第80話
5.彼等の記録─愛を知らぬもの
夜神月に案内された喫茶店に入店して早速、私達は注文を伺いにテーブルにやってきた店員に各々希望を伝えた。
「私はコーヒーで。ミルクと砂糖は多めでお願いします」
「僕もコーヒーでお願いします」
女性の店員が「はい」と頷いたあと、しんと沈黙が流れた。
この席に座っているのは3人だ。3人目の注文が言葉にされない事で、店員が困惑している。
「お客様は…もうお決まりでしょうか…?」
「あ、あの……えっと…」
は店員に改めて伺われて、気まず視線をそらす。
じっと反応をみるも、一体何が彼女をこうもしり込みさせているのか、私にはわからない。
コーヒーか、紅茶か、或いはその他か。伝えればいいだけなのだ。
しかし夜神月は何に迷っているの気付いたらしく、小さく耳打ちをしていた。
「、デザートも頼んでいいからね」
他人に聞こえないように配慮された囁きだったが、流石に真向かいに座る私には届いた。
しかし、店員は立っているし、店内にはBGMも流れている上に、他の客の雑談も聞こえている。彼女には聞こえなかった可能性は高い。
夜神月に気遣われると、ホッと安心したような表情をみせて、今度こそ注文をした。
「これと、これください…」
声に出すのは恥ずかしいらしく、店員にメニューを見せて、指をさし注文していた。
微笑ましそうな表情を浮かべた店員は頷き、奥へと引っ込んだ。
「…月くん、ありがとう…」
「お礼を言われるようなことはしてないよ」
もうそんな必要はないというのに、礼を言うの声はまるで内緒話をするかのよう
小さい。
夜神月の囁きにつられたのだろう。彼もそれが分かって、くすくすと笑っている。
「ずいぶん仲がいいんですね、お二人は」
は基本的には喜怒哀楽が表に出やすく、とても分かりやすい人間のようだ。
それを夜神月も微笑ましく見守り、気遣い、好ましいと思いながら接しているのがわかる。
「それは否定しないよ、幼稚園から一緒の"幼馴染"だしね…この喫茶店にも僕たち2人でよく来るんだ。ここはお気に入りでね。奥の席に座れば人に会話を聞かれることはない」
「いい喫茶店を教えていただきました」
夜神月が案内した喫茶店は、確かに公にしたくない話をするには相応しい場所といえた。
一番奥、壁に背をする形で私が座り、その向かいに夜神月とが揃って座っていた。
「ここならその座り方もそんなに気にする事もないしね。はは」
「ああ…私はこの座り方でないと駄目なんです。一般的な座り方をすると推理力は40%減です」
「ああ…足を組むみたいな感じかな?ちょっとわかるかも」
が同調するように言うと、「…、足なんて組むの?」と夜神月が驚いていた。
「見た事ないんですか?幼馴染なのに」
「幼馴染相手でも、人前ではしないようにしてきたから」
「そうですか。躾が行き届いてるんですね」
「うーん…?」
はしっくりこないような感じで首を捻ってる。
夜神月も不可解そうな顔をしているので、躾の一貫でそうしている訳ではないのだろう。
家の両親は放任主義で、子供の教育や躾には興味がないのだという事前情報もある。
それを知っても尚、私が「躾」などと口にしたのは、反応がみたかったからだ。
結局、からは何も引き出せず、夜神月も不思議そうにしているだけ。
よって、見切りをつけて、本題に入る事にして。
「で、夜神くん、私に頼みたいことって?」
「ああ、それは僕がキラじゃないとわかってからでいいよ、流河の方から好きに話してくれ」
本題を切り出す前に、余計な話をして時間を浪費したせいだろう。
会話を始めるよりも、注文した品が運ばれてきて、テーブルに並べられる。
コーヒーが三つと、パフェが一つ。
確かミニパフェを頼んでいたはずだし、ガラスの容器は確かに小さい。しかし器から零れそうなほどにマシュマロやら苺やらクッキーやらが乗っていて、
明らかにメニューに載っている写真や値段と釣り合わない。
最初私はパフェを作った店員のミスだと思った。しかし真実は、と店員の親し気なやり取りを聞いて、すぐに理解した。
「お待たせいたしました」
「いつもありがとうございます、田中さん」
「いいえ、昔からご贔屓にしてくださって、こちらこそありがとうございます。さん、夜神さん」
常連客だから贔屓されたのだ。ネームプレートがついてる店員の事を呼ぶだけならまだしも、
店員が客の名前まで認知し、挨拶を交わしあってる。経緯はわからないが、長年定期的に足を運び、こんな待遇を受ける程に至ったという結果は理解した。
愛想よく話すとは反対に、夜神月は薄っすら笑みを浮かべて会釈するのみ。
感じは悪くないが、特別よくもない。
店員は常連客だからと長居することなく、挨拶だけするとすぐに去っていった。
「月くん、一個あげる」
「…じゃあ、もらおうかな」
「流河くんにも一個あげるね。コーヒーにいれたらきっとおいしいよ」
「それはやった事ありませんでした…もらいます」
ミルクと砂糖多めでと注文した通り、店員は通常より多くの角砂糖を小皿に盛り付けてくれていた。その数、3個。
通常1個の所を3個にしたのだろうから、"多め"と言えるだろうが、私にとっては少ないと感じらせる。なので、の善意はありがたく受け取り、
角砂糖とマシュマロ全てをコーヒーにいれてティースプーンでかき混ぜた。
「……じゃあ、失礼とは思いますが…夜神くんとさんの推理力をテストしてみていいでしょうか?」
「……ん、私も?」
「ああ、僕はいいよ、面白そうだ…でも。のテストまでする必要があるのか?キラ疑惑が一%未満のでさえも、テストの結果次第では捜査に協力させたいと?」
「それはテストの可否に関わらず、考え中です。でも、夜神くんに捜査協力を頼むというのは、ほぼ確定事項です」
「おいおい、まだテスト、始まってもいないじゃないか」
はは、と爽やかに笑う夜神月に対して、私は本題を切り出した。
「私がLと名乗り出た事から何かわかりますか?」
「ん…そうだな…僕の手腕に期待している事…と…キラの可能性がある者にLが名乗り出ても殺されないと考えた事…あるいは名乗り出ても殺されない工夫をしてある…
そうすると現在の報道でキラが殺人に必要なのは顔とされているが、顔意外に何か必要なのかもしれない」
一口、口に含んでいたカップをソーサーに置きつつ。彼口元に手をやりながら、考える仕草をするいかにも好青年のような笑みも、その仕草さえも、
演技臭いと思うのは、勘繰りすぎだろうか。
「だとすれば、顔意外に必要なのは名前。それはLなら常に偽名を使うだろうけど、わざわざ日本人のほとんどが名前も顔も知ってる流河旱樹と名乗った事から推測できる」
「正解です」
「ずいぶん簡単に「正解」っていうんだな」
「私に正解を隠す必要がありますか?」
「本物のLは今もこれからも危険のない所にいて、警察などの手を借りる時でも影で指揮を執る存在であるべきだ」
「なるほど…確かにLと名乗った者には危険かが伴うし今まで姿を現さなかった意味もなくなる…本物のLが出て来るのは馬鹿げている…」
親指を噛みながら「正解」というと、夜神月はおかしそうに笑っていた。
しかしすぐに神妙な面持ちに切り替えて、冷静にこう話した。
「でも僕は結構流河が本物じゃないかとも思ってるんだよ」
「と言うと?」
「Lに対して普通の人はもっ高年齢な探偵とか刑事風の人間をイメージするだろう。流河は代役にしてはあまりにも嘘っぽい。それは本物だから…」
夜神月はよく喋る。そのせいだろうか。会話だけに夢中になる事はなく、定期的にコーヒーを口に含んでいた。
「そこまで計算して代役を選んでいる可能性は?」
