功体験を沢山積ませた方がいいと思って」


飴と鞭が必要という話だ。その理屈は理解できたようだけれど、その飴の部分を担うと言った私をユーリは微妙そうにみていた。逃げではない。私が鞭役が出来る性格をしていないのは一目瞭然だろう。
飴と鞭という話は実際の所は建前だ。本音は、アーニャちゃんの学力を鑑みてのこと。
年相応の算数問題から始めなければならないのに、高度な問題を解かされて、毎回テストで玉砕している。そんな印象だった。
基礎が無ければ解けるものも解けないだろうと考えたのだ。


「おば、絵上手!これアーニャ?」
「ふふ、お姫様みたいに可愛く描いたよ。お姫様、ピーナツたくさん買ってくださいね」
「ほほー、よいですわー!くるしうない!」


問題を作るより前に、絵から描いていく。
ピーナツを買いに行くアーニャちゃんの姿を紙の端に落書きして、その横に新たな算数問題を付け足した。
そんな姿をヨルさんはとても微笑ましそうに眺めいる。
ユーリはというと、胸を抑えて呻いていた。小さな子供を慈愛の目で見守る姉さんは天使、とでも考えているのだろう。
そんなユーリの様子を白けたように見ながら、胸焼けがする…と言いたげにしてアーニャちゃんは首を垂れて憔悴していた。


2022.9.24