混乱後の闘争と逃走
1.阪神共和国
八百屋さんで購入したりんごをしゃくりと食べながら、橋の端っこで休みながら食べる。
味は私自身が一番慣れ親しんだりんごに近い。
やっぱりとても悲しくなった。街の一つ一つに共通点を見出す度に虚しくて、
でも俯いたらいけないと分かっていたから前を向く。
頭で分かっている現実だけが原動源だった。
「そういえば、君にもまだ聞いてなかったねー」
「……なにが、ですか…?」
「どうやってあの次元の魔女のところへ来たのかー」
「聞いてなかったでしょー」とへにゃりと笑う彼と、黒い人と小狼の視線が物語るに、
今までそんな話をしていたらしい。
小狼は言わずもがな神官様に…あの玖楼国のお城の。桃矢兄様の大事な人。
そして…名 前を聞いていないまま時間が過ぎてしまい、黒い人、と呼ぶ他ない彼は自国の姫さまに…?…だめだ、重要なことさえ確信が持てない。
ごっそりと抜け落ちた記憶は不規則で、どこを持っていかれるかわからなくて、
正直どこをどう失ったかさえも定かではないくらいに。
遠くなる。早く、早く取り戻さなきゃ。
だから…
「次元の魔女さんには…夢で逢って…先に…対価を、渡しておきました…もしも、何かが、あればと…その時は、と…」
「…姫…もしかして、あの遺跡にあの時…!夢を見て…?」
「……そう、かもしれない…でも、私はあの時……」
私はその為なら、なんだって差し出すから。だから、あの人たちだけは。
私の中に。もう届かないと分かっていても。傍に、…
そう思いながら、私は来るときに備えて夢で彼女…壱原侑子さんに話して。
でも最初は当たり前に上手くいくはずがなく、断片的にしか夢を渡れなくて…
神官様…雪兎さんの教えを熱心に乞って、必死に必死に夢を渡って、
廃人になるだとか、夢から戻れなくなると言われ続けてもやめなかった。
そして対価を差し出した。
そしてその日が来てしまう。それまで全ては、無駄じゃない。
だから私はあの時…
その言葉の続きを小狼に言おうとしたとき、近くで女の人の高い悲鳴が聞えて。
その瞬間からあたり一体は騒然とした。見れ一派、二派と対立するように向かい合う男たちの集団がいて、悲鳴が響くこの場もおかまいなしに争いごとを始めていた。
「今度こそお前らぶっ潰してこの界隈は俺達がもらう!!」
そう叫びあげた男の集団一派に対して、もう一派のように見える男たちはくぃっと親指を下に向けて下げる。
おいおいと考えていると「このヤロー!一級の巧断憑けてるからっていい気になってんじゃねぇぞー!」と盛大なブーイングのようなものが湧き上がり、辺りは一般人たちも逃げ惑うわもみくちゃに絡まってるわで混沌としてるし…!
みんな逃げているけど、私はその叫び声たちがあまりに強烈で、頭にキーンと響いてしまって暫く再起不能だ。ヤバイ。だって、なんだか私の中身をごっそり失ってから二日酔いのような状態が続いてるんだもの。
眠気に加えてその状態はキツい。ヤバイ、どうしよう…
小狼たちはその"くだん"の騒ぎに夢中になってるし何やらモコナが街中にいても騒がれなかった理由を納得しているし。
ヤバイ、とてもモコナとは似ても似つかないけどへんな生物が何か吐き出してる!
ちょっと、待って、その破壊光線どこに向けてるの、一般人居ますよここにお兄さん、
街の人たち悪ガキ共とか言ってるけど悪ガキなんてレベルじゃない、それ殺傷能力あるよねこっち向けてなんで私頭ぐわんぐわんで動けない、
待って、待って
逃げられない
死ぬ?こんな所で?
…そんなの、嫌
そんなの、そんなの
「死んでたまるかーっ!!!」
そんなつまらない理由で、私の大切なもの諦めたくない!!
自分でもびっくりなくらい強く叫びを上げて目を瞑ると、痛みも衝撃もまったくない。
それどころか心地のよいくらいの風が私を撫ぜた。
そろり、目を開けると視界に広がったのは青空。
…きれいだ。凄く。澄んだ蒼だ…
ぽけ、っと見とれていると、ようやっと下で聞えた爆発音で我にかえり、
自分が空を飛んでることに気がついた。
…いや、飛んでるっていうよりも、跳ねてる?
