第27話
2.神の恋─過去を振り返らないひと
デスーノートに犯罪者の名前を書くためのプライベートな時間を確保するために、
との勉強会の回数を減らす必要があった。
FBI捜査官12人を殺したあと、彼らが捜査していた対象──特に、レイ=ペンバーが捜査していたものたちが怪しいと踏んで、
夜神家の家中に監視カメラが設置された。
それへの対策を考えるよりも、と自由に会うことができない。そっちの方が辛かった。
***
部屋に人をいれないようにしているのは、いかがわしい雑誌を見ているから。
監視カメラにそうアピールするために、本屋でグラビア雑誌を買って帰った。
そして自室に戻り、ベッドにうつ伏せに寝転がりながら、堂々と開いて読んでみせた。
高校生の男子らしい姿に見えていることだろう。
その間、部屋の中でりんごを食べる死角を捜す、という名目でリュークに監視カメラの位置を捜させながら、僕は独り言を呟いてみせた。
「はーっまた表紙に騙された…」
そして世界の建築家、という表紙のケースの中に、グラビア雑誌を隠していると。トントンとノックの音が聞えた。どうせ粧裕か母がご飯だと呼びに来たのだろうと高を括っていると。
「月くん、今いいかな?」
の声がして、思わず雑誌とケースを床に滑り落としてしまった。
「…ちょっと、待ってね」
慌てていやらしい雑誌を収めて、本棚の定位置にしまう。今のは、演技でもなんでもない。
意図せず、至極自然な男子高校生らしい姿を監視カメラに見せつけることが出来てしまった。
「ククッライト、お前がそんな動揺するのはめずらしいな」
背後で笑う死神に、心の中で「うるさい、黙れ」と呟き、部屋の鍵を開け、ドアを開け放つ。
そのドアの向こうには、どこか申し訳なさそうに眉を下げた名前が立っていた。
「あのね…ご飯ができたんだって。だから呼んできてって頼まれて…」
「そんなに粧裕にでも任せればいいのに…受験生を顎で使うなんてね」
「ふふ、そんなの気にしないでいいよ。それより早く、ご飯が冷めないうちに行こうよ」
僕が自然な笑顔を浮かべて明るく言うと、ホッとしたようで、もいつも通りの笑顔で階をくだって行った。
シンプルでシックなワンピースのスカートを翻しながら、とんとんと可愛らしい軽い足音を立てて、リビングへと向かっていった。
その姿が子供っぽくて、やっぱりかわいい。
席につくと、食卓には受験生向きの、ゲン担ぎにはぴったりなおかずがずらりと並んでいた。
「たくさん食べてね」
「母さん…ありがたいけど、少し作りすぎじゃない?男は僕しかいないんだから。食べきれないかもよ」
「あら、そうかしら。ちゃんもいつもより沢山食べないと、と思って…勉強頑張らなきゃいけないんだから、体力つけないと」
「限度ってものがあるよ。それに元々は胃袋が大きくないんだから」
僕は母さんと雑談をしつつ「いただきます」とみんなで手を合わせて、食事を始めた。
すると、粧裕がリモコンを使って、チャンネルを変える。
映ったのは、粧裕が毎週かかさず見ている歌番組だった。
「また歌番組か…たまにはニュースくらい見ろよ粧裕」
「旱樹最高じゃん!お兄ちゃんも好きなアイドルくらい作りなさい!それともお兄ちゃんにとってのアイドルはさんっていうのろけかなんかー?」
僕にとってのアイドルは、。あながち間違いではないかもしれない。
僕は初めてに恋をしたあの時から、他の女の子を可愛いと思った事がない。
そう考えると、もう高校生だというのに、あまりに純真な少年のようで、少し気恥ずかしかった。
それに加えて──家族ですら殺せる覚悟があるというのに、だけは殺せない…
それは、のことを、神格化している節があるからかもしれないとも思った。
そんな事を考えていると、歌番組が流れている画面の上部に、「NKKニュース速報」というテロップが流れたのが見えた。
