第35話
2.神の恋─容疑者の恋人
「"清楚高田"…いつから夜神なんかと…」
「昨日かららしいよ」
「くそ…成績優秀のイケメンに持ってかれるのか…」
「いや高田の方から告ったらしいよ」
「な…なんだそれ、"清楚"高田、見損なった!」
「…高田が"清楚"ならお前は"一人よがり"今井だよ。…それに付きあってる訳じゃないっぽいいぜ」
「はあ?じゃあなんなんだよ。お友達から始めましょうってか?何様だよ夜神」
幼稚園でも、小学校でも。中学も高校も、大学でも同じ。
僕が何か行動すれば、それがいいものであれ、悪いものであれ、外野は視線を向けて、噂をする。
僕は思わせぶりな態度を取り、高田に告白させるように仕向けた。そしてお友達から始めましょうと結論づけさせたのだ。
今日もとは別行動をとり、カモフラージュに使うために高田清美と並んで歩く。
最近、と会う時間がめっきり減って、気分が悪い。憂鬱だ。
そんな僕の陰鬱な気持ちとは裏腹に、天気いい。晴天の空が広がっていた。陽の光が穏やかに差し込んでいる。
そんな中、視線の先に、太陽の光が全く似合わない男の姿が見えた。
「あっ夜神くんこんにちは」
少し先のベンチに、独特な座り方をして読書しているのは、流河旱樹…"L"だった。
僕はすかさず、隣を歩く高田清美に声をかける。
「高田さん、ちょっと彼と二人で話をしたいので、また後で」
「えっ?あっ…はい…」
こういう時、聞き分けがいい女は助かる。
高田清美は訝し気な様子は見せつつも、自分を優先しろとは言わず、僕の言葉に頷き、この場を後にした。
「いいんですか?彼女」
「そんな事より、「人前に出るのは怖い」と言っていたのに大丈夫なのか?」
流河が座るベンチまで歩み寄り、声をかける。ベンチの後ろの木が影を作っていて、日差しを遮断しているようだった。
「夜神くんがキラでなければ大丈夫だと気が付きました…外で私がLだと知っている人は夜神くんだけですから」
「!」
「なので私が近日殺されたら──「夜神月がキラ」だと夜神さんをはじめとする本部の者と他のLに言っておきました」
……こいつまたこういうタイミングで「他のL」などと…
「あれ?言いましたよね?Lと名乗るのは私だけではないと。「L」というのは、数人の捜査団という事にします」
「します」…ふざけているのか?
「夜神くんも私の休学を寂しいと言ってくれましたし、少しは気分転換に来ることに…死ななきゃ大学は楽しいところです。」
「……ああ、流河がいないと話のレベルが会うものがいなくてつまらないよ」
「それで才女の高田さんですか?」
「まあ、そんなところだ」
「Lは数人の捜査団」これはいくらなんでもはったりだ。しかし本当に今日こいつを殺して大丈夫なのか?
パソコンの向こうのL…Lがこいつだけではないのは嘘ではなさそうだ。
それに父…
「学食でケーキ食べませんか?」
やはり今の時点でこいつを殺すのは早まったことににるのか…
流河の誘いに乗り、立ち上がった流河と共に歩いて学食へ向かう。
その間も巡らせる思考は止めない。
…いや、こいつ…殺そうと考えてたところにノコノコ出て来て僕の決心を鈍らせている。
僕がキラなら殺されると考え、それに釘を刺しておくために?
これじゃこいつの思う壺じゃないか…
「ライトーっいたーっ」
そこまで考えていた所で、背後から大きな声で名前を呼ばれる。
盛大に眉間皺を寄せ、大きなため息を吐きたくなるのをこらえ、平静を装う。
ゆっくりと振り返ると、予想通りの姿がそこにあった。
「この近くのスタジオで撮影あるから来ちゃった!二時からだからちょっとの間だけどね…。大学って誰でも入れるんだね」
ミサ…馬鹿…!
