小指の証
6.戻らない約束─桜都国
ぼーっとしていた思考が一気にクリアになって、嫌な感じが一切なくなり遮断されてる感覚
……ああ、やっと、息が出来た、ような…?私何してたんだっけ…
ファイさんに話してたこと、は…覚えてる、それで私達は喫茶店に居たはずで…
…?ここ、何処?
見下ろすと何故か透明な卵型のカプセルのようなモノに入っていて、それでここ喫茶店じゃなくて喫茶店ではそういえばお客さまが来てそのお客さんが鬼児を従えて、こちらへ放って、
それは私達の身体を突き破って……
そのまま
「……なんだ、こういうこと…」
近くで知ってる人の安堵したような疲れたような声が聞こえても、心臓は煩く嫌な鳴り方をしてる。
死んだ。確かに私達は死んだ。衝撃も与えられたしそれも殴られたなんて程度じゃなく。
あ、死んだなーって一瞬で理解できてしまう程の。
あんな状態でも意固地になって心で嘘を吐いてるあの人が許せなくて。
私も頑固に引かなかったけどこれは彼だけの問題じゃなくて私の問題でもあるんだ、主張する権利は絶対にある、だから。
でも本当は本心はもっと違う…あんなに悲しくて苦しくて切なくて死んでしまうほどの心を私のせいで、抱えていて欲しくなかった。
気が付いてた。無から生み出した形ばかりの笑顔の奥に揺らめいてた大きな感情。
あんなモノを日々奥の奥の奥へ隠していきていたなんて、考えたらとても悲しいことで虚しいことで
悔しいことで。
いつから私はこんなにこの人に肩入れしてしまってたんだろう…
敵さんもまさか永遠にくだらない話をする猶予をくれる訳もなく、いやアレでも立派に多大な慈悲でくれた方だと思うけど。
私は気がついたら、あの人を庇うように体が動いていた。こちらへと向かってくる黒い影。それはとても鋭く、私たちに風穴を開けんばかりの勢いで、当たったら無事ではいられないって瞬間、わかってたはずなのに。
無意識のうちに体は勝手に動いて何か熱い物が湧き上がってきて、そして私の背中にそれが突き刺さり、庇ったのに虚しくもそのまま二人一緒に、鬼児は串刺しにしてくれやがって。
…ああもう!正直怖かったし震えるしもう怖い怖い怖い死んだかと思った何度死ぬ覚悟なんてしなきゃいけないのもう強くなれてきたと思えるようになってたでもこんなのはやっぱり怖い怖い、
でも
ここは現実、らしい。
さっきまで居た桜都国はバーチャル仮想空間なのだと説明されて、安堵の息を漏らしてむしろ息を漏らしすぎて上手く息が出来なくて必死に息を吸い込んで。
なんだか卵のようなカプセルに入ってた私を迎えにきて、ひょいと担いで外へ降ろしながら、ファイさんは言った。
私ももう生きてることが嬉しすぎて屈辱とか恥とかみっともないとか考える前に感極まって抱きついた。すぐ突き飛ばさんばかりに蹴り飛ばしながら理不尽に離したけど。リリース。
でも人間の体温最高。だって串刺しになって身体の中心に風穴が開いて、死んだ冷たくなった感覚が今でも身体に残ってるんだもん…!あああぎもち゛わ゛るーっ
もうこの人のものだったとしても後に黒歴史になったとしてももういい、体温最高。
最高の至福に思える。ああ、もうーっボロボロ涙が零れて一度そうなったら止まらないし、根性で声なんて上げてやんないけど、
くっそ、くっそおっ
「……なんで庇ったりしたの…?」
「なんでも、こうしても、ないよ」
「下手したら死んでた、そんなの分かってるはずなのに、なのになんで俺を、」
「それはあんただって一緒だ馬鹿やろー!」
「……………死んだら、戻らないんだよ……」
「……それも一緒だよ何言ってんの?」
表情から読み取られることを恐れているのか、はたまたなんとなくなのか。わからないけど、喋りかけたかと思うと顔を胸板あたりに押し付けて、顔を上げられないようにしてきやがった。や、野郎…!