「うーん、Lという人ならそこまでやりそうだな。裏の裏の裏と考えていくときりがない。さすがに頭がこんがらがってきた」
はは、と明るく笑う夜神月の横ではが机の上で何かを作っている。
こんもりとしたパフェの上層と戦うのに飽きたらしい。
各テーブルに備え付けてあるナプキンスタンドから、何枚か拝借し、それを折っていた。
それが折り終わると、どうやら花や鳥やハートの形になるらしい。
机の上にはいつの間か、が作った折り紙でいっぱいになっていた。
それを責める気にはなれない。2人にテストをしたいのだと言いつつ、私は夜神月にかかり切りで、をずっと放置しているのだから。
手遊びに夢中で、一切話を聞いてなかったとしても、やはり仕方がないと言えた。
「捜査協力をお願いする前提で何もお見せしないのも失礼ですから。
一般には報道されてない情報です。これでまた推理してみてください。これはキラに殺されたFBI捜査官12人の死亡の順と、彼らがファイルを得た順を表にしたものです」
私は自身の左ポケットをまさぐり、その中から、紙を取り出した。
机に広げた大きめの紙は、FBI捜査官12人の死亡順のリストそして小さめの三枚は写真だ。
「そしてこの三枚はキラが刑務所内の犯罪者を操って死ぬ前に書かせたと思われる文章の写真です」
夜神月は写真より先に、まずFBI捜査官の書類を手にし、表情も変えずにそれを読んでいた。
「まずFBIの資料をみて、何かわかりますか?」
「ん?そうだな…」
私は親指を噛みながら、じっと夜神月の反応を伺った。
「流河…このFBIの得たファイルって何のファイルだ?それがわからない僕には推理しようがないな」
右手でFBI関連の書類を持ち、左手をひらつかせて、さっぱりわからない…といったジェスチャーをした。
夜神月が座っているのは通路側だ。
普通こういう時は、女性を通路側に座らせるものだという事は、知識として持っている。
それか、左利きの人間であれば、壁際に追いやられるだろう。しかしは普通に右利きだ。
夜神月は、自分が壁になり、通路側を歩く人間からの好奇の視線から守ることにしたのだろうと思った。
の眼前に手をのばして、壁際にあるナプキンスタンドから一枚抜き取った。
そして、いつの間にかクリームが頬についていたらしい、の口元を優しく拭ってしいた。
「ついてるよ」
「ん…」
まさか自分に話しかけられたり、様子を伺われてるとは思っていなかったらしい。
私と夜神月が討論を重ねている間、完全に自分は孤立していると思っていたようだ。
口元を覆う手は優しく、驚かせるようなものではない。だというのに、驚いたリアクションを取っているというのは、そういう事なのだろう。
「相変わらず仲がいいですね」
私が言うも、2人は否定も肯定もしなかった。ここまで来て、わざわざわ聞くことか?
解りきっているだろう──…という、夜神月の心の声が聞えてきそうだ。
私としても、これ以上話が脱線する事は歓迎できない。
何食わぬ顔で、テストの続きを始めた。
「あっすみません…日本に入ったFBI捜査官がお互いを確認するための全員の名前と顔が入ったファイルです。そして手に入れた日に皆が亡くなりました…」
「それなら…キラは殺人に顔が必要…もしかしたら名前も…その両方が入ったファイルを得たその日に全員死亡…キラはこのファイルを得て彼らを殺した可能性がある」
「では写真の方は?」
「この三枚の写真は面白いよ」
FBIの資料を見せられ困っていたのとは対極的に、写真を手にとった夜神月は笑みを浮かべている。
「キラが死だけではなくその人間の行動を操れるというのが本当ならすごい事実だし、しかもこれがキラが書かせようとした文章と推測できる。Lをからかうような文章が暗号化されてるいからね」
夜神月は机の上に写真置いて、順番に並べ替えた。それに合わせて、は折り紙やパフェの器などを、端に寄せていた。
この席は内緒話をするにはいが、欠点を言うなら、狭いという一言に尽きる。
2人となり合って座るのがやっとの所、ごちゃごちゃと並べれば、陣取り合戦にもなるだろう。
「それぞれの文章の一番上の文字だけ取って左から読むと、また文章になる。違和感のない様に並べるならそうだな…「L知ってるか 死神は 林檎しか食べない」かな…?」
少し間をおいて、「でも…」と続ける。
「写真の裏にプリントナンバーが入ってる…その順に並べると──「L知ってるか 林檎しか食べない 死神は」だ。少し不自然でキラがLにこう読ませようとしたと考えにくいけどね」
「不正解です。…実4枚目の写真があるんです。これを加えるとこうなります。「L知ってるか 林檎しか食べない 死神は 手が赤い」」
ポケットに再び手をかけて、私は四枚目の写真をポケットから取り出した。
そして机の上に四枚の写真を並べると、少し難しい顔をする。
そうしたくもなるだろう。私だって逆の立場で同じ事をやられていたら、嫌な気分になる。
しかしそれを解っていながら私は"あえて"夜神月の不快感を煽る。
「しかし3枚だけな僕の推理で完璧じゃないか」
「完璧ではありません、事実4枚あったのですから、そこまで推理して完璧です。夜神くんは3枚しかないと決めつけ4枚目を推理できなかった、これも事実です」
夜神月はそれに気が付いたのだろうか。それとも素で好青だからだからだろうか。
後出しじゃんけんのイカサマだと憤慨する事はなく、にこやかに笑っている
「うーんそこまでは推理できなかったな…まあどっちにしろキラに迫れる文章ではないね…死神なんているわけないし」
「ではもし夜神くんがLだとして、キラの可能性のある者に相対したら、キラであるかどうかどうやって確かめようとしますか?」
「一般には報道されていない、キラにしか知り得ない事を相手に喋らせる…今流河がしている事だ」
夜神月が私を人差し指で指さしながら言うと、が唐突に夜神月の手に触れた。
両手の平を乗せて、ぐぐっと力をこめ、机の上にまでおろされていた。
そして最後にぺしりと夜神月の手の甲を叩く。
幼馴染の間柄であっても、お行儀が悪いからと気にして足を組まなかった人間だ。
人を指さすなど行儀が悪いと窘めているのだろう事は、付き合いの短い私にすらわかった。
ここで「本当に仲睦まじい」などと突っ込んでもまた睨まれるだけ。
私は見なかった事にして、話の先を続けた。
「すごいですね…今と同じ質問を何人かの刑事にしたのですが、答えるまでに数分考えるものがほとんど。そのあげく誰でも知っているような犯罪者を前に出し、殺すかどうかどこかで見ているなど…ろくな答えじゃなかった…しかし夜神くんは瞬時に捜査する者と話をする時のキラの立場で考えられた。…すごいです。夜神くんの推理力は」
言うと、夜神月は少し私の真意を探るように目を細めた後、すぐに明るく場を切り替えるように話す。
「はは…あまり卓越した考え方をすると疑いが濃くなるみたいじゃないか」
「はい。3%に…しかしその分一緒に捜査したいと思う気持ちも強くなります」
「3%ね…」
3%。その言葉に含みを持って夜神月が復唱したその意味は、私にも容易に理解できた。
ちらりとの方へ視線をやると、夜神月も倣うようにして彼女へ視線を向けた。
。1%未満の疑いをかけていると私が宣言した娘。
彼女は自分に一斉に視線が向けられた事で、露骨に居心地の悪そうな顔をした。
夜神月と違い、感じた事をそのままに表に出し、取り繕うという事をしない。゜
「なあ、そろそろ教えてくれないか?1%未満のがここにいる意味を。デザートを奢るために連れてきたんじゃないだろう?」
