第98話
5.彼等の記録死神

「ワタリ、警察庁長官に繋いでください」
『ハイ』

言うと、ワタリは即座に長官へと電話を繋げてくれる。長官も電話に出る事を渋るような事をせず、ワンコールで出てくれたのも幸いだった。


「Lです。キラをある個人に断定しました。現代国道一号線、日比谷から渋谷方面へ向かってる赤のポルシェ911ナンバー…
申し訳ないことに、白バイ警官一人が犠牲になったと思われます。確保はこちらでしますので、そのポルシェに近づかぬ様、全警察官に通達願います」
「父さん、火口がヨシダプロを出た。次のCMから第7対応だ」

私が長官に連絡を取る傍ら、夜神月は夜神さんに連絡を入れ、予め計画してあった段取りを取るよう指示していた。

『わかった。…出目川、次のCMでやる松井と司会者をマネキンに替え、音声は用意してある仮説スタジオから飛ばし、CM明けにはいかにも放送は続いてるように見せかける。そしてマネキン二体と回しっぱなしのカメラを残して、全員撤収だ』
『ああ、任せてくれ。完璧に準備はできている』


夜神さんと出目川ディレクターが快諾した声を聞いた所で、私は椅子から立ち上がり、夜神月へと声をかける。


「では夜神くん。私達も行きますか」
「ああ」
「ミサさん、名前さんはすみませんが、しばらく動けない様にしていてもらいます」
「ええーっ何これーっふざけないで…!」


私達が火口確保のために出かける間、使っていた椅子に、弥海砂と苗字名前を拘束し軟禁する。これも想定通りの段取りであった。
しかし彼女達に事前に教えてはいなかったので、弥海砂からは批難の声が上がる。
兎に角、時間がない。私が手際よく弥海砂を拘束する傍ら、それを見ていたは自発的に椅子に座った。
どうぞ拘束してくださいと言いたげな、随分物分かりのいいポーズだ。
夜神月は床に膝をつき…手を延ばそうとしたものの…止めてしまった。良心が痛み、拘束する事が出来ないようだった。
その間にも弥海砂が抵抗を続けるので、せめてそのくらいはと思ったのか、夜神月は弥海砂に一言注意する。

「ミサ、言う事を聞くんだ」
「!…はい…」


たったそれだけ。ただの一言で言う事を聞く弥海砂を見て、夜神月は複雑そうな顔をしていた。
視線を目の前の苗字名前へと戻すと、夜神月は彼女の頬に手を添えて、悲痛な表情を浮かべながら語り掛ける。

「ごめん…僕達が出ていけば、2人を監視する人間がいなくなってしまう…だから、のことも拘束しないといけない」
「そんな、申し訳なさそうな顔しなくていいのに」
「でも、今でも食欲が戻らないままじゃないか。…拘束されたこと、監視が必要な状況と判断されてること。それがを苦しめてるとわかってるのに…」


夜神月は酷く耐え難い様子で、許しを乞うようにしている。が、そんな事をせずとも、彼女は最初から抵抗する事なく拘束される事を受け入れていたし、夜神月が謝罪した所で意味を成さない。
本気で気にしていない様子の彼女は現に困り顔で、むしろ一向に拘束されない事に焦っているようだ。
一分一秒を惜しむような状況だという事を、彼女は正しく理解していた。

「月くん、さんのことを思うなら、心を鬼にして手錠をかけてください」
「……せめてベッドに運んであげてから…」
「そんな時間はありません。そこの椅子に拘束するしかありませんよ」


もうこれ以上は粘れないと腹をくくったのだろう。夜神月はの手足にそれぞれ錠をかけた。
弥海砂は手錠と足枷に加え、全身に鎖を巻き付け厳重に拘束したが、それは彼女に脱走の前科があるからだ。
彼女の脱走のおかげで火口がキラだと断言できたものの、監視の目を盗みに逃げたという事には変わりない。
はいわば模範囚で、手錠足枷の二つで十分と言えた。


「気を付けてねライト、竜崎さんも…」
「えと…二人共、無茶しないでね」
「ミサ。……ありがとう」
「もし私達が帰ってこなかったら、24時間後に助けが来るようになってしますから」

弥海砂とが見送りの言葉をかけてくれた後、万が一の場合の説明を伝えると、「えっ…」という声が聞えた。
24時間後に助けがくるという安心よりも、24時間もこのままである可能性を考えた時の絶望の方が勝ったのだろう。
50日以上もずっと拘束されたアイマスクすらされままの状態で座りっぱなしで過ごしたというのに、たった24時間を恐れるというのも妙な話だ。

***


「ヘリの操縦まで出来るとは思わなかったよ、竜崎」
「免許などなくても、勘でどこをどうすればどうなるかはわかります。夜神くんでもできますよ」


屋上に格納されていたヘリに搭乗し、ヘッドセットをつけ、操縦する。
操縦するのは久々だが、特に支障はなかった。
腕がなまるという言葉を聞くが、操縦席に座りパッと見れば、どう動くのか理解できるのだから、間があいた所でどうという事もない。