「ぶごおっ」とシリアスモードには似使わない奇声が出てしまった気がするけど無視。ジョシコーセーとして、とかガン無視。
そのままの体制で私は応戦。一応突き放してみようとしたけど怪我手ではビクともしない。、
…というか、下手したら死んでた、って。この人には守る物があったから、と言っても、あんな魔王みたいな人に立ち向かうには、下手したら死んでたなんて一緒だったでしょうに。
死んだら戻らない?そんなの自分だって一緒なくせに。生きてる限り戻らないのに。まるで自分は人間じゃないと言っているみたいだよ。それともこの人は…
「……私、あの時自己犠牲なんて考えてなかったよ…自分が盾になれば、なんて少しも考えてなかった、ただ、」
──ただ…
「……身体が勝手に動いてたんだから、仕方ないじゃんか……私だって当たり前に死ぬのは怖いし、誰かのためにだって、そんな簡単に命投げ出せないよ。それにそれが…本当に為になることだなんて思わない」
──そんなこと、本当は自分が一番よく分かってる。分かってるからこそ、私は訪れる毎朝が苦しい。
もしかしたら元の世界の京やお父さんお母さん、悪友達、それに…
……あの男の子が、一番苦しいに決まってるのに。
顔を押し付けるために後頭部に添えられた手を解き、顔を上げると困ったような顔をしていたファイさんがいた。流石にこんな時は作り笑いでもなんでもせず、無表情に近かったけど。
それが好ましい楽しげな顔とは言わずとも、とても嬉しかった。作り笑いじゃなくて自然体で、本当に素でやってる表情だとわかったから。
じ、っと負けず半ば睨むように見つめてやる。眼力なんて自信ないけど視線は外さない。本当に訴えたいことがある時は人間、視線をそらさない方が効果的。心理的にもだし、きょろきょろするより本気がわかってもらえるだろうし。するとふ、っと眉を下げて諦めたように悲しげにファイさんは笑った。
「……分かった、よ」
「……もう、うそつかないよね?」
「……約束する。こんなに意固地になって、また君を死なせたりなんてしたくないから…意地を張るくらいなら……一度そうなって……俺は…もうわかった、から」
「……は……?」
…含みがあるとはわかってるけど、嘘偽りなく、困ったようにでも今は。こんなに優しく笑ってる。笑えるファイさんが。
無茶をして傷ついてボロボロになって。心までボロボロで。そんなのファイさんに限らず誰がそうでももう嫌だし、盾になんてなってほしくないし、嘘なんてつかないで欲しい。つかせたくない。
私を守ると約束することでこんなこと、起こらないで欲しいと思うのは当然だ。
でもこの人はそれを譲らなかった。嘘をついてあの場でもそれを本当だと言ってお互い譲らなくて共に死んでしまって。
バーチャル仮想空間だったんだから本当に死ぬってことは免れたけど…
どうやらここには一度来たことはあったけど「よりアトラクションを楽しむためにー」だとか言う理由で記憶が抹消されていたらしい。ずっとカプセルの中で夢を見ていたようなモノかー…
ただ、これが現実世界にある国だったら本当に死んでいたということだ。
ただのくだらない意地の張り合いのせいで。それには思う所があったようで、困ったように眉を下げて笑いながらも。その心は複雑なようでいて少し暖かさが灯ってるように思える。…気が、する。ほんの微かすぎる物だから確証を持てなくて曖昧だー…
だからちょっとムッとした顔を照れ隠しでしながら手を…小指を差し出してみる。
「……約束だから」
「……指切り?」
「え、指切り知ってるの?異世界にもある?へえー、これポピュラーなんだねー」
「……うん、俺は知ってるよ」
異世界にも指切りの約束事って、あるのかなあ…?なんか日本独特の物な気がするけど、生憎指きりの発祥地については詳しく調べようと思ったことは無いので知らん。
まあ、なら差し出した小指の意味も分かってるんだろうなあ…。…まあ発祥地こそは知らないけど、私がやろうとしてるのは子供達のお遊びみたいな指きりじゃなくて。小指は約束の証、結ぶことで出来る契約のようなもの。そう言いたくて、なんでか知らないけどそんな物を私は知っていて。
…それで本当に分かってんのかな?後で知りませんでしたーっなんて言ってもそれこそ知らんよ本当に!
