人間と心
6.戻らない約束─桜都国
「ほ、ほんとに遊園地だ…!懐かしーっ」
…けど、私が知ってる遊園地はこんなに発達した近未来的な雰囲気ではなかった気もするけどー…と考えながら、私は死亡後に遊園地を目で楽しんでいた。バーチャル体験していたカプセルは遊園地のアトラクションの一つだったらしい。
……今の言葉に突っ込みどころは多々あるけど正直思い出したくも無いので省略。
目で楽しむ他ないのは…モコナの世界移動で勝手に遊園地に入ってしまったので乗り物は流石に乗れないよなぁ、見つかっただけでもやばいもんなぁ、という配慮であり。
…にしてもなんだかちょっと遊んでる一般の人たちの服装も独特な気がするし、見てるだけで凄く楽しいし飽きないなー。
…まあそれも…
「……あの、ファイさん、その……」
「はいはいー」
「……ファイさん的にどうしてもこうしなきゃ駄目な所なんですかねー」
「駄目なところですねぇー」
ファイさんが言葉通りにお姫様扱いっぽく私の手を取ってなかったらの話なんですけどー…
正直お姫様扱いがしたいんだか守りたいんだか今あなたは何から私を守ろうとしてるんだか分からないよ、迷走してる気がしてならないよ、風が吹いたくらいじゃ私飛ばないからさ、
…というか一度聞くけど嫌がらせの為にそういうことわざとやってんじゃないんだよね?軽率に軽口叩いてしまった私への当て付けじゃないよね?
そういうの趣味じゃないんだよ喜べないよ勘弁してくれと毒づいて居ようと彼は今輝けている。最低か。
……そうね、あなたが幸せならそれでいいんだよ、そういう"約束"ですし…いえそれが本当に幸せになれるなら、っていう前提の話ですけど。思い切ったことをしなきゃもう手くらいねー…色めきたった視線くらいもういいんだよ、人間一度開き直れば大抵どうにかなる。
…でも出来るなら切実にヤメテ欲しい。…私だって人並みに羞恥心くらい感じるし、ぞわっと悪寒が走るし、こんなバカップル紛いなことして嫌な羞恥心を感じざるを得ない…!
例えカップル同士だったとしても勘弁して欲しいのに、なんで私はこんな人とこんなことをしているのか…分からない。本当に分からない。考えてみると闇すぎて羞恥通り越して寒くなってきた。異世界って怖すぎだろうよ…。
「で、これからどうなるのかなー、私たち」
「一度クリアするか、小狼君達がどうにかなるか、だもんねぇー」
サラッと最後の方縁起でもない恐ろしいこと言うなって怖いなー!へにゃ顔でそれ言われるとゾッとする!
私たちも永遠と遊園地を徘徊している訳にもいかないし本当に手詰まりなのは分かる。
でも詰まる所…私たちみたいに死んでゲームオーバーしてくれなんて本当言えない訳で。
…バーチャルの世界、精神体ってこと?だったら羽根はバーチャルには持っていけない、って理屈になるのか、あれは身体ごとの物理の世界なのかよく分かってない。
だってもう死んだばっかりの時はパニックになってそれ所じゃなかったしー…。いや死んで生きてる時点で身体ごとではないか。そりゃそうか。
「でも結局私たち遊園地に住む訳にはいかないしねー」
「モコナが居ないから羽根感知できないしー?」
「ねー」
……なんだこの緩い空間は。
自分自身の癖でもあるんだけど間延びする喋り方をお互いしてると脱力する…!
でもまあこのまま永遠と遊園地内を徘徊してても実りもないし、見尽くしてもう見る所がない。指をくわえて乗り物を楽しんでる人々を見るだけってのは案外辛いものがありますし…それならねえー。
「けどまあ、ちょっと様子みに行こうか」
「そうですねー」
で、それなら卵カプセルに入ったままの残りの三人と一人を見に行こうよ、もしかしてってこともあるし、まあ早々ゲームオーバーなんてないだろうけどでもああいうことが私達にも起こったわけだしやーでもね〜だ何だかんだと話ながら見に行ったはいいんだけど…
いや死亡してないかな〜なんてルンルン気分で覗きにいく悪趣味な感じじゃなくまあちょっと顔でも見に行こう、みたいなノリだったのに。
……ちょうどいいタイミングで小狼君が目が覚めた。凄くあわあわしてるけど、そんな小狼君も目が覚めたということはイコール…バーチャル世界で死亡。
おいおいお遊びとはいえすっごい物騒だよ本当に…!RPG的な世界をリアルで体感できる、ってものだからその手の人には大変喜ばれると思いますけど私みたいな一般人にはもう本気で恐怖なんだよ!プレイヤーのみんなに聞くけど本当に死にてーのか!?よく考え直してよそこんとこ!