「竜崎、火口さくらTVには向かってないな。方向が違う」
「このルートだとたぶんヨツバ本社ですね」

ヘリに搭載された液晶には、本部で確認していたものと同様のマップが表示されていた。
火口の動きが監視できるようになっている。

「ウエディ。ヨツバ本社の松田さんに関する全ての物の処理、できてますね」
『はい。あいつ本社に向かったの?都合いいわね。先回りしてMr.夜神と局で待ち伏せる余裕が出来るわ』

ウエディに連絡を飛ばす傍らでは、さくらTVの音声も同時に流れている。
さすがに本部ほどの数多ものモニターをヘリに設置し、くまなく各所を監視することは出来ないが、音声だけなら全てを拾える。

『いよいよ発表の時間が迫ってきましたが、どうですか?』
『はい。もう心の準備は出来ています。いつでも…』
『もう早く言ってしまいたいくらいの気持ちです』
『気持ちはわかりますが、ここでもう一度CMを…』

今頃はさくらTVのすりガラスの向こうには人間はおらず、マネキンに摩り替っているだろう。
火口はヨツバ本社に松井マネージャーに纏わる手がかりが残されていないか確認しにいったらしい。
警備室に入り、過去の監視カメラの映像を確認した後、長居せずにすぐに本社から飛び出した。
どうやら手がかりはなかったようだ。


『火口、首都高に乗りました』
「はい。そのまま距離を保って追ってください」


アイバーと共に火口の車を追走している模木さんから連絡が入る。彼らに指示を下してから、次にワタリに声をかける。

「ワタリ、一般車両が巻き添えにならぬ様、首都高の入り口の方のみを全閉鎖するように国土交通省に」
「はい」
「父さん、いよいよ火口はさくらTVに向かうようだ。15分足らずで着く。大丈夫か?」
『息子に「大丈夫か?」などと言われたくない。…大丈夫だ、ライト』

私とワタリが話している傍らでは、夜神親子が確認を取り合っていた。
いよいよ最終段階。番組も終了間近で、ヨシダプロにもヨツバ本社にも手がかりがなく、電話は不通。
行き詰まった火口が最後に取る行動はもうほとんど決まっている。

『もう発表前に言いたい事はありませんか?』
『そうですね、キラが捕まった後の事を皆さんによく考えてほしいと思います──』
『そうですね。キラが捕まったその後が大切なのかもしれません』


証言者と司会者の声が、仮説スタジオから飛ばされていると知っているのはごく僅かな人間しかいない。
さくらTVは今無人になっていて、受付の者どころか、警備員の1人も残っていない。


『竜崎!さくらTVに着きました。位置につきます』
『証言者であるあなに、応援の電話、ファックスがどんどん入ってます』

模木さんから入った連絡を聞くに、やはり火口は躊躇いなくがらんどうのさくらTVを突き進んで行ったのだろう。

番組には、"生命の危険を考え証言者、司会者共に顔をお見せできません"というテロップまで流れていたのだ。
さくらTV前で、第二のキラに宇生田さんが殺された事に衝撃を覚えたのは、彼と同じチームで働いていた私たちだけではない。
一般市民も、あのショッキングな出来事を忘れていないはず。
だから、同じ轍を踏まぬよう、さくらTVを無人にしている。
半分は真実であるが、半分は偽りだ。
火口はただの安全対策だと考えているだろうし、それも間違いではないが…火口を上手く誘導するための罠だったという方が強い。



『誠に申し訳ありませんが、都合によりこの番組はここで終了させて頂きます』

──そして、順調に進んでいた番組は、火口がスタジオに侵入した途端に突然、打ち切られる事となる。


『そこまでだ火口!』
『くっ』
『観念するのね』
『な、何勘違いしてるんだ…私は出目川さんと打ち合わせしたい事があって…私はヨツバグループの開発室の者…今名刺を──』
『局長!』

ヘッドセットから、スタジオ内で火口を先回りして待っていた夜神さん、ウエディの声が越えた。
そして火口は人畜無害なふりをして時間稼ぎをする声が聞えたかと思うと──ガアァァン!と、突如として銃声が鳴り響く。

『!まずい!』
『アイバー!』
『くそっこんな物使いたくはないが…くっ』
『竜崎すいません、火口は拳銃を所持、局長が撃たれました。火口逃走!』
『大丈夫だ、すまん竜崎、肩をかすめただけだ。すぐ追えばまだ捕まえられる…急げ!』


挟み撃ちにしようとして、火口の後を追いかけていたアイバーと模木さんの声が聞え、状況を理解する事ができた。

「まずい、さくらTVから逃げられたぞ!」
「……仕方ありません。私達も直接確保に移ります。ワタリ、用意はいいですか?」
「はい」

火口がここまで粘るとは…想定していなかった訳ではないが、出来る事なら負傷者も出さず、
さくらTV内で捕えておきたかった所だ。
ワタリはスナイパーライフルを構え、遠隔地からでも火口を狙撃できるよう準備を整えていた。
私は用意してあった拳銃を一丁取り出し、夜神月へとそれを差し出す。

