第83話
5.彼等の記録第二のキラとのやり取り

夜神月は椅子に座ったままモニターを凝視し、言葉を発する事はなかった。
再生が終わり、静寂に包まれても、彼の口から言葉がでてくる事はない。
よって、私の方から探りを入れる事にした。


「どうですか月くん。何かわかりましたか?」
「ん?」

私は親指を噛みながら、彼の背後から声をかけた。そして振り向いた夜神月と視線を合わせ──数秒も経ってないはずだ。
夜神月は顔色を変える事もないまま、テレビ画面を親指でぐっと指し、こう言った。


「キラの能力を持った人間は一人じゃないかしれない」
「キ、キラの能力?どういう事だライト!」
「少なくとも、こいつは今までのキラじゃない可能性が高い。今までのキラなら殺人予告にこんな容疑者を使ったりしない」
「お…同じだ…」
「L…いや…竜崎の推理とまったく同じ…」
「それにキラの殺人に顔と名前が必要だとするなら、テレビ局に偶然駆けつけた刑事や警官を殺せたのもおかしいじゃないか」

夜神さんが半ば問いつめるようにして詳細を聞くと、夜神月は淡々と説明した。
松田さん、相沢さんは、私と全く同じ推理をした事で唖然としている。

「その通りです、月くん。私達も第二のキラだとみてます」

私達も、というのは方便だ。実際には私一人が第二のキラの存在を示唆していた。
私がどれだけ根拠を述べた所で半信半疑だった推理も、夜神月が同じ答えにたどり着いた事で、彼等の中でも第二のキラ説は確かなものに変わった事だろう。
私の目論見通りだった。

「わかっていたのか流河…いや竜崎。わかっていて僕を試したのか!?」
「試したのではありません。私一人が第二のキラ説を考えても説得力がない。月くんが同じ推理をしたことで、より有力な説となります。月くんは本当に力になる。助かります」

モニター前の椅子から立ち上がり、夜神月は腕を組んで私と対面していた。
「試したのか」と、咎めるように全員を見渡し言ったものの、本気で気分を害した様子はない。助かります、と煽てた私に対しても、それ以上、反論も肯定も何も示さなかった。

「決まりですね。まず第二のキラだを止めねばなりません。奴は明らかにキラに共鳴しているし、そんなに賢くない。本物の呼びかけには応じるかもしれない…。もし第二のキラなど存在しなければ無意味ですが、やる価値はあります。同時に本物への対処も必要ですが、今はこっちを優先すべきです」
「流石だな竜崎。僕もそれが一番いい手だと思っていた所だ…」
「そこで月くんに…本物の方のキラを演じて欲しいんです」
「ぼ…僕が?」
「はい。月くんくらいの才能があればこなせるはずです。とにかく時間がない。夜のニュースで流せる様、キラからの呼びかけの原稿を作ってもらえますか?」

咎めるような反応はポーズだけ。しかし本物のキラを演じてほしい、と言った時の驚いた様子は、完全に不意を突かれたようで…偽りとは感じられなかった。
夜神月は値踏みするような目で私を見て、この要求に対し、否定も肯定もしなかった。

「松井さん。本物のキラっぽい「KIRA」のクオリティーの高い映像を、相原さんは音声をつ作る機器を」
「はい」
「朝日さんは各テレビ局に7時台から1時間おき10分ずつ放映する枠を取る様通達を」
「わかった」

各々が役目を負い、動き出すと同時に、夜神月も椅子に座り、ペンを手に取る。
「わかった」とも「やらない」とも言われていないが、その動作だけで、キラを模倣した原を作ろうとしてくれてるという事は理解できた。

そしてどれくらいの時間が経っただろうか。正確な時間までは測っていないものの、そうたいした時間は経っていないだろう。
…流石は夜神月だ。捜査本部に引き入れたのは間違いではなかった。
「本物のキラからのもの」という体の原稿作りなど、常人であれば一字一句に悩み、
言い回しなどに凝ったはずだ。
仮に完璧なキラらしい原稿を仕上げる事ができたとして、膨大な時間をかけたはず。
夜神月のように、こんなにも早く原稿を完成させる事など出来なかっただろう。
サラサラとペンを動かし、ほとんどその手が止まる事なく、すぐに原稿を仕上げてみせた。