ファイさんが小狼君にここ"桜花国"の妖精遊園地の仕組みについての説明をしてる中で、
じわりと何となく不安感を覚えながら、「仮想現実って言って、あの卵型の入れ物に入ってみる幻覚みたいなもの」と言う言葉にただの幻覚で私はあそこまで追い詰められたと思ったら腹が立ったし羞恥も感じたんだけど…
…凄く嫌な感じがする。まさかまた何か悪いことが起こる?
「それで…だったんですね」
「んん?」
「鬼児の動向を市役所が把握してたり、鬼児が鬼狩りだけを襲ったり」
「ヘンだなって?」
あー、なるほど。そりゃ敵さんが律儀に鬼狩りだけを襲ってやるーなんてことする訳ないしねー…
どうやって鬼児が己の敵と区別してるのか違和感ではあったけど、そりゃーねー…
小狼君が死亡する前に行っていたららしい小人の塔というところでの違和感を話しながら歩いて、最終的に何故この国に来た時の記憶がないんだろー?って話になって。
一つの部屋へと辿り着いた。…人の発する空気。誰かがいる?でも悪意はない、少し悲壮感のあるようなモノを放ってる。
そこには黒髪の綺麗な女性がいて、こちらへとゆっくり歩いてきて。
「『夢卵』を初めてお使いになる方にはこのゲームをより楽しんでいただくために、訪れる仮想国が実在するとスムーズに認識できるよう、個人のデータベースを一部改定させていただいてます」
…と。私たちへ言った。私はサァ…っと血の気が引くように蒼白になるばかり。
…つまり脳をいじくった?それとも幻覚を見せるようにそう思わせているだけ?どちらにしても物騒極まりないことで震えそうになる。
近未来国こわーいって!日本でも未来こんなことが可能になったりしちゃうのかなあ…いやだーっそれ応用したらどんなことが起こるか…
考えただけで寒気が、と論点がズレた思考を繰り広げていると、この国に来た時のことを小狼君が思い出したみたいだ。
…私たちは一足先に思い出してました。その時は結構ショックでした。
千歳さん、というこの遊園地を作った人の一人だという女性は、『夢卵』への『干渉者』を知ってるという小狼君にその人のことを教えてほしいという。
…それって…鬼児を従えてたという人のこと?多分その人は…
私たちを殺した人。
それを考えた瞬間ぞくりと何かが背筋を駆け抜けて、さっきから感じてる少しの不安感が急激に膨らんだことを自覚する。
「このままでは、
ゲームがゲームで済まなくなってしまいます」
仮想現実世界は所詮仮想の世界であり危険があっても現実には関係のないこと、
しかし干渉者はゲームへと干渉する者。
そして干渉者が干渉すると、そのゲームの中の"仮想"が、現実へと変わってしまうのだと千歳さんが呟いた瞬間に。
建物が地響きするような轟音が響いて揺れる。思わず盛大にすっ転びそうになったよ…!スカートでソレは勘弁して欲しい。
「…現実になってしまったようですね」
……あああ、だから嫌なんだ、こんなあり得ない程の近未来ー!頼むから"近"であって欲しくない!なんて物騒なんだっ
よくない不安感はコレのこと?忍び寄る悪意や気配が伝わっていたのかもしれない。
ちらちらとファイさんの方を伺ってそのことを言うべきか迷ってたけど…
これは言った所でどうにもならないようなことだったし、でも分かってたはずなのに黙ってたっていうのは何度やっても心が苦しい。
…京にお別れする時もそうだった。無意識に分かってたはずなのに「また明日」なんて残酷なこと言ってしまった、きっとこれからもそう…沢山のことを黙り込んで知らないふりをしてしまうんだろうなあ、と俯いていたら、
ファイさんが手を取ってとんでもない程の揺れから支えてくれた。
思わずぎっと睨んでしまった。ああ憎々しい!手がかかる女でスミマセンねえー!チッ…あ、思わず舌打ちが出るぅー…
…いや、でも。
にこ、と笑う彼は、そう、"守って"くれるんだろう。…それでもしかしたら今度こそ、そこに嘘偽りはなく…幸せに、なってくれるのかもしれない。そんな考えは甘いか。あの時私はそんな約束この人が出来るはずがないのにと分かりきってた、そんな人がそう簡単に。…でも、そうなら。
それなら私は黒鋼さんが言ったように…「迷わない」だけで。……本当にそうなってくれるのなら、の話だけどさー。
