夢見る花は笑う
1.笑う人
雨が降る世界。
雨が降る店。
降り注ぐ雨の中、傘も持たずに立つのは幾人かの青少年と眠る少女と女性。
「──どうしても殺したい人が居るんです」
この店の庭で雨も気にした様子もなく、そう告げて笑う彼は、とても無邪気に見えた。
白くてもこもこした上着を羽織った青年。人当たりが柔らかに見える彼が言うからこそ、
ぞっとする物がある。
ここは願いを叶える店。少し先にこの店に"送られて"来た少年と少女。
そしてその少年が自分のただ一つの願いを叫んだ後に、
二人の白と黒の青年が到着した訳で。
その時は二人とも「元いた所にだけは帰りたくありません」と白が、「元いた所へ今すぐ帰せ」と黒が相反するながらもある意味同じ願いをこの店の店主…次元の魔女と呼ばれる彼女に唱えて。「…それと」と付け加えるように呟く。
そして無邪気に冒頭の願いを唱えて見せてみせたのだ。
その場には息を呑む音が木霊する。
不審がるような、普通とは違う物を見るような、そんな視線を気にすることも無く無邪気に笑う彼は、言う
彼曰く。
「ずっとずっと、それだけを願ってたんですよ」
そんな白い無邪気な笑顔を見せる青年は、突然投げ飛ばされるようにこの店に荒々しくやってきた一人の少女を受け止めて、
また同じ笑みで笑うのだった。
***
…痛い、身体が、痛い……
頭が痛い、手が痛い、足が痛い、爪先が痛い、全部が痛い。
なんで、私、なんでこんなに痛くて苦しいの?…なんで、泣いてるの?痛いから?
「それが対価だからよ」
…対価?対価って、なんだっけ…
…あれ、そういえば、私、あそこに行ったんだ、あの店…
あそこでそんな話をした、なら、この暗闇ばかりの空間は、死後の世界?
私は死んだからここに居るの?死んだから、あの子の傷を貰いうけたから、こんなに痛くて苦しくて仕方が無いの?
「…後悔、してる?とても苦しくて、辛くて、いっそ死んでしまいたいくらいの苦痛でしょう」
…確かに痛くて痛くて、死んでしまった方が楽なのかもしれない、って感じるくらいだよ。
こんなに悠長に頭の中で考えられるのが不思議だよ。
…でもね、後悔なんてしてないの。…あの子がこんな思いをしなくてよかったって思ってる。
こんな暗闇の中で一人ぼっちで、痛い思いをして、またあの公園に居た時みたいに独りになって…悲しまなくて、よかったって思ってる。
…私は死んだから、もう傍には居れないけど、あの子には先が作れた。
未来が出来た。
あの子なら、大きくなって、色んなことを知って成長して…いつか選択することが出来るはずだから。
「……そう、なればいいけど」
…?
「それと、貴方は死んでないわよ。傷を肩代わりして自分の傷も残ってる訳だけど…死なないわ。貴方の対価はその傷を負うこと…
そして、世界を失うことね。でも、ただ世界を失うだけじゃ駄目なのよ」
…どういう、こと?私、死なないの?それって凄くおかしくない?死んでもいいくらいの傷だろうに。あれ、車が普通の自動車だったから?でも真正面から猛スピードで直撃だし…絶対あれ、スピード違反だった。
それに、失うだけじゃ駄目って
「貴方が愛してるのは"普通"の世界。当たり前が溢れてる世界。日常がある世界。
理不尽も幸福も世界の当たり前だから、愛してる。そんな風に、現代日本を元に考えて。それに近い世界に辿り着いたら貴方はきっとそこを愛してしまうわね」
…死なない、辿り着く…私は別の世界に行くの?