「あっニュース速報」
粧裕が食べながら言うと、雑談していた母とも、テロップを目で追い始めた。
続けて、「キラ事件に対しICPOは先進各国から総勢1500人の捜査員を日本に派遣する事を決定」という文字が流れ出す。
「1500人だって…すごっ」
粧裕は感心したように言うけれど、僕は咄嗟には「馬鹿だなICPOも」と言ってしまった。
すると粧裕とが声をあげる。
「えっ?」
「…どういう意味なの?」
が隣の僕を上目で見つめていて、その仕草が可愛いなと思うと、自然と口元が綻んだ。
「こんな発表をしたら、意味がないんだよ。送り込むならこっそり捜査した方がいいんだ…極秘で捜査していFBIでさえあんな目にあったのに…これじゃ二の舞になってしまうからね」
「あっそっか!そーだよね、さすがお兄ちゃん」
は真剣に僕の話を聞いてくれているようだった。
澄んだ瞳が、じっと僕を見つめてる。
"FBI捜査官があんな目にあった"と聞いても、無反応だった。これは世間には知られてないことだ。
ではなぜ粧裕や母が知っているかというと、父が家族会議を開き、キラの捜査を指揮する立場にあり、罪のないFBI捜査官が死んだ、という事実を家族に語ったからだ。
"FBI捜査官があんな目に"と聞けば、=キラに殺された
と繋げて考えるのが自然だろう。きっともそうしたはず。
だというのに、「もしかして、あのバスに乗り合わせた彼が…?」と疑念を抱いた様子もない。
ただ淡々と、今言葉にされた事実だけを聞いて、かみ砕こうとしているようだった。
──過去の事を、振り返ろうとせずに。
それは僕の都合のいいように考えすぎだろうか。まだこの話題に関しては、のことが読み切れない。
「だからね…これは大げさに報道して、キラを動揺させようとしている警察の作戦なんだと思うよ。…でもこれじゃ、キラにはバレてしまうと思うけどね…。…どうかな?納得いったかな」
「うん…月くんの説明は、いつも分かりやすい。…それに優しいし…学校の先生になったらあっと言う間に人気の先生になっちゃいそう」
「………僕にはもう、刑事になるっていう夢があるからね」
「あっお兄ちゃんまた照れてる〜!ほーんと、さんからの褒めには弱いよねー」
の言葉は、いつだって真っすぐすぎる。
だから、クラスの皆にいつもそうしているみたいに、当たり障りなく流すことができない。
僕らしくない、と思いつつも、どうしてものことを見ていられなくて、つい視線を逸らしてしまう。
そんな僕をみて、粧裕はケラケラと笑い、母は微笑ましそうにしている。
と過ごせたことは嬉しいけど、いつまでも浸ってはいられない。
僕には僕の計画がある。
早々にご飯を食べ終わると、食器を流しにおいて、戸棚からコンソメ味のポテチを一袋取り出した。
「ぎゃっお兄ちゃんご飯の後にポテチ?せっかくスタイルいいのに太るよ〜」
「受験勉強の夜食だよ」
そう言い僕はリビングのドアを閉めた。階段を上がろうとすると、リビングのドアの向こうからは、三人の楽し気な話し声が廊下にまで聞こえて来ていた。
「さんもやっぱり夜食とか食べるの?」
「ううん、食べれないの」
「…お腹いっぱいってこと?」
「集中しすぎちゃって、食べる暇がないって感じ…」
「ってことは、ポテチ食べながら勉強するお兄ちゃんって、注意力散漫なんじゃーん!」
「逆かもね。余裕があるってことなんじゃないかな?」
「もー、粧裕ったらお兄ちゃんをあんまりからかわないの」
は僕のことを慕ってくれている。それがどんな種類のものかはさておいて…
僕のことを心底"すき"でいる。だから、何かにつけて、こうして心から僕を褒める。
決しておべっかではない。
──待っててね、。
僕はうつくしい世界を作り上げてみせるから。だからその時はきっと、僕と──