「もちろん、テストのためですよ。…他の刑事たちと同じようにさんにも聞きます。…さんが仮にLだとして、キラの可能性のある者に相対したら、キラであるかどうか…どうやって確かめようとしますか?」
2人ともに疑惑をかけていて、両者ともにテストしたいと言って連れてきたのだから、
いずれこうなる事はわかっていたはずだ。
だというのに、彼女は目を丸くして、きょとんとしている。
自分は完全に蚊帳の外だと思っていたのだろう、その証拠に、今彼女の口にはパフェが含まれていて、咀嚼するのに忙しい。
夜神月はいつでも私の問いに答えられるよう、会話の切れ目にしかコーヒーを口にしない。
しかし彼女は、ずっとこうだ。気まぐれにデザートを頬張り、気まぐれにナプキンで手遊びをする。
疑惑を向けられてる事で、居た堪れなくなった様子もない。
──自分が潔白である、という自信から来る余裕なのか?そうでもなければ、こうも呑気に食事していられないだろう。
何かを食べたまま会話する事は出来ないらしく、口の中のものを嚥下した後、
水を口に含んでからやっと、口を開き始めた。
「そもそも、私はキラ疑惑のある人と出会っても、その正体を確かめようとはしないと思うけど…。…それに、もう月くんが模範解答してしまったから…
どんな質問をされても、月くんの言う通り!としか言えないよ?本当に私に素で答えてほしいと思ってたら、月くんより先に、私に質問していたはずだよね」
彼女は小首を傾げながら言い、同意を得るようにしながらちらりと隣の夜神月の反応を伺った。
もし彼等が共謀関係にあるなら、ここで答えを示し合せるような仕草を取るのは下策でしかない。
そんな事も解らぬ間抜けか、それとも白だからこその反応か…。
テニスの試合を観戦していた時のは、ひたすら楽しそうににこにこ笑っていた。
しかしこの喫茶店にやってきてからのは、ひたすら困ったように眉を下げている。
ここで容疑をかけられた人間が取るべき最も正常な反応は"緊張"であるけれど…
妙なテストをさせられ、意図の分からぬ質問をされ、困る…というのもまた間違った反応ではない…か。
「流河くんは私をここに同席させて、何を観察したいのかな。私はそれが気になるけど…その答えを知ってしまったら、流河くんの見たい私の素の姿が見れなくなっちゃう?それなら、聞かないでおく」
「…半分正解、半分不正解です」
「それは…つまり、どういうこと?」
抜けているようで、案外鋭い所をついてくる。…かと思えば、己の理解力のなさを恥じる事なく、素直に聞いてくる。
彼女の反応をじっと伺いつつ、少しの機微の揺れも見逃さないようにする。
「月くんと同じ内容のテストをさせたいのではありません。意味も分からずここに…"月くんの隣に"座らされて、あなたがどういう反応をして、どういう感想を発するのかが知りたかった」
「そう…そうだったんだ。…%は変わった?」
「少し上がりました。でもやはり1%未満のままです。捜査協力は結構です」
「それは、よかった。私に捜査とか推理なんて、難しいことはできないから…身の丈に合わない場所に行かされても困ったと思うし」
夜神月が自分の高い知性を正しく認め、考えに自信を持っているのに対し…
は利口に状況をわきまえていた。自分を過小評価しすぎた自己卑下とはまた違う。分相応をわきまえている、という言葉が適切だと思った。傷付いた様子はない。
しかし、夜神月は違った。今で涼やかな表情を浮かべていたというのに、
あからさまに気を害した表情を浮かべ、眉を寄せている。
このタイミングで気を悪くする理由──が過小評価され、彼女自信もその評価を受け入れた事に対する不満。
そうとしか考えられない。…私は事実を言ったまでだ。彼女もその通りである、と受け入れている。
しかし夜神月にとってはそうではない──
…──彼女を自分同様、賢い人間・同レベルの人間だと認めているからか?
しかしの受験時に出した点数も内密に調べさせたが…中の上と言ったところか。首席の彼とは違い、凡庸であると言っていいだろう。
とはいえ、人間の知能は学力だけで測れるものではない。に可能性を見出している…?
──命の恩人。夜神月は幼少期彼女と共に拉致監禁され、彼女のおかげで助かったと証言している…
──盲目的な信仰。美化、神格視…或いは実際に、は私が思うよりも賢く、状況を理解して振舞っている…
──人形めいてる。其の場に合わせて喜怒哀楽を操り、独りでいる時はそれが無用とばかりに感情を亡くす。なんてつかみ処のない──
自尊心やプライドが高い夜神月と違い、の理念は、掴む事が難しい。
は、夜神月が不機嫌になった事に私同様に気が付いている様子だった。しかし、何も言わない。顔色を伺い、媚びへつらうような事もしない。
夜神月の事を理解し、許容している。には夜神月の心情が理解できている──
「では、さんのテストはこれでほぼ終了です」
「はやい…」
「ほぼ、と言いましたよ。ここに同席することに意味があるんです。…ですので、月くんのテストに戻ります」
こんな短い質疑応答に意味はあったのか?と彼女のは困り顔をしているが、十分に収穫はあった。
通りすがった店員に角砂糖の追加を頼み、すぐに運ばれてきたそれを、カップの中に投入する。
ぐるぐるとティースプーンでかき混ぜながら、今度は視線を夜神月へと戻す。
「正直に言うと、さっき夜神くんが言った説は当たっていて、今Lと名乗ってる者は私だけではありません。
私はたとえ夜神くんがキラであっても、夜神くんに捜査協力してもらえればいいだけの立場にあるんです。この理屈わかります?」
「僕が協力すれば捜査も進むかもしれないと同時に、もしキラならボロを出すかもしれない……つまり捜査と取り調べを一度に出来る。良い考えだと思うよ」
夜神月は涼しい顔を崩さずに、カップに口をつける。
人は自分に都合の悪い流れが出来上がると、飲み物を飲む事で時間稼ぎをしたり、平静さを保とうとする。
しかし彼が飲みものに手をつける時の仕草やタイミングに違和感はなく、不信感を抱かせない。完璧だ。…そう。完璧すぎる…
「何か勘違いしてないか?流河。確かに僕はキラ事件に興味を持ち趣味で推理もしてるが…僕はキラじゃないから。キラに殺されるのはごめんだ」
彼は持っていたカップを"ごく自然に"ソーサーに置きながら、真剣な面持ちで話した。
「信用できない人間に強力してキラに殺されるより、一人で趣味として考えていてた方がいい。それに流河だってキラじゃない証拠は何もないんだ。
つまり僕と流河は同じ立場でしかないんだよ。僕の身になって考えてみろよ。片方が取り調べまがいな事をするのはおかしいだろ?」
腕を組み、彼は友好的な語り口を崩した。彼はこの状況の理不尽さを説き、糾弾する。
「二人共傍から見たらただの大学生じゃないか。いや、どちらかと言うと流河の方がキラっぽいって言われるよ。どっちもキラじゃないなんて証明はできない。しかし流河はL、もしくはLの代役だというのなら、その証明はできるはずだ。僕が信用できる者…例えば祖朝本部の一員だと僕の目の前で証明してもらう事だ。
僕がキラじゃないと証明できなければ、それはできないと言い張るなら、一緒に捜査する事はできない」
よく喋るな夜神月…負けず嫌いの典型だ…7%…もしかして本当に…
しかし夜神月がそんな己と"同格"だと思っている疑惑のあるは、ただ静かにやり取りを見守っている。問いかけられた時のみ受け答えし、口数は多いとは言えない。
負けず嫌いの反対…付和雷同のようも感じられる。
「「捜査本部の者に会わせない」なんてそんな事一度も言ってませんよ?
