第一話
1.救済への一歩恩返し


──私は輪廻転生を繰り返している転生者である。
皆が一度きりの人生にある苦楽を楽しんでいる中で、何故私だけがこんな目にあっているのか。
それを理不尽に感じた事は多々あったが、今ではもう繰り返しす事が当たり前になり、
そこに関してはもう何も思わない。

と、なると問題なのは──新しい場所に生まれ変わった私がどんな環境にいて、どんな人達の元で生きる事になるのかだ。
そこで、私の"今世"が決まる。殺し屋の元に生まれたら裏稼業を営まざるを得ないし、
貴族に生まれたら当然貴族令嬢として生きねばならない。
外れクジ、当たりクジが存在する人生だ。

「…………あ゛?」

さてはて今度はどんな人生が待っているのかな…と前向きに目を開く。
前世では紆余曲折あったものの、天寿を全うして"死んだ"自覚があった。
最近は結構当たりクジが多かったので、この流れでいくと今世は石油王の娘に産まれるかもしれんな…と結構マジで考えてた。
──忘れていた。人生とは辛く悲しく儚いもので、命は基本脅かされ打ちのされそれでも生きねばならぬ…理不尽なものであるという事を。

──私は道端に倒れていた。その手は小さい紅葉のようなもので、2歳程度のものだろうか。
そんな私が往来で倒れていても、人々は知らんふり。
忙しいアピールでせかせか通り過ぎていく大人達のその足、蹴り砕いてやろうかと思いつつ、見送る他ない。
というのも……

「………まじ、か……」


今世の私は瀕死状態だった。零れた声も掠れていて、今にも死にそう。
肉がついてないせいで、骨が地面にゴリゴリにあたって痛い。
何度も死んでる私が言うんだから間違いない、これまじで息絶える5秒前って感じ。
は?本気でキレそう。
生まれ変わったら貴族令嬢で婚約破棄の末に私がハーレム〜〜〜!?☆とか言ってみたかった人生だった。

つーか治安悪目の小汚い路地裏って訳でもないのに、誰一人警察に通報するでもなく、気づかないふりで通り過ぎるって何?こいつらの人間性終わってない?
私のように身よりなく見捨てられ息絶えてみろこの外道共!!
相手の気持ちになって考えてみましょうって幼稚園で習わなかったんですか〜〜〜!???!
こうも荒れるのも久々だ。だって上げて下げるってまじないと思う。
今世に期待していた分、落胆が大きかったのだ。
あーん白馬の王子様募集中!出会い厨。


「おやおや…」


そこに、救いの神がやってきた!あーん親切設計。
さすがにここで幼児を殺すほど輪廻転生、腐ってねえよな。
息も絶え絶えになりたがら目を開くと、そこに立っていたのは──神でなく老紳士。

「クフフ。僕と契約しませんか?」と言われる準備満タンだったので、ちょい落胆。
しかしその老紳士の身なりはきちんとしていて、靴まで完璧に高級だ。
このままいけば不憫に思われた私はこの老紳士の養女になり人生一発逆転ルート!これで決まったッ!

──と思っていたのに。
やっぱ今世は上手い事私の都合よくは事を運んでくれないようだ。人生イージーモードっつーかバグモード入ってて吐きそう。
今世の私の年齢がいくつかはわからん。
推定年齢2〜4。栄養失調状態が酷く平均より発育が芳しくないらしいと診断された。
そんな私の愛くるしい手には拳銃が一丁…。

「…素晴らしい腕前ですね。あなたには才がある」
「ンッ…えへへ……」

褒められたら伸びるのが人間ってやつでしょ!!!!!!!!
老紳士…もとい"ワタリ"はことある事に褒めた。路頭に迷っていた私を拾い、家に上げ、医師に見せ、至れり尽くせりの世話をしてくれた。
回復するうち、彼は年の割に賢い事に気が付いた。
そのうちアレも、コレもできると知り。それならコレも出来るのでは?
と、ありとあらゆる事をやらされ、その全てで100点満点以上の結果を叩き出す。
そんな私を彼はめちゃくちゃに歓迎した。

てか、めちゃ褒めてくれるから嬉しくて調子乗った。老紳士に褒められるのって気持ちいいと思いませんか?私は気持ちいいです。

──まあ輪廻転生繰り返してる私に特殊スキルが満載なのは当然のことなので…
この結果に甘んじず、日々精進していこうかと思います…
とアスリート気取りで脳内インタビューで質疑応答していたところ。


「この様子だと、ワイミーズハウスに入ってもらう必要もありませんね」


──調子に乗りにノリノリすぎた事を悟った。
はあキレそう。浅はかな自分に……。


「あなたにはLの右腕になってもらたいたいです。…遠い将来の話ですが」
「なに?ワイミーさんしぬの?左腕じゃ駄目なの?」
「ふふ。いつ何があるかはわかりませんし…年を考えると、いずれ私の方が先にあの子を置いて逝くのは確かですから」

老紳士・ワタリは即効で養女にした幼児に対し、物凄く重い役目をかせようとしていた。
L…Lねえ…輪廻転生繰り返して物語の細部は擦り切れていくものだけど。
さすがにデスノートレベルの名作になると割と覚えてるもんだな。
あれでしょ?めちゃ人気あったのに死ぬ男でしょ?はー。そんな男の右腕になんてなったら私も共倒れ決定じゃん。キラちゃま怖すぎて震えちゃう〜!!
上手い話には裏があるってこういうことよな。
つーか本人たちはそんな事知らないだろうけど、どうしよっかな。

「……まー、左腕でもいいなら頑張ろっかな〜。どうしよっかな〜」
「左腕でも右足でもいいので、頑張ってください。期待してますよ」
「ンーーーーッもっと言って!!!気持ちいいーッ!!!」


しかし自宅の地下に非公式の射撃場作るような老紳士怖すぎるて。
そんで5歳にも満たない幼児にぶっ放させる大人の倫理観やばいって。
「100発100中ですね」って喜んでんじゃないよ。嬉しくなっちゃうじゃん。
まあ左指だろうが右足首だろうが、手足の一部になるって決めるっていうことは、あれだよね…。


「──L。この子はこの間話した例の子です…自己紹介をしてあげてください」
「…はい。私はLです」
「はあ…それ本名です?」
「偽名に聞えますか?」
「だって本名でLってズルくないですか?それ八百長っていうんじゃないですか?不正はよくないですよ!」
「……ワタリ。この子供の頭はどうなってるんですか?」
「……お利口な子ですよ。基本的には」

──この二人の死亡フラグ粉砕、救済のために生きるってことじゃん。
予想通り、私はあのLを紹介された。原作に出てた姿よりも百倍は幼い。でも今の私よりは遥に年上のお兄ちゃんに見える。
でも原作と同じくらいふてぶてしい。

私の事だけをみて、考えて、愛して…。ついでに金も溶かしてくれる白馬の王子はどこなのかしら。乙女のため息がもれちゃう。
でもこの老紳士に命救われたのは確かなので、いっちょご恩返ししますかね!

「Lさんッ!ドーモよろしゃーっす!ウィスウィスウス!オッス!」
「ワタリ。言葉が通じない人間と共にやってく事は不可能だと思います。元いた所に返してきてください」
「L…………」

やっぱやめよーーーーかなーーーーー。


2025.10.21