何度同じことを繰り返せば気が済むんだ、この女は!
振り返らずとも、流河があの黒い目で、いつものようにじっとミサを観察しているのが手に取るようにわかる。
「ライトのお友達?個性的で素敵ね。私ライトの彼女…じゃ、なくて。彼女候補の弥海砂!よろしくね」
「流河旱樹です」
ミサと流河が歩み寄るのを、生きた心地がしないまま見守っていた。
しかしすぐに、焦燥でいっぱいだった僕の考えは変わる。
──勝った!ミサには流河の本名が見えている!
「えっ?りゅうがひでき?」
「!!…ああ、そう、こいつあのアイドルと同姓同名なんだ。面白いだろ」
僕はミサの両肩を掴んて、僕が流河との間に隔たる壁になるようにしながら笑いかける。
ミサは明らかに、目で見える名前と、口で名乗られた偽名との相違に困惑していた。
流河…今回は出てきた事が裏目に出たな!
ちらりと、表情には出さず、内心では勝ち誇ったように流河をみる。
すると…流河は、含みのある笑みを称えていた。
ま…まさかこいつ、感付いたのか?「流河旱樹」に対する反応だけで?
いやアイドルの名前…皆反応する。それに第二のキラの可能性を考えたら、
奴の立場で笑っていられるはずが…
「夜神くん…羨ましいです。「エイティーン」3月号からのミサさんファンです」
「えつ本当嬉しいー!」
な、なんだこいつ。なんで知ってるるんだ?
モデルと言ってものでティーン雑誌に少し出るくらいなのに。…マジなのか?
「あっあの子ミサミサじゃない?」
「えっミサミサって?」
「あっほんとミサミサだ」
「かわいい」
「だからミサミサって誰?芸能人?」
そうこうしているうちに、通りがかりの男女がミサを指さし、どんどん集まってくる。
「モデルだよモデル」
「へえー東大にモデルなんていんの?」
「へー本物ってちっちゃくてよりかわいいー」
「わっやっぱり若い人多い場所だと結構知ってる人いるんだ」
「まずいな…」
ミサのことを知らない人間も、ミサのファンだという複数人の声につられてどんどん野次馬のうに集まってくる。
今のミサに対した知名度はない。しかしミサの整った容姿と、モデルという肩書きのおかげで、好奇心をくすぐられた者がこのままでは際限なく集まってくるだろう。
あっという間にぐるりと輪を作るようにして、僕達は取り囲まれてしまった。
「やだ!誰かお尻触った!」
「なんて不謹慎な。どさくさにまぎれて許せないですね。犯人は私が見つけます」
「あはは面白いっ」
ミサが声をあげると、流河が芝居がかった動作をしながら言った。
そのときだった。人混みをかき分けるようにして、眼鏡をかけたスーツ姿の女性がやってきて、ミサの腕を掴んだ。
「ミサ、もうスタジオ入りしないと!また遅刻する気?」
「あっヨッシーごめん」
「おっジャーマネ?」
「カッコイイ」
ミサからじっくり話を聞きたいところだったけれど、そうもいっていられる状況じゃない。
まあミサがここから出ていけば、後は電話一本で名前を聞きだせる。
もういつでも流河を殺せるのと同じだ、やった…
「じゃあねーライト、私の仕事終わってからね!」
「えっライトって…夜神と…」
「"清楚"は?」
「…」
野次馬たちがボソボソ話しながら、散り散りになっていく。
それと共に、流河も僕に背を向けた。
「では私もたまには講義に出る事にします。三限目の心理学一緒でしたよね」
「ああ、僕も行くよ。トイレに寄ってからね」
そんなさり気ないやり取りをしてから、流河と反対側の道を行った。
ミサはマネージャーと二人だろう。電話で流河の名前を言うだけなら何の問題もない。
じゃあな流河…いろいろ楽しかったよ。お前の名前を知って自分で殺せてよかった…
ポケットからミサから預かった携帯を取り出し、ミサの携帯に電話をかける。
