第60話
4.舞台裏見せてあげます

のリハビリ初日。松田さんという刑事からの監視の目はあるものの、"監視カメラ"の目から逃れられるという事で、は喜んでいる様子だった。
だけど僕にとってのリハビリ、回復というのは吉報ではない。
容疑を晴らすというのは簡単な事ではない。時間がかかって当たり前の事。
いつまで監視が続くか分からないのであれば、に不健康であってほしいと願ってしまうのは、人情というものだろう。
もう簡単に抱きしめる事すらできなくなる。そう考えると憂鬱で、キーボードを叩く指が疎かになっているのを自覚していた。
大体、ミサが着せたの私服も悪い。ロケの見学という名目で同行しているのだ。
きっと隅でじっとしているだけなのだろうが、今日の撮影は屋外で行うと聞いている。
野次馬たちに見られるかもしれないと思うと、益々気が重くなる。
指所か、思考も散漫になってる事をとうとう認め、僕は一度キラ事件から離れる事にした。まだ確信はないものの、怪しい動きのあったとある企業を調べるのを小休止し、
ミサが今日撮影に向かった公園の名前を検索エンジンに入力した。
すると、『〇〇TVに弥海砂』という見出しのニュース記事がヒットして、それをクリックして開く。
内容は、『映画主演が決まった人気急上昇中の若手タレントが、夕方の太陽テレビのニュース中継でその意気込みを語る。放映は16時15分から』という、出演情報を記載するだけのシンプルなものだった。
時計をちらりと見ると、現在時刻は16時5分。あと十分もすれば放送が始まる時間だった。


「…ミサが夕方の中継に出るらしい。珍しいな」

ミサの本業と呼べるものは、モデルだ。それに加えて、深夜テレビのアシスタントやラジオに出たり。そして今回女優デビューを果たしたりと、幅を広げてはいる。
けれど生中継でインタビューを受けるというのは、初めての事だろう。
僕の呟きを拾った相沢さんが、僕の捜査するパソコンの画面を覗き込み、感心したように頷いた。


「映画の主演は初めてなんだろう?注目されてるんだな」
「迂闊な発言、しないといいですけどね。生中継だとカットする、という事が出来ませんから」

そして竜崎がぽつりと最後に付け加えると、シン…と本部が一瞬静まってしまう。

「ま、まあ…弥もプロだろう?確かに普段の様子をみると、年相応といった様子だが…カメラが回れば、ちゃんとするだろう」

その沈黙を破り、父さんが場のフォローに徹した。


「なんだ。そんなに心配なら、皆で見るか?」
「……そうだね、父さん」

父さんは本気でミサを信じているようだったけど、僕は胸中を渦巻く嫌な予感が止められなかった。
僕はパソコンを操作し、モニターにテレビ画面を映し出すよう設定する。
そしてチャンネルを太陽テレビに合わせると、大画面に夕方のニュースが流れ出した。
今話題のトピックスをいくつか紹介していく、というコーナーらしい。
「行列のできるスイーツ店で、秋の食材をふんだんに使った新作デザートが話題に!」
という話題が終わると、次の画面へと切り替わった。

「私は今、紅葉が見ごろを迎えている〇〇公園に来ています」という女性リポーターの姿が映ると、カメラは彼女のバックに広がった公園の様子を強調するようズームする。
時刻は16時10分。公園の様子や、周辺で立ち寄れる店の情報などを流し、紹介していくようだった。
そして予定通り、16時15分になると、ミサの姿が映し出された。


女性リポーターさんが撮影中のミサにいくつか質問をして、ミサが笑顔でそれに答える画が流れ出す。


「──そして今日ここでは、西中監督の新作映画「春十八番」の主演女優に抜擢された、弥海砂さんが撮影を行っております。今日はそんなミサさんに、いくつか質問させてもらい、意気込みを語ってもらいます。──ミサさん、撮影はどんな様子ですか?」
「実は撮影が始まるのは明日からなんです!今日は別件。主演は初めてなんでちょっと緊張してたんですけど、事前の打ち合わせでも結構アットホームな現場って感じがして。楽しく撮影させてもらえそうかもー?って感じです」