しっかしこんなことをして本当に本人が幸せになれるのかは心底疑問である。紳士になりたい願望でもあったのか?それなんかこわっ
ここまで公開処刑なことさせ続けておいて約束破ったら本当に許さんからな…!…でも私に出来ることなんて…きっと約束を守り続けることしかない。…考えたらニート並みに働かない姿勢すぎて罪悪感でしにたくなってきた…。
「この桜花国には「夢卵」の仮想現実を実体化させる程のシステムはありません。干渉者がどんな方法でそれを実現しているのか、早くそれを把握して対抗手段をとらないと」
千歳さんが真剣な面持ちでいうにはこのままでは遊園地だけではなく国中に広がってしまう、と。沢山の仮想だけの物であったはずの鬼児や、それこそ死まで。色んなことが…
小狼君が思わず当てもなく走り出しそうだったけど、この部屋にある大きなスクリーンにサクラちゃんや黒鋼さんや、見知った喫茶店のお客様達が映って足を止めた。…目が、覚めたのか…ただ目が覚めただけならいいんだけど。わざわさせ死んでほしくなんてないしさ…。
スクリーンを見れば正確な位置こそ地図もナビもないからわからないけど、何も分からないよりいい。
そして…
「星史郎さん!!」
──私たちを殺した人の姿もそこには映って……
ぞく、っと身が震える。あの人はバーチャルだと知っていたのか知らなかったのか、どちらにしても容赦がない、遠慮もない、躊躇も何も…だから…
「……今度こそ、守らせてくれるよね?」
「……それを本、当、に。心の底から望んでるならの話だけどねえ」
ああ寒気がするああ鳥肌立つ、お互い言葉に含みをこめて、バチバチと牽制をし合い、腹の探りあいをするように視線を交わしながらも、言葉だけ聞いたらもう駄目だ。私は何様だ姫様か?柄じゃないっての!異世界へ行ったら姫でした!なんて何処のラノベだって。
…まあ私が身震いしていた様子を見かねたのか何なのか。
私の手を持ち上げてわざわざそう問いかけるのは、どんな意図があるのか。…あーわかってるって。痛いほどね。だってお互い守る守られらないの言い合いをしていたらあっけなく死んじゃったんだもん。共倒れですよー。
同じことを繰り返す程馬鹿じゃない。きっと引くのは私。こんなことに二度なんてモノはない…
それが本当に幸せに繋がるならいい、理屈としては全然通ってない幸せの理由だけど、守られてるだけで幸せになってくれるなら何も出来ないお荷物に過ぎない私の、唯一のうってつけの仕事だろうよ。
本当に意味わかんないけどねえ!なんて考えながら、ファイさんの細められた冷えた瞳を探るように見つめながら、
彼越しに見える私たちを殺した人の姿を見ながら、どんどん心が冷えていくのを感じながら。
…これが最善だなんて思っちゃいない。もっと出来ることがあったんじゃないかってずっと考えてる。
私たちは小狼君と共に外へと出て、眠るサクラちゃんや黒鋼さん、あのお客様達が居る所へとやってきた。
辺りはもう崩壊が進んでいてアトラクションもぐちゃぐちゃに、あちこちで火柱や煙が立ち上ってる。
…けむい、凄く喉に来る…。目も開いちゃいられないし。ファイさんが手を引いていてくれなきゃまともに安全な所も歩けなかったかもしれない。
「……げほッ」
…あーあもう本当にけむいし喉が痛いし息苦しいし。
今もまた守られてる。
本当にこれでよかったのかと心が迷いを見せていて、ぐ、っと怪我をしている方の右手を握り締めて、迷わないって決めたじゃん自分!と渇を入れた。
小狼君達はお友達になったらしい喫茶店のお客様たちと感動の再会をしていたけど、『星史郎さん』とやらが黒鋼さん相手に本気で挑もうとしているらしく…
まさに真剣勝負。命がけで剣を交えている中でハラハラと見つめるしかない私。あ〜もう危ないし今の剣の振りかざし方怖かったしスレスレだったし、どっちが怪我するのも嫌だよ見たくないよ例え敵で私達を殺した人でもとヤキモキしてると…モコナが突然かぱりと口をあけた。
は?と思ってる間にも瞬間的に何かを吐き出したみたいで、目にも留まらぬ速さで戦う二人の中心へとソレが突き刺さって。…なんで?とハラハラしていたのも忘れて思わずきょとんとしてしまった。
…矢文?矢に何か紙が巻いてある。なんて古典的な…恐らく侑子さんから…!なんで今!?おかしくないー!?
