束の間のそれらに、
1.笑う人─阪神共和国
仲良くいい年をした二人、手を仲良く繋ぎながら戻って来た時には、
もうそれは妙な空気が流れたのであった。
…あっ。みたいな。…え?みたいな。もう訳がわからないけど、その反応全てが不本意であるということだけは分かる。
…あああもうこの人はああー!!
黒鋼さんと小狼君の微妙すぎる反応に、思わず片手でわぁっと顔を覆ってしまう。
思えばまともな初対面…この国で目を覚ました時からゴソゴソと服を弄るわー黒鋼さんの目の前で遠慮はないわー。
どうかしてる。そして、今もどうかしてる。何故手を繋いだまま平然と話せるの。
「そういえば、うちの巧断みたいなのはどこに行ったのかなぁ」
…なんてナチュラルに二人に話しかけていけるのかなもーおお!!一刻も早く離して欲しい!だけど手の大きさ強さもともかく、握り方からも明らかに手の主導権を握ってるのはあちら側。
…早く大きくなりたい。思えば学校でも身長は比べて小さめなくらいだった。
もう少し大人になれば、いや、高校入学したての私ならまだ!
伸び代はあると思うんだよ…!そうでしょう!
うちの巧断みたいなの…あの不思議生物モコナのことを、「大方その辺で踏み潰されてんじゃねぇのか?まんじゅうみたいに」なんてにんまり笑いしてるそこの黒鋼さんをちらりと見る。
…目標は黒鋼さん。私はビッグな女になってやるー!
私が妙な目標をかかげて現実逃避している間にも、ファイさんの軽率な行為に色めきたった女子の手にあのモコナとやらは乗っており、
大層可愛がられてました。
…可愛い、か?いや、動かなければとても可愛いと思う、心底…
あ、意識が遠くへ向かって行くような感覚がー…
「さくらの羽根が近くにあるのか!?」
…うが。ふら〜っと意識を飛ばしていた私は、小狼君の叫びに引き戻されてきた。
…あ、手ぇ離されてる。ああ良かった。
ここから別の場所へ移動すればもう変な好奇の目で主に女子に見られることはない…この人ここの人からすれば綺麗な外人さんな訳だし、整ってるし、
ひき付けられるの自覚してんのかな、して欲しいんだけどな、節度を持って行動して欲しいんだけどないたいけな女子高生が巻き込まれてたまるか本当にくっそ〜っ
そんなことを永遠考えながらも、私は小狼君のさくらの羽根…という言葉が引っかかった。
…大切な物を探してる、と人伝に聞いた。
それがサクラさんの物だということも。…で、それが羽根…?…もしかして、案外本物の天使なのはサクラちゃんなのでは…
あの寝顔は本当に天使だったなあとちらと見た彼女を思い浮かべて、
最終的にそこのへにゃへにゃ笑いの似非天使はと毒づくに尽きる。
サクラちゃんの羽根…?は、さっきまではここにあったけど、誰が持ってたん分からないし、もうここにはないらしい。
「さっきここにいた誰かって条件だとちょっと難しいなぁ」
「でも近くの誰かが持ってるって分かっただけでも良かったです。
…また、何かわかったら教えてくれ」
「おぅ!モコナがんばる!」
…ひぃ!喋った!動いた!しかもおぅ!って生物学的にオスなのかメスなのか滅茶苦茶わかんないー!