もしかしたら、日本に近い国がある世界に。…非現実的だけど、もう十分今までも非現実的だしなぁ…
それに私のことよくわかってらっしゃる。
…多分、だけど。私はそんな世界があったら、少し滞在しただけでも愛してしまうかもしれない。
普通が大好きだから。何故だか分からないけど、おかしいこと分かってるけど。
こんな自分が嫌いになれないの。心から日常を楽しんでしまってるの
「だから、貴方は色々な世界を旅せざるを得ない。貴方が愛する世界を手に入れないようにするために。貴方が対価にした、愛する世界と同等のものを手に居れないように。」
…そっか、それが、対価…
確かに相応しい。
…わかった。私、色んな世界を旅する。
私が無条件に日常を愛してしまうのと一緒でね、あの男の子もそうだったの。
勿論いい子だし、素敵な子だから好きになってしまうのは必然だった、でも多分きっとそれだけじゃない。
だから、私は迷わず行けるよ
…私を連れて行ってください
「これから辛いことも沢山あるでしょう。世界にはね、貴方が居た世界での知り合いや家族が、全く違う人生を送ってる。元々貴方に優しかったからと言って、その世界では優しくしてくれるとは限らない。
それも一種のとても辛いことよ。貴方の大好きな日常のある世界の方が確実に少ない。物騒で価値観の違う世界ばかりよ。
…それでもね?」
それでも。
「なら、行きなさい。"あの子"のその先を作ってあげなさい」
…勿論。そうすることで「あの子」が救われるなら。
…ねえ、あなたの…店主さんのなまえは…
「…壱原侑子よ。次元の魔女とも呼ばれてるけどね」
私はです。本当に有難うございました。
…私、最後まで、あの世界が大好きで愛したままで居られたのは貴方の、侑子さんのおかげです。それがとても嬉しい。
…心残りは、勿論無いわけじゃないけど
「…それはどうかしら」
え?
「…ほら、そろそろ貴方は目覚めなくては」
…待って、聞きたいこと、まだあるの…
なんで、
なんで私、
「なんでいきてるの……」
死んだ、はずなのに。
奇跡的に、なんてことも有り得ないくらいの事故だったのに。
傷を肩代わりする。それよりも酷い自分の傷も勿論ある。
それでなんで、
生きていられるの…?
まさか奇跡的に軽度の怪我で済む事故だったんですー!って話だったらきっとあの店には行けなかった。それ相応の対価を、と言っていたし、未来を変える命の重さ…
そんな言葉も聞いたんだから、絶対。
…だったらなんで…
「……おい」
そんな思考を永遠と繰り返していると、すぐ傍からドスの効いた男の人の声が聞こえた。
ひぃーっ!?と咄嗟に叫んでしまいたかったけど、喉が渇いていて掠れた声が出るに終わってしまい不発。
変わりにゆっくりと何、何ー!?と辺りを見回す動作を出来る訳だけど。
…正直出来ない方がよかったー!
目が覚めて見回したら私、あの店で抱きかかえてくれていた天使もような白いお兄さんに、ボタンをひん剥かれて首筋の辺りをごそごそと弄られていた。
「ひ、ひぃ!?何してんのー!?」
流石にこれには喉が掠れて…なんて言ってられないー!
だってこれセクハラって言うかセクハラの上を行く大胆な開き直ったセクハラというか、
ていうか、ドスのきいた低音は黒いお兄さんの物だったみたいで、
どこかの和室に寝かされた私にセクハラしてる白お兄さんに向けての威嚇だったみたいだ。
…正当な判断だよ黒いお兄さんー!不審すぎるーでも出来るなら助けて欲しかったー!
「あー、やっぱり無いんだ、刺青」
「…い、いれずみ…?そんな普通の女子高生がしてるわけ…」
「ジョシコーセー。あはは」
何笑ってんのよこの人ー!?警察も被害者女性もびっくりなセクハラ…いや痴漢?っぷり。
いっそ潔い。というか刺青って何?私が刺青してると思って弄ってたの?
怖い、この人怖いよー!
「あははじゃないよー!あの、これセクハラじゃ済まないと思いますけど…言い訳できませんよ。ほらそこの黒いお兄さんも凄く冷たい目でこっち見てる…ッ」
あわよくば助けて欲しいという目で寝転がりながら、覆いかぶさられながらちらりと黒兄さんを見つめてみたけど彼が動くことはなかった。
ただ冷たい目でこちらを見ていた。
…どうしよう。なんてことだよ。
なんだか私、色んな所に包帯ぐるぐるで布団に寝かされてるみたいだし、身体は動かないし。怪我、してるんだと思う。
痛みが無いのはもしかして鎮痛剤でも打たれた?結構がっちり治療されてるし。
でも尚更それじゃ動けない、抵抗出来ない。
…ここがどんな世界か知らないけど、天使だと思っていたお兄さんの裏切りでもう既に辟易してる。
「…羞恥とか無いんだねぇ本当に。それに色々無くしちゃってるみたいだしー」
羞恥?そんな恥じらいなんてした所でこの現状が変わる訳じゃないし、首筋くらい減るものじゃない。流石に上を全部脱げといわれたら羞恥はあるけど、
それに首筋には包帯がところどころ巻かれてる訳だし…
ってこのお兄さん包帯ちょっと解いちゃってるよ、怪我人にも容赦がないセクハラ痴漢天使イケメン怖い!
