日常に見る夢にて
1.私が日常を失うまで
いつか夢見ていた景色。
いつか見つめててた霜花のようなうつくしいもの。
手を伸ばしても届かず、手を伸ばせても行き届くことはない。
その花は、とても脆く見えてとても強く、うつくしいだけの物ではないのだから。
でもあたしはそんな花に夢見てた。
いつか触れてみたいと思ってた。
理由なんてない、ただ人が綺麗なものに集まるように、蝶が花に近づくように、
あたしがそうなることは"必然"だったんだ。
…だから、そう
あたしは怖くなんてないよ。
これが必然だというなら、あたしはそれを信じてるから。
ずっと、ずっと何があっても。
信じてる。
朝、そんなポエマーな夢を見て目が覚める高校生一年女子。
夢見がちな思春期女子か、と言いたくなるけど、
いつもの繰り返し見すぎてる夢なために、さして動揺することもなく身支度をして朝食も抜いて学校へと向かう。
お化けが出るような夢やいかにも恋愛願望が見えるような夢ならまだしも、あまり嫌な思いをするような夢じゃないから、
例えそれを一週間の半分以上の周期で見ていても、そう、それが日常の一部で。
多分、何かしらの深層心理が働いてるんだろうなー、と自分を達観してみてた。
そんなお気楽な性格をしてるため当然授業中お腹が減っていつものように我慢してお昼、
放課後になり友達とだべりながらそのままふらふら一人で帰る。
突然居なくなった私を探す友人は居ない。これが私の通常運転だからだ。
幼馴染万歳。これで出会ったばかりの人間なら即距離をおかれるだろう。
お互いを分かり合った親友は一生の宝であるという格言が身にしみる。ごめんね明日読みたがってた漫画貸すから許して。
「……ううん」
そして。
そんなことをしたあげくに。困った。私はとても困っていた。
学校からの帰り道、何故だか遠回りしてみようという気になっていつもと帰宅コースを変えて早一週間。
そのため急に幼馴染兼親友の傍から消えるわけだけど…
その道中、子供達が集まる公園があって、懐っこそうな男の子と友達になって、六日。
とても可愛くて甘え上手で、きょうだいが居ない私にはこれまた愛らしくてたまらないんだ。
そして若干怪しい行動をとりながらも、女子高生としての生活を全うしている私にも…
それなりに悩みだってあるしそれなりに願望だってあるし、
苦しいときも悲しいときも、もちろん嬉しいときだってある。
まあ、まあ、とりあえずそれが現代の女子高生のフツーというだけのことだ。
まるでお話の中のように、フツーの一般中流家庭フツーの両親フツーの一軒家にフツーの学校フツーのペットの犬が一匹、平凡の女の子象を身体であらわしてしまってる訳だけど…
そんな私にもね、少し困ったことが起きてるんだよね。なんだろうこれ。本当に。
「…どうしよう…?」
公園で男の子とバイバイした後、何度も何度も通りかかる建物がある。
建物というよりはもうどこかのお洒落なお店のようではあるんだけど…少し近寄りがたい。
でも私の気まぐれが故に自ら歩いてる道の真ん中にあるのだから仕方ない。
そう考えて早三日。
…それでも少し怖くなって、その店を避けるように路地に入りこむ。
だって、だってなんとも言えない空気感というか…
オーラ?なんてものを放ってる気がするんだもの。
人気はない。かと言って手入れが行き届いてないわけじゃない。多分人の手は回ってる、でも…
「…またこの店……」
その抵抗感を後押しするかのように怖くなるようなことが起きてるんだよこれ。
なんとなく嫌な感じがする、だけで完結してしまえばそこで終わりなのに。
確信を持ってしまうことが起こる。
…私が何度横道にそれても、この店にやってきちゃうんだよ。
まるで誰かが私を呼んでいるかのように…?
…やだやだ!そんなこと考えたらもー怖くてしかたなくなっちゃうやめようよー私!
でも、でも、考えないようにしたって、何故か、何故か、反れてもそれても反対方向に行ってもこの店にやってきてしまうのは事実であって…
「…な、なんとかなる!なるなる!私迷路とか結構得意だし!」
いやいや、事実がなんだ。事実を塗り替え前に進み未来へと向かうのが人間である。
失敗も成功の元へ。
なんでも明るく考えて行こう。そう、これも迷路!アトラクションの一種だと思えば怖くなーい!
さあ行こう!…お母さんに門限破りで起こられて、晩御飯抜かれる前にー!
…そう、考えていた時期が。
私にもありました。ええあったんです。
「ど…どうしよう…」
あれからどれくらいの時が経ったんだろう。私には計り知れないけど時計を見たらちょうど三時間でした。
そう三時間もこの店の周りをぐるぐるぐるぐるちょっとおバカな犬かってくらいお回りしていたわけですよ。それがこのざまだ。
…店の前に逆戻りー!怖いー!怖い!