…はぁ、なんか呆気にとられてしまって逆に少し和んだけど。
すると星史郎さんが小狼君とファイさんの方を向いてまたにこりと笑う。
「ちゃんとこっちに戻ってきていたようですね、二人共…、いえ三人共」
「…どういうことだ」
黒鋼さんが怖い顔してるけど今ひぃっなんて悲鳴を上げる余裕もなかった。
…それは、もしかして、小狼君もこの人が殺した…からとか?こちらの方へちらりと視線をやったのを見るに、残りの二人は私とファイさん…そうとしか考えられない口ぶりな気がして眉を思いっきり寄せていると、彼の胸元が突然光りだした。
モコナの目がめきょっと開いて、光に包まれながらソレはゆっくりと現れる。
「サクラ姫の羽根!?」
…あ、そっか。そこですぐに納得した。サクラちゃんの羽根の今までの影響力を考えたらこんなこと…仮想の現実化、なんていう面妖なことが起こってしまっても不思議じゃないな、って。
サクラちゃんの意思も関係なく悪用されていく記憶、心、羽根、自己を司る大事な所。
それはきっと。どれだけの苦痛なのだろうと
ふと冷えてく心を押さえつけながら考えてみた。
多分それはとても、とても…
…とても。
6.戻らない約束─桜都国
「ほ、ほんとに遊園地だ…!懐かしーっ」
…けど、私が知ってる遊園地はこんなに発達した近未来的な雰囲気ではなかった気もするけどー…と考えながら、私は死亡後に遊園地を目で楽しんでいた。バーチャル体験していたカプセルは遊園地のアトラクションの一つだったらしい。
……今の言葉に突っ込みどころは多々あるけど正直思い出したくも無いので省略。
目で楽しむ他ないのは…モコナの世界移動で勝手に遊園地に入ってしまったので乗り物は流石に乗れないよなぁ、見つかっただけでもやばいもんなぁ、という配慮であり。
…にしてもなんだかちょっと遊んでる一般の人たちの服装も独特な気がするし、見てるだけで凄く楽しいし飽きないなー。
…まあそれも…
「……あの、ファイさん、その……」
「はいはいー」
「……ファイさん的にどうしてもこうしなきゃ駄目な所なんですかねー」
「駄目なところですねぇー」
ファイさんが言葉通りにお姫様扱いっぽく私の手を取ってなかったらの話なんですけどー…
正直お姫様扱いがしたいんだか守りたいんだか今あなたは何から私を守ろうとしてるんだか分からないよ、迷走してる気がしてならないよ、風が吹いたくらいじゃ私飛ばないからさ、
…というか一度聞くけど嫌がらせの為にそういうことわざとやってんじゃないんだよね?軽率に軽口叩いてしまった私への当て付けじゃないよね?
そういうの趣味じゃないんだよ喜べないよ勘弁してくれと毒づいて居ようと彼は今輝けている。最低か。
……そうね、あなたが幸せならそれでいいんだよ、そういう"約束"ですし…いえそれが本当に幸せになれるなら、っていう前提の話ですけど。思い切ったことをしなきゃもう手くらいねー…色めきたった視線くらいもういいんだよ、人間一度開き直れば大抵どうにかなる。
…でも出来るなら切実にヤメテ欲しい。…私だって人並みに羞恥心くらい感じるし、ぞわっと悪寒が走るし、こんなバカップル紛いなことして嫌な羞恥心を感じざるを得ない…!