初めてこの世の人間に畏怖の心を抱いたかもしれない…!
というか、何か私について占い師が告げるようなお言葉を向けていたような…色々失ってるって…もしかして…
「…あの、もしかして占い師とかそっちの道の人ですか?なんか怖いこと言わないでください」
「あっはははー」
「誰かぁー!誰かぁぁー!!!」
そう恐る恐る問いかけてみると、誤魔化したように笑う白いお兄さんに本気でぞっとした。
何、何、私に何があるの。というか私に何の恨みがあるの、セクハラするならあのお店に一緒に居た眠ってた女の子の方が全然可愛いしターゲットになってもおかしくないのに、
いやあっちも青白くて弱ってたみたいだし押し付けるという訳じゃないけど、
私に的を絞る意味が分からないーっ
この部屋にはこの黒いお兄さんと白い天使であり悪魔なお兄さんと、布団に寝転がされる
私しか居ない。
「…うるせぇ!ちったぁ静かにできねぇのか」
「だって、だって、この人変なんですー!」
「あっははー」
「ほらねー!?」
「……まあ得体の知れねぇという点に関しちゃ否定しねぇが」
流石のぎゃーぎゃー煩い叫び声に耐え切れなくなったのか黒いお兄さんが喝を入れたけど、
もうそれ所じゃない。しかもそこまで言うならこの人をどうにかして欲しい。
でも黒い兄さんはじろりと背筋が寒くなるような視線をこの人に向けるだけで動かない。
…もしかして既に険悪なムード…?私より先にこの四人はあの店に来ていたみたいだし、
実際この人たちが何を願ってここに居るのか分からない。和室の窓から見える空はもうどっぷりと暗くなってるけど、いったい今は何時なの?
…現状もよく分からないし此処が何処だかも、いったいこれからどうなるのかも…
…絶対この二人説明してくれないしさー!
…誰か、誰か…!
「だ、誰かー!」
「おー、目ぇ覚めたか!」
…呼びかけたらあっさりドアの向こうから救世主、来た!?
1.笑う人
雨が降る世界。
雨が降る店。
降り注ぐ雨の中、傘も持たずに立つのは幾人かの青少年と眠る少女と女性。
「──どうしても殺したい人が居るんです」
この店の庭で雨も気にした様子もなく、そう告げて笑う彼は、とても無邪気に見えた。
白くてもこもこした上着を羽織った青年。人当たりが柔らかに見える彼が言うからこそ、
ぞっとする物がある。
ここは願いを叶える店。少し先にこの店に"送られて"来た少年と少女。
そしてその少年が自分のただ一つの願いを叫んだ後に、
二人の白と黒の青年が到着した訳で。
その時は二人とも「元いた所にだけは帰りたくありません」と白が、「元いた所へ今すぐ帰せ」と黒が相反するながらもある意味同じ願いをこの店の店主…次元の魔女と呼ばれる彼女に唱えて。「…それと」と付け加えるように呟く。
そして無邪気に冒頭の願いを唱えて見せてみせたのだ。
その場には息を呑む音が木霊する。
不審がるような、普通とは違う物を見るような、そんな視線を気にすることも無く無邪気に笑う彼は、言う
彼曰く。
「ずっとずっと、それだけを願ってたんですよ」
そんな白い無邪気な笑顔を見せる青年は、突然投げ飛ばされるようにこの店に荒々しくやってきた一人の少女を受け止めて、
また同じ笑みで笑うのだった。
***
…痛い、身体が、痛い……
頭が痛い、手が痛い、足が痛い、爪先が痛い、全部が痛い。
なんで、私、なんでこんなに痛くて苦しいの?…なんで、泣いてるの?痛いから?
「それが対価だからよ」
…対価?対価って、なんだっけ…
…あれ、そういえば、私、あそこに行ったんだ、あの店…
あそこでそんな話をした、なら、この暗闇ばかりの空間は、死後の世界?
私は死んだからここに居るの?死んだから、あの子の傷を貰いうけたから、こんなに痛くて苦しくて仕方が無いの?