「夜神くんも撃てますか?いや護身用に持っていてください。相手はキラです」
「……いや日本でそれは許されない」
「きっと夜神さんも同じことを言ったんでしょうね」
「…ああ…」


火口と対面し、銃で応戦したのはアイバーとウエディのみ。
撃たれたのだという夜神さんも当然ウエディに銃を持つよう言われたはずだが、断ったのだろう。
身を守る事を重視するよりも、法と倫理を遵守する事を選んだ。
似た者親子だ…と言いたいが、夜神さんが仮に殺しの能力を手にしたとして、キラになる事はあり得ないだう。
娘である夜神粧裕は、人を殺してしまって泣きわめく方の性格をしている…といつだか証言していたが…
夜神さんもある意味それに似たタイプで、万一キラの能力を行使してしまった場合、自分の死をもって償おうとするだろう。
無論夜神幸子も同じだ。
善人の権化のような夜神家の家族の中で、唯一夜神月に対してだけは、そうは考えられない。

上空から火口の車を追っていると、突然停車した。道路の前方ではサイレンを鳴らす大量のスモーク張りのパトカーが停車し、火口の行く手を阻もうとしている。

「何でしょう、あれは…警察には動かない様言ったんですが…」
「……こんな事をするのは…」
「はい、そうですね…」


警察庁長官には、全警察官に動かぬよう通達を願うと連絡してある。
そもそも警察はキラに屈しているし、独自の正義感で動く警察官がさくらTV前で殺されたのも、記憶に新しいだろう。
そんな中、的確で徹底したキラ対策を施し、トップからの指示にも背いてまで行動するのは──恐らく相沢さんだろう。彼はキラを追う事を諦めてキラ捜査本部から外れたのではない。
その執念は警察庁に戻っても尚、健在だったという事だ。

前方のパトカーの間を縫って逃げる事は不可能と判断した火口は、ハンドルを切って来た道を戻ろうとした。
しかしそこにも夜神さんとウエディ、模木さんとアイバーの乗った車荷台と、私達が乗ったヘリが待ち構えてる。
とはいえ、パトカーの間を行くよりは逃走完遂する可能性があると希望を見出したのだろう、火口は猛スピードで走り出したが、ヘリから身を乗り出したワタリが、



パトカーが塞ぐ前には進めないと判断した火口は、ハンドルを切って今来た道を引き返そうとした。
しかしワタリがヘリから身を乗り出して、スコープを覗き狙いを定め、狙撃銃で火口の車のタイヤを打ちぬく。
なまじスピードを出していたために、車は酷く暴走して、何度も回転しながら、やがて壁へと激突する。その間にパトカーに四方八方を囲まれ、完全に逃げ道を失った。
もう成すす術はない──誰もがそう思ったし、火口自身もそうだっただろう。


「来るなーっ誰も来るなーっ!」

その絶望感が、火口に衝動的な行動をとらせた。火口は銃を米神にあて、自身を人質にして誰も寄せ付けないようにしている。
激突した際に窓が割れたおかげで、火口の姿も声もよく視認できる。

「まずいぞ」
「馬鹿ですね」

火口はもう手詰まりなのだ。ここで自分を盾にしても何も変わらない。自棄になった馬鹿な行動としか思えない。
これで何か状況を打開したり、時間稼ぎができると思っているのか…
或いは、本気で自死を選ぼうとしているのか。
火口が引き金に指をかけたのを見逃さず、ワタリがライフルで火口の銃を打ち落とし、自害術をなくさせた。
車外へと放り出された拳銃はコンクリートの上に転がった。
今度こそ火口は完全に、完膚なきまでに選択肢を無くされ、もう項垂れる事しかできない様子だった。


「……終わったな…」
「はい…そうですね……」


あとは、火口を直に確保しに行くだけ。そして殺しの手段を吐かせるのみ。
口を噤まれれば時間はかかるかもしれないが、最早火口に退路はなく、その能力の存在が明らかになるのは時間の問題。
このまま何事もなく、計画通りに進んでいく。この時、皆がそう思っていたはずだった。


***
『竜崎、私に行かせてくれ』
「……」
『局長、私も行きます』
「わかりました、夜神さん。模木さん。相手はキラです。絶対顔を見せず、細心の注意を払って押さえてください」

夜神さんが先陣を切ろうと志願すると、模木さんもそれについて行くと申し出た。
いずれ誰かがやらねばならない事。彼等であれば上手くやってくれるだろうという信頼、そして万が一の事があれば、遠隔からワタリが対処できるという手札があるという事。
状況を鑑みて、許可を出した。