今私捜査本部で、夜神くんのお父さんたちと共に捜査をしています。
その捜査本部に夜神君を連れていけば捜査に強力して頂ける。そう解釈していいんですね?」
言うと、夜神月は平静を崩し…確かに目を見張っていた。こんな事を言われるなんて思ってもみなかった、という反応。
の方は、言葉の重みには気づいていない…かのように見える。
そう見せるよう振舞っている可能性もあるが、少なくとも彼のような"揺らぎ"は見られない。
その瞬間、「ピピピ」と自分の携帯が着信音を響かせたのに気が付いた。
ポケットから取り出しつつ、「失礼します」と一言断ってから電話に出る。
「…どうした?」
「あ、僕も…」
私が受話器の向こうから告げられた言葉に衝撃を受けていた頃、夜神月も先程の私と同じように着信を知らせる携帯をポケットから取り出し、耳にあてた。
『ライト…お父さんが…!』
受話器の向こうで、私と同じ事を告げられたのだろう。夜神月はバッと顔を上げて、お互いの顔を見合わせた。
「夜神くん、お父さんが…!」
「父が心臓発作…」
「「まさかキラに…」」
そこからはお互い示し合せるでもなく、同時にバッと席から立ち上がった。
状況を理解していないは、きょとんとしながら座っている。
夜神月が「外に出よう」と言って荷物を持つよう促し、彼女の手を引いている間、
私は伝票をレジに持っていき、十分な額の札を叩きつけた。
「おっお客様お釣りは…!」
店員の困惑する声にも振り返らず、3人で店を出る。
多すぎる金をもらった所でチップにする事も出来ず、扱いに困る事になるのだろうが、
お釣りを受け取る時間すら惜しい。
「…父さんが心臓麻痺で倒れたらしい。僕と流河は、今から病院に駆けつける」
店先で夜神月がにそう説明すると、不安そうに瞳を揺らがせた。
夜神家と家は昔から懇意にしている。少なからず心配だと思う気持ちはある…
いや、駆け付けたいと思ってもおかしくない程に親密なはずだ。
しかし、彼女は意を決したように、こう告げた。
「あのっ!私はいきませんっ!」
「え、…?」
「総一郎さんの事、凄く心配だけど…多分幸子さんも行ってて、月くんもこれから行って、仕事仲間の流河くんまで行って。そんな大勢の中、私がいくのは場違いだと思うから。…テストの時と一緒。居て無意味ではないけど、いなくても、大きな痛手にはならないよ」
やはりは分相応をわきまえている。そう感じた通りの発言をした。
私のこの感想には、侮蔑の意味など少しもこもっていない。
しかし夜神月には違ったようだ。自分と同格と思っている相手を下に見ていると思わせる発言を私がしたからか…に過小評価にもとれる発言をさせたからか。
夜神月は明らかに、私に憤怒の感情と視線を向けた。
…彼であれば、それを隠そうと思えば隠せたはずなのに。
隠さない理由は…「彼女のために憤ってる」と見せたいから。
或いは、隠す余裕などない…隠せなくなる程、夜神月の中にある重要な琴線に私が触れたから。
──或いはこの全てが嘘。この全てが推理を錯乱させるためのフェイク…
考えだしたら切はないが…
「さんを軽んじたつもりはないのですが…そう感じさせたのなら謝ります。ただ、病室がいっぱいになるという点を考えると、確かに人数は減らした方がいいですね」
憤っているのは夜神月だけだ。しかしだからと言って、対して謝る相手は彼ではない。
私は彼女に向けて、謝罪をした。
すると思っていた通り、彼女は困ったように笑いつつ、手をひらひらと振った。
「気にしてないから謝らないで。…でも、そうでしょう?私はまた改めてお見舞いにいけばいいから。…総一郎さんはきっと大丈夫」
──大丈夫。この言葉には驚かされた。
心臓麻痺を起こした犯罪者が、死を免れた前例などありはしないのに。
夜神総一郎は犯罪者でなく、潔白だから大丈夫だと思っているのか?