ミサは物怖じする事はなく、当たり障りのない答えをしていた。
それを見て、本部の空気が緩んだ。父さんの言う通り、ミサはプロのタレントなのだ。
僕達はミサのあの素の性格を毎日間近でみている。それが故に、つい心配してしまったけれど。
表の顔くらい作れるだろう。それから二、三映画に関する質問が繰り返され、
新人女優というには緊張感のない受け答えだったものの──無難な答えを繰り返し、インタビューは終わった。
元々、このコーナー自体、時事ネタのいくつかを圧縮させたもので、1つの話題に割かれる尺は短い。
だというのに、その短時間で放送事故を起こす方が逆に難しかったかもしれない。
「ミサさん、今日はありがとうございました」とリポーターが区切り、インタビューが終わると、画面が切り替わった。
この生中継でのインタビューを行う前、事前に撮られていたであろうリプレイ映像が、場面を点々と変えて流れ出す。
ミサが台本を読む姿や、もう一人の主演男優流河旱樹の姿。
どこかの会議室だろうか。打ち合わせをしながら笑い合うアットホームなオフショット。
そしてリポーターが身振り手振りをし、撮影場所である公園の紅葉の美しさを説明するシーンが流れ、そのバックに──


「……今の」
「………映ってましたね」
「え?何が……」


僕と竜崎が強張った声で言うも、問題の箇所に気がつかなかったらしい、相沢さんは訝し気にしていた。


『ミサさんが主演を務める「春十八番」の公開は、2005年春頃!皆さん、お楽しみに!』


リプレイが終わり、中継場所にカメラが戻ったところで、リポーターの締め言葉によってミサのインタビューは終わった。
時刻は16時20分。五分足らずで終わる短いインタビューだった。
念の為録画しておいてよかった。僕は画面の1つに太陽テレビを流しながら、もう一つの画面に録画したインタビュー映像をもう一度再生させた。
そしてそれと平行して、パソコンで検索を繰り返す。
大型掲示板や個人ブログサイト、SNSなどで弥海砂の名前を片っ端から打ち込んだ。
すると、その全てから弥海砂に関する最新の情報が流れ出す。
主演男優である国民的アイドル、流河旱樹ほどの知名度はない。
ミサは今大衆に注目されだしたばかりの駆け出しだ。普段エゴサ−チをしても、一日数件か数十件、ポツポツと誰かがミサに関する情報を発信する程度のものだった。

だというのに、今日の情報量はおかしい。数十件どころか、何十件。いや何百もの人間が、弥海砂をワードに含めて、ネット上のあらゆる場所で発信していた。


「………嘘だろう」
「さすがに、私もこれは予想できませんでした」
「な、なんだ?どういう事だ?映画に主演する事で、弥が注目されたという事だろ?」
「いや、父さんこれは映画のせいじゃない…いや、ミサが注目された最初のきっかけはそれだっただろうけど…」


僕が愕然とし、竜崎がぽつりと言うと、父さんは意味がわからずに困惑していた。

「…やっぱり、リプレイ映像にも映ってるな」
「小さいですけど、そこに注目して見れば識別はできますね」
「……ああ!リポーターの後ろに、弥海砂とが映ってるのか」

僕がエゴサーチをする手は止めず、モニターのあちこちにサイトを展開させつつ、リプレイ映像を一時停止させた。
紅葉に注意させようとしてリポーターが身振り手振りをし、カメラが角度を変えて、その手元の方に動きを移した。
そうすると、紅葉を楽しんでいる人々の姿も隅に映った。その中に、手を繋いでくるくると回る2人の女性の姿が映っている。
色違いのワンピースを纏った、ミサとだ。
インタビュー中にも着ていたワンピースだ。大方インタビューをされる直前、園内で遊んでいたんだろう。そこを意図せず映されてしまったのだ。
それに加えて──


「……このカメラマン、結構やり手ですね。アマチュアですけど、技術力があり、尚且つ彼が選ぶ被写体も毎回優れているので、名前が知れてる。個人ブログの購読者も相当に多い」

竜崎が今手元で開いているのは、とあるアマチュアカメラマンの個人ブログだった。
問題の記事が投稿されたのは今日の正午だ。それが夕方の16時現在には瞬く間に拡散され、掲示板でもSNSでも話題になってる。