2.神の恋─過去を振り返らないひと
デスーノートに犯罪者の名前を書くためのプライベートな時間を確保するために、
との勉強会の回数を減らす必要があった。
FBI捜査官12人を殺したあと、彼らが捜査していた対象──特に、レイ=ペンバーが捜査していたものたちが怪しいと踏んで、
夜神家の家中に監視カメラが設置された。
それへの対策を考えるよりも、と自由に会うことができない。そっちの方が辛かった。
***
部屋に人をいれないようにしているのは、いかがわしい雑誌を見ているから。
監視カメラにそうアピールするために、本屋でグラビア雑誌を買って帰った。
そして自室に戻り、ベッドにうつ伏せに寝転がりながら、堂々と開いて読んでみせた。
高校生の男子らしい姿に見えていることだろう。
その間、部屋の中でりんごを食べる死角を捜す、という名目でリュークに監視カメラの位置を捜させながら、僕は独り言を呟いてみせた。
「はーっまた表紙に騙された…」
そして世界の建築家、という表紙のケースの中に、グラビア雑誌を隠していると。トントンとノックの音が聞えた。どうせ粧裕か母がご飯だと呼びに来たのだろうと高を括っていると。
「月くん、今いいかな?」
の声がして、思わず雑誌とケースを床に滑り落としてしまった。
「…ちょっと、待ってね」
慌てていやらしい雑誌を収めて、本棚の定位置にしまう。今のは、演技でもなんでもない。
意図せず、至極自然な男子高校生らしい姿を監視カメラに見せつけることが出来てしまった。
「ククッライト、お前がそんな動揺するのはめずらしいな」
背後で笑う死神に、心の中で「うるさい、黙れ」と呟き、部屋の鍵を開け、ドアを開け放つ。
そのドアの向こうには、どこか申し訳なさそうに眉を下げた名前が立っていた。
「あのね…ご飯ができたんだって。だから呼んできてって頼まれて…」
「そんなに粧裕にでも任せればいいのに…受験生を顎で使うなんてね」
「ふふ、そんなの気にしないでいいよ。それより早く、ご飯が冷めないうちに行こうよ」
僕が自然な笑顔を浮かべて明るく言うと、ホッとしたようで、もいつも通りの笑顔で階をくだって行った。
シンプルでシックなワンピースのスカートを翻しながら、とんとんと可愛らしい軽い足音を立てて、リビングへと向かっていった。
その姿が子供っぽくて、やっぱりかわいい。
席につくと、食卓には受験生向きの、ゲン担ぎにはぴったりなおかずがずらりと並んでいた。
「たくさん食べてね」
「母さん…ありがたいけど、少し作りすぎじゃない?男は僕しかいないんだから。食べきれないかもよ」
「あら、そうかしら。ちゃんもいつもより沢山食べないと、と思って…勉強頑張らなきゃいけないんだから、体力つけないと」
「限度ってものがあるよ。それに元々は胃袋が大きくないんだから」
僕は母さんと雑談をしつつ「いただきます」とみんなで手を合わせて、食事を始めた。
すると、粧裕がリモコンを使って、チャンネルを変える。
映ったのは、粧裕が毎週かかさず見ている歌番組だった。
「また歌番組か…たまにはニュースくらい見ろよ粧裕」
「旱樹最高じゃん!お兄ちゃんも好きなアイドルくらい作りなさい!それともお兄ちゃんにとってのアイドルはさんっていうのろけかなんかー?」
僕にとってのアイドルは、。あながち間違いではないかもしれない。
僕は初めてに恋をしたあの時から、他の女の子を可愛いと思った事がない。
そう考えると、もう高校生だというのに、あまりに純真な少年のようで、少し気恥ずかしかった。
それに加えて──家族ですら殺せる覚悟があるというのに、だけは殺せない…
それは、のことを、神格化している節があるからかもしれないとも思った。
そんな事を考えていると、歌番組が流れている画面の上部に、「NKKニュース速報」というテロップが流れたのが見えた。