一月始め、部屋に監視カメラを付けられる直前、書き溜めた犯罪者は23日後まで効果があった。
つまり今から23日間は操り殺す事が可能。おまえの死に方は「2004年6月19日、犯罪者を捕まえる事なく事故死」これなら今すぐ死ぬわけでもなくて、22日かけて隠蔽工作もでき、僕が捕まることはない。あとはミサからおまえの名前を聞いて、サイフに仕込んであるデスノートにそう書くだけだ…
僕は電話帳からミサの名前を探し出し、コールする。
──その瞬間。少し離れた所にいる流河のポケットから、着信音が鳴り響いた。
…──まさか。
「はい…もしもし?」
「流河…何が「もしもし」だ」
「あっこの携帯、さっきの騒ぎの時、誰かが落としたみたいです」
ポケットから取り出したミサの携帯に耳を当て、流河が飄々と言う。
どさくさに紛れて彼女のバックから…なんて奴だ…
しかしそこまでしているなら、既にミサを第二のキラだと疑っているという事に…
だとすればあのミサが最近急接近した僕への疑いも…
「もしもし?」
「ああ、それはミサの携帯だから、僕が返しておくよ」
「そうですか、わかりました」
流河…してやったりと思っているんだろうが、ミサはもう一つ携帯を持っている。
そっちにかければおまえは終わりだ。
流河からミサの携帯を受け取ると、すぐにまた着信音が鳴り響く。
「あっ今度は私の携帯です。…はい…はい…そうですか。やりましたね、わかりました」
やりました?…会話の内容は漏れてこないものの、ここにいる流河が話す言葉は引っ掛かるものだった。
流河は電話を切ると、くるりと僕の方を振り返り、こう告げた。
「夜神君には嬉しかったり悲しかったりだと思いますが…」
「…」
「弥海砂とを、第二のキラ容疑で確保しました」
「なっ…!?」
不穏な流れになっているのは察知していた。
しかしまさか、こうも不利で──理解しがたい展開を迎えるとは、予想もしなかった。
「弥の部屋から第二のキラが送った時封をしていたガムテープに付着していた猫の毛や化粧品の粉、洋服の繊維等、多数の証拠が出ました。
第二のキラ容疑で逮捕となると、世間の混乱が予想されますので、発表しませんが、
今確保しました。一緒にいたマネージャーの麻薬所持容疑への任意同行としてますが、それも表に出る事はないでしょう」
ミサを確保…一体いつからミサの事を…こんなに早く捕まるとは…
これでもう電話で名前を聞き出すこともできない…
結局流河は顔を知られぬよう隠れることよりも、僕と一緒にいる事で身を守り、核心に迫った…
いや、今考えるべきはそれだけじゃない。
流河はこういった。「弥海砂とを確保した」と。
「大丈夫ですか?夜神くん。恋人や親しい女性が第二のキラ容疑の疑いで事情聴取…気持ちはわかります…」
「……どういう事だ、流河。ミサの部屋から洋服の繊維や化粧品の粉から証拠が出たと言ったが…そこにが関与していたと核心できる証拠があったと?」
「はい、そうです。の髪や、洋服の繊維がでました」
「…の交友関係は狭い。それにミサは上京して間もないし、とミサに接点があったとは考え難い」
「そうは言っても、実際に物的証拠が出てるんですよ。…夜神くんは妙にさんを庇いますね。そして妙に、弥海砂に関しては何も触れない。あんなに親しくしているというのに」
流河はとぼけた様子で、僕の顔を覗き込む。
…確かに、ミサに関しては、僕が甘かった。あのビデオ等から足がつかないように僕が徹底的に隠滅しておくべきだった…
結局今ミサに電話した事も裏目に…いやミサが第二のキラとして捕まったという事は流河の中で僕への疑いも最早疑いではなくなってるはず…
そしてミサが口を割れば全て終わってしまう…ミサを殺すしか…
──じゃあ、はどうだ?