怖い怖い怖い怖い得体のしれないものは怖い、小狼君の手のひらの上のソレが何なのか分からない以上、怖くて怖くてたまらない。
腹の中が分からない手の内見せない人間くらいならちょっとむ、っとなるだけだけど、
こうも不思議あり得ない異世界生物っぷりを前面に押し出してるともう恐怖だ。
そんな私はさっきまで爆発自体にも本気で怖がってたけど、無数の不思議生物巧断にも実際心の底から恐怖してた。
…初っ端から私、前途多難すぎる
仲間?にさえ怯える始末じゃあ本当に…はぁ
「あの、あの!さっきは本当にありがとうございました!」
そんな自己嫌悪に陥ってる最中に、小狼君に話しかけてきた男の子が居た。
…おぉ、学ラン男子。京の萌えを突くポイントだねこれは。しかも可愛い気弱系。
きたきたー。
「僕、斉藤正義といいます。お、お礼を何かさせて下さい!」
「いや、俺は何もしてないし」
「でも、でも!」
押せ押せ学ラン男子。がんばれ学ラン男子。
先ほどの騒ぎで小狼君に何かで助けてもらったみたいで、お礼をしたいと申し出てきたみたいだ。
小狼はビクともした様子がないけど、がんばってる頑張ってる。
なんとなく邪な目で見てしまうのはもうこれは仕方が無い、小さい頃からの京の付き合いの賜物である。
そんななんとなく微笑ましい展開の中に、爆弾が落とされた。
「お昼ゴハン食べたい!おいしいとこで!!」
何かが、得体の知れない、物が、いきなり、出てきて、にゅっと、飛び出して、小狼君の頭の上で、喋って、いる。
たったそれだけを認識した瞬間、私は反射的に腹の底から声を絞り出していた訳で。
「ぎ、…っぎゃあー!!!」
小狼君の後頭部にいつの間にか張り付いていたそのモコナという生物に気が付かず、
そう、例えば不意打ちでクラッカーでも鳴らされたくらいの衝撃を受けた私は。
その場で、何度も言うけど女子高生とは思えないオッサン叫びを木霊させてしまい。
「…やっぱり、モコナがこわかったんだねえ」
「……、」
「…………こんなモンが怖いのか、おまえ……」
「え?え?えっと?」
あー。早く穴にでも埋まりたーい。
そう思わずにはいられない、居たたまれない空間が出来上がってしまうことになる。
他人にこんな弱味を大っぴらに見せてしまったのは、
本当に失敗だったと後の私は語るのだった。そう、後に。
「「おこのみやき」、っていうんだーこれ」
いい匂いが辺り一面に充満するいい感じのお店。…私たちが今居るのはそう、
お好み焼き屋さん。ふつーのお好み焼き屋さん。
ふつーに鉄板のあるテーブルに皆で向かい合って突いて食べる、それだけ。
ああ、なんて素晴らしい響きなんだろう、お好み焼き。
最早懐かしいとさえ感じるソースがこげた臭いがとても、うん。もう安心感。
…どうしよう、わなわなと心の底から歓喜するような気持ちが溢れ出してとまらない。
素敵、素敵、素晴らしい、これは凄い。凄い!何だかよくわかってないけど凄い!
「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから!あの、あの」
「うん、その通り素晴らしいよ正義くんー!あ、私も正義くんって呼んでもいいかな?モダンでもトン平でも絶対美味しいって!やっぱりお好み焼きを食べてこそだよー!!もうお好み焼き万歳、愛してるーっ!」
ドン。
饒舌に熱く叫びを上げ、恍惚としてしまう表情を包み隠さずに正義君というほぼ初会話の彼へと語る。
そして強く興奮のあまり自分の拳がテーブルに叩きつけられ、その音でやっと我に返って。
…こちらを見つめる幾対もの目に気が付く。
あーははは。最近こんなのばっかりだーもう今度こそ終わったー二度はないー…
だって、だって、もう長らくか、もしくは二度と見れないとさえ思ってた当たり前の景色がここにある。
ここのお好み焼きはこの正義くんが一番好きだと言って紹介してくれたんだから、
絶対美味しいはず!
が、もう正直味は関係なしにこの空間に居れるだけでし、あ、わ、せ〜
はー…とうつぶせになった私を見ながら、「お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは…って思ってたんですけと…」と純粋な疑問を純粋にぶつけるこの子は正真正銘天使属性だと感じた。救われた。
「あー、この子だけ知ってて、後はみんな知らない?かもー」
「外国から来たんですか?」