「…後悔、してる?とても苦しくて、辛くて、いっそ死んでしまいたいくらいの苦痛でしょう」
…確かに痛くて痛くて、死んでしまった方が楽なのかもしれない、って感じるくらいだよ。
こんなに悠長に頭の中で考えられるのが不思議だよ。
…でもね、後悔なんてしてないの。…あの子がこんな思いをしなくてよかったって思ってる。
こんな暗闇の中で一人ぼっちで、痛い思いをして、またあの公園に居た時みたいに独りになって…悲しまなくて、よかったって思ってる。
…私は死んだから、もう傍には居れないけど、あの子には先が作れた。
未来が出来た。
あの子なら、大きくなって、色んなことを知って成長して…いつか選択することが出来るはずだから。
「……そう、なればいいけど」
…?
「それと、貴方は死んでないわよ。傷を肩代わりして自分の傷も残ってる訳だけど…死なないわ。貴方の対価はその傷を負うこと…
そして、世界を失うことね。でも、ただ世界を失うだけじゃ駄目なのよ」
…どういう、こと?私、死なないの?それって凄くおかしくない?死んでもいいくらいの傷だろうに。あれ、車が普通の自動車だったから?でも真正面から猛スピードで直撃だし…絶対あれ、スピード違反だった。
それに、失うだけじゃ駄目って
「貴方が愛してるのは"普通"の世界。当たり前が溢れてる世界。日常がある世界。
理不尽も幸福も世界の当たり前だから、愛してる。そんな風に、現代日本を元に考えて。それに近い世界に辿り着いたら貴方はきっとそこを愛してしまうわね」
…死なない、辿り着く…私は別の世界に行くの?
もしかしたら、日本に近い国がある世界に。…非現実的だけど、もう十分今までも非現実的だしなぁ…
それに私のことよくわかってらっしゃる。
…多分、だけど。私はそんな世界があったら、少し滞在しただけでも愛してしまうかもしれない。
普通が大好きだから。何故だか分からないけど、おかしいこと分かってるけど。
こんな自分が嫌いになれないの。心から日常を楽しんでしまってるの
「だから、貴方は色々な世界を旅せざるを得ない。貴方が愛する世界を手に入れないようにするために。貴方が対価にした、愛する世界と同等のものを手に居れないように。」
…そっか、それが、対価…
確かに相応しい。
…わかった。私、色んな世界を旅する。
私が無条件に日常を愛してしまうのと一緒でね、あの男の子もそうだったの。
勿論いい子だし、素敵な子だから好きになってしまうのは必然だった、でも多分きっとそれだけじゃない。
だから、私は迷わず行けるよ
…私を連れて行ってください
「これから辛いことも沢山あるでしょう。世界にはね、貴方が居た世界での知り合いや家族が、全く違う人生を送ってる。元々貴方に優しかったからと言って、その世界では優しくしてくれるとは限らない。
それも一種のとても辛いことよ。貴方の大好きな日常のある世界の方が確実に少ない。物騒で価値観の違う世界ばかりよ。
…それでもね?」
それでも。
「なら、行きなさい。"あの子"のその先を作ってあげなさい」
…勿論。そうすることで「あの子」が救われるなら。
…ねえ、あなたの…店主さんのなまえは…
「…壱原侑子よ。次元の魔女とも呼ばれてるけどね」
私はです。本当に有難うございました。
…私、最後まで、あの世界が大好きで愛したままで居られたのは貴方の、侑子さんのおかげです。それがとても嬉しい。
…心残りは、勿論無いわけじゃないけど
「…それはどうかしら」
え?
「…ほら、そろそろ貴方は目覚めなくては」
…待って、聞きたいこと、まだあるの…
なんで、
なんで私、
「なんでいきてるの……」
死んだ、はずなのに。
奇跡的に、なんてことも有り得ないくらいの事故だったのに。
傷を肩代わりする。それよりも酷い自分の傷も勿論ある。
それでなんで、
生きていられるの…?
まさか奇跡的に軽度の怪我で済む事故だったんですー!って話だったらきっとあの店には行けなかった。それ相応の対価を、と言っていたし、未来を変える命の重さ…
そんな言葉も聞いたんだから、絶対。
…だったらなんで…
「……おい」
そんな思考を永遠と繰り返していると、すぐ傍からドスの効いた男の人の声が聞こえた。
ひぃーっ!?と咄嗟に叫んでしまいたかったけど、喉が渇いていて掠れた声が出るに終わってしまい不発。
変わりにゆっくりと何、何ー!?と辺りを見回す動作を出来る訳だけど。
…正直出来ない方がよかったー!