ミサは実際第二のキラであり、僕がキラであるという事も知っている。
けれどは何もしらない…僕がキラであるという事も。デスノートの存在さえも。
けれどビデオテープを送った時の封筒に、ミサだけでなく、の髪や衣類の繊維が付着していたのだという。
それはが共犯者であるという事を意味してる。
…ミサとが繋がっていた?どれだけ考えても、二人が繋がるはずがないという結論しかでない。
ましてや共謀してビデオテープを送っただなんて…
ミサが僕の最愛の人に嫉妬をして、嫌がらせてのためにわざとの髪を付着させたのかとも思った。。
けれどそんなことをすれば、ミサが崇拝する僕の怒りを買うことくらい、いくらミサだって理解できているはずだ。
それにビデオテープの封筒のに色々付着していたというが、「いつ」「どこから」送られた封筒に付着していたものだ?
ミサが悪意をもって工作したのだとしたら、僕が指示して送らせた、最後のテープでしかありえない。
それ以前のものからが関与した証拠が出たとしたら、おかしすぎる。
僕とミサは、面識すらなかった。ミサは僕と会うために、さくらTVにビデオテを送り続けたのだから。
ミサの仕業でないとすれば、がミサの部屋に忍び込み、わざとか…あるいはうっかりと、封筒に痕跡を残してしまったことになる。
──ありえない。どんな角度から考えてみても、が関与したなど、ありえない…
じゃあ、の"痕跡"は、いつ、どこから、どうして残されてしまった…?
──そしてその答えは、思わぬ瞬間、思わぬ形で知らされる事となる。
ミサとが監禁されてから3日後、レムが僕の自室へとやってきた。
そしてレムが、僕の疑問への答えを語ったのだった。
2.神の恋─容疑者の恋人
「"清楚高田"…いつから夜神なんかと…」
「昨日かららしいよ」
「くそ…成績優秀のイケメンに持ってかれるのか…」
「いや高田の方から告ったらしいよ」
「な…なんだそれ、"清楚"高田、見損なった!」
「…高田が"清楚"ならお前は"一人よがり"今井だよ。…それに付きあってる訳じゃないっぽいいぜ」
「はあ?じゃあなんなんだよ。お友達から始めましょうってか?何様だよ夜神」
幼稚園でも、小学校でも。中学も高校も、大学でも同じ。
僕が何か行動すれば、それがいいものであれ、悪いものであれ、外野は視線を向けて、噂をする。
僕は思わせぶりな態度を取り、高田に告白させるように仕向けた。そしてお友達から始めましょうと結論づけさせたのだ。
今日もとは別行動をとり、カモフラージュに使うために高田清美と並んで歩く。
最近、と会う時間がめっきり減って、気分が悪い。憂鬱だ。
そんな僕の陰鬱な気持ちとは裏腹に、天気いい。晴天の空が広がっていた。陽の光が穏やかに差し込んでいる。
そんな中、視線の先に、太陽の光が全く似合わない男の姿が見えた。
「あっ夜神くんこんにちは」
少し先のベンチに、独特な座り方をして読書しているのは、流河旱樹…"L"だった。
僕はすかさず、隣を歩く高田清美に声をかける。
「高田さん、ちょっと彼と二人で話をしたいので、また後で」
「えっ?あっ…はい…」
こういう時、聞き分けがいい女は助かる。
高田清美は訝し気な様子は見せつつも、自分を優先しろとは言わず、僕の言葉に頷き、この場を後にした。
「いいんですか?彼女」
「そんな事より、「人前に出るのは怖い」と言っていたのに大丈夫なのか?」
流河が座るベンチまで歩み寄り、声をかける。ベンチの後ろの木が影を作っていて、日差しを遮断しているようだった。
「夜神くんがキラでなければ大丈夫だと気が付きました…外で私がLだと知っている人は夜神くんだけですから」
「!」
「なので私が近日殺されたら──「夜神月がキラ」だと夜神さんをはじめとする本部の者と他のLに言っておきました」
……こいつまたこういうタイミングで「他のL」などと…
「あれ?言いましたよね?Lと名乗るのは私だけではないと。「L」というのは、数人の捜査団という事にします」
「します」…ふざけているのか?