「竜崎、これでいいかな?キラになりきったつもりだけど…」
「……すごく良くできていますが…「Lは殺していいが」という部分は取らないと──私が死にます」
「はは、いや、キラになりきってみたら今の状況なら絶対Lだけは殺せと指示すると思ってるね」

夜神月は子供のように無邪気に笑っている。
そしソファーにもたれかかり、首の後ろで腕を組み、くつろいだ姿勢を取った。

「軽いジョークだ。その部分は適当に直してくれ」
「はい。…相原さん原稿できました。お願いします」
「よしっ」

相沢さんは原稿を受け取ると、すぐに「本物のキラからのビデオメッセージ」作りの仕上げにとりかかった。
第二のキラの様に稚拙でない、きちんとしたキラらしいロゴに、本物のキラであったならこういうであろう、というプロファイルがブレない原稿。
そしてそれを元に録音機器を使いスピーチし、元の声が分からぬよう合成音声にする。
朝日さんが既に各テレビ局に放映する枠を取ってくれている。
あとはそこに流すビデオメッセージの詰め作業…。
一歩間違い、爪の甘いメッセージを放映すれば、第二のキラも、そして本物のキラも敵に回す事になる。
そんな大切なビデオを急ピッチで作り上げているなど、滑稽だ。
彼等は映像制作のプロではない、が…刑事としての意地を見せた。
出来上がったビデオは、文句の1つをつける余地すらない完璧なものであった。


『大変な事になりました。先日さくらTVにビデオを送り放映させたキラに対し、自分が本物だというもう一人のキラが現れました。本日午前11時頃、警察庁にビデオがとどき、刑務所内の犯罪者8人午後2時から10分おきに心臓麻痺で殺害。そして各テレビ局にメッセージを放映させる事を要求。警察庁はこのビデオに関しては、放映する事を許可しています。
こちらがキラなのか?これもキラなのか?まずこのキラから送られてきたビデオを御覧ください』


ニュース7というロゴをバックに、男性アナウンサーが19時のニュースで語り出す。
そして真のキラを名乗る者からのメッセージ──夜神月が作った原稿を読み上げたビデオテテープが放映された。


『キラです。私が真のキラであり、先日さくらTVで放映されたビデオの主はキラではありません。現時点では私を名乗った者に対し、私に協力し、私の代弁をしようとしたと、歓談に受け止めています。しかし罪のな警察官僚などの命を奪ったり、盾に取るような行為は私の意思とは反する。世の中の混乱を招くだけであり、人々の私への理解を削ぐ行為です。
もし私を名乗った者が私に共感し、私に協力する気持ちがあるならば、勝手な行動は慎み、まず私の意思を理解することです。この忠告を聞かず暴走するならば、そちらから裁きます』


そこから各テレビ局には、初めて第二のキラが「キラ」としてメッセージを流した時同様問い合わせの電話が殺到したようだ。
その翌日、翌々日も、模木さんはさくらTVに送られてくる郵便物の全てを一度開封し、チェックする作業に追われていた。
通常ならばそこまで量も多くないのだろうが、今はどこのテレビ局も──一番初めにさわぎを起こしたさくらTVは特に──
問い合わせの葉書や、クレームなども合わさり、キラ関係の郵便局が莫大に膨れ上がっていた。

そんな模木さんが、その膨大な郵便物の中から、目当ての品を探り当てたらしい。

『竜崎!第二のキから返事です』
「何っ」
「来たか!」

パソコン越しにワタリの声がして、夜神さんや松田さんは大きく反応した。
夜神月はというと、皆と同じように第二のキラからの返事がきたという吉報に反応することはなく…Lのロゴが表示されたパソコンをじっと見て、何か考え事をしているようだ。