目が覚めて見回したら私、あの店で抱きかかえてくれていた天使もような白いお兄さんに、ボタンをひん剥かれて首筋の辺りをごそごそと弄られていた。
「ひ、ひぃ!?何してんのー!?」
流石にこれには喉が掠れて…なんて言ってられないー!
だってこれセクハラって言うかセクハラの上を行く大胆な開き直ったセクハラというか、
ていうか、ドスのきいた低音は黒いお兄さんの物だったみたいで、
どこかの和室に寝かされた私にセクハラしてる白お兄さんに向けての威嚇だったみたいだ。
…正当な判断だよ黒いお兄さんー!不審すぎるーでも出来るなら助けて欲しかったー!
「あー、やっぱり無いんだ、刺青」
「…い、いれずみ…?そんな普通の女子高生がしてるわけ…」
「ジョシコーセー。あはは」
何笑ってんのよこの人ー!?警察も被害者女性もびっくりなセクハラ…いや痴漢?っぷり。
いっそ潔い。というか刺青って何?私が刺青してると思って弄ってたの?
怖い、この人怖いよー!
「あははじゃないよー!あの、これセクハラじゃ済まないと思いますけど…言い訳できませんよ。ほらそこの黒いお兄さんも凄く冷たい目でこっち見てる…ッ」
あわよくば助けて欲しいという目で寝転がりながら、覆いかぶさられながらちらりと黒兄さんを見つめてみたけど彼が動くことはなかった。
ただ冷たい目でこちらを見ていた。
…どうしよう。なんてことだよ。
なんだか私、色んな所に包帯ぐるぐるで布団に寝かされてるみたいだし、身体は動かないし。怪我、してるんだと思う。
痛みが無いのはもしかして鎮痛剤でも打たれた?結構がっちり治療されてるし。
でも尚更それじゃ動けない、抵抗出来ない。
…ここがどんな世界か知らないけど、天使だと思っていたお兄さんの裏切りでもう既に辟易してる。
「…羞恥とか無いんだねぇ本当に。それに色々無くしちゃってるみたいだしー」
羞恥?そんな恥じらいなんてした所でこの現状が変わる訳じゃないし、首筋くらい減るものじゃない。流石に上を全部脱げといわれたら羞恥はあるけど、
それに首筋には包帯がところどころ巻かれてる訳だし…
ってこのお兄さん包帯ちょっと解いちゃってるよ、怪我人にも容赦がないセクハラ痴漢天使イケメン怖い!
初めてこの世の人間に畏怖の心を抱いたかもしれない…!
というか、何か私について占い師が告げるようなお言葉を向けていたような…色々失ってるって…もしかして…
「…あの、もしかして占い師とかそっちの道の人ですか?なんか怖いこと言わないでください」
「あっはははー」
「誰かぁー!誰かぁぁー!!!」
そう恐る恐る問いかけてみると、誤魔化したように笑う白いお兄さんに本気でぞっとした。
何、何、私に何があるの。というか私に何の恨みがあるの、セクハラするならあのお店に一緒に居た眠ってた女の子の方が全然可愛いしターゲットになってもおかしくないのに、
いやあっちも青白くて弱ってたみたいだし押し付けるという訳じゃないけど、
私に的を絞る意味が分からないーっ
この部屋にはこの黒いお兄さんと白い天使であり悪魔なお兄さんと、布団に寝転がされる
私しか居ない。
「…うるせぇ!ちったぁ静かにできねぇのか」
「だって、だって、この人変なんですー!」
「あっははー」
「ほらねー!?」
「……まあ得体の知れねぇという点に関しちゃ否定しねぇが」
流石のぎゃーぎゃー煩い叫び声に耐え切れなくなったのか黒いお兄さんが喝を入れたけど、
もうそれ所じゃない。しかもそこまで言うならこの人をどうにかして欲しい。
でも黒い兄さんはじろりと背筋が寒くなるような視線をこの人に向けるだけで動かない。
…もしかして既に険悪なムード…?私より先にこの四人はあの店に来ていたみたいだし、
実際この人たちが何を願ってここに居るのか分からない。和室の窓から見える空はもうどっぷりと暗くなってるけど、いったい今は何時なの?
…現状もよく分からないし此処が何処だかも、いったいこれからどうなるのかも…
…絶対この二人説明してくれないしさー!
…誰か、誰か…!
「だ、誰かー!」
「おー、目ぇ覚めたか!」
…呼びかけたらあっさりドアの向こうから救世主、来た!?