独善的に、妄信的に
8. 嘘吐きと隠し事─偶像の国→紗羅ノ国
初めてのことだった。いきなりべしゃりととうつ伏せに地面に落ちてしまったから、ぱちくりとしていれば、そこは見たことのない景色。
当たり前だ。だって私はさっき世界移動をしたばっかりだから驚くようなことじゃない…
でも驚くことといえば。
辺りを見回す。…誰もいない。
辺りを見回す。…和を基調として造られた屋根の低い建物が並ぶ。ここはどうやら細い路地のようだ。
じゃあ黒鋼さんのところっぽい昔の日本国っぽいモドキにきてしまったのか?って言ったら違うみたいで、明らかな洋…しかも時代錯誤を感じるポップなお屋根の建物が混じっていたり。…あ、異世界か、って改めて納得してしまうようなものではあったんだけど…
それより驚いたのはそんな錯誤っぷりじゃなくて。
「は、離れて……しまった……のか」
初めてモコナの移動でバラバラに落ちてしまったという事実。
だって、傍に誰もいない。そもそも人の気配もない。ここは町なのかどうかすら分からないけど廃退した雰囲気が漂ってて、建物も古く崩れかけてたりしたり…。
人が住んでる空気がないっていうか…。
なんとなく他の三人と一人とも離れてるように感じるよーーうな?気が?するような。……いや待て。離れてるけど近くにも感じるんだけど…ほんと至近距離で密着してるくらいの近さで。それ逆に怖いー!鳥肌立つー!ホラーか!
私も成長したと言えるべきなのか、気配というのか大きな存在感というのか、そんなものくらいなら段々感じ取れるようになってきて、いつも一緒にいる彼らの気配は嫌でも覚えるしあの人たちは他の一般人と明らかに格が違う存在感があるしー…。そう言っておきながらなんで壊れたレーダーみたいなことになってんの、って言われたらもうなんも言えないんだけど……
…どうしよう、にしても本当に困った。考えなくても私一人では何もできないって分かるし、道も分からないしここで上手く世渡りして生きる術も知らない賢くもない。アルバイトさえしたことのないただの女子高生成り立てのひよっこ。
平和ぼけした国生まれ。そんな子供がどうやって賢く生きろというのか。…あの世界でまさか、こんなことになるんだって分かっていたなら山篭りでも親の反対押し切ってでもしたかもしれないけどさー…
いやそれでも異世界じゃ渡り合えもしないけど努力しようとはしたよ…いやもう仕方ないわ後悔したってー!戻らない物を後に永遠と悔やむ後悔ほど無駄な物はない。
…こんな時どうしてたっけ、いやこんなこと人生で一度も起こったこともなかったし、異世界に来てからは今まで必ず誰かが傍にいて誰かしらが助けてくれて気遣ってくれて…
…ってもー!