「んー、外といえは外かなぁ」
曖昧な返しに妙な引っかかりを覚えたような不思議そうな顔をしてる正義君。
私も、一応外と言えば外の一部なんだけどー…
…というかここの主食ってお好み焼きなのか。凄いこれ美味しそう。
私はテーブルの真ん中の鉄板で焼けていく様子を見ながら、後は沈黙を貫く体制に入ろうと思う。
正直私が加わってもどうしようもないと思うし、慎みも大事だ。
「いつもあの人達はあそこで暴れたりするのー?」
「あれは、ナワバリ争いなんです。
チームを組んで自分達の巧断の強さを競ってるんです」
「で、強い方が場所の権利を得る、と」
へー…現代日本も物騒になったもんだ…
というか違うここ日本じゃないんだ。…ちょっと、いや凄く落胆した。
ここは私の世界じゃないとかそんな当たり前のことじゃなくて、
平和な平和な、平穏な日本に近い国、って訳じゃないことを知ったから。
…さっき巻き込まれかけて直視した現実だったけど、やっぱり言葉として知りたくなかったなぁ。あーあ…
これが対価、かあ…
あんなに人の多い所で戦ったら他の人に迷惑がかかる、と至極当然の発想に至った小狼君に対して、正義君は悪いチームもあるけど良いチームもあるのだと言った。
乱闘に巻き込まれて、小狼君に間一髪助けてもらったという正義君本人が言うのだから本当にとても良いチームなんだろう。
みんなを守ってくれる、自警団みたいなのが親指をくぃっと下げて笑ってた方の、
ゴーグルをかけてた男集団一派、もう一派が荒くれ物、らしい。
「特にあのリーダーの笙悟さんの巧断は特級で強くて大きくてみんな憧れてて!」
そう饒舌に熱く語り、まるで先ほどの私のように勢いよく立ち上がった正義君を見て、私は仲間を見付けてしまった気がしてまた救われた。
ああ、ちょっと和んだー…。
憧れの人、らしい。そして特級の巧断がついてる小狼にも憧れるとキラキラした目で言うけど、そもそも特級という巧断の階級の意味が分からなかった小狼君は正義君に色々と説明を受けて居る中。
私が見るのは黒鋼さん。なんと黒鋼さんいつの間にかお好み焼きをひっくり返そうとしてる。
…どうなるのかは色々なタイミングと黒鋼さん次第ということで、
これもお好み焼き勉強だーと傍観に徹していた私は次の瞬間。
「待ったー!!!」
こちらへ向けた大きな叫び声を聞いて、本日何度目かももうわからないけど。
懲りずにまた意識を飛ばしかけた。
「…王様!?と、神官様!?」
誰だそんな仰々しいなまえの人は、とぐらぐらする頭で考えてしまう私は、
"異世界"の"王族"の"王様"のことなのだと思考が直結することはなく。
異世界では、自分の世界の親しい人が違う生活を送ってる、という言葉を思い出すのはとても遅かった。
……そう。黒鋼さんのお好み焼きの自己判断での返しに待ったをかけたのは、
小狼君の世界で親しかった人のそっくりさん。
この世界でお好み焼き屋の店員として働いている、元の世界では王様と、神官様であった人たちだった。
…あれ、なんだか落差がありすぎてシュールだ
1.笑う人─阪神共和国
仲良くいい年をした二人、手を仲良く繋ぎながら戻って来た時には、
もうそれは妙な空気が流れたのであった。
…あっ。みたいな。…え?みたいな。もう訳がわからないけど、その反応全てが不本意であるということだけは分かる。
…あああもうこの人はああー!!
黒鋼さんと小狼君の微妙すぎる反応に、思わず片手でわぁっと顔を覆ってしまう。
思えばまともな初対面…この国で目を覚ました時からゴソゴソと服を弄るわー黒鋼さんの目の前で遠慮はないわー。
どうかしてる。そして、今もどうかしてる。何故手を繋いだまま平然と話せるの。
「そういえば、うちの巧断みたいなのはどこに行ったのかなぁ」
…なんてナチュラルに二人に話しかけていけるのかなもーおお!!一刻も早く離して欲しい!だけど手の大きさ強さもともかく、握り方からも明らかに手の主導権を握ってるのはあちら側。
…早く大きくなりたい。思えば学校でも身長は比べて小さめなくらいだった。
もう少し大人になれば、いや、高校入学したての私ならまだ!
伸び代はあると思うんだよ…!そうでしょう!
うちの巧断みたいなの…あの不思議生物モコナのことを、「大方その辺で踏み潰されてんじゃねぇのか?まんじゅうみたいに」なんてにんまり笑いしてるそこの黒鋼さんをちらりと見る。
…目標は黒鋼さん。私はビッグな女になってやるー!