「ワタリ、火口が少しでも妙な動きをしたら、わかってますね?」
「はい。殺さぬ程度に動きを止めます」

ワタリはスコープを覗いたまま、火口に照準を合わせ、いつでも狙い撃てる姿勢を取り続けている。


『相沢、顔を隠す物の用意はあるか?』
『はい』
『援護をしてくれ』
『はい!ありがとうございます、局長!』


スモーク張りのシールドのついたヘルメットを被り、火口の車に近づく中。
パトカーに乗った相沢さんを見つけ、夜神さんたちは三人で火口確保へと向かう事にしたようだった。
先陣を切る三人を援護するようにして背後にたち、同じようにヘルメットで顔を隠した警察官達が銃を構える。
背後は壁。よじ登る事など不可能。前方には隙なく半円になるようにして銃を向ける警察官たち。

『火口。両手を上げ、車から降りなさい』

最早すっかり観念して、火口は言われた通り、車から降りてきて、両手を上げていた。

『そのまま後ろを向くんだ』

その指示にも抵抗はみせず、すぐに背後を見せる。夜神さんは即座に後ろ手に手錠をかけ、口や目元をテープでふさぎ、無力化させた。
この状態であれば、キラの能力は行使できないだろう。

『竜崎。火口確保しました』
「模木さん。手筈通り、火口にシーバーを」
『はい』

確保した後の段取りも、全て入念に打ち合わせしてある。夜神月が模木さんへと指示を出すと、ヘッドセットをつけさせて、口元のテープだけを外した。

「火口。どうやって殺人をしてきた。キラとしてどうやって人を殺してきた!?言うんだ!」
『……』
「言わなければ、言うまでどんな手を使ってでも言わせます」

長丁場になる可能性も考えて、コーヒーを水筒に入れてもってこさせていた。
カップに保温されていたコーヒーを注ぎながら、背後から取り押さえられ、膝をついている火口の姿を見守る。

『……ノートだ』
「ノート?」
『……信じられないだろうが、顔を知っている人間の名前を書くと書かれた人間が死ぬノートだ…車のバッグに入ってる…』
「…や…夜神さん…一応車の中にそんな物があるか見てもらえますか…」
『わかった』


「ふざけた事を言うな!」などと言って、誰も火口を怒鳴りつけるような事はしなかった。
キラの能力はまるで超常現象のようなもので、念じるだけで殺せるのかもしれないとすら何度も考えた。
ノートに書くという動作を行えば殺せるというのなら、念力説よりもまだ信じやすい。
とはいえ、それはそれば非科学的。そんな殺人ノートがこの世に存在するなど、考え難い。
が…。キラの殺人方法が、誰もが考えつく凡庸な仕組みで成り立っているというのなら、今の今まで野放しににはなっていないだろう。
恐らくは……あり得ないと思えるものこそが、隠されていた真実である──。
その推測は、すぐに当たっていた知らしめられる事となる。


『これか…竜崎、ノートはあったが、格別変わったノートでは…確かに人の名前は書いてあるが…』

夜神さんがポルシェの座席にあったカバンの中からノートを取り出し、アスファルトに膝をついてページをめくった。
しかし何の変哲もないノートであると語っていた夜神さんが、突然「うわぁああああ!!
」と絶叫し、地面にへたりこんでしまった。


「どうしました、夜神さん」
『ば…化け物…』

過呼吸にでもなりそうなほど荒く、肩で息をする夜神さん。相当錯乱した状態なのだろう、
懐に手を入れて、拳銃を探すような仕草を取っている。

「夜神さん、落ち着いてください。夜神さんは今、銃を所持していません」
『そ…そうだった…』
『だ…大丈夫ですか局長…』
『も…模木…見えるか…』
『……局長…疲れてるんですよ…でもこうして火口も捕まったしもう…』

依然立ち上がる事が出来ず、夜神さんが手放してしまったノートを模木さんが拾いつつ、ふと彼が顔を上げると…

「ぐわあーっ!?」

夜神さんと同じように、ノートを手に取ったすぐ次の瞬間、絶叫したのだった。
伊達に刑事をやっていない彼らが…大の大人が、あそこまで真に迫った叫びを上げる。
彼らの目には、それはそれは恐ろしいものが映ったのだろう。
しかし、私達には何も見えない。何かが起こったような気配も一切ない。


「……」
「どうしたんだ?父さん、模木さん」
『…ああ…あ……こ…これは…どうやら…ノートを触った者には…見えるらしい…ば…化け物が…』

化物…ノート…死神…か…。
死神というのは、キラと第二のキラが幾度か使った単語だ。
一般的には、人が死に至る直前、最後に出会うものが死神であると言われている。
人の命を奪うキラたちが、何かの暗喩として「死神」という単語を多用するのは何ら不自然ではなかった。
しかしそれが比喩表現でも暗号でも何でもなく、本当に実在するものなのだとしたら……。