「夜神くんも私の休学を寂しいと言ってくれましたし、少しは気分転換に来ることに…死ななきゃ大学は楽しいところです。」
「……ああ、流河がいないと話のレベルが会うものがいなくてつまらないよ」
「それで才女の高田さんですか?」
「まあ、そんなところだ」
「Lは数人の捜査団」これはいくらなんでもはったりだ。しかし本当に今日こいつを殺して大丈夫なのか?
パソコンの向こうのL…Lがこいつだけではないのは嘘ではなさそうだ。
それに父…
「学食でケーキ食べませんか?」
やはり今の時点でこいつを殺すのは早まったことににるのか…
流河の誘いに乗り、立ち上がった流河と共に歩いて学食へ向かう。
その間も巡らせる思考は止めない。
…いや、こいつ…殺そうと考えてたところにノコノコ出て来て僕の決心を鈍らせている。
僕がキラなら殺されると考え、それに釘を刺しておくために?
これじゃこいつの思う壺じゃないか…
「ライトーっいたーっ」
そこまで考えていた所で、背後から大きな声で名前を呼ばれる。
盛大に眉間皺を寄せ、大きなため息を吐きたくなるのをこらえ、平静を装う。
ゆっくりと振り返ると、予想通りの姿がそこにあった。
「この近くのスタジオで撮影あるから来ちゃった!二時からだからちょっとの間だけどね…。大学って誰でも入れるんだね」
ミサ…馬鹿…!
何度同じことを繰り返せば気が済むんだ、この女は!
振り返らずとも、流河があの黒い目で、いつものようにじっとミサを観察しているのが手に取るようにわかる。
「ライトのお友達?個性的で素敵ね。私ライトの彼女…じゃ、なくて。彼女候補の弥海砂!よろしくね」
「流河旱樹です」
ミサと流河が歩み寄るのを、生きた心地がしないまま見守っていた。
しかしすぐに、焦燥でいっぱいだった僕の考えは変わる。
──勝った!ミサには流河の本名が見えている!
「えっ?りゅうがひでき?」
「!!…ああ、そう、こいつあのアイドルと同姓同名なんだ。面白いだろ」
僕はミサの両肩を掴んて、僕が流河との間に隔たる壁になるようにしながら笑いかける。
ミサは明らかに、目で見える名前と、口で名乗られた偽名との相違に困惑していた。
流河…今回は出てきた事が裏目に出たな!
ちらりと、表情には出さず、内心では勝ち誇ったように流河をみる。
すると…流河は、含みのある笑みを称えていた。
ま…まさかこいつ、感付いたのか?「流河旱樹」に対する反応だけで?
いやアイドルの名前…皆反応する。それに第二のキラの可能性を考えたら、
奴の立場で笑っていられるはずが…
「夜神くん…羨ましいです。「エイティーン」3月号からのミサさんファンです」
「えつ本当嬉しいー!」
な、なんだこいつ。なんで知ってるるんだ?
モデルと言ってものでティーン雑誌に少し出るくらいなのに。…マジなのか?