「っあ゛ーもうヤだなーほんとーにっ」
…そう考えて、初めて、いや最初から分かりきってたけど…。力無い私はいつも皆に…そして勿論ファイさんに依存して生きていたんだと。
思えば実は最初から自分に依存するように仕向けられていたのも、とまあ後からなんとくそうだったのかもしれない、と感じた、依存という言葉はなんとも聞こえがよくないけど、ともかく「守られる」と甘んじて受け入れ、決意してしまったのは結局私なのだと思い知らされてしまって。
──守る、と。守られると約束した。結局バラバラに落ちて自分の身は自分で守らなくてはならくなったけど。…でもモコナの異世界移動があの人の手で、ただの人間の手でどうにかなるような物だったんなら最初からモコナを手段にして縋ったりしないでしょう。
…そう、私はどうせなら徹底的に守られると、守られ抜かれると決めたんだ。
選んだんだ。迷わないと決めたんだ。手を伸ばすと決めた。これが私の選択。これが望み。
それでも、こうして一人になって改めて自分の状況を振り返ってみると分かる。悔やみたくなんてないけど情けなくて悔やんでしまう。
「……っあー!悔しいーっ!!」
夢の中で見た霜花の人。あの人みたいに、強く凛と強い意志のある人間になりたいって、日本にいるときは毎日のように無意識にずーっと思い続けていて。
夢を視るようになって、物心ついた頃にはすでにだったかも…。
でも現代日本でそんな力を得るようなきっかけも必要性もなく、親の庇護下にある私はいつも甘えて。
バイトもしたことない。それはバイト禁止の高校だからって理由もあるけど、
きっと例え出来たとしてもうだうだと言いながらふらりと力なく向かっていくんだろう。
…嫌だ。そんなの嫌。
そんな自分は嫌、でもそんな自分が好き、平凡を受け入れて幸せに思える自分が大好き、変人でもそれでいい、嫌、そんなのは嫌、と板ばさみ。
どっちの意志があろうと自分からなにも動こうとしない相対する気持ちと意志、ちぐはぐでとてもおかしい。
どうせ出来ないよ、とか。諦めてたわけじゃないのに。自分はこんなものだから、と卑下していた訳じゃ…ないのに
夜は更けて行く。歩いても人が住んでいるような地区へとまだ辿り着かない。
どこまで行っても廃退的なボロ屋ばかり。もしかしたら見捨てられた土地なのかもしれない…。飲まず食わずで歩き続けてもうかれこれ何時間だろう…日が沈んで、それからまた更に歩いてどれくらい…?
怪我をした足は治ってきていたとはいえ、無理をしてしまえばまたぶり返していくだけなのに。…それでも今は必要な時だから酷使してるんだ。痛くても、これからぶり返したって捻挫が癖になったってね。理由があるから。生きなきゃいけない。ただそれだけ。私はたったそれだけを遂げなきゃいけない理由がある。
だから、強くなりたいって。生きてやるって、貪欲なまでの執念と理由を得たんじゃないか。…この異世界で。
強くなりたいって、朝夢を見る度に思って
目を覚めした時の窓の外の平穏な景色がとても愛しくて、また諦めて平穏な自分を受け入れて。
でも私は生きる。こうやっていつか一人きりになっても生きるために足掻く。
それが私の生きる意味だとさえ今は思う、あの公園の男の子が幸せになるための道を作っている、苦しいと一人で自分勝手に呻いても。…それは自分勝手な選択への懺悔でもある。
でも。一人で生きるためには強くなきゃいけないけど、独りで生きていくということは悲しいことだし…独りに依存して行くことは、強さとは違うことだと私は思うのだ。…心からそう思うよ。私の周りにはとても強いけど、相反してとても弱い大切な人が多すぎた。
それは強さでもあり弱さの象徴でもあるあ曖昧な力。
だから
人は独りにならず、一人で生きていても誰かと関わりあうということを苦痛でも妥協でも受け入れていなくちゃいけなくて、例え心許さなくても誰かを利用する器用さがないと生き辛くて苦しくて、自分は世界に独りきりだと強く思い込み生きるのは弱さで強さで…
…眠い、とても眠い、今日は沢山歩いたし…人の気配もないし、多分無防備に寝てしまっても平気、悪意が近づけばきっと起きるはず、とても敏感になってきたから…。