…どうしよう、もう真っ暗だしお母さんに怒られるのはもちろんだけど、下手したらお父さんにも知れて家族会議だよ…!
極端に厳しいのではなく、それも全て私の身のためを思ってのことだとわかってる。
でもその私はと言えば実際に危険な目に今現在合いかけていても、
現在の心配どころか後先の怒られる!なんてことを考えて。
子供だった。
いや、子供なんだよ。高校生にもなりたてで、身長もこれから伸びるってって未来を感じてて、
先があるって疑わない希望のある子供。
…誰かが助けてくれる、きっとなんとかなる、だってこんなこと有り得ないし現実的じゃないし、絶対誰か通りかかってくれるって。
…そんな風に
誰かに助けてもらえると当たり前に無意識に感じてしまってる子供
…違う、私はそんな風になりたかったんじゃなくて。
…そうじゃない。
私は何故か、無意識に毎朝のように見る夢を思い出した。
…とても幻想的な世界、幻想の中に生きる言葉、とても神秘的なそれを、
考えると、何故か身体の中心の内側辺りが。
だから。
「…あ!いらっしゃい。…これたんだ、よかった!」
私は一歩、何かの店のように見える敷地内に、足を踏み入れていた。
…無策だとか考えなしとか投げやりじゃなくて。
だって、何度歩き回っても抜け出せない、それは回数でも時間じゃない、
無限ループ。だったら何か行動を起こさなきゃ。このループ内にこの建物がある理由は何故?そこから抜け出せないのは何故?
…きっと私が中に入らないから。アクションを起こさないから。
そうしないとループからは抜け出せないから。
…一応、私だって考えてるんだから!と考えながらもドスンと荒々しく踏みしめた一歩は。
私の世界を拓かせた。
「「いらっしゃいませ」」
「…は…?」
「「主さまにお客様っ主さまのお客様っ」」
「え、おきゃ…?え、え、っていうか、あの、すみませんそこのお兄さん!」
その建物の敷地内に一歩足を踏みしめると、何故か何かがぐにゃりと歪むのを感じた。
顔を上げるとそこにはいつの間にか学ランでメガネの優しげな男の子がいて。
笑顔でまるで私が来るのをわかっていたような言葉で向かえて、
玄関先で対になるようにならんでこれまた中に手招きしようとするピンクと青の髪の小さな可愛い女の子、私は、それが、この人たちを見てると、
なんだか無性に胸がぐるぐるとしてしまって。
とても気持ち悪くて。頭もぐるぐるしてきて。
「ここ、いったいなんなんですか!?」
何がなんだかまったくわからないながら、目を回しながらメガネのお兄さんに問いかければ。
「ここは、願いを叶える店よ」
それにお兄さんが口を開くよりも早く。
奥の部屋からす、っと音も立てずに現れたとても綺麗で、とても艶やかな黒髪を靡かせたお姉さんが、私の問いに答えた。
…ぐらり。今までで一番大きな揺れと歪みがくる。
…きもちわるい。
だって、こんなことってない、有り得ないよ
そんな、
「あなたの願い、叶えましょう。…ここは願いを叶える店だから」
私はここを、"知って"いるだなんて。
「……ぁ……?」
あの時の一番大きな揺れと歪みに眩暈がして、思わず瞼を閉じて意識を手放して。
…目が覚めた。
居るのは自分の慣れたしっくりくるベッドの上。
クマのぬいぐるみが二対、黒と白。なんとなく欲しくなってつい。
天使の羽の置物がひとつ。なんとなく気に入って。
双子のクリーム色の女の子の人形がある。なんとなく傍に置いておきたくて。
…紛れもない私の部屋だ。まさかあんな変な迷路の道中に倒れてるわけでもなく、
変な願いを叶える店だなんていうインチキっぽい所でもなく。
…ああ、そっか。じゃ。
「夢だ。……ねよ」
そうして二度寝をかまそうと布団を被った所で朝一回目の母からの喝が入り、
珍しく嫌な顔をしながらも起き上がればきょとんと珍しそうな顔をする母。言いたいことはわかるけどその顔やめて。
…本当に、フツーだ。フツーの家庭。普通の惰性も怠け癖も弱さもある人間。
…フツーすぎて、逆に違和感があるくらい。外で犬が朝一で鳴いてる。とても気持ちよさそうだ。
…でも、何よりとても落胆や違和感を感じているのは。
いつもの霜花に例えられた、夢をみなかったからかもしれない。
──時は進む
──世界は回る
──未来は変わる
──近づいて、いく
私は逆らえない"必然"を知らないまま。
1.私が日常を失うまで
いつか夢見ていた景色。
いつか見つめててた霜花のようなうつくしいもの。
手を伸ばしても届かず、手を伸ばせても行き届くことはない。