「わざわざ彼自身、掲示板にも書き込んでますね。"あの写真"つきで」
「……ミサはともかく、がただの一般人だってわかってないのか」
さんは撮影現場にミサさんと共にいたんですから、モデル仲間か何かと思われてるはず。それにあの容姿です。撮影の見学に来た一般人だなんて認識されるはずありません」
「…この写真は仕事として撮られた訳じゃないんだろう?所謂ファンサービスってやつ…芸能人だろうと、こうもプライバシーが丸裸にされていいものか…」
「いい訳ないですが、ミサさんの職業柄一生ついて回るものでしょうね。それより問題なのは…」


そう。問題はそこじゃない。重要なのは──


「……百万年に一度の美少女"達"と言われ、こんなにも話題になってしまった事だ」


とミサが隣り合って映ってる写真が二枚ネット上に放出され、有名なアマチュアカメラマンによって拡散されてしまったこと。
とミサが手を組んで祈る写真と、がミサに何かを耳打ちし、内緒話をしている写真。
2人が着ているワンピースが清楚で、まるで妖精を連想させるような物だった事。
バックの紅葉が吹雪いた瞬間が美しかった事。そして何より被写体の二人がまごう事なき美形であったこと、全ての要因が重なり、まるで彼女たちは神格化され、今も次々に2人に感心を寄せた投稿や書き込みがされ続けていた。

「弥海砂」「幻」と二つキーワードを連ねると、に関心を寄せた書き込みなどがヒットする。
それをモニターに映し出すと、それを読んだ父さんは顔を顰めていた。

「…幻の少女とは、どういう事だ?写真にこんなにハッキリと移っているのに、幻であるはずがない。幽霊だとでも言いたいのか?」
「それはネット上の悪ノリだよ、父さん。彼らも本気では思ってない…」
「言葉の綾でもそう言いたくなるくらい、幻想的な画であったという事でしょう」


竜崎も独自にミサとの記事を検索し続け、その手が止まる事はない。
それほどまでに件数が多いという事だ。

「"リプレイ映像にあの幻の少女が映ってる"と言い切り抜き動画を投稿する人が出て来てます」
「何が幻だ……。…くそ、ミサが話題になったこのタイミングでコレか…」
「話題になったからこそのコレ、でしょうね」


最早、鶏が先か卵が先かのような問題だ。
そして、調べ物をしながら今後について議論しているうちに、
時間はあっという間に流れ。
夜になって、今日の撮影を終えたミサと、と松田さんが戻ってきた。
エレベーターから出てきて、この部屋へと集まると、竜崎が彼女らを振り返った。


「………やってくれましたね」


竜崎は、恨みがましくミサを見ながら言う。
名前は何の話をしているのかよく分からない、といった様子できょとんとしていた。
竜崎はリモコンを使って、モニターの一時停止を解いて、録画していたあの夕方のインタビューを流し出した。

『──そして今日ここでは、西中監督の新作映画「春十八番」の主演女優に抜擢された、弥海砂さんが撮影を行っております。今日はそんなミサさんに、いくつか質問させてもらい、意気込みを語ってもらいます』

そしてそれを流しつつ、問題のネットの記事をバッといくつも展開させた。
この捜査本部のモニターは数が多く、1つ1つが大きい。
目を凝らさずとも、一瞬で何が起こっているのか、何を問題視しているのか、理解した事だろう。
は表情が硬く、口元が引きつっている。けれどミサは眉を潜めて、怪訝そうな顔をしている。


「"女神降臨"だそうですよ」
「なに?どういうこと?ミサのプライベートな写真がネットに上がるとかしょっちゅうだし、別に問題なくない?」


ミサにとっては、ファンサービスで捕らせた自分の写真や、盗撮画像がネット上に投稿されたところで、"いつもの事"なのだろう。
心底何が問題なのか分かっていないようだった。


「第二のキラ容疑で監視されてる、その対象だという事を忘れないでください。あまり変に目立たれても困るんですよ。それに…ちょっと話題になった程度じゃないんですよ、これ」
「ふーん。ミサ売れっ子だもんね」
「それは否定しませんが…」