「……そのノートをヘリに持ってきてください…」
『わ…わかった…模木、立てるか?ヘリにいる竜崎にノートを…』


夜神さんに言われ、模木さんがヘリに搭乗している私の元までノートを運んできてくれた。
材質も重さも何も不自然なところはない。指先でつまんでいたノートに落としていた視線を上げて、今度は火口のいる所に向かわせた。
そこには、自分の目を疑うような光景が広がっていた。
本当に死神がいるかもしれない、と覚悟しながら見たというのに、これは幻だろうかと目の前の光景を疑う。

「…………死神…ですね…本当に…いた…んですね……」

ノート…青山で…ノー…トを見せ合う…夜神月…弥…青山で会…った…
ノート…キラ…第二のキラ…青山…会った…一目惚れ──。


「竜崎、本当なのか!?僕にもノートを!」

…これが…キラの殺人の手段…キラ…第二のキラ…夜神月がキラだった…として…
私の目の前で使うはずはない…が…キラ…第二点
…!ノートは…二冊以上存在している…二冊…まだ終わっていない…
このノートは誰にも…使えないよう管理する…として…

ふと気が付くと、自分の手からノートが消えている事に気が付く。
夜神月が自分にもノートを寄こせと言っていた声は聞こえていたが、思考に没頭していて、手から消えた事に気が付かなかった。
ノートを手にしただろう夜神月の方を何気なく見やると…。

「うぐぁああああ!!」

ノートを手にした夜神月が、模木さん、夜神さんと同様に、絶叫していた。
夜神さんたちの様子も普通ではなかったが…彼の姿は、尋常でない…と感じるのは、
普段夜神月が基本スマートに振舞う人間で、このような咆哮を上げる様が結びつかなかったからだろうか。

「…だ…大丈夫ですか?誰だってあんな化け物には驚く──」

しかし、人間どんな性格をしていようが、あんな物を目にすれば大なり小なり驚き、
平常心ではいられなくなるだろう。極限状態におかれた人間が、普段の姿とは様変わりしてしまうのと同じ。
夜神月も人間である以上、取り乱してもおかしくはない。
ノートを抱え込むようにして項垂れてしまった彼を気遣うようにして声をかけると、ややあってから返事があった。


「……こんな物に名前を書けば人が死ぬなんて…そんなの信じられるか?」
「…えっ?し…信じ難いですし…た…試してみる訳にもいきません…よね…。……そうですよね?…夜神さん」
「当たり前だ!竜崎!」

絶叫し、沈黙した後。
夜神さんのように肩で呼吸する事もなく…彼の口から出た第一声がそれだった。
夜神月らしい…と言っていいのだろうか。取り乱しはしたものの、すぐに冷静であるよう努め、思考を巡らせようとする。
「試す」という言葉に憤りを露わにする夜神さんを横目に入れながら考える。

「……仕方ありません…今は…あの化け物…死神と火口から聞いてみるしかない…ですね?」

二冊あるとすれば…もたもたしていられない…しかし今はそれしか…
うまく聞き出せば…全てが…

「……竜崎、まずはここに書かれている人たちの名前と犠牲者の名前、照合してみるよ…」
「えっ…はい…まあ…そうですね…」

夜神月は私と同じくノートが二冊あるという可能性にも思考が至らなかったのか。
あの死神と火口からまずは聞き出そうとは思わなかったのか。
それとも、それは自分以外の誰かがやってくれるだろうから、ならば自分が出来る事を…と役割分担しようとしたのか。
自ら、地道な照合作業をかって出た。もしかしたらやはりまだ動揺していて、作業をする事で落ち着かせようとしているのかもしれない。
私ですら、自分が今全くの平常心であるという風には思っていないのだから、不思議ではない、が…。


「竜崎、まだ1ページだがやはり犠牲者と書かれてる名前は一致している…一応全てチェックしてみるか?」
「はい」


夜神月がキラだったとし、このノートが殺人ノートだったとしても、私が隣にいる今ここで書き込むなんて馬鹿な事はするはずがない。
やはりこれで事件を解決にして終わりにさせるという事か…?
……しかしノートは必ずもう一冊ある…それがある限り、事件は解決とはいえない…


「しかしあんな化け物を目の前にして夜神くんはノートの名前と犠牲者とを照らし合わせるなんて、冷静な行動が出来て凄いです」
「そうか?最初は驚いたが、何かもうこの方が納得いくよ。とにかく火口とあの化け物を隔離して取り調べだな?」
「そうですね」


死神はキラ…火口の元から離れようとしない。
言葉が通じる相手かどうかもわからない。目鼻口や髪があり、手足や胴体など、人間と同じような形状はしているものの、しかし絶対に人間ではありえない風貌だ。

「夜神さん、もう火口を夜神さんの車へ。もう一人の方も周りに気付かれない様お願いします」
『もう一人の方?……あっああ…わかった』

ノートを触った人間しか死神の姿は視認できない。となれば、死神の存在や、「死神」「ノート」という単語をあまり声を大きくして幾度も口にすべきではないだろう。
相沢さんはともかく、命がけの正義感で集まってくれた刑事たちには悪いが、
詳細を知られる訳にはいかない。
婉曲的な言い回しに一瞬何を言われたかわからなかった様子だが、一瞬遅れて意味に気が付き、もう一人…死神も車に連れて行ってくれる事になった。