「あっあの子ミサミサじゃない?」
「えっミサミサって?」
「あっほんとミサミサだ」
「かわいい」
「だからミサミサって誰?芸能人?」
そうこうしているうちに、通りがかりの男女がミサを指さし、どんどん集まってくる。
「モデルだよモデル」
「へえー東大にモデルなんていんの?」
「へー本物ってちっちゃくてよりかわいいー」
「わっやっぱり若い人多い場所だと結構知ってる人いるんだ」
「まずいな…」
ミサのことを知らない人間も、ミサのファンだという複数人の声につられてどんどん野次馬のうに集まってくる。
今のミサに対した知名度はない。しかしミサの整った容姿と、モデルという肩書きのおかげで、好奇心をくすぐられた者がこのままでは際限なく集まってくるだろう。
あっという間にぐるりと輪を作るようにして、僕達は取り囲まれてしまった。
「やだ!誰かお尻触った!」
「なんて不謹慎な。どさくさにまぎれて許せないですね。犯人は私が見つけます」
「あはは面白いっ」
ミサが声をあげると、流河が芝居がかった動作をしながら言った。
そのときだった。人混みをかき分けるようにして、眼鏡をかけたスーツ姿の女性がやってきて、ミサの腕を掴んだ。
「ミサ、もうスタジオ入りしないと!また遅刻する気?」
「あっヨッシーごめん」
「おっジャーマネ?」
「カッコイイ」
ミサからじっくり話を聞きたいところだったけれど、そうもいっていられる状況じゃない。
まあミサがここから出ていけば、後は電話一本で名前を聞きだせる。
もういつでも流河を殺せるのと同じだ、やった…
「じゃあねーライト、私の仕事終わってからね!」
「えっライトって…夜神と…」
「"清楚"は?」
「…」
野次馬たちがボソボソ話しながら、散り散りになっていく。
それと共に、流河も僕に背を向けた。
「では私もたまには講義に出る事にします。三限目の心理学一緒でしたよね」
「ああ、僕も行くよ。トイレに寄ってからね」
そんなさり気ないやり取りをしてから、流河と反対側の道を行った。
ミサはマネージャーと二人だろう。電話で流河の名前を言うだけなら何の問題もない。
じゃあな流河…いろいろ楽しかったよ。お前の名前を知って自分で殺せてよかった…
ポケットからミサから預かった携帯を取り出し、ミサの携帯に電話をかける。
一月始め、部屋に監視カメラを付けられる直前、書き溜めた犯罪者は23日後まで効果があった。
つまり今から23日間は操り殺す事が可能。おまえの死に方は「2004年6月19日、犯罪者を捕まえる事なく事故死」これなら今すぐ死ぬわけでもなくて、22日かけて隠蔽工作もでき、僕が捕まることはない。あとはミサからおまえの名前を聞いて、サイフに仕込んであるデスノートにそう書くだけだ…
僕は電話帳からミサの名前を探し出し、コールする。
──その瞬間。少し離れた所にいる流河のポケットから、着信音が鳴り響いた。
…──まさか。
「はい…もしもし?」
「流河…何が「もしもし」だ」
「あっこの携帯、さっきの騒ぎの時、誰かが落としたみたいです」
ポケットから取り出したミサの携帯に耳を当て、流河が飄々と言う。
どさくさに紛れて彼女のバックから…なんて奴だ…
しかしそこまでしているなら、既にミサを第二のキラだと疑っているという事に…
だとすればあのミサが最近急接近した僕への疑いも…
「もしもし?」
「ああ、それはミサの携帯だから、僕が返しておくよ」
「そうですか、わかりました」
流河…してやったりと思っているんだろうが、ミサはもう一つ携帯を持っている。
そっちにかければおまえは終わりだ。
流河からミサの携帯を受け取ると、すぐにまた着信音が鳴り響く。
「あっ今度は私の携帯です。…はい…はい…そうですか。やりましたね、わかりました」
やりました?…会話の内容は漏れてこないものの、ここにいる流河が話す言葉は引っ掛かるものだった。
