第20話
2.神の恋─監視カメラ
夜神家で大晦日をすごして、夜神家に泊まり、年明けを迎えた。
家に旅行中の両親が帰るのは、今日の夜になる。一人で年越しするのも寂しいだろうと、夜神家の好意で泊めてもらう事になっていたのだ。
そして私は、勿論月くんの部屋には泊まらずに、粧裕ちゃんの部屋にお泊りをしたのだった。
粧裕ちゃんは、産まれた時から知ってる。おしめだってかえてあげたことがある。
私にとっても妹のようなもので、粧裕ちゃんも私に懐いてくれていた。
とはいえ、姉妹のような関係というよりは、女友達の関係に近いかもしれない。
なので、女子トークをしながら一緒のベッドで眠った。
──そして次の日の朝。私は自宅に帰ることになった。
本当は月くんと一緒に初詣に行こうか、なんて話もしていたのだけど…
『1月1日は物語が動く日。主人公の傍にいない方がいい。適当な言い訳を作って、今すぐうちに帰るべき』
朝、夜神家の皆と朝ごはんを食べているとき、天使様が手話を使って、そう告げてきたから。
なので、「実はお母さんに、ブランドものの福袋を買ってきてほしいって頼まれてるの」と言って、早朝のうちから夜神家を出たのだった。
1月1日にいったいどんな風に物語が動くのか、想像もつかない。
けれど"用心が必要な世界"だという事はもう分かっていたので、言葉だけでなく、実際に福袋を買いにデパートに向かって、開店前から列に並んだ。
「あーあ、福袋ほしかったわ〜でも旅行に行っちゃうんだものね」なんて、お母さんがぼやいてくれていたのが功を奏した。
まったくのでっちあげではないのだから。これなら口裏を合わせなくても、「買っておいてくれるなんて、気が利くわね!」なんて言って自然に終わるだろう。
そして、受験生として勉強に励みつつ、しばらくはいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
それが一変したのは、1月8日の学校帰りの事。
いつものように月くんと帰宅し、玄関前で別れたその時だった。
私が玄関の鍵を開け、扉を開ことすると、天使様がスッと手を伸ばして、私の行動を止めた。
『…あ!コンビニに買い出しにでも行っておこうかな。…そんな風に言いながら、携帯を取り出して、しばらくネットでコンビニのスイーツを調べ、この場で時間を潰していて』
天使様が手話で話すのは、外だと筆談という手が使えないせいもあるけれど。
私に「独り言」を言わせないせいでもあるらしい。
拙いながらも、天使様が声を発して意思疎通しようとする時は、私も声に出して返事をしていい。
けれど手話を使ってくるときは、「そこにいない何かと会話をしている」という姿を、
絶対に見られてはいけないと天使様が判断した、という事。
これは事前に天使様と打ち合わせしてあった事だった。
天使様のいった通り、ガラケーを使ってインターネットでコンビニスイーツを調べる。
スマホを使っていた時代と比べると、やはり使い勝手が悪く、それに手に入る情報が少なく、ストレスを感じる。
なので、私はあまりこの世界でネットを使うのが好きではなかった。
そして時間を潰して、五分も経たないうちに天使様が帰ってきたので、天使様の指示通り、
コンビニへと歩き出した。
そして、その道中で、衝撃の事実を知らされることとなる。
『うちの中のいたる所に、監視カメラが仕掛けてあった。今日から七日間、監視カメラと盗聴器が設置されることになる』
私はそれを聞いて、「そんなっ…!」と叫びかけて、すぐに口を噤む。
今は丁度、コンビニの出入口に立っている。そんな所で、大きな独り言を放ってしまえば、怪しまれてしまう。
何事もなかったかのようにカゴをとり、デザートコーナーにいき、いくつか手に取っていれる。そのままレジに行き、会計を済ませ、早々と外に出た。
監視カメラが設置されていた、と報告されただけならともかく。
「七日間」ときっかり言い切ったということから察するに、これも物語の展開の中の一部なのだろうと分かった。
「……いやな世界」
あまり独り言はよくないと解りつつ、ぼやき、ため息を吐かざるを得ない。
白い息が、冷たい空気の中で白くなる。
コンビニから離れ、人が密集する繁華街を抜けて、住宅街へと入ると、小さな呟きを拾うような人間はもう傍にはいなかった。
主人公である月くんが刑事を志す正義感の強い青年であること。
キラという犯罪者が世の中に台頭し、Lというもう一人の主人公がキラと対峙していること。
そこからも想像がついていたけれど、この世界は本当に"用心"が必要なのだ。
巨人が跋扈していたり、世の中の大半がゾンビに転化してしまった終末世界よりマシだと思うしかない。
けれど、とてもやり辛い。神経を使う。
悪い事をしなければ、普通警察のお世話になることはないだろう。実際、私は悪いことなんて何もしてない。
…なのに、監視カメラが付けられているのはなぜ?
私は捜査の事情に明るくないとは言っても、監視カメラや盗聴器を仕掛ける捜査なんて、明らかに普通ではないことはわかる。
…私を調べようとしているのは、もかして、警察ではないんだろうか?
いくつか買ったコンビニスイーツの1つの封を開け、スプーンを差し込む。
自室で甘い物を頬張ってみても、今自分が監視されていると思うと、味がしなかった。
監視カメラ、どこまで仕掛けられてるんだろう。まさか、トイレや風呂場まで…なんてことは…ないよね?