「竜崎、このノート科学分析とかしたら何か出るだろうか?」
「……夜神くんらしくないですね。科学なんて超えてますよそれは」
「はは…それもそうだ」

夜神月は冗談のつもりか、本気なのか。照合作業をする片手間に、らしくない発言をした。
そんな他愛のないやり取りをしながら、死神と火口が移動する様を見守っていると。

「──うっ!?」

──火口が、突然魚のように体を跳ね上げて、うめき声を上げた。
そしてその次の瞬間、膝から崩れ落ちてしまう。


『火口!…竜崎、火口が!?』
「!?」
「な…なんだ!?どうしたんだ!?」

夜神月も私も前のめりになって、ヘリの中からその様子を見守る。
突然発作を起こしたかのような反応をし、崩れ落ちる──。
その姿をみて、「心臓麻痺」という言葉が脳裏に過らなかった人間はいないだろう。

『火口、意識不明!』
「な…何やってるんだ父さん、もしここで火口に死なれでもしたら…!」
『ま…まさか…いや…しかし…これはもう…』

死なれでもしたら…と夜神月は言うが、死んでいるだろう。
実際間近でみた訳でもないし、脈や呼吸を確かめた訳ではないが、状況からして……
しかし、だとして…どうして。どうやって…?
夜神月が私の隣でノートに名前を書くはずがない。書けるはずがない…
天から見通した"何か"が、しくじった火口を抹殺した?…ありえない…

「……どうなってる……」


結局、全ては杞憂では終わらず…無情にも、火口の死亡は確かに確認されたのだった。


***

火口と死神、そしてノートの三セットで本部に連れ帰るつもりだったが、
火口が亡なってしまったため、結局死神とノートだけを本部に連れ帰ってきた。
死神は言語が通じるようで、思いのほか友好的だった。
車に乗れといえばそのようにしてくれたし、本部に連れてきても、逃げる様子はない。

いつものこじんまりとしたソファーやローテーブルは取り払われ、
大きな机が用意され、大量の資料とノートパソコン、電話などが散乱している。
その机を囲むようにして、夜神さん、松田さん、模木さんが議論を重ねている。
死神一歩下がった所からそれを見守っている。
本部に戻ってきてくれた相沢さんは、鑑識に回したノートに纏わる情報の詳細を電話で聞いてくれている。

夜神月と私はいつものようにモニターに向き合い、調べ物を進めながら、彼等の話を聞いていた。


「いや火口は自殺だったとも考えられる…人を殺せる能力を持っていたんだ。自分を殺せても不思議ではないだろう…」
「でもノートに名前を書いて殺すんだから自分で殺すにも名前を書かないと駄目なんじゃ?それに自分の意思で死ねるとしたら、その前に銃で死のうとしたのはおかしくないですか?」
「いや拳銃で死ぬのなら何も感じず心臓麻痺より楽に死ねるという事なのでは…偶然の心臓麻痺か…自殺か…他のキラか…死神か…ど…どうなんだ?死神…」
「レムだ。…私は火口を殺してないし、火口が何故死んだのかはわからない」

死神は友好的だ。しかし、問いかけても、欲しい答えを用意してくれる事はない。
「わからない」とだけ返してくれるだけ、親切だろう。

…火口…殺したのはキラ…夜神月か…死神か…いやもう火口は死んでしまった…
今できる事は…。………ノート…という事は…第二のキラがさくらTVに送ったビデオ…

『会った時はお互いの死神を見せ合えば確認できます』というフレーズを使った事があった。
それに、あの日記…「青山で待ち合わせ。ノートを見せ合う」これが弥の送った物であるのは確かだ…
そしてレイ=ペンバーが調べていた者の中で青山に行ったのは夜神月だけ…22日の青山で一目惚れをしたと弥は認めている…ここまでは揃っている…
しかしあのノートを信じるならば…。……弥は利用されていただけなのか?全ては偶然といえるのか?

「うむ、わかった。……竜崎、月くん…ノートもHOW TO USEを書くのに使われた物も、地球上には存在しない物質、成分だそうだ」
「そうか!やはりレムの言う通り、ノートは死神界の物。how to useは人間に使わせる為に死神が書いた物で間違いないな!」
「死神が実在してる時点で間違いないと思ってましたけど、よかったですね局長。これで月くんもミサミサも、名前さんも完全に白だ!」

通話を終えて、受話器を置いた相沢さんが報告すると、松田さんが歓喜の声を上げた。

「HOW TO USE このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない。ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない。名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くとその通りになる。死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる。死因を書くと更に6分40秒詳しい死の状況を記載する時間が与えられる…」

相沢さんはノートの表紙に書かれた「つかいかた」を神妙な面持ちで読み上げる。

「火口によって、このノートに毎日書かれた犯罪者と報道された時間を照らし合わせた結果も、ヨツバにとって都合のいい死として書かれた者の死因や時間も、この文と一致する…更に八人の会議の内容や資料としていた「殺しの規則」とも完全に一致…さらに「裏表紙」の方のHOW TO USE」