いや、息子である夜神月を落ち着けされるためのフォローだとしても、根拠のない慰めは傷を抉り、逆上させかねない、悪手だ。
後先を考えず、其の場しのぎの言葉を口にしたか…
ちらりと、夜神月の反応をみるため、私は彼へと視線をやる。
その彼の反応にも、私は驚かされた。
「…が大丈夫と言うと、本当に大丈夫だと思えるよ」
彼は眩しいものでも見るかのように目を細めていた。
彼女の何の根拠のない大丈夫を、愚かだと糾弾することはなかった──
…それは彼が彼女を自分と同格の存在だと思っているから…という仮説だけでは納得できない。
…彼女を盲目的に愛しているから?テニスの試合の後のやり取りも、喫茶店で滞在している時のやり取りも──
信頼のおける、気の置けない幼馴染とのコミュニケーションだった。
…彼女を信頼しているから、彼女の言葉も信頼している。
あまりにも純粋な信頼関係だ。
しかし私の中にある"キラ像"にはそぐわない。キラは人を見下し、人を心から信用しようとしないだろう…
信頼し、尊敬できる人間がいたとすれば、神気取りの"裁き"など…。
を同席させテストをした甲斐はあり、収穫は多かった。しかしその収穫のせいで、
また分からない事も増えた。
私は、夜神月をキラだと疑っている。そして私は、キラが愛を知る人間だとは思わない。
だからどうしても私には、夜神月がを愛しているとは、信じられないでいる──。
5.彼等の記録─愛を知らぬもの
夜神月に案内された喫茶店に入店して早速、私達は注文を伺いにテーブルにやってきた店員に各々希望を伝えた。
「私はコーヒーで。ミルクと砂糖は多めでお願いします」
「僕もコーヒーでお願いします」
女性の店員が「はい」と頷いたあと、しんと沈黙が流れた。
この席に座っているのは3人だ。3人目の注文が言葉にされない事で、店員が困惑している。
「お客様は…もうお決まりでしょうか…?」
「あ、あの……えっと…」
は店員に改めて伺われて、気まず視線をそらす。
じっと反応をみるも、一体何が彼女をこうもしり込みさせているのか、私にはわからない。
コーヒーか、紅茶か、或いはその他か。伝えればいいだけなのだ。
しかし夜神月は何に迷っているの気付いたらしく、小さく耳打ちをしていた。
「、デザートも頼んでいいからね」
他人に聞こえないように配慮された囁きだったが、流石に真向かいに座る私には届いた。
しかし、店員は立っているし、店内にはBGMも流れている上に、他の客の雑談も聞こえている。彼女には聞こえなかった可能性は高い。
夜神月に気遣われると、ホッと安心したような表情をみせて、今度こそ注文をした。
「これと、これください…」
声に出すのは恥ずかしいらしく、店員にメニューを見せて、指をさし注文していた。
微笑ましそうな表情を浮かべた店員は頷き、奥へと引っ込んだ。
「…月くん、ありがとう…」
「お礼を言われるようなことはしてないよ」
もうそんな必要はないというのに、礼を言うの声はまるで内緒話をするかのよう
小さい。
夜神月の囁きにつられたのだろう。彼もそれが分かって、くすくすと笑っている。
「ずいぶん仲がいいんですね、お二人は」
は基本的には喜怒哀楽が表に出やすく、とても分かりやすい人間のようだ。
それを夜神月も微笑ましく見守り、気遣い、好ましいと思いながら接しているのがわかる。
「それは否定しないよ、幼稚園から一緒の"幼馴染"だしね…この喫茶店にも僕たち2人でよく来るんだ。ここはお気に入りでね。奥の席に座れば人に会話を聞かれることはない」
「いい喫茶店を教えていただきました」
夜神月が案内した喫茶店は、確かに公にしたくない話をするには相応しい場所といえた。
一番奥、壁に背をする形で私が座り、その向かいに夜神月とが揃って座っていた。
「ここならその座り方もそんなに気にする事もないしね。はは」
「ああ…私はこの座り方でないと駄目なんです。一般的な座り方をすると推理力は40%減です」
「ああ…足を組むみたいな感じかな?ちょっとわかるかも」
が同調するように言うと、「…、足なんて組むの?」と夜神月が驚いていた。
「見た事ないんですか?幼馴染なのに」
「幼馴染相手でも、人前ではしないようにしてきたから」
「そうですか。躾が行き届いてるんですね」
「うーん…?」
はしっくりこないような感じで首を捻ってる。
夜神月も不可解そうな顔をしているので、躾の一貫でそうしている訳ではないのだろう。
家の両親は放任主義で、子供の教育や躾には興味がないのだという事前情報もある。
それを知っても尚、私が「躾」などと口にしたのは、反応がみたかったからだ。
結局、からは何も引き出せず、夜神月も不思議そうにしているだけ。
よって、見切りをつけて、本題に入る事にして。
「で、夜神くん、私に頼みたいことって?」
「ああ、それは僕がキラじゃないとわかってからでいいよ、流河の方から好きに話してくれ」
本題を切り出す前に、余計な話をして時間を浪費したせいだろう。
会話を始めるよりも、注文した品が運ばれてきて、テーブルに並べられる。
コーヒーが三つと、パフェが一つ。
確かミニパフェを頼んでいたはずだし、ガラスの容器は確かに小さい。しかし器から零れそうなほどにマシュマロやら苺やらクッキーやらが乗っていて、
明らかにメニューに載っている写真や値段と釣り合わない。
最初私はパフェを作った店員のミスだと思った。しかし真実は、と店員の親し気なやり取りを聞いて、すぐに理解した。
「お待たせいたしました」
「いつもありがとうございます、田中さん」
「いいえ、昔からご贔屓にしてくださって、こちらこそありがとうございます。さん、夜神さん」
常連客だから贔屓されたのだ。ネームプレートがついてる店員の事を呼ぶだけならまだしも、
店員が客の名前まで認知し、挨拶を交わしあってる。経緯はわからないが、長年定期的に足を運び、こんな待遇を受ける程に至ったという結果は理解した。
愛想よく話すとは反対に、夜神月は薄っすら笑みを浮かべて会釈するのみ。
感じは悪くないが、特別よくもない。
店員は常連客だからと長居することなく、挨拶だけするとすぐに去っていった。
「月くん、一個あげる」
「…じゃあ、もらおうかな」
「流河くんにも一個あげるね。コーヒーにいれたらきっとおいしいよ」
「それはやった事ありませんでした…もらいます」
ミルクと砂糖多めでと注文した通り、店員は通常より多くの角砂糖を小皿に盛り付けてくれていた。その数、3個。
通常1個の所を3個にしたのだろうから、"多め"と言えるだろうが、私にとっては少ないと感じらせる。なので、の善意はありがたく受け取り、
角砂糖とマシュマロ全てをコーヒーにいれてティースプーンでかき混ぜた。
「……じゃあ、失礼とは思いますが…夜神くんとさんの推理力をテストしてみていいでしょうか?」
「……ん、私も?」
「ああ、僕はいいよ、面白そうだ…でも。のテストまでする必要があるのか?キラ疑惑が一%未満のでさえも、テストの結果次第では捜査に協力させたいと?」
「それはテストの可否に関わらず、考え中です。でも、夜神くんに捜査協力を頼むというのは、ほぼ確定事項です」
「おいおい、まだテスト、始まってもいないじゃないか」
はは、と爽やかに笑う夜神月に対して、私は本題を切り出した。
「私がLと名乗り出た事から何かわかりますか?」
「ん…そうだな…僕の手腕に期待している事…と…キラの可能性がある者にLが名乗り出ても殺されないと考えた事…あるいは名乗り出ても殺されない工夫をしてある…
そうすると現在の報道でキラが殺人に必要なのは顔とされているが、顔意外に何か必要なのかもしれない」
一口、口に含んでいたカップをソーサーに置きつつ。彼口元に手をやりながら、考える仕草をするいかにも好青年のような笑みも、その仕草さえも、
演技臭いと思うのは、勘繰りすぎだろうか。
「だとすれば、顔意外に必要なのは名前。それはLなら常に偽名を使うだろうけど、わざわざ日本人のほとんどが名前も顔も知ってる流河旱樹と名乗った事から推測できる」
「正解です」
