第37話
2.神の恋─僕がキラかもしれない
竜崎に電話をかけ、会いたいと言うと、ホテルの一室に来るよう指示された。
勿論、前回僕が捜査本部の一員として足を踏みいれたホテルとはまた違う場所だ。
Kの2801号室。そこに入ると、捜査本部の面々と、竜崎が僕を迎え入れた。
竜崎はいつものように椅子に座って背を向けたまま、視線だけを僕の方にちらりと向けている。
他の者たちは情報共有されていないらしく、何がどうなっているのかわからないといった様子で、事の成り行きを見守っていた。
「竜崎…電話でも言ったが…」
「?」
「はい…」
僕が開口一番に言うと、電話の内容を知らない父は、怪訝そうな顔をしていた。
「──僕がキラかもしれない」
「ば、馬鹿な!何を言ってるんだライト!」
言うと、父さんは僕の両肩を勢いよく掴み、見たこともない剣幕で怒鳴った。
「ライト正気か!?バカな事を言うのは止せ!」
「どうしたというんだライト!ああ!?」と酷く取り乱す父と、青ざめた本部の面々。
そしてそれをじっと冷静に観察する竜崎。
「父さん、竜崎がLなら世界一と言っても過言ではない探偵だ。そのLが僕をキラだと決めつけている。きっと僕がキラなんだ」
「な…な…何を言ってるんだ!?ライト…」
動揺を隠せない父は、僕の肩から手を離すと、バッと竜崎の方を振り返る。
「はい、確かに…私の中では九分九厘、月くんがキラです。だから近々事情聴取する事になるかもと…ライトくんは鋭い洞察力を持っているがゆえ私の心理がわかったのでしょう…」
竜崎はカップを持ちあげ、一口含みながら考えを述べた。
「FBI捜査官レイ=ペンバーが日本に来てから死ぬまでに調べていた者…5月22日に青山に行った者…そして第二のキラ容疑のミサが関東に出て来て真っ先に口説いた人間…そして、もう一人のキラ容疑のと最も身近な人間…全て僕だ」
僕に自覚がないだけで僕がキラなのかもしれないって事だ、と僕は言った。
キラに操られた犯罪者が残した「死神という文字」。
第二のキラのメッセージにも「死神」。
死神など信じていないが、こんな言葉を突き付けられ、世界一の探偵に「おまえがキラだ」と疑われ…もう自分が自分でもわからなくなる…怖くなる…頭がおかしくなりそうだ。
少し震えた自身の両の手を見つめながら、僕は緊迫した空気を作りながらそう語った。
僕に自覚がなくても、例えば寝ている間にもう一人の僕が殺人を犯しているのかもしれない。
そこまで言うと、竜崎は「それはありませんでした」と否定した。
「どういう意味だ」
「実は月くんの部屋に五日間ほど監視カメラ付けていた時があったんです」
「……カメラ?」
「はい、月くんは夜普通に寝ていました……」
「そ…そこまでしていたのか竜崎……、…じゃあ…その五日間僕に死神の行動はなかったって事か?」
「はい…残念ながらありませんでした…月くんが情報を得ていない時に報道された犯罪者が死んでいった事から「キラではない」という判断ではなく、カメラを付けていてもキラとしてのボロは出さない」と判断しました」
初めて知った、という表情を作り、僕はカメラの設置について戸惑いを見せた。
そして竜崎に思わずと言った様子で、少し問い詰めるように近づく。
しかし竜崎は飄々として、当然悪びれもしていない。
「……「キラとしてのボロは出さない」か…実際そうなのかもしれない、一体どうなって…いやどうすればいいんだ…僕はやっぱりキラなのか?僕なりの推理をしても…可能性は高く思える」
「何を言ってるんだライト…考えすぎだ…」
「……正直に言うが…僕は…ある程度の重犯罪者は死んだ方がいいと思っている…こういう考えを持っている人間なら誰でもキラになり得ると思うんだ…」
「ライト……」
「嘘じゃないよ父さん…いや、犯罪者でなくともだ。こんな奴は死んだ方がいいと思う人間は僕の中に沢山存在しているんだ…」
僕がそこまで述べると、そこまでハラハラとした様子で傍観していた松田さんが、バッと身を乗り出し、僕をフォローするために割り込んできた。
「月くん、それは僕だって同じだ!こんな奴死んだ方がいいと思う事なんてしょっちゅうある。人間て結構誰でもそうなんじゃないかな?でも、だからっ本当に人を殺したりはしない。そうだろ?」