私が妙な目標をかかげて現実逃避している間にも、ファイさんの軽率な行為に色めきたった女子の手にあのモコナとやらは乗っており、
大層可愛がられてました。
…可愛い、か?いや、動かなければとても可愛いと思う、心底…
あ、意識が遠くへ向かって行くような感覚がー…
「さくらの羽根が近くにあるのか!?」
…うが。ふら〜っと意識を飛ばしていた私は、小狼君の叫びに引き戻されてきた。
…あ、手ぇ離されてる。ああ良かった。
ここから別の場所へ移動すればもう変な好奇の目で主に女子に見られることはない…この人ここの人からすれば綺麗な外人さんな訳だし、整ってるし、
ひき付けられるの自覚してんのかな、して欲しいんだけどな、節度を持って行動して欲しいんだけどないたいけな女子高生が巻き込まれてたまるか本当にくっそ〜っ
そんなことを永遠考えながらも、私は小狼君のさくらの羽根…という言葉が引っかかった。
…大切な物を探してる、と人伝に聞いた。
それがサクラさんの物だということも。…で、それが羽根…?…もしかして、案外本物の天使なのはサクラちゃんなのでは…
あの寝顔は本当に天使だったなあとちらと見た彼女を思い浮かべて、
最終的にそこのへにゃへにゃ笑いの似非天使はと毒づくに尽きる。
サクラちゃんの羽根…?は、さっきまではここにあったけど、誰が持ってたん分からないし、もうここにはないらしい。
「さっきここにいた誰かって条件だとちょっと難しいなぁ」
「でも近くの誰かが持ってるって分かっただけでも良かったです。
…また、何かわかったら教えてくれ」
「おぅ!モコナがんばる!」
…ひぃ!喋った!動いた!しかもおぅ!って生物学的にオスなのかメスなのか滅茶苦茶わかんないー!
怖い怖い怖い怖い得体のしれないものは怖い、小狼君の手のひらの上のソレが何なのか分からない以上、怖くて怖くてたまらない。
腹の中が分からない手の内見せない人間くらいならちょっとむ、っとなるだけだけど、
こうも不思議あり得ない異世界生物っぷりを前面に押し出してるともう恐怖だ。
そんな私はさっきまで爆発自体にも本気で怖がってたけど、無数の不思議生物巧断にも実際心の底から恐怖してた。
…初っ端から私、前途多難すぎる
仲間?にさえ怯える始末じゃあ本当に…はぁ
「あの、あの!さっきは本当にありがとうございました!」
そんな自己嫌悪に陥ってる最中に、小狼君に話しかけてきた男の子が居た。
…おぉ、学ラン男子。京の萌えを突くポイントだねこれは。しかも可愛い気弱系。
きたきたー。
「僕、斉藤正義といいます。お、お礼を何かさせて下さい!」
「いや、俺は何もしてないし」
「でも、でも!」
押せ押せ学ラン男子。がんばれ学ラン男子。
先ほどの騒ぎで小狼君に何かで助けてもらったみたいで、お礼をしたいと申し出てきたみたいだ。
小狼はビクともした様子がないけど、がんばってる頑張ってる。
なんとなく邪な目で見てしまうのはもうこれは仕方が無い、小さい頃からの京の付き合いの賜物である。
そんななんとなく微笑ましい展開の中に、爆弾が落とされた。
「お昼ゴハン食べたい!おいしいとこで!!」
何かが、得体の知れない、物が、いきなり、出てきて、にゅっと、飛び出して、小狼君の頭の上で、喋って、いる。
たったそれだけを認識した瞬間、私は反射的に腹の底から声を絞り出していた訳で。
「ぎ、…っぎゃあー!!!」
小狼君の後頭部にいつの間にか張り付いていたそのモコナという生物に気が付かず、
そう、例えば不意打ちでクラッカーでも鳴らされたくらいの衝撃を受けた私は。
その場で、何度も言うけど女子高生とは思えないオッサン叫びを木霊させてしまい。
「…やっぱり、モコナがこわかったんだねえ」
「……、」
「…………こんなモンが怖いのか、おまえ……」
「え?え?えっと?」
あー。早く穴にでも埋まりたーい。
そう思わずにはいられない、居たたまれない空間が出来上がってしまうことになる。
他人にこんな弱味を大っぴらに見せてしまったのは、
本当に失敗だったと後の私は語るのだった。そう、後に。
「「おこのみやき」、っていうんだーこれ」
いい匂いが辺り一面に充満するいい感じのお店。…私たちが今居るのはそう、
お好み焼き屋さん。ふつーのお好み焼き屋さん。
ふつーに鉄板のあるテーブルに皆で向かい合って突いて食べる、それだけ。
ああ、なんて素晴らしい響きなんだろう、お好み焼き。
最早懐かしいとさえ感じるソースがこげた臭いがとても、うん。もう安心感。
…どうしよう、わなわなと心の底から歓喜するような気持ちが溢れ出してとまらない。
素敵、素敵、素晴らしい、これは凄い。凄い!何だかよくわかってないけど凄い!