『送られてきた封筒、テープ、封の仕方、宛名の文字…映像の特徴から、ほぼ間違いありません。すぐ封筒ごとそちらへ持っていきまず、とりあえずコピーした映像をパソコンに流しておきます』

テーブルの上のパソコンを円になって囲み、ワタリの捜査によってコピー映像が流れ出すのを皆で待った。
私はいつも通りパソコン真ん前のソファーに腰かけ、特等席でそれを拝聴する。

『キラさん、お返事ありがとうございます。私はキラさんの言う通りにします。私はキラさんに会いたい。キラさんは目を持っていないと思いますが、私はキラさんを殺したりはしません、安心してください。何か警察の人にはわからない会ういい方法を考えてください。会った時はお互いの死神を見せ合え確認できます』

──その瞬間。私は大きくのけ反り、それと同時に椅子がバランスを崩し、椅子ごと転倒した。

「大丈夫ですか竜崎…!」


私はまるで命乞いでもするかのような形で地べたに座り込む。そんな私を助け起こそうと松田さんや相沢さんが手を差し出してくるも、それを取る事はなく、
ただパソコンを見つめ続け、慄いた。


「死神…そんな物の存在を認めろとでも言うのか…」

私は本気で死神の存在を疑った。人の顔と名前だけで獄中にいる犯罪者を遠隔に殺せる。
この殺しの能力は人間技ではない。神から授けられた能力と言われても、驚きはしないだろう。そんな風に頭の中だけで推測した事はあったか、が…しかし。
こうして"死神"の存在を、第二のキラが仄めかす。その事の重大さが私にはよくわかっていた。

「死神?まさか…」
「そうだよ竜崎。死神が存在するなんてありえない」


松田さんがまさか、と否定するのは予想できた。
しかし、夜神月…@のビデオテープを見せて、唯一私と同じ「第二のキラ」という説を唱えた男。
同じレベルで思考をして、見ている目線もほぼ同じだと思っている。
そんな彼でさえも、軽々しく死神の存在を否定した。

「……キラも刑務所内の犯罪者に死神が存在するような文章を書かせていた…」

死=死神に繋がるのは、消して不思議ではない。
本当に死神がいる訳ではないのかもしれない。ただの比喩表現だったのかも…
しかし、宇宙人がいるいないの論争が起こる時と同じだ。
「この広い宇宙に、宇宙人がいないなんて考えられない」と多くのものが語るように。
私も、キラが不思議な能力を持っている以上、死神の存在があっても不思議ではないと考えている。
…夜神月も、そのようには考えないのだろうか。キラの力を理を捻じ曲げた不可思議な力だという風には、考えないというのか?
それとこれとは別とでも言うのか?

「それならやはり、これも今までのキラと考えるべきでは?同じ人物だから同じ言葉を…」
「それはないよ、父さん。これが今までのキラなら僕達の作ったビデオに対して返事をするはずがない。本物がこんな作戦にわざと乗ってLをテレビ出演させ殺すのを止めさせるはずもない」
「じゃあ本物と第二のキラがもう繋がりを持っていて、「死神」という言葉で捜査のかく乱を狙っているのでは?」
「それもあり得ません。。月くんの言う通り、キラが繋がっているのなら、私を殺す事を中止するとは思えません…」

夜神さん、月くん、相沢さんが語るのに対し、私も補足を加えた。
床に手をつき、体制を立て直しながら語る。

「第二のキラはキラの思想より、自分の想いで動いています。「犯罪者を裁き、世の中を変える。その邪魔をする者は殺す」というキラの考えとは関係なく───自分の気持ち──キラに会いたいという気持ちです」

転げた椅子を立ち直らせ、再びそこへと腰かけた。

「その通りだ。第二のキラは世の中に対する自分の考えではなく、キラへの興味で動いている。…「死神」というのは殺人の力を示しているんじゃないかな。「お互いの死神を見せ合えば確認できます」というのは、殺しの能力を見せ合い確認すると考えればいい」
「……そうですね」