『自然体ですごしていればいい。監視カメラがあろうとなかろうと。今も、これからも、ずっとそうすれば、大丈夫だから』
天使様が伝えてきた内容を聞いて、納得はしても、それからカメラが外されまでの七日間、ずっと生きた心地がしなかった。
2.神の恋─監視カメラ
夜神家で大晦日をすごして、夜神家に泊まり、年明けを迎えた。
家に旅行中の両親が帰るのは、今日の夜になる。一人で年越しするのも寂しいだろうと、夜神家の好意で泊めてもらう事になっていたのだ。
そして私は、勿論月くんの部屋には泊まらずに、粧裕ちゃんの部屋にお泊りをしたのだった。
粧裕ちゃんは、産まれた時から知ってる。おしめだってかえてあげたことがある。
私にとっても妹のようなもので、粧裕ちゃんも私に懐いてくれていた。
とはいえ、姉妹のような関係というよりは、女友達の関係に近いかもしれない。
なので、女子トークをしながら一緒のベッドで眠った。
──そして次の日の朝。私は自宅に帰ることになった。
本当は月くんと一緒に初詣に行こうか、なんて話もしていたのだけど…
『1月1日は物語が動く日。主人公の傍にいない方がいい。適当な言い訳を作って、今すぐうちに帰るべき』
朝、夜神家の皆と朝ごはんを食べているとき、天使様が手話を使って、そう告げてきたから。
なので、「実はお母さんに、ブランドものの福袋を買ってきてほしいって頼まれてるの」と言って、早朝のうちから夜神家を出たのだった。
1月1日にいったいどんな風に物語が動くのか、想像もつかない。
けれど"用心が必要な世界"だという事はもう分かっていたので、言葉だけでなく、実際に福袋を買いにデパートに向かって、開店前から列に並んだ。
「あーあ、福袋ほしかったわ〜でも旅行に行っちゃうんだものね」なんて、お母さんがぼやいてくれていたのが功を奏した。
まったくのでっちあげではないのだから。これなら口裏を合わせなくても、「買っておいてくれるなんて、気が利くわね!」なんて言って自然に終わるだろう。
そして、受験生として勉強に励みつつ、しばらくはいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
それが一変したのは、1月8日の学校帰りの事。
いつものように月くんと帰宅し、玄関前で別れたその時だった。
私が玄関の鍵を開け、扉を開ことすると、天使様がスッと手を伸ばして、私の行動を止めた。
『…あ!コンビニに買い出しにでも行っておこうかな。…そんな風に言いながら、携帯を取り出して、しばらくネットでコンビニのスイーツを調べ、この場で時間を潰していて』
天使様が手話で話すのは、外だと筆談という手が使えないせいもあるけれど。
私に「独り言」を言わせないせいでもあるらしい。
拙いながらも、天使様が声を発して意思疎通しようとする時は、私も声に出して返事をしていい。
けれど手話を使ってくるときは、「そこにいない何かと会話をしている」という姿を、
絶対に見られてはいけないと天使様が判断した、という事。
これは事前に天使様と打ち合わせしてあった事だった。
天使様のいった通り、ガラケーを使ってインターネットでコンビニスイーツを調べる。
スマホを使っていた時代と比べると、やはり使い勝手が悪く、それに手に入る情報が少なく、ストレスを感じる。
なので、私はあまりこの世界でネットを使うのが好きではなかった。
そして時間を潰して、五分も経たないうちに天使様が帰ってきたので、天使様の指示通り、
コンビニへと歩き出した。
そして、その道中で、衝撃の事実を知らされることとなる。
『うちの中のいたる所に、監視カメラが仕掛けてあった。今日から七日間、監視カメラと盗聴器が設置されることになる』
私はそれを聞いて、「そんなっ…!」と叫びかけて、すぐに口を噤む。
今は丁度、コンビニの出入口に立っている。そんな所で、大きな独り言を放ってしまえば、怪しまれてしまう。
何事もなかったかのようにカゴをとり、デザートコーナーにいき、いくつか手に取っていれる。そのままレジに行き、会計を済ませ、早々と外に出た。
監視カメラが設置されていた、と報告されただけならともかく。
「七日間」ときっかり言い切ったということから察するに、これも物語の展開の中の一部なのだろうと分かった。
「……いやな世界」
あまり独り言はよくないと解りつつ、ぼやき、ため息を吐かざるを得ない。
白い息が、冷たい空気の中で白くなる。
コンビニから離れ、人が密集する繁華街を抜けて、住宅街へと入ると、小さな呟きを拾うような人間はもう傍にはいなかった。
主人公である月くんが刑事を志す正義感の強い青年であること。
キラという犯罪者が世の中に台頭し、Lというもう一人の主人公がキラと対峙していること。
そこからも想像がついていたけれど、この世界は本当に"用心"が必要なのだ。
巨人が跋扈していたり、世の中の大半がゾンビに転化してしまった終末世界よりマシだと思うしかない。
けれど、とてもやり辛い。神経を使う。
悪い事をしなければ、普通警察のお世話になることはないだろう。実際、私は悪いことなんて何もしてない。
…なのに、監視カメラが付けられているのはなぜ?
私は捜査の事情に明るくないとは言っても、監視カメラや盗聴器を仕掛ける捜査なんて、明らかに普通ではないことはわかる。
…私を調べようとしているのは、もかして、警察ではないんだろうか?
いくつか買ったコンビニスイーツの1つの封を開け、スプーンを差し込む。
自室で甘い物を頬張ってみても、今自分が監視されていると思うと、味がしなかった。
監視カメラ、どこまで仕掛けられてるんだろう。まさか、トイレや風呂場まで…なんてことは…ないよね?
『自然体ですごしていればいい。監視カメラがあろうとなかろうと。今も、これからも、ずっとそうすれば、大丈夫だから』
天使様が伝えてきた内容を聞いて、納得はしても、それからカメラが外されまでの七日間、ずっと生きた心地がしなかった。