だから眠らないと明日も歩き続けられない、し…
…物陰で、息を殺して寄り掛かって眠ろう。せめてすぐに起き上がれる体勢で、飛び出して行けるような位置で…
一人で。
その晩、道端の影に隠れるように野宿して、眠りに落ちた後に旅に出てからは初めて…
本当に久々に見た霜花の夢は。
とてもうつくしく
「……なんで…?」
私がよく知っている誰かが見えた気がする。
とても嬉しそうに見えて、反面世界の終わりだって顔してる、とてもうつくしい人が。
8. 嘘吐きと隠し事─偶像の国→紗羅ノ国
初めてのことだった。いきなりべしゃりととうつ伏せに地面に落ちてしまったから、ぱちくりとしていれば、そこは見たことのない景色。
当たり前だ。だって私はさっき世界移動をしたばっかりだから驚くようなことじゃない…
でも驚くことといえば。
辺りを見回す。…誰もいない。
辺りを見回す。…和を基調として造られた屋根の低い建物が並ぶ。ここはどうやら細い路地のようだ。
じゃあ黒鋼さんのところっぽい昔の日本国っぽいモドキにきてしまったのか?って言ったら違うみたいで、明らかな洋…しかも時代錯誤を感じるポップなお屋根の建物が混じっていたり。…あ、異世界か、って改めて納得してしまうようなものではあったんだけど…
それより驚いたのはそんな錯誤っぷりじゃなくて。
「は、離れて……しまった……のか」
初めてモコナの移動でバラバラに落ちてしまったという事実。
だって、傍に誰もいない。そもそも人の気配もない。ここは町なのかどうかすら分からないけど廃退した雰囲気が漂ってて、建物も古く崩れかけてたりしたり…。
人が住んでる空気がないっていうか…。
なんとなく他の三人と一人とも離れてるように感じるよーーうな?気が?するような。……いや待て。離れてるけど近くにも感じるんだけど…ほんと至近距離で密着してるくらいの近さで。それ逆に怖いー!鳥肌立つー!ホラーか!
私も成長したと言えるべきなのか、気配というのか大きな存在感というのか、そんなものくらいなら段々感じ取れるようになってきて、いつも一緒にいる彼らの気配は嫌でも覚えるしあの人たちは他の一般人と明らかに格が違う存在感があるしー…。そう言っておきながらなんで壊れたレーダーみたいなことになってんの、って言われたらもうなんも言えないんだけど……
…どうしよう、にしても本当に困った。考えなくても私一人では何もできないって分かるし、道も分からないしここで上手く世渡りして生きる術も知らない賢くもない。アルバイトさえしたことのないただの女子高生成り立てのひよっこ。
平和ぼけした国生まれ。そんな子供がどうやって賢く生きろというのか。…あの世界でまさか、こんなことになるんだって分かっていたなら山篭りでも親の反対押し切ってでもしたかもしれないけどさー…
いやそれでも異世界じゃ渡り合えもしないけど努力しようとはしたよ…いやもう仕方ないわ後悔したってー!戻らない物を後に永遠と悔やむ後悔ほど無駄な物はない。
…こんな時どうしてたっけ、いやこんなこと人生で一度も起こったこともなかったし、異世界に来てからは今まで必ず誰かが傍にいて誰かしらが助けてくれて気遣ってくれて…
…ってもー!
「っあ゛ーもうヤだなーほんとーにっ」
…そう考えて、初めて、いや最初から分かりきってたけど…。力無い私はいつも皆に…そして勿論ファイさんに依存して生きていたんだと。
思えば実は最初から自分に依存するように仕向けられていたのも、とまあ後からなんとくそうだったのかもしれない、と感じた、依存という言葉はなんとも聞こえがよくないけど、ともかく「守られる」と甘んじて受け入れ、決意してしまったのは結局私なのだと思い知らされてしまって。
──守る、と。守られると約束した。結局バラバラに落ちて自分の身は自分で守らなくてはならくなったけど。…でもモコナの異世界移動があの人の手で、ただの人間の手でどうにかなるような物だったんなら最初からモコナを手段にして縋ったりしないでしょう。
…そう、私はどうせなら徹底的に守られると、守られ抜かれると決めたんだ。