「ずいぶん簡単に「正解」っていうんだな」
「私に正解を隠す必要がありますか?」
「本物のLは今もこれからも危険のない所にいて、警察などの手を借りる時でも影で指揮を執る存在であるべきだ」
「なるほど…確かにLと名乗った者には危険かが伴うし今まで姿を現さなかった意味もなくなる…本物のLが出て来るのは馬鹿げている…」
親指を噛みながら「正解」というと、夜神月はおかしそうに笑っていた。
しかしすぐに神妙な面持ちに切り替えて、冷静にこう話した。
「でも僕は結構流河が本物じゃないかとも思ってるんだよ」
「と言うと?」
「Lに対して普通の人はもっ高年齢な探偵とか刑事風の人間をイメージするだろう。流河は代役にしてはあまりにも嘘っぽい。それは本物だから…」
夜神月はよく喋る。そのせいだろうか。会話だけに夢中になる事はなく、定期的にコーヒーを口に含んでいた。
「そこまで計算して代役を選んでいる可能性は?」
「うーん、Lという人ならそこまでやりそうだな。裏の裏の裏と考えていくときりがない。さすがに頭がこんがらがってきた」
はは、と明るく笑う夜神月の横ではが机の上で何かを作っている。
こんもりとしたパフェの上層と戦うのに飽きたらしい。
各テーブルに備え付けてあるナプキンスタンドから、何枚か拝借し、それを折っていた。
それが折り終わると、どうやら花や鳥やハートの形になるらしい。
机の上にはいつの間か、が作った折り紙でいっぱいになっていた。
それを責める気にはなれない。2人にテストをしたいのだと言いつつ、私は夜神月にかかり切りで、をずっと放置しているのだから。
手遊びに夢中で、一切話を聞いてなかったとしても、やはり仕方がないと言えた。
「捜査協力をお願いする前提で何もお見せしないのも失礼ですから。
一般には報道されてない情報です。これでまた推理してみてください。これはキラに殺されたFBI捜査官12人の死亡の順と、彼らがファイルを得た順を表にしたものです」
私は自身の左ポケットをまさぐり、その中から、紙を取り出した。
机に広げた大きめの紙は、FBI捜査官12人の死亡順のリストそして小さめの三枚は写真だ。
「そしてこの三枚はキラが刑務所内の犯罪者を操って死ぬ前に書かせたと思われる文章の写真です」
夜神月は写真より先に、まずFBI捜査官の書類を手にし、表情も変えずにそれを読んでいた。
「まずFBIの資料をみて、何かわかりますか?」
「ん?そうだな…」
私は親指を噛みながら、じっと夜神月の反応を伺った。
「流河…このFBIの得たファイルって何のファイルだ?それがわからない僕には推理しようがないな」
右手でFBI関連の書類を持ち、左手をひらつかせて、さっぱりわからない…といったジェスチャーをした。
夜神月が座っているのは通路側だ。
普通こういう時は、女性を通路側に座らせるものだという事は、知識として持っている。
それか、左利きの人間であれば、壁際に追いやられるだろう。しかしは普通に右利きだ。
夜神月は、自分が壁になり、通路側を歩く人間からの好奇の視線から守ることにしたのだろうと思った。
の眼前に手をのばして、壁際にあるナプキンスタンドから一枚抜き取った。
そして、いつの間にかクリームが頬についていたらしい、の口元を優しく拭ってしいた。
「ついてるよ」
「ん…」
まさか自分に話しかけられたり、様子を伺われてるとは思っていなかったらしい。
私と夜神月が討論を重ねている間、完全に自分は孤立していると思っていたようだ。
口元を覆う手は優しく、驚かせるようなものではない。だというのに、驚いたリアクションを取っているというのは、そういう事なのだろう。
「相変わらず仲がいいですね」
私が言うも、2人は否定も肯定もしなかった。ここまで来て、わざわざわ聞くことか?
解りきっているだろう──…という、夜神月の心の声が聞えてきそうだ。
私としても、これ以上話が脱線する事は歓迎できない。
何食わぬ顔で、テストの続きを始めた。
「あっすみません…日本に入ったFBI捜査官がお互いを確認するための全員の名前と顔が入ったファイルです。そして手に入れた日に皆が亡くなりました…」
「それなら…キラは殺人に顔が必要…もしかしたら名前も…その両方が入ったファイルを得たその日に全員死亡…キラはこのファイルを得て彼らを殺した可能性がある」
「では写真の方は?」
「この三枚の写真は面白いよ」
FBIの資料を見せられ困っていたのとは対極的に、写真を手にとった夜神月は笑みを浮かべている。
「キラが死だけではなくその人間の行動を操れるというのが本当ならすごい事実だし、しかもこれがキラが書かせようとした文章と推測できる。Lをからかうような文章が暗号化されてるいからね」
夜神月は机の上に写真置いて、順番に並べ替えた。それに合わせて、は折り紙やパフェの器などを、端に寄せていた。
この席は内緒話をするにはいが、欠点を言うなら、狭いという一言に尽きる。
2人となり合って座るのがやっとの所、ごちゃごちゃと並べれば、陣取り合戦にもなるだろう。
「それぞれの文章の一番上の文字だけ取って左から読むと、また文章になる。違和感のない様に並べるならそうだな…「L知ってるか 死神は 林檎しか食べない」かな…?」
少し間をおいて、「でも…」と続ける。
「写真の裏にプリントナンバーが入ってる…その順に並べると──「L知ってるか 林檎しか食べない 死神は」だ。少し不自然でキラがLにこう読ませようとしたと考えにくいけどね」
「不正解です。…実4枚目の写真があるんです。これを加えるとこうなります。「L知ってるか 林檎しか食べない 死神は 手が赤い」」
ポケットに再び手をかけて、私は四枚目の写真をポケットから取り出した。
そして机の上に四枚の写真を並べると、少し難しい顔をする。
そうしたくもなるだろう。私だって逆の立場で同じ事をやられていたら、嫌な気分になる。
しかしそれを解っていながら私は"あえて"夜神月の不快感を煽る。
「しかし3枚だけな僕の推理で完璧じゃないか」
「完璧ではありません、事実4枚あったのですから、そこまで推理して完璧です。夜神くんは3枚しかないと決めつけ4枚目を推理できなかった、これも事実です」
夜神月はそれに気が付いたのだろうか。それとも素で好青だからだからだろうか。
後出しじゃんけんのイカサマだと憤慨する事はなく、にこやかに笑っている
「うーんそこまでは推理できなかったな…まあどっちにしろキラに迫れる文章ではないね…死神なんているわけないし」
「ではもし夜神くんがLだとして、キラの可能性のある者に相対したら、キラであるかどうかどうやって確かめようとしますか?」
「一般には報道されていない、キラにしか知り得ない事を相手に喋らせる…今流河がしている事だ」
夜神月が私を人差し指で指さしながら言うと、が唐突に夜神月の手に触れた。
両手の平を乗せて、ぐぐっと力をこめ、机の上にまでおろされていた。
そして最後にぺしりと夜神月の手の甲を叩く。
幼馴染の間柄であっても、お行儀が悪いからと気にして足を組まなかった人間だ。
人を指さすなど行儀が悪いと窘めているのだろう事は、付き合いの短い私にすらわかった。
ここで「本当に仲睦まじい」などと突っ込んでもまた睨まれるだけ。
私は見なかった事にして、話の先を続けた。
「すごいですね…今と同じ質問を何人かの刑事にしたのですが、答えるまでに数分考えるものがほとんど。そのあげく誰でも知っているような犯罪者を前に出し、殺すかどうかどこかで見ているなど…ろくな答えじゃなかった…しかし夜神くんは瞬時に捜査する者と話をする時のキラの立場で考えられた。…すごいです。夜神くんの推理力は」
言うと、夜神月は少し私の真意を探るように目を細めた後、すぐに明るく場を切り替えるように話す。
「はは…あまり卓越した考え方をすると疑いが濃くなるみたいじゃないか」
「はい。3%に…しかしその分一緒に捜査したいと思う気持ちも強くなります」
「3%ね…」
3%。その言葉に含みを持って夜神月が復唱したその意味は、私にも容易に理解できた。