例えカップル同士だったとしても勘弁して欲しいのに、なんで私はこんな人とこんなことをしているのか…分からない。本当に分からない。考えてみると闇すぎて羞恥通り越して寒くなってきた。異世界って怖すぎだろうよ…。
「で、これからどうなるのかなー、私たち」
「一度クリアするか、小狼君達がどうにかなるか、だもんねぇー」
サラッと最後の方縁起でもない恐ろしいこと言うなって怖いなー!へにゃ顔でそれ言われるとゾッとする!
私たちも永遠と遊園地を徘徊している訳にもいかないし本当に手詰まりなのは分かる。
でも詰まる所…私たちみたいに死んでゲームオーバーしてくれなんて本当言えない訳で。
…バーチャルの世界、精神体ってこと?だったら羽根はバーチャルには持っていけない、って理屈になるのか、あれは身体ごとの物理の世界なのかよく分かってない。
だってもう死んだばっかりの時はパニックになってそれ所じゃなかったしー…。いや死んで生きてる時点で身体ごとではないか。そりゃそうか。
「でも結局私たち遊園地に住む訳にはいかないしねー」
「モコナが居ないから羽根感知できないしー?」
「ねー」
……なんだこの緩い空間は。
自分自身の癖でもあるんだけど間延びする喋り方をお互いしてると脱力する…!
でもまあこのまま永遠と遊園地内を徘徊してても実りもないし、見尽くしてもう見る所がない。指をくわえて乗り物を楽しんでる人々を見るだけってのは案外辛いものがありますし…それならねえー。
「けどまあ、ちょっと様子みに行こうか」
「そうですねー」
で、それなら卵カプセルに入ったままの残りの三人と一人を見に行こうよ、もしかしてってこともあるし、まあ早々ゲームオーバーなんてないだろうけどでもああいうことが私達にも起こったわけだしやーでもね〜だ何だかんだと話ながら見に行ったはいいんだけど…
いや死亡してないかな〜なんてルンルン気分で覗きにいく悪趣味な感じじゃなくまあちょっと顔でも見に行こう、みたいなノリだったのに。
……ちょうどいいタイミングで小狼君が目が覚めた。凄くあわあわしてるけど、そんな小狼君も目が覚めたということはイコール…バーチャル世界で死亡。
おいおいお遊びとはいえすっごい物騒だよ本当に…!RPG的な世界をリアルで体感できる、ってものだからその手の人には大変喜ばれると思いますけど私みたいな一般人にはもう本気で恐怖なんだよ!プレイヤーのみんなに聞くけど本当に死にてーのか!?よく考え直してよそこんとこ!
ファイさんが小狼君にここ"桜花国"の妖精遊園地の仕組みについての説明をしてる中で、
じわりと何となく不安感を覚えながら、「仮想現実って言って、あの卵型の入れ物に入ってみる幻覚みたいなもの」と言う言葉にただの幻覚で私はあそこまで追い詰められたと思ったら腹が立ったし羞恥も感じたんだけど…
…凄く嫌な感じがする。まさかまた何か悪いことが起こる?