その花は、とても脆く見えてとても強く、うつくしいだけの物ではないのだから。
でもあたしはそんな花に夢見てた。
いつか触れてみたいと思ってた。
理由なんてない、ただ人が綺麗なものに集まるように、蝶が花に近づくように、
あたしがそうなることは"必然"だったんだ。
…だから、そう
あたしは怖くなんてないよ。
これが必然だというなら、あたしはそれを信じてるから。
ずっと、ずっと何があっても。
信じてる。
朝、そんなポエマーな夢を見て目が覚める高校生一年女子。
夢見がちな思春期女子か、と言いたくなるけど、
いつもの繰り返し見すぎてる夢なために、さして動揺することもなく身支度をして朝食も抜いて学校へと向かう。
お化けが出るような夢やいかにも恋愛願望が見えるような夢ならまだしも、あまり嫌な思いをするような夢じゃないから、
例えそれを一週間の半分以上の周期で見ていても、そう、それが日常の一部で。
多分、何かしらの深層心理が働いてるんだろうなー、と自分を達観してみてた。
そんなお気楽な性格をしてるため当然授業中お腹が減っていつものように我慢してお昼、
放課後になり友達とだべりながらそのままふらふら一人で帰る。
突然居なくなった私を探す友人は居ない。これが私の通常運転だからだ。
幼馴染万歳。これで出会ったばかりの人間なら即距離をおかれるだろう。
お互いを分かり合った親友は一生の宝であるという格言が身にしみる。ごめんね明日読みたがってた漫画貸すから許して。
「……ううん」
そして。
そんなことをしたあげくに。困った。私はとても困っていた。
学校からの帰り道、何故だか遠回りしてみようという気になっていつもと帰宅コースを変えて早一週間。
そのため急に幼馴染兼親友の傍から消えるわけだけど…
その道中、子供達が集まる公園があって、懐っこそうな男の子と友達になって、六日。
とても可愛くて甘え上手で、きょうだいが居ない私にはこれまた愛らしくてたまらないんだ。
そして若干怪しい行動をとりながらも、女子高生としての生活を全うしている私にも…
それなりに悩みだってあるしそれなりに願望だってあるし、
苦しいときも悲しいときも、もちろん嬉しいときだってある。
まあ、まあ、とりあえずそれが現代の女子高生のフツーというだけのことだ。
まるでお話の中のように、フツーの一般中流家庭フツーの両親フツーの一軒家にフツーの学校フツーのペットの犬が一匹、平凡の女の子象を身体であらわしてしまってる訳だけど…
そんな私にもね、少し困ったことが起きてるんだよね。なんだろうこれ。本当に。
「…どうしよう…?」
公園で男の子とバイバイした後、何度も何度も通りかかる建物がある。
建物というよりはもうどこかのお洒落なお店のようではあるんだけど…少し近寄りがたい。
でも私の気まぐれが故に自ら歩いてる道の真ん中にあるのだから仕方ない。
そう考えて早三日。
…それでも少し怖くなって、その店を避けるように路地に入りこむ。
だって、だってなんとも言えない空気感というか…
オーラ?なんてものを放ってる気がするんだもの。
人気はない。かと言って手入れが行き届いてないわけじゃない。多分人の手は回ってる、でも…
「…またこの店……」
その抵抗感を後押しするかのように怖くなるようなことが起きてるんだよこれ。
なんとなく嫌な感じがする、だけで完結してしまえばそこで終わりなのに。
確信を持ってしまうことが起こる。
…私が何度横道にそれても、この店にやってきちゃうんだよ。
まるで誰かが私を呼んでいるかのように…?
…やだやだ!そんなこと考えたらもー怖くてしかたなくなっちゃうやめようよー私!
でも、でも、考えないようにしたって、何故か、何故か、反れてもそれても反対方向に行ってもこの店にやってきてしまうのは事実であって…
「…な、なんとかなる!なるなる!私迷路とか結構得意だし!」
いやいや、事実がなんだ。事実を塗り替え前に進み未来へと向かうのが人間である。
失敗も成功の元へ。
なんでも明るく考えて行こう。そう、これも迷路!アトラクションの一種だと思えば怖くなーい!
さあ行こう!…お母さんに門限破りで起こられて、晩御飯抜かれる前にー!
…そう、考えていた時期が。
私にもありました。ええあったんです。
「ど…どうしよう…」
あれからどれくらいの時が経ったんだろう。私には計り知れないけど時計を見たらちょうど三時間でした。
そう三時間もこの店の周りをぐるぐるぐるぐるちょっとおバカな犬かってくらいお回りしていたわけですよ。それがこのざまだ。
…店の前に逆戻りー!怖いー!怖い!