ちらりとの方へ視線をやると、夜神月も倣うようにして彼女へ視線を向けた。
。1%未満の疑いをかけていると私が宣言した娘。
彼女は自分に一斉に視線が向けられた事で、露骨に居心地の悪そうな顔をした。
夜神月と違い、感じた事をそのままに表に出し、取り繕うという事をしない。゜
「なあ、そろそろ教えてくれないか?1%未満のがここにいる意味を。デザートを奢るために連れてきたんじゃないだろう?」
「もちろん、テストのためですよ。…他の刑事たちと同じようにさんにも聞きます。…さんが仮にLだとして、キラの可能性のある者に相対したら、キラであるかどうか…どうやって確かめようとしますか?」
2人ともに疑惑をかけていて、両者ともにテストしたいと言って連れてきたのだから、
いずれこうなる事はわかっていたはずだ。
だというのに、彼女は目を丸くして、きょとんとしている。
自分は完全に蚊帳の外だと思っていたのだろう、その証拠に、今彼女の口にはパフェが含まれていて、咀嚼するのに忙しい。
夜神月はいつでも私の問いに答えられるよう、会話の切れ目にしかコーヒーを口にしない。
しかし彼女は、ずっとこうだ。気まぐれにデザートを頬張り、気まぐれにナプキンで手遊びをする。
疑惑を向けられてる事で、居た堪れなくなった様子もない。
──自分が潔白である、という自信から来る余裕なのか?そうでもなければ、こうも呑気に食事していられないだろう。
何かを食べたまま会話する事は出来ないらしく、口の中のものを嚥下した後、
水を口に含んでからやっと、口を開き始めた。
「そもそも、私はキラ疑惑のある人と出会っても、その正体を確かめようとはしないと思うけど…。…それに、もう月くんが模範解答してしまったから…
どんな質問をされても、月くんの言う通り!としか言えないよ?本当に私に素で答えてほしいと思ってたら、月くんより先に、私に質問していたはずだよね」
彼女は小首を傾げながら言い、同意を得るようにしながらちらりと隣の夜神月の反応を伺った。
もし彼等が共謀関係にあるなら、ここで答えを示し合せるような仕草を取るのは下策でしかない。
そんな事も解らぬ間抜けか、それとも白だからこその反応か…。
テニスの試合を観戦していた時のは、ひたすら楽しそうににこにこ笑っていた。
しかしこの喫茶店にやってきてからのは、ひたすら困ったように眉を下げている。
ここで容疑をかけられた人間が取るべき最も正常な反応は"緊張"であるけれど…
妙なテストをさせられ、意図の分からぬ質問をされ、困る…というのもまた間違った反応ではない…か。
「流河くんは私をここに同席させて、何を観察したいのかな。私はそれが気になるけど…その答えを知ってしまったら、流河くんの見たい私の素の姿が見れなくなっちゃう?それなら、聞かないでおく」
「…半分正解、半分不正解です」
「それは…つまり、どういうこと?」
抜けているようで、案外鋭い所をついてくる。…かと思えば、己の理解力のなさを恥じる事なく、素直に聞いてくる。
彼女の反応をじっと伺いつつ、少しの機微の揺れも見逃さないようにする。
「月くんと同じ内容のテストをさせたいのではありません。意味も分からずここに…"月くんの隣に"座らされて、あなたがどういう反応をして、どういう感想を発するのかが知りたかった」
「そう…そうだったんだ。…%は変わった?」
「少し上がりました。でもやはり1%未満のままです。捜査協力は結構です」
「それは、よかった。私に捜査とか推理なんて、難しいことはできないから…身の丈に合わない場所に行かされても困ったと思うし」
夜神月が自分の高い知性を正しく認め、考えに自信を持っているのに対し…
は利口に状況をわきまえていた。自分を過小評価しすぎた自己卑下とはまた違う。分相応をわきまえている、という言葉が適切だと思った。傷付いた様子はない。
しかし、夜神月は違った。今で涼やかな表情を浮かべていたというのに、
あからさまに気を害した表情を浮かべ、眉を寄せている。
このタイミングで気を悪くする理由──が過小評価され、彼女自信もその評価を受け入れた事に対する不満。
そうとしか考えられない。…私は事実を言ったまでだ。彼女もその通りである、と受け入れている。
しかし夜神月にとってはそうではない──
…──彼女を自分同様、賢い人間・同レベルの人間だと認めているからか?
しかしの受験時に出した点数も内密に調べさせたが…中の上と言ったところか。首席の彼とは違い、凡庸であると言っていいだろう。
とはいえ、人間の知能は学力だけで測れるものではない。に可能性を見出している…?
──命の恩人。夜神月は幼少期彼女と共に拉致監禁され、彼女のおかげで助かったと証言している…
──盲目的な信仰。美化、神格視…或いは実際に、は私が思うよりも賢く、状況を理解して振舞っている…
──人形めいてる。其の場に合わせて喜怒哀楽を操り、独りでいる時はそれが無用とばかりに感情を亡くす。なんてつかみ処のない──
自尊心やプライドが高い夜神月と違い、の理念は、掴む事が難しい。
は、夜神月が不機嫌になった事に私同様に気が付いている様子だった。しかし、何も言わない。顔色を伺い、媚びへつらうような事もしない。
夜神月の事を理解し、許容している。には夜神月の心情が理解できている──
「では、さんのテストはこれでほぼ終了です」
「はやい…」
「ほぼ、と言いましたよ。ここに同席することに意味があるんです。…ですので、月くんのテストに戻ります」
こんな短い質疑応答に意味はあったのか?と彼女のは困り顔をしているが、十分に収穫はあった。
通りすがった店員に角砂糖の追加を頼み、すぐに運ばれてきたそれを、カップの中に投入する。
ぐるぐるとティースプーンでかき混ぜながら、今度は視線を夜神月へと戻す。
「正直に言うと、さっき夜神くんが言った説は当たっていて、今Lと名乗ってる者は私だけではありません。
私はたとえ夜神くんがキラであっても、夜神くんに捜査協力してもらえればいいだけの立場にあるんです。この理屈わかります?」
「僕が協力すれば捜査も進むかもしれないと同時に、もしキラならボロを出すかもしれない……つまり捜査と取り調べを一度に出来る。良い考えだと思うよ」
夜神月は涼しい顔を崩さずに、カップに口をつける。
人は自分に都合の悪い流れが出来上がると、飲み物を飲む事で時間稼ぎをしたり、平静さを保とうとする。
しかし彼が飲みものに手をつける時の仕草やタイミングに違和感はなく、不信感を抱かせない。完璧だ。…そう。完璧すぎる…
「何か勘違いしてないか?流河。確かに僕はキラ事件に興味を持ち趣味で推理もしてるが…僕はキラじゃないから。キラに殺されるのはごめんだ」
彼は持っていたカップを"ごく自然に"ソーサーに置きながら、真剣な面持ちで話した。
「信用できない人間に強力してキラに殺されるより、一人で趣味として考えていてた方がいい。それに流河だってキラじゃない証拠は何もないんだ。
つまり僕と流河は同じ立場でしかないんだよ。僕の身になって考えてみろよ。片方が取り調べまがいな事をするのはおかしいだろ?」
腕を組み、彼は友好的な語り口を崩した。彼はこの状況の理不尽さを説き、糾弾する。
「二人共傍から見たらただの大学生じゃないか。いや、どちらかと言うと流河の方がキラっぽいって言われるよ。どっちもキラじゃないなんて証明はできない。しかし流河はL、もしくはLの代役だというのなら、その証明はできるはずだ。僕が信用できる者…例えば祖朝本部の一員だと僕の目の前で証明してもらう事だ。
僕がキラじゃないと証明できなければ、それはできないと言い張るなら、一緒に捜査する事はできない」
よく喋るな夜神月…負けず嫌いの典型だ…7%…もしかして本当に…
しかし夜神月がそんな己と"同格"だと思っている疑惑のあるは、ただ静かにやり取りを見守っている。問いかけられた時のみ受け答えし、口数は多いとは言えない。
負けず嫌いの反対…付和雷同のようも感じられる。
「「捜査本部の者に会わせない」なんてそんな事一度も言ってませんよ?