それに月くんが情報を得ていない犯罪者が死んで行ったんだ。それは監視カメラが証明してくれた。五日間も見続けていたんだ、絶対月くんはキラじゃないよ…
そう言って、松田さんは必死に僕を援護してくれた。
しかし、そこで、「い…いや…」といって相沢さんが否定的な言葉をかける。
「あの時は捜査員不足もあり、在宅時しか観ていない。まあそれで十分と考えていたわけだが…五日間24時間監視していたわけじゃない…
学校等にも行っていたし自由に外出できた…万が一カメラに気付けていたとしたら、家にいない時に殺人をする方法があったのかもしれない…」
これも、想定内の返答だった。身内である父はともかくとして、この状況で、全員に援護されるとは思っていない。──むしろ、否定されなければ困る。
僕の思惑通り、竜崎は渋々と言った様子で、僕の望む答えを出してくれた。
「…何か私には少し話の展開が気に入りませんが…いいでしょう。夜神月を手足を縛り、長期間牢に監禁」
「な…何を…」
「その代わり。やるなら今からです。一度も私の目の届かぬ場所に行く事なく」
「ば…馬鹿な、息子がキラであるはずが…!大体そんな事息子が──」
「いいよ父さん」
一生懸命僕を援護しようと、竜崎の背に向けて食って掛かる父さんに、僕は静かに声をかけた。
「ライト…」
「やるよ。…いや、そうしたい。僕もこのまま自分がキラではないのかと心のどこかで悩みながら、キラを追っていく事は出来ない。はっきりさせたい…一刻も早く。
それには一見時間がかかりそうでも、こうする事が一番早いかもしれない。いや、今はこれしかないんだ」
「その代わり…」と付け加え、僕はこういった。
「竜崎が僕がキラだとわかるか、キラじゃないと納得するまで、僕が何を言おうと、どんな状態になろうと、絶対自由にしないでくれ」
「わかりました…しかし月くんへの疑いが晴れるなどという事は、どれだけの時間を費やすか、私にも想像がつきません。そこは覚悟しておいてください」
僕に淡々と言うと、竜崎は父さんに指示を出した。
「夜神さん、家族の方に月くんが居なくなる理由、今から作れますか?いや作ってください」
「そ、そんな事急に言われても…大体何故息子が牢なんかに…!」
「しつこいよ、父さん。そうしないと僕自身が納得できないんだ。そして自分がキラでないなら、僕や父さんをこんな目に遭わせたキラを絶対に捕まえる。
キラは殺人に情報が必要…それは僕の中でも絶対の推理。犯罪者の情報を得ない隔離された所から自分の潔白を確立しなから、キラを追ってみせる」
父さんはそこまできっぱりと言うと、僕の覚悟に少し圧倒されたようで、先ほどよりは少し落ち着いた様子で、現実的な心配をしだした。
「し…しかしおまえ…大学は?」
「僕のレベルなら一年…いや、どれだけ休んだところで問題ないのは父さんも知ってるはずだ」
僕が家を不在にする理由を作る事も、大学を休む事も、何も難しい問題ではない。
むはろ真に問題なのは、潔白であるはずの無実のが監禁され、家族に心配をかけ、学業にも支障を来しているという事。
さすがにいくらが賢いとは言っても、僕のようにいくら休んでも大丈夫とは言えない。この点については今後僕が責任を持ってフォローする事に内心決めながら、こう告げた。
「…理由はこうしよう。「と同棲する事を決めたが、そんな事堅物の父さんが認めるはずがないから、しばらく連絡は取れない様にしておく」と僕が母さんに電話する。父さんは家で「そんな息子は勘当だ」とでも一芝居打っておいてくればいい」
「…本気なのか…ライト…」
「ああ、僕は自分の自由を封じる事で、自分の中に潜むキラの恐怖に勝つ」
父さんはそれ以上何も言えず、茫然自失した様子で、僕が手錠をかけられ、目隠しをされ、隔離牢へと連れられる姿をただ見守る他なかった。
竜崎の言っていた通り、疑いが晴れるまで、どれだけの時間を要し、隔離されるのかわからない。
それはも同じこと。僕は一刻も早くこの状況を打開し、を救わなければならない。
を害するつもりがない…と言いつつ、無実の罪を着せられ、監禁に追いやった"第三者"の存在。
そいつがどういう立場で、どういう行動理念で動いているか計り知れないが…