…どうしよう、もう真っ暗だしお母さんに怒られるのはもちろんだけど、下手したらお父さんにも知れて家族会議だよ…!
極端に厳しいのではなく、それも全て私の身のためを思ってのことだとわかってる。
でもその私はと言えば実際に危険な目に今現在合いかけていても、
現在の心配どころか後先の怒られる!なんてことを考えて。
子供だった。
いや、子供なんだよ。高校生にもなりたてで、身長もこれから伸びるってって未来を感じてて、
先があるって疑わない希望のある子供。
…誰かが助けてくれる、きっとなんとかなる、だってこんなこと有り得ないし現実的じゃないし、絶対誰か通りかかってくれるって。
…そんな風に
誰かに助けてもらえると当たり前に無意識に感じてしまってる子供
…違う、私はそんな風になりたかったんじゃなくて。
…そうじゃない。
私は何故か、無意識に毎朝のように見る夢を思い出した。
…とても幻想的な世界、幻想の中に生きる言葉、とても神秘的なそれを、
考えると、何故か身体の中心の内側辺りが。
だから。
「…あ!いらっしゃい。…これたんだ、よかった!」
私は一歩、何かの店のように見える敷地内に、足を踏み入れていた。
…無策だとか考えなしとか投げやりじゃなくて。
だって、何度歩き回っても抜け出せない、それは回数でも時間じゃない、
無限ループ。だったら何か行動を起こさなきゃ。このループ内にこの建物がある理由は何故?そこから抜け出せないのは何故?
…きっと私が中に入らないから。アクションを起こさないから。
そうしないとループからは抜け出せないから。
…一応、私だって考えてるんだから!と考えながらもドスンと荒々しく踏みしめた一歩は。
私の世界を拓かせた。
「「いらっしゃいませ」」
「…は…?」
「「主さまにお客様っ主さまのお客様っ」」
「え、おきゃ…?え、え、っていうか、あの、すみませんそこのお兄さん!」
その建物の敷地内に一歩足を踏みしめると、何故か何かがぐにゃりと歪むのを感じた。
顔を上げるとそこにはいつの間にか学ランでメガネの優しげな男の子がいて。
笑顔でまるで私が来るのをわかっていたような言葉で向かえて、
玄関先で対になるようにならんでこれまた中に手招きしようとするピンクと青の髪の小さな可愛い女の子、私は、それが、この人たちを見てると、
なんだか無性に胸がぐるぐるとしてしまって。
とても気持ち悪くて。頭もぐるぐるしてきて。
「ここ、いったいなんなんですか!?」
何がなんだかまったくわからないながら、目を回しながらメガネのお兄さんに問いかければ。
「ここは、願いを叶える店よ」
それにお兄さんが口を開くよりも早く。
奥の部屋からす、っと音も立てずに現れたとても綺麗で、とても艶やかな黒髪を靡かせたお姉さんが、私の問いに答えた。
…ぐらり。今までで一番大きな揺れと歪みがくる。
…きもちわるい。
だって、こんなことってない、有り得ないよ
そんな、
「あなたの願い、叶えましょう。…ここは願いを叶える店だから」
私はここを、"知って"いるだなんて。
「……ぁ……?」
あの時の一番大きな揺れと歪みに眩暈がして、思わず瞼を閉じて意識を手放して。
…目が覚めた。
居るのは自分の慣れたしっくりくるベッドの上。
クマのぬいぐるみが二対、黒と白。なんとなく欲しくなってつい。
天使の羽の置物がひとつ。なんとなく気に入って。
双子のクリーム色の女の子の人形がある。なんとなく傍に置いておきたくて。
…紛れもない私の部屋だ。まさかあんな変な迷路の道中に倒れてるわけでもなく、
変な願いを叶える店だなんていうインチキっぽい所でもなく。
…ああ、そっか。じゃ。
「夢だ。……ねよ」
そうして二度寝をかまそうと布団を被った所で朝一回目の母からの喝が入り、
珍しく嫌な顔をしながらも起き上がればきょとんと珍しそうな顔をする母。言いたいことはわかるけどその顔やめて。
…本当に、フツーだ。フツーの家庭。普通の惰性も怠け癖も弱さもある人間。
…フツーすぎて、逆に違和感があるくらい。外で犬が朝一で鳴いてる。とても気持ちよさそうだ。
…でも、何よりとても落胆や違和感を感じているのは。
いつもの霜花に例えられた、夢をみなかったからかもしれない。
──時は進む
──世界は回る
──未来は変わる
──近づいて、いく
私は逆らえない"必然"を知らないまま。