表だけでなく、裏表紙の方にも、表と同じ筆跡でマニュアルが書かれていた。
…問題は表ではない。
裏の方が、私の頭を悩ませる大きな障害となっている。

「このノートに名前を書き込んだ人間は、最も新しく名前を書き込んだ時から、13日以内に次の名前を書き込み、人を殺し続けなければ、自分が死ぬ。…50日以上監禁され、今も監視下にある月くんや弥、苗字がキラや第二のキラなら、生きているはずがない」
「うむ」
「監禁されてた時は二人とも名前どころか、文字ひとつ書いてませんからね」

……そうなる…。
カップに注がれたコーヒーには手をつけず、コーヒーフレッシュを積み上げてタワーを作りながら考える。

「しかしこうなるとこの殺人ノート、どうにも始末できないな」
「そうですね…この最後の一文…このノートを刻む、焼くなどして使えなくすると、それまでにノートに触れた全ての人間が死ぬ…」
「これだとノートを処分すると少なくとも、この捜査本部人間は皆死ぬ事になる…」
「ああ…「僕も死神見たい」なんて触らなければよかったかな〜」
「それではどういう捜査になってるのか松田だけわからなくなる。それでいいのか?」
「いや…僕も皆と同じ立場で捜査したいです…はい…」
「この本部内で厳重に保管するしかないでしょうね…ここのセキュリティなら安心だし、何よりノートの事を知ってるのもここに居る者だけで済んでますから」
「うむ」

…このルールがある以上、夜神月=キラ、弥海砂=第二のキラではどうしても進められない。
このルールさえなければ、白を黒に塗り替えられるというのに…。これだけが…。
積み上げたコーヒーフレッシュが限界を迎え、バラバラと崩れ落ちる様を見下ろしながら、考える。

「レムさん…ノートは他にも人間界にありますよね?」
「さあ?あるかもしれないし、ないかもしれない。私が行く末を見届けなければならないのは、今ここにあるノートだけだ」
「もし他のノートが存在していたら、全てノートのルールは同じですか?」
「ああ、同じだ。ノートは死神界にはいくらでもあるが、ルールは全て同じだ。人間に持たせた時のルールもだ。間違いない」

レムと名乗った死神とやり取りしていると、相沢さんと松田さんが間に割って入ってきた。

「竜崎、月くんと弥、の疑いは晴れた。2人の監視は終わりだ」
「そうですよ、もう明白ですよ」

……そうなるだろう。これ以上の悪あがきはできない。
全ては偶然だった、と片付けて潔く終わらせなければ、皆、許さないだろう。

「……わかりました…今まで申し訳ありませんでした…」


私がそう言うと、捜査員たちがホッと安堵の息をもらした。

…落ち込まなかった訳ではない。もしかしたら今までの全てが見当違いで、私の憶測は間違っていたのかもしれない、と思わなかった訳ではない。
しかし口では謝りつつも──私は夜神月=キラ、第二のキラ=弥海砂という推理を未だ捨ててはいなかった。


「よかった…」
「ああ…しかしまだこの事件は完全解決とは言えない。そうだな竜崎」

心底安堵した様子の夜神さんに肩を叩かれながら、夜神月が私に同意を求めてくる。

「僕が監禁される前、犯罪者を殺していた者は火口とは別人としか思えないし、キラと第二のキラが同時に存在していたのなら、竜崎も言ったようにノートは複数あったという事になる。キラ、第二のキラが誰だったのか。他にノートがあるならそれはどうなったのか…それを明らかにしない訳にはいかない」

夜神月は繋がれた手錠を持ちあげながら、私にこう提案してきた。

「竜崎。手錠は外させてもらうが、ここで捜査を続けてもいいな?」
「………はい……そうなると、ミサさん、名前さんとはお別れと言う事になりますね…監視を止めるのですし、捜査員でないミサさん、名前さんをここに置く事はできせん。部外者という事になりますから…もう巻き込みたくないですしね…模木さんもマネージャーから外します」

一度崩れたタワーを一から組み立て直し、今度はフレッシュを使いピラミッドを積み上げる。
夜神月は「愛する」という恋人がいるというのに、付き纏ってきた弥海砂にうんざりしていただろう。
彼女が出ていく事には喜ぶかもしれないが、が本部を出て行くという事には、心底落胆するに違いない。
そうなった日には、禁断症状のようなものが出て、捜査に身が入らなくなるのではないかと危惧するほどだ。
夜神月は──を心底「あいして」いるのだろうから。


「じゃあ、僕と…そしてミサと会う時は、外でという事になるな」
「あっ…会いたいんですか?」

そんな事を考えていた最中、夜神月が言った言葉。
これには心から驚かされた。ずっと手元に落としていた視線を上げて、思わずぎょっとして夜神月をみてしまったほどだ。
しかし夜神月は冗談めかして笑い、私が何に対して驚いているのかわかっていない…
いや、或いは分からないふりをしている様子だった。