「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから!あの、あの」
「うん、その通り素晴らしいよ正義くんー!あ、私も正義くんって呼んでもいいかな?モダンでもトン平でも絶対美味しいって!やっぱりお好み焼きを食べてこそだよー!!もうお好み焼き万歳、愛してるーっ!」
ドン。
饒舌に熱く叫びを上げ、恍惚としてしまう表情を包み隠さずに正義君というほぼ初会話の彼へと語る。
そして強く興奮のあまり自分の拳がテーブルに叩きつけられ、その音でやっと我に返って。
…こちらを見つめる幾対もの目に気が付く。
あーははは。最近こんなのばっかりだーもう今度こそ終わったー二度はないー…
だって、だって、もう長らくか、もしくは二度と見れないとさえ思ってた当たり前の景色がここにある。
ここのお好み焼きはこの正義くんが一番好きだと言って紹介してくれたんだから、
絶対美味しいはず!
が、もう正直味は関係なしにこの空間に居れるだけでし、あ、わ、せ〜
はー…とうつぶせになった私を見ながら、「お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは…って思ってたんですけと…」と純粋な疑問を純粋にぶつけるこの子は正真正銘天使属性だと感じた。救われた。
「あー、この子だけ知ってて、後はみんな知らない?かもー」
「外国から来たんですか?」
「んー、外といえは外かなぁ」
曖昧な返しに妙な引っかかりを覚えたような不思議そうな顔をしてる正義君。
私も、一応外と言えば外の一部なんだけどー…
…というかここの主食ってお好み焼きなのか。凄いこれ美味しそう。
私はテーブルの真ん中の鉄板で焼けていく様子を見ながら、後は沈黙を貫く体制に入ろうと思う。
正直私が加わってもどうしようもないと思うし、慎みも大事だ。
「いつもあの人達はあそこで暴れたりするのー?」
「あれは、ナワバリ争いなんです。
チームを組んで自分達の巧断の強さを競ってるんです」
「で、強い方が場所の権利を得る、と」
へー…現代日本も物騒になったもんだ…
というか違うここ日本じゃないんだ。…ちょっと、いや凄く落胆した。
ここは私の世界じゃないとかそんな当たり前のことじゃなくて、
平和な平和な、平穏な日本に近い国、って訳じゃないことを知ったから。
…さっき巻き込まれかけて直視した現実だったけど、やっぱり言葉として知りたくなかったなぁ。あーあ…
これが対価、かあ…
あんなに人の多い所で戦ったら他の人に迷惑がかかる、と至極当然の発想に至った小狼君に対して、正義君は悪いチームもあるけど良いチームもあるのだと言った。
乱闘に巻き込まれて、小狼君に間一髪助けてもらったという正義君本人が言うのだから本当にとても良いチームなんだろう。
みんなを守ってくれる、自警団みたいなのが親指をくぃっと下げて笑ってた方の、
ゴーグルをかけてた男集団一派、もう一派が荒くれ物、らしい。
「特にあのリーダーの笙悟さんの巧断は特級で強くて大きくてみんな憧れてて!」
そう饒舌に熱く語り、まるで先ほどの私のように勢いよく立ち上がった正義君を見て、私は仲間を見付けてしまった気がしてまた救われた。
ああ、ちょっと和んだー…。
憧れの人、らしい。そして特級の巧断がついてる小狼にも憧れるとキラキラした目で言うけど、そもそも特級という巧断の階級の意味が分からなかった小狼君は正義君に色々と説明を受けて居る中。
私が見るのは黒鋼さん。なんと黒鋼さんいつの間にかお好み焼きをひっくり返そうとしてる。
…どうなるのかは色々なタイミングと黒鋼さん次第ということで、
これもお好み焼き勉強だーと傍観に徹していた私は次の瞬間。
「待ったー!!!」
こちらへ向けた大きな叫び声を聞いて、本日何度目かももうわからないけど。
懲りずにまた意識を飛ばしかけた。
「…王様!?と、神官様!?」
誰だそんな仰々しいなまえの人は、とぐらぐらする頭で考えてしまう私は、
"異世界"の"王族"の"王様"のことなのだと思考が直結することはなく。
異世界では、自分の世界の親しい人が違う生活を送ってる、という言葉を思い出すのはとても遅かった。
……そう。黒鋼さんのお好み焼きの自己判断での返しに待ったをかけたのは、
小狼君の世界で親しかった人のそっくりさん。
この世界でお好み焼き屋の店員として働いている、元の世界では王様と、神官様であった人たちだった。
…あれ、なんだか落差がありすぎてシュールだ