竜崎はカタカタとキーワードを打ち続け、以前更新され続ける最新の投稿や書き込みを見て、ぽつりと言う。


「百万年に一度の美少女達…もう話題になった所の話じゃない。お祭り騒ぎ状態ですね」


一端の芸能人であれば、好意的に受け止められ、話題を呼んでいる現状は喜ばしいものだっただろう。
大衆に認知されるきっかけがなければ、どれだけの美男美女も、ただ世間に埋もれるだけ。
けれどミサはタレントである前に容疑者で監視対象であるし、
に至っては完全に一般人なのだ。諸手を上げて喜べる状況じゃない。

「そんなに問題?…竜崎さん、ちょっとスクロールして。違うそっちの掲示板の方!」

ミサは画面を覗き込み、指を刺しながら竜崎に指示を出した。
そしてとある掲示板の書き込みをスクロールさせ、内容を読んでいる様子だった。

『ミサミサと一緒に映っていたあの子は誰だ』
『撮影現場にいたらしい。まだ無名の新人じゃないの?』
『てか、本当に実在するの?(笑)』
『二人共まじで天使すぎて実在を疑うレベル。双子コーデかわいいがすぎる』
『ウケる。こんなの集団幻覚じゃん』
『西中はよキャスト情報解禁しろよ(笑)幻の少女ちゃんがいないんですけど(笑)』

撮影現場にいたのだから、少なくともモデルであると間違われるのは必然だろう。
その上、ミサとお揃いの服まで着ているのだ。
映画の撮影のインタビューをしていたという事もあり、情報が入り混じって、
「春十八番の撮影中に撮られた写真である」と誤解する人々も増えていた。
ネット上では次第に名前が映画に出演するのだと言う誤解も広まっていく。
「西中はよ仕事しろ(笑)」という冗談交じりのコメントも多いので、この勢いに乗って揶揄しているだけの者も多いのが見て取れた。

けれど関係のないはずの西中監督の名前が多々上がる事で、本気でが出演者だと思い込むものも多くなっていた。
しかしもちろんそれを否定する勢力もいて、それが尚更「じゃあ幻の少女って何者なんだよ。なんであそこに映ってたんだ」と疑惑を呼ぶ結果になっていた。

しかしミサは全体像を把握しても尚平然としていて、あっさりと、そして呆れたようにこう言った。


「こんなの炎上のうちにも入らないじゃん…そんなに問題だって言うなら、ミサ鎮火は慣れてるし、明日にでも黙らせるから任せてよ」
「……できるんですか?」
「これでも一応、ミサもタレントですから。炎上対策は厳しく指導されてるし、ミサだって何も考えずに発信してる訳じゃないんだから。大丈夫大丈夫〜!」


ミサはけらけらと子供のように笑いながら、ピリピリしている僕たちを軽くあしらった。
確かにミサの言う事も一理ある。これは炎上でも何でもない。
ただ話題になってるだけなら、次のミサの出方によっては、これからいくらでも都合のいい方向へ転がしようがある。
ミサはよくも悪くも口が達者で、物怖じしない。
本人が言うようにプロである事も間違いないし、こういった対策についてヨシダプロが常日頃から所属タレントたちに指導しているというのも間違ないだろう。


「では、ミサさんの個人ブログでも媒体は何でもいいですが…対処はお任せしていいですね?」
「うん、任せて。丁度明日から撮影始まるし、インタビューもあるから、そこで答えるよ」
「ではさん、明日は見学は控えてください。また誤解が広がっても困ります」
「…うん、私もこんな状況で出かけるのは…こわいし……」

竜崎がミサとに指示すると、ミサは得意げに笑い、は打ちひしがれたような弱弱しい声で受け答えしていた。

***


今日のインタビューは昨日と同じように、ニュース番組の中のコーナーの一部で行われるようだった。
チャンネルは昨日とは違い、さくらTVでの生中継だ。
松田さんとミサを覗く全員が集まり、モニターに映し出される映像に注目していた。
撮影現場にレポーターとカメラが入り、昨日のように映画の撮影に関する話題をいくつか振ったあと、『最後にひとつだけ。ちなみに…』とレポーターがミサに問い掛けた。