私自身ほんと、なんでこんなこと知ってるのか分からない、でも…
「……約束。これでもう嘘は吐けないから。…だから……」
…だから、私はどうしたいんだろう。嘘をつかないで。幸せになって。私の中の定義でこの人を雁字搦めにして。…でも、それでも。どうしても約束してほしいと思ってしまう、それがどんなに頑固者のそれこそ意固地になったそれだとしても。
差し出した小指にくすりと笑いながら、少し眉を下げながら「約束」と呟きながら絡めたこの人は、言葉は
「………、」
本当だと思ったから。優しい心だと思ったから。複雑ながら穏やかな心を感じてとても心地よくて。また照れ隠しするみたいに俯いた。くっそもうなんて屈辱だ、死ねる。
…あーあでもあったかいんだよ、私生きてる、死んだらきっとずっと冷たいから、暖かさは生きてる証拠、結んだ小指から伝わる生き物特有の体温が落ち着く、何でか懐かしい感じがする、安心感たまらん。
…あったかー。たまらんよなあなんてオッサンみたいなことを考えて。
間抜けに締まりのない顔で笑いながらそんなことに安心感を抱いていた私は。
「って、体温高いよねー」
「……は……」
「お姫様にでも?なんにでもなってくれるんだよねー」
「はぁ?………………。……あ゛ッ!!?」
「よーしよーし」
その野郎の言う言葉が一瞬よく分からず思考停止し。一拍遅れて理解した頃には、動物でも相手するかのように頭をわしゃわしゃわしゃわしゃと撫でていやがって、ぞわりと気持ち悪いものを感じて、その張本人はご機嫌そうににっこにこしてるだなんて、
……気付きはしなかったわけ、で。
「わ、私の軽率野郎ー!!」
いくらあの場が場だったからって、なんでもとか軽口叩いてんじゃねえー!未来の私の首が絞まった!今絞まった!馬鹿野郎しにてーのか!あ゛ー!
公衆の面前でナニプレイだってくらいボロ泣きで永遠とこっ酷く。八つ当たりのように「わしゃわしゃしてんじゃねー!」と汚い言葉を混ぜこぜて罵り続ける。
なんで泣いてんだ私、パニックだからか、ショックですお母さん、自分がこんな馬鹿だと思わなかった、今までの扱いでも十分丁重に(棒)扱ってくださっていたのに、こんなことを言ってしまったらきっともっっっともっと丁重に扱ってくださるに違いない。
こんな口を滑らせたことも忘れて約束〜だとかこんなやり取りを続行してた私もどうかと思うけど、こいつ分かっててやってたでしょ、言質取ったり!みたいなしたり顔だったろ、くっそ食えない…!
黒鋼さぁん小狼君サクラちゃんモコナ…、死んでくれとは言わないけど早くこの現実世界に戻ってきて、この状況で二人っきりにしないでええー!
6.戻らない約束─桜都国
ぼーっとしていた思考が一気にクリアになって、嫌な感じが一切なくなり遮断されてる感覚
……ああ、やっと、息が出来た、ような…?私何してたんだっけ…
ファイさんに話してたこと、は…覚えてる、それで私達は喫茶店に居たはずで…
…?ここ、何処?
見下ろすと何故か透明な卵型のカプセルのようなモノに入っていて、それでここ喫茶店じゃなくて喫茶店ではそういえばお客さまが来てそのお客さんが鬼児を従えて、こちらへ放って、
それは私達の身体を突き破って……
そのまま
「……なんだ、こういうこと…」
近くで知ってる人の安堵したような疲れたような声が聞こえても、心臓は煩く嫌な鳴り方をしてる。
死んだ。確かに私達は死んだ。衝撃も与えられたしそれも殴られたなんて程度じゃなく。
あ、死んだなーって一瞬で理解できてしまう程の。
あんな状態でも意固地になって心で嘘を吐いてるあの人が許せなくて。
私も頑固に引かなかったけどこれは彼だけの問題じゃなくて私の問題でもあるんだ、主張する権利は絶対にある、だから。
でも本当は本心はもっと違う…あんなに悲しくて苦しくて切なくて死んでしまうほどの心を私のせいで、抱えていて欲しくなかった。
気が付いてた。無から生み出した形ばかりの笑顔の奥に揺らめいてた大きな感情。
あんなモノを日々奥の奥の奥へ隠していきていたなんて、考えたらとても悲しいことで虚しいことで
悔しいことで。
いつから私はこんなにこの人に肩入れしてしまってたんだろう…
敵さんもまさか永遠にくだらない話をする猶予をくれる訳もなく、いやアレでも立派に多大な慈悲でくれた方だと思うけど。
私は気がついたら、あの人を庇うように体が動いていた。こちらへと向かってくる黒い影。それはとても鋭く、私たちに風穴を開けんばかりの勢いで、当たったら無事ではいられないって瞬間、わかってたはずなのに。