夜神月は腕を組みながら私の意見に同意し、尚且つ自身の推理も付け加えた。

「少なくとも「死神」という言葉はキラと第二のキラの間では共通し、意味の通る何かと考えられる。それが何なのか、もう少しはっきりさせる様仕向けましょう」
「じゃあまた返事をして誘導するのか?下手に探りを入れると、こっちが何もわかってないのを気付かれキラじゃない事がバレる」
「いえ、ここから先はキラと第二のキラに任せるんです」
「任せる?」
「第二のキラはキラから…いおお…それが警察が作ったものだとわかっていていたとしても、返事がきたことで今状態に満足していると考えられます。キラに対して、自分をアピールする事に成功したと。そして両者間でしかわからない言葉を使っています。この返事を再び今日のさくらTVの6時のニュースで流します。当然キラも我々が作ったキラと第二のキラのやり取りは気にして観ているはずです」

キラの立場からすれぎ第二のキラと警察の直接の接触など避けたいはず。
このまま放っておくと、何が起こるかわからないとも考える…
もしかすると今度は本物のキラが返事をしてくるかもしれません…と語った。
それも今の状況ならさくらTVを使うしかないつるインターネット上等では無責任なキラやLの正体情報が幾千も存在し、お互いを特定する事は不可能ですし、なによりも予告ビデオの作りから、第二のキラは機械に弱そうで、マメな性格とも思えない。

「そしていつになってもキラから会う方法の返事がこなければ、第二のキラはどうするか考えてみたんですが…もっと警察や世間にキラがバラされたくないことを公表し、キラを焦らせ焚き付け自分に合わせようとする。こうなれば面白い。
それを恐れてキラがビテオ等でメッセージを送ってきたらもっと面白い。そうすればキラの物的証拠を得らる可能性も高くなります」

死神が存在するかもしれない、という可能性を眼前に突き付けられた時の驚愕。
今でもその可能性を考えればぞっとするが、今は超常的な可能性より、現実的な事を考えねばならない。
この推理は我ながらよく出来ている。面白いシナリオだと思えた。


「各テレビ局のキラ事件に関する映像やコメントは徹底的に検閲してください。万が一キラ、第二のキラから何か送られてきた時はは、放映していいか私が決めます。…では、しばらくは第二のキラの荷から追って行きましょう」
「竜崎、ビデオの製造ナンバーから作られた時期と売られた地域がしぼれました。それから…」

夜神月は私の立てたプランに是とも非とも言わず、そのまま捜査は進んで行った。


****

──後日。


「ライト…第二のキラからまたさくらTV宛にメッセージが届いた。今度はビデオと日記だ。一応お前にも伝えておく」

夜も更けていたが、就寝するには早い時間。息子に伝えたいというので、それを許可するとすぐに、夜神さんは彼に電話で報告した。
次の日の日中になると、再び夜神月が捜査本部へと足を踏み入れ、ビデオと日記を見に来た。

「日記をテレビに映せって?」
「30日のところをみてみろ」


2003.5

1日 GW中にサークル活動は不参加と言ったのに、また友人からの誘いの電話。
4日 さいたまスーパーアリーナへ友人とモー娘。のコンサートを観に行く。
5日 連休最後の日だが、何もせず家でゴロゴロしていた
7日 学校が始まったが、友人と出る授業とノートの分担をし、自分は休む。
10日 友人から飲み会の誘いがあった断る。横浜は遠い。
13日 貸す約束をしていたCDを友人が取りに来たので貸す
16日 レポートの提出を忘れていたので、友人に見せてもらい写させてもらう。
19日 久々にジャンプを買って読む。読み切りが面白かった。
22日 友人と青山で待ち合わせ。ノートを見せ合う
23日 学食であいつに遭遇。あいつはカツカレーを食べていた。
24日 友人と渋谷で待ち合わせ。今年の夏用の服を数点買う。
28日 PS2より凄いPSXというのが出るらしい。注目!
30日 東京ドームの巨人戦にて、死神を確認する。