「それで…だったんですね」
「んん?」
「鬼児の動向を市役所が把握してたり、鬼児が鬼狩りだけを襲ったり」
「ヘンだなって?」
あー、なるほど。そりゃ敵さんが律儀に鬼狩りだけを襲ってやるーなんてことする訳ないしねー…
どうやって鬼児が己の敵と区別してるのか違和感ではあったけど、そりゃーねー…
小狼君が死亡する前に行っていたららしい小人の塔というところでの違和感を話しながら歩いて、最終的に何故この国に来た時の記憶がないんだろー?って話になって。
一つの部屋へと辿り着いた。…人の発する空気。誰かがいる?でも悪意はない、少し悲壮感のあるようなモノを放ってる。
そこには黒髪の綺麗な女性がいて、こちらへとゆっくり歩いてきて。
「『夢卵』を初めてお使いになる方にはこのゲームをより楽しんでいただくために、訪れる仮想国が実在するとスムーズに認識できるよう、個人のデータベースを一部改定させていただいてます」
…と。私たちへ言った。私はサァ…っと血の気が引くように蒼白になるばかり。
…つまり脳をいじくった?それとも幻覚を見せるようにそう思わせているだけ?どちらにしても物騒極まりないことで震えそうになる。
近未来国こわーいって!日本でも未来こんなことが可能になったりしちゃうのかなあ…いやだーっそれ応用したらどんなことが起こるか…
考えただけで寒気が、と論点がズレた思考を繰り広げていると、この国に来た時のことを小狼君が思い出したみたいだ。
…私たちは一足先に思い出してました。その時は結構ショックでした。
千歳さん、というこの遊園地を作った人の一人だという女性は、『夢卵』への『干渉者』を知ってるという小狼君にその人のことを教えてほしいという。
…それって…鬼児を従えてたという人のこと?多分その人は…
私たちを殺した人。
それを考えた瞬間ぞくりと何かが背筋を駆け抜けて、さっきから感じてる少しの不安感が急激に膨らんだことを自覚する。
「このままでは、
ゲームがゲームで済まなくなってしまいます」
仮想現実世界は所詮仮想の世界であり危険があっても現実には関係のないこと、
しかし干渉者はゲームへと干渉する者。
そして干渉者が干渉すると、そのゲームの中の"仮想"が、現実へと変わってしまうのだと千歳さんが呟いた瞬間に。
建物が地響きするような轟音が響いて揺れる。思わず盛大にすっ転びそうになったよ…!スカートでソレは勘弁して欲しい。
「…現実になってしまったようですね」
……あああ、だから嫌なんだ、こんなあり得ない程の近未来ー!頼むから"近"であって欲しくない!なんて物騒なんだっ
よくない不安感はコレのこと?忍び寄る悪意や気配が伝わっていたのかもしれない。
ちらちらとファイさんの方を伺ってそのことを言うべきか迷ってたけど…
これは言った所でどうにもならないようなことだったし、でも分かってたはずなのに黙ってたっていうのは何度やっても心が苦しい。
…京にお別れする時もそうだった。無意識に分かってたはずなのに「また明日」なんて残酷なこと言ってしまった、きっとこれからもそう…沢山のことを黙り込んで知らないふりをしてしまうんだろうなあ、と俯いていたら、
ファイさんが手を取ってとんでもない程の揺れから支えてくれた。
思わずぎっと睨んでしまった。ああ憎々しい!手がかかる女でスミマセンねえー!チッ…あ、思わず舌打ちが出るぅー…
…いや、でも。
にこ、と笑う彼は、そう、"守って"くれるんだろう。…それでもしかしたら今度こそ、そこに嘘偽りはなく…幸せに、なってくれるのかもしれない。そんな考えは甘いか。あの時私はそんな約束この人が出来るはずがないのにと分かりきってた、そんな人がそう簡単に。…でも、そうなら。
それなら私は黒鋼さんが言ったように…「迷わない」だけで。……本当にそうなってくれるのなら、の話だけどさー。
しっかしこんなことをして本当に本人が幸せになれるのかは心底疑問である。紳士になりたい願望でもあったのか?それなんかこわっ
ここまで公開処刑なことさせ続けておいて約束破ったら本当に許さんからな…!…でも私に出来ることなんて…きっと約束を守り続けることしかない。…考えたらニート並みに働かない姿勢すぎて罪悪感でしにたくなってきた…。
「この桜花国には「夢卵」の仮想現実を実体化させる程のシステムはありません。干渉者がどんな方法でそれを実現しているのか、早くそれを把握して対抗手段をとらないと」
千歳さんが真剣な面持ちでいうにはこのままでは遊園地だけではなく国中に広がってしまう、と。沢山の仮想だけの物であったはずの鬼児や、それこそ死まで。色んなことが…