無意識のうちに体は勝手に動いて何か熱い物が湧き上がってきて、そして私の背中にそれが突き刺さり、庇ったのに虚しくもそのまま二人一緒に、鬼児は串刺しにしてくれやがって。
…ああもう!正直怖かったし震えるしもう怖い怖い怖い死んだかと思った何度死ぬ覚悟なんてしなきゃいけないのもう強くなれてきたと思えるようになってたでもこんなのはやっぱり怖い怖い、
でも
ここは現実、らしい。
さっきまで居た桜都国はバーチャル仮想空間なのだと説明されて、安堵の息を漏らしてむしろ息を漏らしすぎて上手く息が出来なくて必死に息を吸い込んで。
なんだか卵のようなカプセルに入ってた私を迎えにきて、ひょいと担いで外へ降ろしながら、ファイさんは言った。
私ももう生きてることが嬉しすぎて屈辱とか恥とかみっともないとか考える前に感極まって抱きついた。すぐ突き飛ばさんばかりに蹴り飛ばしながら理不尽に離したけど。リリース。
でも人間の体温最高。だって串刺しになって身体の中心に風穴が開いて、死んだ冷たくなった感覚が今でも身体に残ってるんだもん…!あああぎもち゛わ゛るーっ
もうこの人のものだったとしても後に黒歴史になったとしてももういい、体温最高。
最高の至福に思える。ああ、もうーっボロボロ涙が零れて一度そうなったら止まらないし、根性で声なんて上げてやんないけど、
くっそ、くっそおっ
「……なんで庇ったりしたの…?」
「なんでも、こうしても、ないよ」
「下手したら死んでた、そんなの分かってるはずなのに、なのになんで俺を、」
「それはあんただって一緒だ馬鹿やろー!」
「……………死んだら、戻らないんだよ……」
「……それも一緒だよ何言ってんの?」
表情から読み取られることを恐れているのか、はたまたなんとなくなのか。わからないけど、喋りかけたかと思うと顔を胸板あたりに押し付けて、顔を上げられないようにしてきやがった。や、野郎…!
「ぶごおっ」とシリアスモードには似使わない奇声が出てしまった気がするけど無視。ジョシコーセーとして、とかガン無視。
そのままの体制で私は応戦。一応突き放してみようとしたけど怪我手ではビクともしない。、
…というか、下手したら死んでた、って。この人には守る物があったから、と言っても、あんな魔王みたいな人に立ち向かうには、下手したら死んでたなんて一緒だったでしょうに。
死んだら戻らない?そんなの自分だって一緒なくせに。生きてる限り戻らないのに。まるで自分は人間じゃないと言っているみたいだよ。それともこの人は…
「……私、あの時自己犠牲なんて考えてなかったよ…自分が盾になれば、なんて少しも考えてなかった、ただ、」
──ただ…
「……身体が勝手に動いてたんだから、仕方ないじゃんか……私だって当たり前に死ぬのは怖いし、誰かのためにだって、そんな簡単に命投げ出せないよ。それにそれが…本当に為になることだなんて思わない」
──そんなこと、本当は自分が一番よく分かってる。分かってるからこそ、私は訪れる毎朝が苦しい。
もしかしたら元の世界の京やお父さんお母さん、悪友達、それに…
……あの男の子が、一番苦しいに決まってるのに。
顔を押し付けるために後頭部に添えられた手を解き、顔を上げると困ったような顔をしていたファイさんがいた。流石にこんな時は作り笑いでもなんでもせず、無表情に近かったけど。
それが好ましい楽しげな顔とは言わずとも、とても嬉しかった。作り笑いじゃなくて自然体で、本当に素でやってる表情だとわかったから。
じ、っと負けず半ば睨むように見つめてやる。眼力なんて自信ないけど視線は外さない。本当に訴えたいことがある時は人間、視線をそらさない方が効果的。心理的にもだし、きょろきょろするより本気がわかってもらえるだろうし。するとふ、っと眉を下げて諦めたように悲しげにファイさんは笑った。
「……分かった、よ」
「……もう、うそつかないよね?」
「……約束する。こんなに意固地になって、また君を死なせたりなんてしたくないから…意地を張るくらいなら……一度そうなって……俺は…もうわかった、から」
「……は……?」
…含みがあるとはわかってるけど、嘘偽りなく、困ったようにでも今は。こんなに優しく笑ってる。笑えるファイさんが。
無茶をして傷ついてボロボロになって。心までボロボロで。そんなのファイさんに限らず誰がそうでももう嫌だし、盾になんてなってほしくないし、嘘なんてつかないで欲しい。つかせたくない。