流河は電話を切ると、くるりと僕の方を振り返り、こう告げた。
「夜神君には嬉しかったり悲しかったりだと思いますが…」
「…」
「弥海砂とを、第二のキラ容疑で確保しました」
「なっ…!?」
不穏な流れになっているのは察知していた。
しかしまさか、こうも不利で──理解しがたい展開を迎えるとは、予想もしなかった。
「弥の部屋から第二のキラが送った時封をしていたガムテープに付着していた猫の毛や化粧品の粉、洋服の繊維等、多数の証拠が出ました。
第二のキラ容疑で逮捕となると、世間の混乱が予想されますので、発表しませんが、
今確保しました。一緒にいたマネージャーの麻薬所持容疑への任意同行としてますが、それも表に出る事はないでしょう」
ミサを確保…一体いつからミサの事を…こんなに早く捕まるとは…
これでもう電話で名前を聞き出すこともできない…
結局流河は顔を知られぬよう隠れることよりも、僕と一緒にいる事で身を守り、核心に迫った…
いや、今考えるべきはそれだけじゃない。
流河はこういった。「弥海砂とを確保した」と。
「大丈夫ですか?夜神くん。恋人や親しい女性が第二のキラ容疑の疑いで事情聴取…気持ちはわかります…」
「……どういう事だ、流河。ミサの部屋から洋服の繊維や化粧品の粉から証拠が出たと言ったが…そこにが関与していたと核心できる証拠があったと?」
「はい、そうです。の髪や、洋服の繊維がでました」
「…の交友関係は狭い。それにミサは上京して間もないし、とミサに接点があったとは考え難い」
「そうは言っても、実際に物的証拠が出てるんですよ。…夜神くんは妙にさんを庇いますね。そして妙に、弥海砂に関しては何も触れない。あんなに親しくしているというのに」
流河はとぼけた様子で、僕の顔を覗き込む。
…確かに、ミサに関しては、僕が甘かった。あのビデオ等から足がつかないように僕が徹底的に隠滅しておくべきだった…
結局今ミサに電話した事も裏目に…いやミサが第二のキラとして捕まったという事は流河の中で僕への疑いも最早疑いではなくなってるはず…
そしてミサが口を割れば全て終わってしまう…ミサを殺すしか…
──じゃあ、はどうだ?
ミサは実際第二のキラであり、僕がキラであるという事も知っている。
けれどは何もしらない…僕がキラであるという事も。デスノートの存在さえも。
けれどビデオテープを送った時の封筒に、ミサだけでなく、の髪や衣類の繊維が付着していたのだという。
それはが共犯者であるという事を意味してる。
…ミサとが繋がっていた?どれだけ考えても、二人が繋がるはずがないという結論しかでない。
ましてや共謀してビデオテープを送っただなんて…
ミサが僕の最愛の人に嫉妬をして、嫌がらせてのためにわざとの髪を付着させたのかとも思った。。
けれどそんなことをすれば、ミサが崇拝する僕の怒りを買うことくらい、いくらミサだって理解できているはずだ。
それにビデオテープの封筒のに色々付着していたというが、「いつ」「どこから」送られた封筒に付着していたものだ?
ミサが悪意をもって工作したのだとしたら、僕が指示して送らせた、最後のテープでしかありえない。
それ以前のものからが関与した証拠が出たとしたら、おかしすぎる。
僕とミサは、面識すらなかった。ミサは僕と会うために、さくらTVにビデオテを送り続けたのだから。
ミサの仕業でないとすれば、がミサの部屋に忍び込み、わざとか…あるいはうっかりと、封筒に痕跡を残してしまったことになる。
──ありえない。どんな角度から考えてみても、が関与したなど、ありえない…
じゃあ、の"痕跡"は、いつ、どこから、どうして残されてしまった…?
──そしてその答えは、思わぬ瞬間、思わぬ形で知らされる事となる。
ミサとが監禁されてから3日後、レムが僕の自室へとやってきた。
そしてレムが、僕の疑問への答えを語ったのだった。