小狼君が思わず当てもなく走り出しそうだったけど、この部屋にある大きなスクリーンにサクラちゃんや黒鋼さんや、見知った喫茶店のお客様達が映って足を止めた。…目が、覚めたのか…ただ目が覚めただけならいいんだけど。わざわさせ死んでほしくなんてないしさ…。
スクリーンを見れば正確な位置こそ地図もナビもないからわからないけど、何も分からないよりいい。
そして…
「星史郎さん!!」
──私たちを殺した人の姿もそこには映って……
ぞく、っと身が震える。あの人はバーチャルだと知っていたのか知らなかったのか、どちらにしても容赦がない、遠慮もない、躊躇も何も…だから…
「……今度こそ、守らせてくれるよね?」
「……それを本、当、に。心の底から望んでるならの話だけどねえ」
ああ寒気がするああ鳥肌立つ、お互い言葉に含みをこめて、バチバチと牽制をし合い、腹の探りあいをするように視線を交わしながらも、言葉だけ聞いたらもう駄目だ。私は何様だ姫様か?柄じゃないっての!異世界へ行ったら姫でした!なんて何処のラノベだって。
…まあ私が身震いしていた様子を見かねたのか何なのか。
私の手を持ち上げてわざわざそう問いかけるのは、どんな意図があるのか。…あーわかってるって。痛いほどね。だってお互い守る守られらないの言い合いをしていたらあっけなく死んじゃったんだもん。共倒れですよー。
同じことを繰り返す程馬鹿じゃない。きっと引くのは私。こんなことに二度なんてモノはない…
それが本当に幸せに繋がるならいい、理屈としては全然通ってない幸せの理由だけど、守られてるだけで幸せになってくれるなら何も出来ないお荷物に過ぎない私の、唯一のうってつけの仕事だろうよ。
本当に意味わかんないけどねえ!なんて考えながら、ファイさんの細められた冷えた瞳を探るように見つめながら、
彼越しに見える私たちを殺した人の姿を見ながら、どんどん心が冷えていくのを感じながら。
…これが最善だなんて思っちゃいない。もっと出来ることがあったんじゃないかってずっと考えてる。
私たちは小狼君と共に外へと出て、眠るサクラちゃんや黒鋼さん、あのお客様達が居る所へとやってきた。
辺りはもう崩壊が進んでいてアトラクションもぐちゃぐちゃに、あちこちで火柱や煙が立ち上ってる。
…けむい、凄く喉に来る…。目も開いちゃいられないし。ファイさんが手を引いていてくれなきゃまともに安全な所も歩けなかったかもしれない。
「……げほッ」
…あーあもう本当にけむいし喉が痛いし息苦しいし。
今もまた守られてる。
本当にこれでよかったのかと心が迷いを見せていて、ぐ、っと怪我をしている方の右手を握り締めて、迷わないって決めたじゃん自分!と渇を入れた。
小狼君達はお友達になったらしい喫茶店のお客様たちと感動の再会をしていたけど、『星史郎さん』とやらが黒鋼さん相手に本気で挑もうとしているらしく…
まさに真剣勝負。命がけで剣を交えている中でハラハラと見つめるしかない私。あ〜もう危ないし今の剣の振りかざし方怖かったしスレスレだったし、どっちが怪我するのも嫌だよ見たくないよ例え敵で私達を殺した人でもとヤキモキしてると…モコナが突然かぱりと口をあけた。
は?と思ってる間にも瞬間的に何かを吐き出したみたいで、目にも留まらぬ速さで戦う二人の中心へとソレが突き刺さって。…なんで?とハラハラしていたのも忘れて思わずきょとんとしてしまった。
…矢文?矢に何か紙が巻いてある。なんて古典的な…恐らく侑子さんから…!なんで今!?おかしくないー!?
…はぁ、なんか呆気にとられてしまって逆に少し和んだけど。
すると星史郎さんが小狼君とファイさんの方を向いてまたにこりと笑う。
「ちゃんとこっちに戻ってきていたようですね、二人共…、いえ三人共」
「…どういうことだ」
黒鋼さんが怖い顔してるけど今ひぃっなんて悲鳴を上げる余裕もなかった。
…それは、もしかして、小狼君もこの人が殺した…からとか?こちらの方へちらりと視線をやったのを見るに、残りの二人は私とファイさん…そうとしか考えられない口ぶりな気がして眉を思いっきり寄せていると、彼の胸元が突然光りだした。
モコナの目がめきょっと開いて、光に包まれながらソレはゆっくりと現れる。
「サクラ姫の羽根!?」
…あ、そっか。そこですぐに納得した。サクラちゃんの羽根の今までの影響力を考えたらこんなこと…仮想の現実化、なんていう面妖なことが起こってしまっても不思議じゃないな、って。
サクラちゃんの意思も関係なく悪用されていく記憶、心、羽根、自己を司る大事な所。
それはきっと。どれだけの苦痛なのだろうと
ふと冷えてく心を押さえつけながら考えてみた。
多分それはとても、とても…
…とても。