以上が、ルーズリーフ一枚に記されていた五月の日記である。
日記のコピーを手に取り考える夜神月に、私は歩み寄る。


「どう思います?月くん」
「ん。…今のところ…馬鹿だとしか言い様が…」
「ですよねー。この日記を放映しろって事はどう考えてもキラへのメッセージだし、いくら去年の日記として書かれていても、今年も偶然同じ日にある5月30日の巨人戦でキラに会おうというのは見え見え」
「こんな物を放映したらパニックになり、試合が中止になるのもわからないって事か…」
「もう大パニックですよ。試合を観に行けばキラに殺されるとか、マスコミや野次馬がごまんと押しかける」

月くん、松田さん、夜神さんが考察を重ねる中、今度は私は裸足でテーブルの方へぺたぺたと歩み寄り、箱に入ったトリュフを1つつまんだ。


「……正直馬鹿っぽいだけに…どう対処すればいいのかわからなくなりました」

トリュフを口に含んだ後、五人が囲めるテーブルに裸足で歩み寄る。一人がけのソファーに座り、日記の扱いについて続けて語った。

「日記を放映すれば30日の試合は中止、という発表もしなければなりません。日記を放映しなければ第二のキラは動かない…」
「それに中止した場合怒って何をするか…」
「それは大丈夫ですよ。第二のキラはキラを崇拝している様ですし。我々の作った本物のキラに犠牲は出さないと誓った事を信じていいでしょう。…とりあえず、日記の試合中止と共に30日東京ドーム周辺の道路を封鎖し、検問するとしましょう。この間のさくらTV事件の時、あれだけの警官が協力してくれたのですから、できると思います。」

その上でまた我々の作った本物のキラから「了解した、会おう」という内容の返事をする…と告げると、私に倣って席についていた夜神さんが、訝しむように問いかけた。

「まさかドーム周辺を検問しても来ると考えているのか?」
「キラの方は来るとは思っていませんが、第二のキラはわかりません。どこまで馬鹿なのかわかりませんから…それと、そこまで馬鹿じゃないという事も考え…この日記の他にメッセージが隠されてないか考えています」

カップを片手に、日記の描かれたルーズリーフ一枚を片手に語る。
それと同時に、夜神月の様子も探った。彼は席についた他の面々と違い、夜神さんの脇に立って腕を組み、暫く沈黙している。
「今のところ馬鹿としかいいようがない」と言ったきり、考えを述べる事はないのは、熟考しているからか。
しかし頭の回転の速さが夜神月の特徴であったはず…
喫茶店でテストをした時の多弁さと切り返しの速さには目を見張ったものだ。

「もし死神という能力を持った者同士にしか解らない暗号が隠されていたら、私には解読できませんから。少なくとも今日以降で場所の書かれた日は、その場所を徹底的にマークしておくべきです。」


「22日友人と青山で待ち合わせ」
「24日友人と渋谷で待ち合わせ。今年の夏用の服を数点買う」

この二か所が、条件に該当する"日記"の一行である。


「現状では無駄を覚悟で、青山では特にノートを持つ者に、渋谷では特に洋品店に注意を向けるしかありません。この青山・渋谷には今からできる限りの監視カメラを増設し、当日はできる限りの私服警官を配備してもらう…」
「しかし第二のキラが来たとして、自分達が探している者がいると気づけば殺すのでは?危険だ」
「ドームの方は前もって「検問する」と報道するんですから、職務質問…いや指紋を採る事をしても構わないでしょう。取り調べされるとわかってい殺してまでドームに近づき、キラに会おうとするほどの馬鹿なら、すぐに捕まえられます」
「「すぐ捕まえられる」って…それじゃ犠牲者が」
「いや竜崎が言いたいのは第二のキラもそこまで馬鹿じゃないって事だ…」