どう考えても、僕という本物のキラの存在が、を巻き込んだであろうと事は自明の理だ。
早く助けてあげたい。早く会いたい──
ベッドと便器しかない、柵で出入りを封じられた本物の牢屋に監禁されながら、僕はそう願い続けていた。
そして、監禁されてから七日目のこと。
「月くん、まだ一週間ですが、流石にやつれてきてます。大丈夫ですか?」
黒いTシャツ、ズボンに身をみ、常時後ろ手に手錠をかけられたまま。
風呂は入れず、トイレは監視されているカメラの前で。
囚人と同様の扱いを受けながら、僕はベットを背もたれ代わりにしながら、床に座って視線を下げていた。
身なりも整えられていないのだ。やつれて見えて当然だろう。
しかし、こうなると分かって自分の意思でここに足を踏み入れたのだ。
精神状態は、平常時と変わらない。しかしカメラの前では人間的な姿を見せなければいけず、消耗してきた…といった姿を繕わなければならなかった。
竜崎はこうして度々、スピーカー越しに僕へと探りを入れるように語り掛けていた。
恐らくミサにも、にもそうしているのだろう。
「ああ…自分でも恰好いい状態とはとても思えないが…」
──そろろそ頃合だろう。僕は今日を区切りとし、あらかじめ死神リュークと決めていた約束の言葉を口にした。
「──そんなくだらないプライドは…"捨てる"」
林檎が食べられない事で、禁断症状に苦しみ、体を無茶苦茶に捻っていたリュークは、ぱっと立ち上がると、「はいよ」と言って壁からすり抜けて消えていった。
「じゃあな」
次に僕が「捨てる」と口にした時。その時は文脈に関わらず、「ノートを…」という意味で口にする。
その約束を当然覚えていたリュークは、今この時を持って、僕がノートの所有権放棄した事を認め、でて行った。
そして次の瞬間、僕の中からノートを所有していた時の記憶が消え去り──
「…竜崎…確かに僕は監禁される事を承諾し、こうする事を選んだ…しかし今、はっきりと気が付いた。こんな事をしていても無駄だ、全く意味がない!何故なら僕はキラじゃない!ここから出してくれ!」
──どこにでもいるただの大学生、夜神月でしかなくなっていた。
2.神の恋─僕がキラかもしれない
竜崎に電話をかけ、会いたいと言うと、ホテルの一室に来るよう指示された。
勿論、前回僕が捜査本部の一員として足を踏みいれたホテルとはまた違う場所だ。
Kの2801号室。そこに入ると、捜査本部の面々と、竜崎が僕を迎え入れた。
竜崎はいつものように椅子に座って背を向けたまま、視線だけを僕の方にちらりと向けている。
他の者たちは情報共有されていないらしく、何がどうなっているのかわからないといった様子で、事の成り行きを見守っていた。
「竜崎…電話でも言ったが…」
「?」
「はい…」
僕が開口一番に言うと、電話の内容を知らない父は、怪訝そうな顔をしていた。
「──僕がキラかもしれない」
「ば、馬鹿な!何を言ってるんだライト!」
言うと、父さんは僕の両肩を勢いよく掴み、見たこともない剣幕で怒鳴った。
「ライト正気か!?バカな事を言うのは止せ!」
「どうしたというんだライト!ああ!?」と酷く取り乱す父と、青ざめた本部の面々。
そしてそれをじっと冷静に観察する竜崎。
「父さん、竜崎がLなら世界一と言っても過言ではない探偵だ。そのLが僕をキラだと決めつけている。きっと僕がキラなんだ」
「な…な…何を言ってるんだ!?ライト…」
動揺を隠せない父は、僕の肩から手を離すと、バッと竜崎の方を振り返る。
「はい、確かに…私の中では九分九厘、月くんがキラです。だから近々事情聴取する事になるかもと…ライトくんは鋭い洞察力を持っているがゆえ私の心理がわかったのでしょう…」
竜崎はカップを持ちあげ、一口含みながら考えを述べた。
「FBI捜査官レイ=ペンバーが日本に来てから死ぬまでに調べていた者…5月22日に青山に行った者…そして第二のキラ容疑のミサが関東に出て来て真っ先に口説いた人間…そして、もう一人のキラ容疑のと最も身近な人間…全て僕だ」
僕に自覚がないだけで僕がキラなのかもしれないって事だ、と僕は言った。
キラに操られた犯罪者が残した「死神という文字」。
第二のキラのメッセージにも「死神」。