「あっニュース速報」
粧裕が食べながら言うと、雑談していた母とも、テロップを目で追い始めた。
続けて、「キラ事件に対しICPOは先進各国から総勢1500人の捜査員を日本に派遣する事を決定」という文字が流れ出す。
「1500人だって…すごっ」
粧裕は感心したように言うけれど、僕は咄嗟には「馬鹿だなICPOも」と言ってしまった。
すると粧裕とが声をあげる。
「えっ?」
「…どういう意味なの?」
が隣の僕を上目で見つめていて、その仕草が可愛いなと思うと、自然と口元が綻んだ。
「こんな発表をしたら、意味がないんだよ。送り込むならこっそり捜査した方がいいんだ…極秘で捜査していFBIでさえあんな目にあったのに…これじゃ二の舞になってしまうからね」
「あっそっか!そーだよね、さすがお兄ちゃん」
は真剣に僕の話を聞いてくれているようだった。
澄んだ瞳が、じっと僕を見つめてる。
"FBI捜査官があんな目にあった"と聞いても、無反応だった。これは世間には知られてないことだ。
ではなぜ粧裕や母が知っているかというと、父が家族会議を開き、キラの捜査を指揮する立場にあり、罪のないFBI捜査官が死んだ、という事実を家族に語ったからだ。
"FBI捜査官があんな目に"と聞けば、=キラに殺された
と繋げて考えるのが自然だろう。きっともそうしたはず。
だというのに、「もしかして、あのバスに乗り合わせた彼が…?」と疑念を抱いた様子もない。
ただ淡々と、今言葉にされた事実だけを聞いて、かみ砕こうとしているようだった。
──過去の事を、振り返ろうとせずに。
それは僕の都合のいいように考えすぎだろうか。まだこの話題に関しては、のことが読み切れない。
「だからね…これは大げさに報道して、キラを動揺させようとしている警察の作戦なんだと思うよ。…でもこれじゃ、キラにはバレてしまうと思うけどね…。…どうかな?納得いったかな」
「うん…月くんの説明は、いつも分かりやすい。…それに優しいし…学校の先生になったらあっと言う間に人気の先生になっちゃいそう」
「………僕にはもう、刑事になるっていう夢があるからね」
「あっお兄ちゃんまた照れてる〜!ほーんと、さんからの褒めには弱いよねー」
の言葉は、いつだって真っすぐすぎる。
だから、クラスの皆にいつもそうしているみたいに、当たり障りなく流すことができない。
僕らしくない、と思いつつも、どうしてものことを見ていられなくて、つい視線を逸らしてしまう。
そんな僕をみて、粧裕はケラケラと笑い、母は微笑ましそうにしている。
と過ごせたことは嬉しいけど、いつまでも浸ってはいられない。
僕には僕の計画がある。
早々にご飯を食べ終わると、食器を流しにおいて、戸棚からコンソメ味のポテチを一袋取り出した。
「ぎゃっお兄ちゃんご飯の後にポテチ?せっかくスタイルいいのに太るよ〜」
「受験勉強の夜食だよ」
そう言い僕はリビングのドアを閉めた。階段を上がろうとすると、リビングのドアの向こうからは、三人の楽し気な話し声が廊下にまで聞こえて来ていた。
「さんもやっぱり夜食とか食べるの?」
「ううん、食べれないの」
「…お腹いっぱいってこと?」
「集中しすぎちゃって、食べる暇がないって感じ…」
「ってことは、ポテチ食べながら勉強するお兄ちゃんって、注意力散漫なんじゃーん!」
「逆かもね。余裕があるってことなんじゃないかな?」
「もー、粧裕ったらお兄ちゃんをあんまりからかわないの」
は僕のことを慕ってくれている。それがどんな種類のものかはさておいて…
僕のことを心底"すき"でいる。だから、何かにつけて、こうして心から僕を褒める。
決しておべっかではない。
──待っててね、。
僕はうつくしい世界を作り上げてみせるから。だからその時はきっと、僕と──