カップを置き、ルーズリーフも机に置いた。未だ夜神月は沈黙したままだ。

「いえ…この捜査にあたり以上は、誰もが命懸けという意味です。しかし青山・渋谷の方はキラも第二のキラも一般人は殺さないでしょうから、あくまでも私服でキラや第二のキラの可能性を感じる不審者がいないか見回るだけ。もし不審者がいれば、そこでは何もせず、後にじっくり調べ対策を練る。…ですから朝日さんの様に目をギラギラさせたいかにも刑事という人は除外します」
「…うむ…」

流石に強面な自覚はあったのか、なんとも言えない顔をしつつも、夜神さんは頷いた。
松田さんは「ハハハ」と声を上げて笑い、こう名乗り出た。

「じゃあ青山・渋谷の街に似合いそうな僕が行きますよ」
「僕も行くよ」

──そして、夜神月も。

「ライト…」
「大丈夫だよ父さん。青山・渋谷はたまに行ってる所だし、松井さんと一緒にウロウロしてても一番不自然じゃないのは僕だ。大体第二のキラが興味あるのはキラだけだよ」

「第二のキラが興味があるのはキラだけ」…もし夜神月がキラであったらとっさには出ない台詞だ…キラなら第二のキラが誰であるか知りたいと思う…しかし…
第二のキラは顔だけで殺人ができると考えていい…第二のキラに顔を見られる可能性のある所へ自ら行こうとするだろうか?
いや私服警官が配備された所にノコノコと第二のキラが現れるかもと思えば、第二のキラが捕まるのは阻止したいと考える…
キラなら我々よりも先に第二のキラを見つけたいはずだ。だから自ら名乗り出たとも考えられる…
どちらにせよ、私にはキラ達がどんな能力を備えているかなどわからない。
「死神」という言葉からも、本当に彼等にしかわからない何かがあり、
それを隠せば片方だけが確認できるとも…
…………わからない事をいくら考えても仕方ない…時間が経つほどキラに第二のキラとコンタクトを取られてしまう時間を与えてしまう事になるのも確か…
ここは動かせてみるしか…


「ではこの日記は明日放映する事にします。朝日さん、明日のニュースまでに次長に警官動員の確約お願いできますか?」
「わかった。やってみよう」

朝日さんが頷いてくれたのを見てから、私はテーブルを囲む彼等を見渡した。そして…夜神さんの脇で、腕を組み立つ夜神月の事も。

「それと皆さんこれは大事な事ですが…確かに今回キラはともかく、第二のキラを捕まえるチャンスかもしれない。しかしここまできたらキラと第二のキラに先に接触された時の事も考えなくてはなりません。この捜査本部の秘密はより強化したい」
「というと?」
「本部の一員である事、内部の人間の事を絶対外に漏らさない事はもちろん、警察として外出は極力避け、身に着ける物以自分の写真は全て処分する。実際私はどこにも写真を残していません。自分の出入りした、例えば東応大学にもです。このホテルの監視カメラ等も、私や皆さんが出入りする時は、映らないようにしてあります。…皆さんも、警察庁にある書類や、自宅にある写真、友人に渡した写真。全て処分してください」
「……竜崎…それはまだ息子を疑っているという事か?」
「残念ながらまだ0%ではないのでそれもありますが、第二のキラは顔だけで殺人ができると考えての事です」
「…竜崎の言う通りだ…いやもうそこまで頭を働かせているとは流石だよ…」


私の万全を期す発言を、また息子へ疑惑を向けられたと捉えた夜神さんが追求した。
それも0ではない。しかしそれだけではない。
一時のように激高した様子は見せなくなった、が、しかし。それでも息子が疑われたと捉える度に、父親である夜神さんは受流すという事ができなくなる。
だというのに、疑われている当の本人…夜神月は何とも思っていないかのような涼しい顔で、私の事を褒めすらした。