私を守ると約束することでこんなこと、起こらないで欲しいと思うのは当然だ。
でもこの人はそれを譲らなかった。嘘をついてあの場でもそれを本当だと言ってお互い譲らなくて共に死んでしまって。
バーチャル仮想空間だったんだから本当に死ぬってことは免れたけど…
どうやらここには一度来たことはあったけど「よりアトラクションを楽しむためにー」だとか言う理由で記憶が抹消されていたらしい。ずっとカプセルの中で夢を見ていたようなモノかー…
ただ、これが現実世界にある国だったら本当に死んでいたということだ。
ただのくだらない意地の張り合いのせいで。それには思う所があったようで、困ったように眉を下げて笑いながらも。その心は複雑なようでいて少し暖かさが灯ってるように思える。…気が、する。ほんの微かすぎる物だから確証を持てなくて曖昧だー…
だからちょっとムッとした顔を照れ隠しでしながら手を…小指を差し出してみる。
「……約束だから」
「……指切り?」
「え、指切り知ってるの?異世界にもある?へえー、これポピュラーなんだねー」
「……うん、俺は知ってるよ」
異世界にも指切りの約束事って、あるのかなあ…?なんか日本独特の物な気がするけど、生憎指きりの発祥地については詳しく調べようと思ったことは無いので知らん。
まあ、なら差し出した小指の意味も分かってるんだろうなあ…。…まあ発祥地こそは知らないけど、私がやろうとしてるのは子供達のお遊びみたいな指きりじゃなくて。小指は約束の証、結ぶことで出来る契約のようなもの。そう言いたくて、なんでか知らないけどそんな物を私は知っていて。
…それで本当に分かってんのかな?後で知りませんでしたーっなんて言ってもそれこそ知らんよ本当に!
私自身ほんと、なんでこんなこと知ってるのか分からない、でも…
「……約束。これでもう嘘は吐けないから。…だから……」
…だから、私はどうしたいんだろう。嘘をつかないで。幸せになって。私の中の定義でこの人を雁字搦めにして。…でも、それでも。どうしても約束してほしいと思ってしまう、それがどんなに頑固者のそれこそ意固地になったそれだとしても。
差し出した小指にくすりと笑いながら、少し眉を下げながら「約束」と呟きながら絡めたこの人は、言葉は
「………、」
本当だと思ったから。優しい心だと思ったから。複雑ながら穏やかな心を感じてとても心地よくて。また照れ隠しするみたいに俯いた。くっそもうなんて屈辱だ、死ねる。
…あーあでもあったかいんだよ、私生きてる、死んだらきっとずっと冷たいから、暖かさは生きてる証拠、結んだ小指から伝わる生き物特有の体温が落ち着く、何でか懐かしい感じがする、安心感たまらん。
…あったかー。たまらんよなあなんてオッサンみたいなことを考えて。
間抜けに締まりのない顔で笑いながらそんなことに安心感を抱いていた私は。
「って、体温高いよねー」
「……は……」
「お姫様にでも?なんにでもなってくれるんだよねー」
「はぁ?………………。……あ゛ッ!!?」
「よーしよーし」
その野郎の言う言葉が一瞬よく分からず思考停止し。一拍遅れて理解した頃には、動物でも相手するかのように頭をわしゃわしゃわしゃわしゃと撫でていやがって、ぞわりと気持ち悪いものを感じて、その張本人はご機嫌そうににっこにこしてるだなんて、
……気付きはしなかったわけ、で。
「わ、私の軽率野郎ー!!」
いくらあの場が場だったからって、なんでもとか軽口叩いてんじゃねえー!未来の私の首が絞まった!今絞まった!馬鹿野郎しにてーのか!あ゛ー!
公衆の面前でナニプレイだってくらいボロ泣きで永遠とこっ酷く。八つ当たりのように「わしゃわしゃしてんじゃねー!」と汚い言葉を混ぜこぜて罵り続ける。
なんで泣いてんだ私、パニックだからか、ショックですお母さん、自分がこんな馬鹿だと思わなかった、今までの扱いでも十分丁重に(棒)扱ってくださっていたのに、こんなことを言ってしまったらきっともっっっともっと丁重に扱ってくださるに違いない。
こんな口を滑らせたことも忘れて約束〜だとかこんなやり取りを続行してた私もどうかと思うけど、こいつ分かっててやってたでしょ、言質取ったり!みたいなしたり顔だったろ、くっそ食えない…!
黒鋼さぁん小狼君サクラちゃんモコナ…、死んでくれとは言わないけど早くこの現実世界に戻ってきて、この状況で二人っきりにしないでええー!