選んだんだ。迷わないと決めたんだ。手を伸ばすと決めた。これが私の選択。これが望み。
それでも、こうして一人になって改めて自分の状況を振り返ってみると分かる。悔やみたくなんてないけど情けなくて悔やんでしまう。
「……っあー!悔しいーっ!!」
夢の中で見た霜花の人。あの人みたいに、強く凛と強い意志のある人間になりたいって、日本にいるときは毎日のように無意識にずーっと思い続けていて。
夢を視るようになって、物心ついた頃にはすでにだったかも…。
でも現代日本でそんな力を得るようなきっかけも必要性もなく、親の庇護下にある私はいつも甘えて。
バイトもしたことない。それはバイト禁止の高校だからって理由もあるけど、
きっと例え出来たとしてもうだうだと言いながらふらりと力なく向かっていくんだろう。
…嫌だ。そんなの嫌。
そんな自分は嫌、でもそんな自分が好き、平凡を受け入れて幸せに思える自分が大好き、変人でもそれでいい、嫌、そんなのは嫌、と板ばさみ。
どっちの意志があろうと自分からなにも動こうとしない相対する気持ちと意志、ちぐはぐでとてもおかしい。
どうせ出来ないよ、とか。諦めてたわけじゃないのに。自分はこんなものだから、と卑下していた訳じゃ…ないのに
夜は更けて行く。歩いても人が住んでいるような地区へとまだ辿り着かない。
どこまで行っても廃退的なボロ屋ばかり。もしかしたら見捨てられた土地なのかもしれない…。飲まず食わずで歩き続けてもうかれこれ何時間だろう…日が沈んで、それからまた更に歩いてどれくらい…?
怪我をした足は治ってきていたとはいえ、無理をしてしまえばまたぶり返していくだけなのに。…それでも今は必要な時だから酷使してるんだ。痛くても、これからぶり返したって捻挫が癖になったってね。理由があるから。生きなきゃいけない。ただそれだけ。私はたったそれだけを遂げなきゃいけない理由がある。
だから、強くなりたいって。生きてやるって、貪欲なまでの執念と理由を得たんじゃないか。…この異世界で。
「『なら、あなたに力をあげる』」
強くなりたいって、朝夢を見る度に思って
「『あたしはあなたのことが大好きだから、とても大切だから、力をあげる。あなたと──も、もちろん大好きだし大切だし、そこに存在していて欲しい。でも…』」
目を覚めした時の窓の外の平穏な景色がとても愛しくて、また諦めて平穏な自分を受け入れて。
「『あなたはあたしだけの人だから』」
でも私は生きる。こうやっていつか一人きりになっても生きるために足掻く。
それが私の生きる意味だとさえ今は思う、あの公園の男の子が幸せになるための道を作っている、苦しいと一人で自分勝手に呻いても。…それは自分勝手な選択への懺悔でもある。
でも。一人で生きるためには強くなきゃいけないけど、独りで生きていくということは悲しいことだし…独りに依存して行くことは、強さとは違うことだと私は思うのだ。…心からそう思うよ。私の周りにはとても強いけど、相反してとても弱い大切な人が多すぎた。
それは強さでもあり弱さの象徴でもあるあ曖昧な力。
だから
人は独りにならず、一人で生きていても誰かと関わりあうということを苦痛でも妥協でも受け入れていなくちゃいけなくて、例え心許さなくても誰かを利用する器用さがないと生き辛くて苦しくて、自分は世界に独りきりだと強く思い込み生きるのは弱さで強さで…
…眠い、とても眠い、今日は沢山歩いたし…人の気配もないし、多分無防備に寝てしまっても平気、悪意が近づけばきっと起きるはず、とても敏感になってきたから…。
だから眠らないと明日も歩き続けられない、し…
…物陰で、息を殺して寄り掛かって眠ろう。せめてすぐに起き上がれる体勢で、飛び出して行けるような位置で…
一人で。
その晩、道端の影に隠れるように野宿して、眠りに落ちた後に旅に出てからは初めて…
本当に久々に見た霜花の夢は。
「『だからね』」
とてもうつくしく
「『あたしの大切な…──…』」
「……なんで…?」
私がよく知っている誰かが見えた気がする。
とても嬉しそうに見えて、反面世界の終わりだって顔してる、とてもうつくしい人が。