「おいおい…は僕の恋人だぞ?会いたいかって…当然じゃないか」
「いえ…私が言ってるのはミサさんの方です。…会いたいんですか?」
「…もともと彼女とは友人なんだ。恋人がいるのにあれだけ好きだなんだと言われて、正直言うと少し困ってはいたけれど…僕のために命がけで捜査協力してくれたり。そんな人を、人として好ましく思わない訳がない」
「……好きになったと?」
「そうだ。…人としてね」

ハッキリと弥海砂への好意を断言すると、やり取りを聞いていた松田さんがわっと歓声を上げた。
マネージャーをした事がきっかけで、まるで娘のように感じているのかもしれない。
いや、彼等は親子ほど年が離れている訳ではないだろうから、少し年の離れた妹といった所か…。


「ミサミサ聞いたら飛び上って喜ぶよ!月くんおめでとう」
「「おめでとう」って……だから、僕には恋人がいるので…そういう好きではありませんよ」
「わかってるよ!でも今までミサミサの一方通行だったんだ。それが友愛でもなんでも、通じ合えた事に意味があるんだ!」
「そうですか…」

夜神月は引きつった笑いをもらしつつ、松田さんの祝福を受けながしていた。
それを聞きながら、考える。
火口が白バイ隊員の名前をノートに書き事故死させたと、警官の装備や会話から名前を知る事は出来ていない…。それは火口の車に付けたカメラや盗聴器からも明らか…
それでも火口は幾度か見ている松田の顔を見にさくらTVに向かった…
それは「レム取引だ」の発言の後…

「レムさん。第二のキラがTV局あてに送ったビデオに「キラさんは目を持っていない」とうったのですが…その目というのは、顔と名前がわかる目ですね?」

死神は聞かれた事にはほとんど答えをくれなかったが、「しらない」「わからない」という言葉だけは律義にすぐ返事をしてくれていた。
しかしこの質問に対してだけはすぐに答えず、口を開こうとしない。
なので、質問を重ね続け、答えを引き出そうと苦心した。


「どうなんですか?レムさん。それは人間には教えられないんですか?」
「竜崎。その考えで間違いないだろう。「死神と取引をした後実際に顔を見ると名前のわかる目」だ。第二のキラの発言、白バイ隊員の事。火口がさくらTVに向かった事から、容易に想像できる」
「いや容易にできないって…少なくとも僕には…」

そのやり取りを聞いていた夜神月が補足を加えると、松田さんが引き気味にツッコミを入れている。
夜神月が事細かに説明した甲斐あってか、死神レムは観念した様子でようやく口を割ってくれた。

「…二人共賢いじゃないか。ノートを使った人間にしかいうべきではないが…そこまで見抜いているなら否定しない。その通りだ」
「では「取引」とは?」
「……それこそノートを使った人間にしか答えられない…」

もし弥が第二のキラだったのなら、監禁する直前に大学で一か八か身を晒した私と顔を合わせている…あの時私は死ななかったが名前を見たという事に…
しかし今の弥はノートを持っていないし、もっていたという記憶もなくなっているとしかてん
いや…弥がノートを使っていたのなら、13日以上名前を書き込まなかった事で死んでいるという事に…私が間違っていた…のか…結局全ては死神の仕業だったと…
いや…そんなはずは…何かカラクリが…

「ノートを使った人間がその記憶を失うという事は?」
「…さあ…死神はそんな事ないし、人間として使ったもないからわからない」

結局、死神から新たな手掛かりになるような証言が得られる事なく、その後も幾度も質問を重ねたが…「わからない」という答えばかりが返ってくるだけで、一日が終わってしまった。
夜神月の手錠は外す。弥海砂と苗字名前は潔白とし、監視を解き、自宅へと帰す。
それはもう決定事項となっている。


──その翌日。彼女たちは、荷物をまとめてこのビルから退去する事となった。
夜神月は、特に彼女…と別れを惜しむような事はなく、それはも同じだった。
夜神月は常に、彼女と一分一秒でも離れるのは耐え難いというような素振りをみせていた。
の方も、困ってはいていたものの、拒絶する事はなかったのだ。満更でもなかったのだろう…
だというのに、お互いこうもあっさりと決別する事を選ぶ。淡泊だといえただろう。
は「自分を優先してくれ」と懇願するような性格ではないだろう、しかし夜神月は…私の推理が正しければ…
を「愛して」いるはず。それなのに何故、別れを惜しむような素振りを見せない…?
キラ…火口を確保し、死神の存在も明るみになり、ノートという殺しの能力も判明した。
それを前にしてしまえば、正義感の強い一捜査員として、恋愛などにかまけていられなくなったという事か…?
それとも……。

は夜のうちに荷造りを済ませ、後ろ髪を引かれる様子など一切見せず、朝一番でここを出ていく事となった。


2025.11.21