『先日、ミサさんと一緒に撮影された女性が話題になってますが、彼女は本当に実在するんでしょうか?』
『あはっ幽霊なわけないですよ!』
『ファンの間では幻か精霊か?とまで言われているんですが…』
『そんなに疑うならもっかい見せてあげるよー。あの子もたまには散歩しないとだしね』
『さ、散歩…ですか…?』
『あ、コレこっちの話。気にしないでください〜』

ミサはケラケラと笑っていて、レポーターは意味の分からない単語にやや困惑しつつ、改めて問い掛ける。

『ええと…それでは、これから彼女が表舞台に出てきてくれるということですね?』
『はい。おばけなんかじゃないって証明してあげまーす。お楽しみに!』

そこでインタビューと中継が終わり、スタジオへと戻った。
もちろん、今日の中継も録画している。
竜崎は無言で画面の1つに録画していたインタビューを再度流し、繰り返し流し見た。
皆も当然のようにそれを見るが、しかし何度再生しようとも、録画映像が違うセリフを言うはずもない。
昨日と同じようにお通夜のように気まずく静まっていた本部内。
竜崎の気が済んだのか、途中で一時停止させると、ようやく重くなっていた口を開いた。

「……これがプロの炎上対策ですか」


竜崎が言うと、「炎上…なの?」とが引きつった顔で言った。
も当事者になってしまっているのだ。気が気じゃないのだろう。
決して炎上ではない。けれど一般人が今注目し、熱くなってる話題であるのは間違いはない。
竜崎はミサの発言に呆れている。
確かにミサの調子は軽くて真面目には見えなかったが、決して失策ではなかったと思ったので、僕は一応のフォローを入れる。

「…理にかなってはいるんじゃないか。ネット上の発言なんて、皆冗談半分で書き込んでるものが大半だろうけど…"幻じゃないか?"と言って盛り上がっているなら、本物を表に出せば、その騒ぎは鎮火する」
「まあ、このまま雲隠れしたり、情報操作しても、逆効果でしょうからね。それは最善だという事は認めます」

ここまで話題になってしまったものを、なかった事になどできない。
竜崎の言うように、雲隠れするのも悪手だろう。
世間の関心の移り変わりは早い。
時間が解決してくれる、忘れてくれるだろう。それに賭けて静観してみてもいいだろう。
しかし相手をしているのは、生身の多数の人間たち。必ず忘れてくれるとも限らず、そうなれば今度こそ本当の意味でミサが炎上しかねない。

「でも、簡単に「見せてあげます」などと言われても困ります」

とは言え、竜崎は納得しつつも、不満なようだった。
ミサ本人があまりに事態を軽く見ていて、けろりとしているから余計に認められないのだろう。
今のところはミサは失敗はしていない。けれどこれからもそうとは限らない。
そうなった時、もみ消したり金で解決したりと、対処するのは竜崎なのだ。

「……ミサさん自体も今、知名度が上がって、どんどんファンが増えてます。そこでさんもミステリアスな存在として注目を集めてしまった。"見せてあげる"と発言したミサさんが約束を反故にすれば、今度こそ悪い意味で炎上するでしょうね」
「……の顔が表に出てしまったのは、もう仕方がないけど。問題はいつ、どこで、どうやって、だ。名前を公表しないような形にしないと」
「夕方の中継にも映り込んで、尚且つ写真も上がってるのに"幻"だと疑われてるんです。冗談半分で言ってるとはわかってますが……そんな彼らを"現実"だと信じさせられる形を設けなけれはなりません」


インターネットの悪ノリやスラングの意味がわからない父さんや相沢さんは、基本聞くに徹していた。
は言葉の意味も、何が問題であるかも理解している様だったが、当事者である故に言葉を挟めない様子だった。

『西中早く情報くれ〜(笑)』


そのネット上の悪ノリが幸いしたというべきか、災いしたというべきか…
西中監督は巻き込まれた事で気分を害した所か、逆に喜んでいるらしい。
ミサが有名になる=映画の集客も見込めるのだ。これを喜ばない手はなかったのかもしれない。
それに、が映画の出演者と間違われている状況も逆手に取り、監督はミサにこう言ったらしい。

を、春十八番の映画に出演させたい」──と。


2025.10.15