「もしキラが第二のキラと接触でき、捜査本部を始末しようと思うなら、皆の写真を手に入れるだけで殺される事になる…誰も名前を知らない竜崎さえもだ」
「そうです。私はキラは殺人に顔と名前が必要と考え、皆さんの前に姿を出しましたが…もう状況が違ってきています…第二のキラはもちろんの事、キラも顔だけで殺せる様になるかもしれません。そうならない様、第二のキラだけでも捕まえたいものです」


最初は懐疑的ではあったものの、私の発言を聞くと、事の深刻さをよく理解してくれたようで、緊迫した面持ちで皆、静寂を作った。
捜査の方針も決まり、30日の東京ドームの件も、22日、24日当日の事も、そしてキラ捜査を行う上での意識共有もする事が出来た。
ここで一区切りとなり、世も更けた事もあり、夜神月はそこで帰宅する事となる。
ここにやってきた時同様、松田さんがホテルのフロントまで誘導し、外に呼んでいたタクシーに乗車する所まで見送った。
その様子を、カーテンをめくり部屋の窓から見下ろしながら、携帯を手に取った。


「竜崎です。青山・渋谷で行動は月くんに合わせ、当日は月くんの事も注意深く観察してください。これは内密にお願いします」


電話をかけた相手は、松田さんだ。要件だけ告げ、了承の返事が返ってくるとね、すぐに切った。
窓から見える松田さんは電話を切ると肩を落としていて、「0%じゃない限り疑い続ける」というスタンスに疲れているようだった。
夜神月を疑っているのは、今や私だけだ。特に松田さんは夜神月に好意的なようで、夜神さんの次に白だと信じている気がある。
それでもやってもらわねばならないし、松田さんも内心はどうあれ…実行してくれるはずだ。
それは私が指揮を取る捜査本部に身を置いているから…というよりも「命懸けのキラ捜査」という特殊な案件に関わってる自覚があるからこそだろう。
顔も名前も、性別も不明。相手はすぐ隣に潜んでるかもわからない。
油断すれば足元をすくわれ、殺されるリスクを抱えながら捜査している…皆、十分にわかってくれている。


──5月22日、青山では夜神月が大学の友達を大勢引き連れて待ち合わせ場所へとやってきた。
彼の独断ではあったが、悪い手ではなかったので黙認する。本物の大学生の集団に紛れれば、刑事が捜査のために潜んでいるなど疑われる可能性は格段に減る。
──24日、渋谷でも、松田さんと夜神月は、恙なく捜査を進めた。

──5月25日。
再びホテルの一室に、模木さんを覗く全員が集まり、テーブルを囲んでいた。
それぞれの手元には一杯のコーヒーが注がれており、私の手元にはいつも通り、ケーキがプラスで置かれていた。

「22日青山、24日渋谷。今の所何も起きた形跡なし。もうこの日記に書かれた残りは30日のドームしか…」

相沢さんが経過報告をし、皆、それ以上何も言えないまま時間が過ぎる。
本当に、何も起こらなかったのだ。青山でノートを持ってうろつく者もいなければ渋谷の洋品店をうろつく不審者もいなかった。
日記に他の暗号が隠されているとは思えない…しかし「検問する」と報道しあるドームとも考えにくい…キラの方から「会う方法」を言ってくるのを待っているのか?
あるいは…

『竜崎。さくらTV宛に第二のキラからメッセージが来ました。消印は23日です』
「またか!」
『とりあえず、またパソコンを通して先に映像を送ります』

サイドテーブルに置いてあったパソコンから、ワタリの声が響く。夜神さんがそれに反応し、今度は一体どんな内容のメッセージが送られてきたのかと、緊迫した様子だ。
前回同様、模木さんが一人さくらTV宛の郵便物を検閲し、ワタリへと渡し、ここに送られてきた。孤独で地道な作業を買って出てくれ、成果を出してくれる彼の存在はとても貴重なものだ。

そして、ワタリの操作でパソコンにすぐ流れ出した第二のキラからのメッセージは、このような内容だった。
それを聞いた他の者が「もうおしまいだ」と言わんばかりに動揺する中、私はただ一人「希望はあるかもしれない」と感じていた。


2025.11.6