ゆっくりと緩やかに落ちた後、つま先で建物を軽く蹴ってやるだけで空に跳ねてしまう。
…………わぁ。トランポリンよりも断然楽しい
というか、靴に何かが生えてる。…羽?
何これ凄くさくらちゃんみたい。いや、私の妹の方じゃないメルヒェンなあの魔法っ子。
跳ねる、これ、まるで
「ようやっと自分のキモチ聞かせてくれたなー」
兎みたいだ。
そう考えた瞬間、ふっと肩が重くなった。そして横から元気な声が聞えた。
驚きすぎてマンシヨンの壁に激突しそうになったけど、何故か壁を避けてベランダの柵から上に上がっていき、その自動エレベーター(自分の身体が主体)は屋上で停止した。
私はそれでもガチガチになった身体が解けないでいる。
「これからよろしゅぅ、わいの主さん」
「……夢で逢った、兎様」
「そう!あんさんの巧断や!こんな凄い巧断他にないでー!ラッキーやな!!」
これが、巧断。あんな破壊光線を出すエイみたいなのも居れば、さっき小狼が炎を纏わせてたみたいな犬のような狐のような動物様もいる。
そして私はこのメルヒェンな兎様…どうやらジャンプが出来る模様。
下を見下ろし街の流れを見ると、大混乱、人の渦。まるで人がゴ…なので。
私の選択肢としては一つ。
「…ねえ、…凄いくだんの、兎様…」
「なんやなんや?凄い巧断の兎様になんのお願いや!!?」
「私をどこか遠くへ連れてって」
「ってあんさん駆け落ちかい!!!」
私をこの頭の痛くなる阿鼻叫喚の街から連れ出してください。
ぐらぐらと揺れる頭に耐え切れなくて蹲ると、自動操縦で兎様が急いでどこかへ連れていってくれた。
…くだん。凄いくだんの兎様、とても可愛い、面白い、フワフワ、便利。
…いいかも。
なんとなく不純なことを考えていた私は、騒ぎが収まったあとの小狼たちのことを考えておらず、
ようやった静まった街の中にまた一つ混乱を起こしてしまった。
1.阪神共和国
八百屋さんで購入したりんごをしゃくりと食べながら、橋の端っこで休みながら食べる。
味は私自身が一番慣れ親しんだりんごに近い。
やっぱりとても悲しくなった。街の一つ一つに共通点を見出す度に虚しくて、
でも俯いたらいけないと分かっていたから前を向く。
頭で分かっている現実だけが原動源だった。
「そういえば、君にもまだ聞いてなかったねー」
「……なにが、ですか…?」
「どうやってあの次元の魔女のところへ来たのかー」
「聞いてなかったでしょー」とへにゃりと笑う彼と、黒い人と小狼の視線が物語るに、
今までそんな話をしていたらしい。
小狼は言わずもがな神官様に…あの玖楼国のお城の。桃矢兄様の大事な人。
そして…名 前を聞いていないまま時間が過ぎてしまい、黒い人、と呼ぶ他ない彼は自国の姫さまに…?…だめだ、重要なことさえ確信が持てない。
ごっそりと抜け落ちた記憶は不規則で、どこを持っていかれるかわからなくて、
正直どこをどう失ったかさえも定かではないくらいに。
遠くなる。早く、早く取り戻さなきゃ。
だから…
「次元の魔女さんには…夢で逢って…先に…対価を、渡しておきました…もしも、何かが、あればと…その時は、と…」
「…姫…もしかして、あの遺跡にあの時…!夢を見て…?」
「……そう、かもしれない…でも、私はあの時……」
私はその為なら、なんだって差し出すから。だから、あの人たちだけは。
私の中に。もう届かないと分かっていても。傍に、…
そう思いながら、私は来るときに備えて夢で彼女…壱原侑子さんに話して。
でも最初は当たり前に上手くいくはずがなく、断片的にしか夢を渡れなくて…
神官様…雪兎さんの教えを熱心に乞って、必死に必死に夢を渡って、
廃人になるだとか、夢から戻れなくなると言われ続けてもやめなかった。
そして対価を差し出した。
そしてその日が来てしまう。それまで全ては、無駄じゃない。
だから私はあの時…
その言葉の続きを小狼に言おうとしたとき、近くで女の人の高い悲鳴が聞えて。
その瞬間からあたり一体は騒然とした。見れ一派、二派と対立するように向かい合う男たちの集団がいて、悲鳴が響くこの場もおかまいなしに争いごとを始めていた。
「今度こそお前らぶっ潰してこの界隈は俺達がもらう!!」
そう叫びあげた男の集団一派に対して、もう一派のように見える男たちはくぃっと親指を下に向けて下げる。
おいおいと考えていると「このヤロー!一級の巧断憑けてるからっていい気になってんじゃねぇぞー!」と盛大なブーイングのようなものが湧き上がり、辺りは一般人たちも逃げ惑うわもみくちゃに絡まってるわで混沌としてるし…!