死神など信じていないが、こんな言葉を突き付けられ、世界一の探偵に「おまえがキラだ」と疑われ…もう自分が自分でもわからなくなる…怖くなる…頭がおかしくなりそうだ。
少し震えた自身の両の手を見つめながら、僕は緊迫した空気を作りながらそう語った。
僕に自覚がなくても、例えば寝ている間にもう一人の僕が殺人を犯しているのかもしれない。
そこまで言うと、竜崎は「それはありませんでした」と否定した。
「どういう意味だ」
「実は月くんの部屋に五日間ほど監視カメラ付けていた時があったんです」
「……カメラ?」
「はい、月くんは夜普通に寝ていました……」
「そ…そこまでしていたのか竜崎……、…じゃあ…その五日間僕に死神の行動はなかったって事か?」
「はい…残念ながらありませんでした…月くんが情報を得ていない時に報道された犯罪者が死んでいった事から「キラではない」という判断ではなく、カメラを付けていてもキラとしてのボロは出さない」と判断しました」
初めて知った、という表情を作り、僕はカメラの設置について戸惑いを見せた。
そして竜崎に思わずと言った様子で、少し問い詰めるように近づく。
しかし竜崎は飄々として、当然悪びれもしていない。
「……「キラとしてのボロは出さない」か…実際そうなのかもしれない、一体どうなって…いやどうすればいいんだ…僕はやっぱりキラなのか?僕なりの推理をしても…可能性は高く思える」
「何を言ってるんだライト…考えすぎだ…」
「……正直に言うが…僕は…ある程度の重犯罪者は死んだ方がいいと思っている…こういう考えを持っている人間なら誰でもキラになり得ると思うんだ…」
「ライト……」
「嘘じゃないよ父さん…いや、犯罪者でなくともだ。こんな奴は死んだ方がいいと思う人間は僕の中に沢山存在しているんだ…」
僕がそこまで述べると、そこまでハラハラとした様子で傍観していた松田さんが、バッと身を乗り出し、僕をフォローするために割り込んできた。
「月くん、それは僕だって同じだ!こんな奴死んだ方がいいと思う事なんてしょっちゅうある。人間て結構誰でもそうなんじゃないかな?でも、だからっ本当に人を殺したりはしない。そうだろ?」
それに月くんが情報を得ていない犯罪者が死んで行ったんだ。それは監視カメラが証明してくれた。五日間も見続けていたんだ、絶対月くんはキラじゃないよ…
そう言って、松田さんは必死に僕を援護してくれた。
しかし、そこで、「い…いや…」といって相沢さんが否定的な言葉をかける。
「あの時は捜査員不足もあり、在宅時しか観ていない。まあそれで十分と考えていたわけだが…五日間24時間監視していたわけじゃない…
学校等にも行っていたし自由に外出できた…万が一カメラに気付けていたとしたら、家にいない時に殺人をする方法があったのかもしれない…」
これも、想定内の返答だった。身内である父はともかくとして、この状況で、全員に援護されるとは思っていない。──むしろ、否定されなければ困る。
僕の思惑通り、竜崎は渋々と言った様子で、僕の望む答えを出してくれた。
「…何か私には少し話の展開が気に入りませんが…いいでしょう。夜神月を手足を縛り、長期間牢に監禁」
「な…何を…」
「その代わり。やるなら今からです。一度も私の目の届かぬ場所に行く事なく」
「ば…馬鹿な、息子がキラであるはずが…!大体そんな事息子が──」
「いいよ父さん」
一生懸命僕を援護しようと、竜崎の背に向けて食って掛かる父さんに、僕は静かに声をかけた。
「ライト…」
「やるよ。…いや、そうしたい。僕もこのまま自分がキラではないのかと心のどこかで悩みながら、キラを追っていく事は出来ない。はっきりさせたい…一刻も早く。
それには一見時間がかかりそうでも、こうする事が一番早いかもしれない。いや、今はこれしかないんだ」
「その代わり…」と付け加え、僕はこういった。
「竜崎が僕がキラだとわかるか、キラじゃないと納得するまで、僕が何を言おうと、どんな状態になろうと、絶対自由にしないでくれ」
「わかりました…しかし月くんへの疑いが晴れるなどという事は、どれだけの時間を費やすか、私にも想像がつきません。そこは覚悟しておいてください」
僕に淡々と言うと、竜崎は父さんに指示を出した。
「夜神さん、家族の方に月くんが居なくなる理由、今から作れますか?いや作ってください」