今私捜査本部で、夜神くんのお父さんたちと共に捜査をしています。
その捜査本部に夜神君を連れていけば捜査に強力して頂ける。そう解釈していいんですね?」
言うと、夜神月は平静を崩し…確かに目を見張っていた。こんな事を言われるなんて思ってもみなかった、という反応。
の方は、言葉の重みには気づいていない…かのように見える。
そう見せるよう振舞っている可能性もあるが、少なくとも彼のような"揺らぎ"は見られない。
その瞬間、「ピピピ」と自分の携帯が着信音を響かせたのに気が付いた。
ポケットから取り出しつつ、「失礼します」と一言断ってから電話に出る。
「…どうした?」
「あ、僕も…」
私が受話器の向こうから告げられた言葉に衝撃を受けていた頃、夜神月も先程の私と同じように着信を知らせる携帯をポケットから取り出し、耳にあてた。
『ライト…お父さんが…!』
受話器の向こうで、私と同じ事を告げられたのだろう。夜神月はバッと顔を上げて、お互いの顔を見合わせた。
「夜神くん、お父さんが…!」
「父が心臓発作…」
「「まさかキラに…」」
そこからはお互い示し合せるでもなく、同時にバッと席から立ち上がった。
状況を理解していないは、きょとんとしながら座っている。
夜神月が「外に出よう」と言って荷物を持つよう促し、彼女の手を引いている間、
私は伝票をレジに持っていき、十分な額の札を叩きつけた。
「おっお客様お釣りは…!」
店員の困惑する声にも振り返らず、3人で店を出る。
多すぎる金をもらった所でチップにする事も出来ず、扱いに困る事になるのだろうが、
お釣りを受け取る時間すら惜しい。
「…父さんが心臓麻痺で倒れたらしい。僕と流河は、今から病院に駆けつける」
店先で夜神月がにそう説明すると、不安そうに瞳を揺らがせた。
夜神家と家は昔から懇意にしている。少なからず心配だと思う気持ちはある…
いや、駆け付けたいと思ってもおかしくない程に親密なはずだ。
しかし、彼女は意を決したように、こう告げた。
「あのっ!私はいきませんっ!」
「え、…?」
「総一郎さんの事、凄く心配だけど…多分幸子さんも行ってて、月くんもこれから行って、仕事仲間の流河くんまで行って。そんな大勢の中、私がいくのは場違いだと思うから。…テストの時と一緒。居て無意味ではないけど、いなくても、大きな痛手にはならないよ」
やはりは分相応をわきまえている。そう感じた通りの発言をした。
私のこの感想には、侮蔑の意味など少しもこもっていない。
しかし夜神月には違ったようだ。自分と同格と思っている相手を下に見ていると思わせる発言を私がしたからか…に過小評価にもとれる発言をさせたからか。
夜神月は明らかに、私に憤怒の感情と視線を向けた。
…彼であれば、それを隠そうと思えば隠せたはずなのに。
隠さない理由は…「彼女のために憤ってる」と見せたいから。
或いは、隠す余裕などない…隠せなくなる程、夜神月の中にある重要な琴線に私が触れたから。
──或いはこの全てが嘘。この全てが推理を錯乱させるためのフェイク…
考えだしたら切はないが…
「さんを軽んじたつもりはないのですが…そう感じさせたのなら謝ります。ただ、病室がいっぱいになるという点を考えると、確かに人数は減らした方がいいですね」
憤っているのは夜神月だけだ。しかしだからと言って、対して謝る相手は彼ではない。
私は彼女に向けて、謝罪をした。
すると思っていた通り、彼女は困ったように笑いつつ、手をひらひらと振った。
「気にしてないから謝らないで。…でも、そうでしょう?私はまた改めてお見舞いにいけばいいから。…総一郎さんはきっと大丈夫」
──大丈夫。この言葉には驚かされた。
心臓麻痺を起こした犯罪者が、死を免れた前例などありはしないのに。
夜神総一郎は犯罪者でなく、潔白だから大丈夫だと思っているのか?
いや、息子である夜神月を落ち着けされるためのフォローだとしても、根拠のない慰めは傷を抉り、逆上させかねない、悪手だ。
後先を考えず、其の場しのぎの言葉を口にしたか…
ちらりと、夜神月の反応をみるため、私は彼へと視線をやる。
その彼の反応にも、私は驚かされた。
「…が大丈夫と言うと、本当に大丈夫だと思えるよ」
彼は眩しいものでも見るかのように目を細めていた。
彼女の何の根拠のない大丈夫を、愚かだと糾弾することはなかった──
…それは彼が彼女を自分と同格の存在だと思っているから…という仮説だけでは納得できない。
…彼女を盲目的に愛しているから?テニスの試合の後のやり取りも、喫茶店で滞在している時のやり取りも──
信頼のおける、気の置けない幼馴染とのコミュニケーションだった。
…彼女を信頼しているから、彼女の言葉も信頼している。
あまりにも純粋な信頼関係だ。
しかし私の中にある"キラ像"にはそぐわない。キラは人を見下し、人を心から信用しようとしないだろう…
信頼し、尊敬できる人間がいたとすれば、神気取りの"裁き"など…。
を同席させテストをした甲斐はあり、収穫は多かった。しかしその収穫のせいで、
また分からない事も増えた。
私は、夜神月をキラだと疑っている。そして私は、キラが愛を知る人間だとは思わない。
だからどうしても私には、夜神月がを愛しているとは、信じられないでいる──。