みんな逃げているけど、私はその叫び声たちがあまりに強烈で、頭にキーンと響いてしまって暫く再起不能だ。ヤバイ。だって、なんだか私の中身をごっそり失ってから二日酔いのような状態が続いてるんだもの。
眠気に加えてその状態はキツい。ヤバイ、どうしよう…
小狼たちはその"くだん"の騒ぎに夢中になってるし何やらモコナが街中にいても騒がれなかった理由を納得しているし。
ヤバイ、とてもモコナとは似ても似つかないけどへんな生物が何か吐き出してる!
ちょっと、待って、その破壊光線どこに向けてるの、一般人居ますよここにお兄さん、
街の人たち悪ガキ共とか言ってるけど悪ガキなんてレベルじゃない、それ殺傷能力あるよねこっち向けてなんで私頭ぐわんぐわんで動けない、
待って、待って
逃げられない
死ぬ?こんな所で?
…そんなの、嫌
そんなの、そんなの
「死んでたまるかーっ!!!」
そんなつまらない理由で、私の大切なもの諦めたくない!!
自分でもびっくりなくらい強く叫びを上げて目を瞑ると、痛みも衝撃もまったくない。
それどころか心地のよいくらいの風が私を撫ぜた。
そろり、目を開けると視界に広がったのは青空。
…きれいだ。凄く。澄んだ蒼だ…
ぽけ、っと見とれていると、ようやっと下で聞えた爆発音で我にかえり、
自分が空を飛んでることに気がついた。
…いや、飛んでるっていうよりも、跳ねてる?
ゆっくりと緩やかに落ちた後、つま先で建物を軽く蹴ってやるだけで空に跳ねてしまう。
…………わぁ。トランポリンよりも断然楽しい
というか、靴に何かが生えてる。…羽?
何これ凄くさくらちゃんみたい。いや、私の妹の方じゃないメルヒェンなあの魔法っ子。
跳ねる、これ、まるで
「ようやっと自分のキモチ聞かせてくれたなー」
兎みたいだ。
そう考えた瞬間、ふっと肩が重くなった。そして横から元気な声が聞えた。
驚きすぎてマンシヨンの壁に激突しそうになったけど、何故か壁を避けてベランダの柵から上に上がっていき、その自動エレベーター(自分の身体が主体)は屋上で停止した。
私はそれでもガチガチになった身体が解けないでいる。
「これからよろしゅぅ、わいの主さん」
「……夢で逢った、兎様」
「そう!あんさんの巧断や!こんな凄い巧断他にないでー!ラッキーやな!!」
これが、巧断。あんな破壊光線を出すエイみたいなのも居れば、さっき小狼が炎を纏わせてたみたいな犬のような狐のような動物様もいる。
そして私はこのメルヒェンな兎様…どうやらジャンプが出来る模様。
下を見下ろし街の流れを見ると、大混乱、人の渦。まるで人がゴ…なので。
私の選択肢としては一つ。
「…ねえ、…凄いくだんの、兎様…」
「なんやなんや?凄い巧断の兎様になんのお願いや!!?」
「私をどこか遠くへ連れてって」
「ってあんさん駆け落ちかい!!!」
私をこの頭の痛くなる阿鼻叫喚の街から連れ出してください。
ぐらぐらと揺れる頭に耐え切れなくて蹲ると、自動操縦で兎様が急いでどこかへ連れていってくれた。
…くだん。凄いくだんの兎様、とても可愛い、面白い、フワフワ、便利。
…いいかも。
なんとなく不純なことを考えていた私は、騒ぎが収まったあとの小狼たちのことを考えておらず、
ようやった静まった街の中にまた一つ混乱を起こしてしまった。