「そ、そんな事急に言われても…大体何故息子が牢なんかに…!」
「しつこいよ、父さん。そうしないと僕自身が納得できないんだ。そして自分がキラでないなら、僕や父さんをこんな目に遭わせたキラを絶対に捕まえる。
キラは殺人に情報が必要…それは僕の中でも絶対の推理。犯罪者の情報を得ない隔離された所から自分の潔白を確立しなから、キラを追ってみせる」
父さんはそこまできっぱりと言うと、僕の覚悟に少し圧倒されたようで、先ほどよりは少し落ち着いた様子で、現実的な心配をしだした。
「し…しかしおまえ…大学は?」
「僕のレベルなら一年…いや、どれだけ休んだところで問題ないのは父さんも知ってるはずだ」
僕が家を不在にする理由を作る事も、大学を休む事も、何も難しい問題ではない。
むはろ真に問題なのは、潔白であるはずの無実のが監禁され、家族に心配をかけ、学業にも支障を来しているという事。
さすがにいくらが賢いとは言っても、僕のようにいくら休んでも大丈夫とは言えない。この点については今後僕が責任を持ってフォローする事に内心決めながら、こう告げた。
「…理由はこうしよう。「と同棲する事を決めたが、そんな事堅物の父さんが認めるはずがないから、しばらく連絡は取れない様にしておく」と僕が母さんに電話する。父さんは家で「そんな息子は勘当だ」とでも一芝居打っておいてくればいい」
「…本気なのか…ライト…」
「ああ、僕は自分の自由を封じる事で、自分の中に潜むキラの恐怖に勝つ」
父さんはそれ以上何も言えず、茫然自失した様子で、僕が手錠をかけられ、目隠しをされ、隔離牢へと連れられる姿をただ見守る他なかった。
竜崎の言っていた通り、疑いが晴れるまで、どれだけの時間を要し、隔離されるのかわからない。
それはも同じこと。僕は一刻も早くこの状況を打開し、を救わなければならない。
を害するつもりがない…と言いつつ、無実の罪を着せられ、監禁に追いやった"第三者"の存在。
そいつがどういう立場で、どういう行動理念で動いているか計り知れないが…
どう考えても、僕という本物のキラの存在が、を巻き込んだであろうと事は自明の理だ。
早く助けてあげたい。早く会いたい──
ベッドと便器しかない、柵で出入りを封じられた本物の牢屋に監禁されながら、僕はそう願い続けていた。
そして、監禁されてから七日目のこと。
「月くん、まだ一週間ですが、流石にやつれてきてます。大丈夫ですか?」
黒いTシャツ、ズボンに身をみ、常時後ろ手に手錠をかけられたまま。
風呂は入れず、トイレは監視されているカメラの前で。
囚人と同様の扱いを受けながら、僕はベットを背もたれ代わりにしながら、床に座って視線を下げていた。
身なりも整えられていないのだ。やつれて見えて当然だろう。
しかし、こうなると分かって自分の意思でここに足を踏み入れたのだ。
精神状態は、平常時と変わらない。しかしカメラの前では人間的な姿を見せなければいけず、消耗してきた…といった姿を繕わなければならなかった。
竜崎はこうして度々、スピーカー越しに僕へと探りを入れるように語り掛けていた。
恐らくミサにも、にもそうしているのだろう。
「ああ…自分でも恰好いい状態とはとても思えないが…」
──そろろそ頃合だろう。僕は今日を区切りとし、あらかじめ死神リュークと決めていた約束の言葉を口にした。
「──そんなくだらないプライドは…"捨てる"」
林檎が食べられない事で、禁断症状に苦しみ、体を無茶苦茶に捻っていたリュークは、ぱっと立ち上がると、「はいよ」と言って壁からすり抜けて消えていった。
「じゃあな」
次に僕が「捨てる」と口にした時。その時は文脈に関わらず、「ノートを…」という意味で口にする。
その約束を当然覚えていたリュークは、今この時を持って、僕がノートの所有権放棄した事を認め、でて行った。
そして次の瞬間、僕の中からノートを所有していた時の記憶が消え去り──
「…竜崎…確かに僕は監禁される事を承諾し、こうする事を選んだ…しかし今、はっきりと気が付いた。こんな事をしていても無駄だ、全く意味がない!何故なら僕はキラじゃない!ここから出してくれ!」
──どこにでもいるただの大学生、夜神月でしかなくなっていた。