初めの一歩、止ーまった
4.存在しない選択肢─霧の国
……?
なんだか、暖かい。いや、少し肌寒いままなんだけど。服は湿気ってるから、どうしてもそこは…。
でも手が暖かくて、誰かが握ってくれてる。…京はもうちょっと暖かいし、
お父さんとお母さんはもうちょっと乱暴に握ってくるし眠ってても容赦ないし。
あの男の子はもっと小さいし。
…こんなに上品に、というか、壊れ物を扱うように握ってくる人、私は知らないし、学校の友達は悪友みたいな感じだから手なんて握ったらぎゃーっ!って感じだし、
なら、
なら、
「…あ、起きた」
「…………なんのマネですか……?」
「んー、こんなマネー?」
……こんな握り方してくるの、どう考えてもこの人しか居ないしさー…。
目が覚めた一瞬でスゥ…っと頭が冷えた。相当寝起きの悪い私がこんなことが出来ようになるなんて、人生に一度限りでもあると思ったことはない…。
し、か、も、膝枕なんて気色悪いくらいのゲロ甘なことしてくるのはどう考えても私の今までの知り合いには居ないし、
この手はお父さんよりも大きくてしっかりしてて、それでいて綺麗な手だし。
この寒気がするくらいで悪寒が走るくらいで背筋が震えるくらいで砂を吐きそうな行為を平気でしてしまうのは、この旅仲間……ファイさんか、それか二次元に住まう男の子くらいしか居ないんだから。
…ちょっと私は漫画の中の人物との夢でも見てるのかと思ってしまってた。
流石のこの人でもこんなこと…こんなことが、あっていいと思わなかったからねぇー…。
「……ぁ゛ー……」
こて、っと現実逃避するように一気に真っ青になった顔を傾けると、いい感じに気絶でもしてくれそうな気がする。
……でも私は早くこの魔の手から逃れなきゃいけない…というか手というかまずは膝の上から…一体何がどうなってこんなことになってるんだよ…
私が居眠りなんてしてしまったのが悪かったのか。
…もしかして、上着のこと怒ってたりする?嫌がらせだったりするのこれ…!?
パチリと目を開くと、そこにはまだ濡れたままの小狼君や、黒鋼さんやサクラさんも居た。サクラさん、目が覚めたみたいだ、よかったー…少し顔色がいい。
そしてこのセクハラ男もいるし、…不思議生物も居るし…無言でじーーーーーーっとその糸目でこっちを見つめてる。
私も目を細めてじーーーーーっと見つめ返してみた。
……が。すぐに。
「そういえば、湖の中、大丈夫だったー?すっごい光ってたけどー」
「あ!町があったんです!」
「ぎゃっ」
思わぬ言葉に大変驚いて、ずっこけてしまった。ずっこけ、というか膝からずり落ちた、ってのが正しいんだけど…。
無意味に視線が集まってしまったから「続けて、続けて」と手で引きつり笑いしながらジェスチャーしといたけど、
……だって湖の中に町って何事だと思うじゃん、湖が発光するなんてびっくりするじゃんー!?…まあ異世界だから、の一言で済まされてしまうことなんだけど…あまりに現実的じゃないことだ。
この口ぶりじゃあ、湖に沈んでしまった古い古い建物、って訳じゃなかろうしー…
すんごい目がキラキラしてる。小狼君はこういう、まだ見ぬ不思議なものを発見するのが好き、らしい。
遺跡発掘に携わってたとも聞いたような気がする。
……ザ・男の子って感じだなぁ……
……ん?…あれ!て、て、てててていうか。
「……ぷぅ!」
「………ッ」
……な、鳴いた。ファイさんの肩越しに、肩に乗ってる不思議生物が、私の方を向いて初めて鳴いた…
この生物は私をどう思ってるのか知らないけど、無言でじーーーーーっと見つめるばかりで話しかけてきたことはなくて。
懐っこくて明るくて、その場を和ませるムードメーカーのような生き物だったのに、
不自然なくらい私に話しかけてきたことはない。
そして私はその生物を、悲鳴を上げることなくさっきはじーーーーっと暫く見つめ続けていて…
その後、この生物はぷぅ、と鳴いて、いや、喋って、
「ぷ、ぷぅ……?」
「みたいな!」
……初めて意思疎通のようなものをしたかもしれない。いやもう会話にもなってない会話なんだけど。
…今初めて、もしかして…と思い始めたことがある。この不思議生物、モコナは…
私が怖がってることに気が付いていて、少しでも慣れてくれる時を待っていてくれて、こうして少しだけまともに目を合わせられるようになった時に。
一言だけ、あくまで一言、いつもの押せ押せなマシンガントークではなく、
喋りかけてくれたのではないかと…
な、な、…なに、そ、れ、…
「〜〜〜っ!!!」
…〜〜〜かわいい!!!
すっごい可愛いじゃんこの生物…いや、モコナちゃん?くん?…前の国で、私は生きる目標が出来た。そのために生きるんだって。
強くならなきゃいけないんだって、明確なものができて、
"普通"の日常じゃなくても受け止めなくちゃいけないって分かったから。
一歩進めるようになった。そう思ってたけど…本当に私は少しだけ、こんなこと皆にとっては当たり前の理解不能なことだろうけど…、
私にとっては大きな一歩、大きな成長で、それに…
…凄くかわいいし…
不可解で得体が知れないから怖かっただけで、一見して仕草も姿も性格もみんな可愛いのはわかってた。
これがアニメのマスコットキャラだったら真っ先に溺愛してた所だし。
…でも
「、顔赤いよー」
「…ひ、ひぃっ!!?」
「……よかったね」
…私の大きな一歩を。
小狼君だったら苦笑してしまうだろうことを、黒鋼さんだったら絶句してもしくは嘲笑してしまいそうなことを、サクラさんだったら一緒に喜んでくれても理屈はわからないだろうことを、
そんなおかしなことをにこりと笑顔で声をかけてくれる人がいて、
「……うん」
なんとなく少し嬉しくて、素直に頷いてしまった。相変わらず腹立つ人だけど。
そういう所は純粋に、からかったりしないで真正面から声をかけてくれるから、私は照れ隠ししたりしないで頷くことが出来て、
モコナ=モドキというあの子に関するあまりの事態に、顔赤いのわかってたけど…
情けない顔だっただろうけど。
笑えた。
でも恥ずかしいからその人…ファイさんにすぐ背を向けて逃げた。
思えば私、小狼君たちとまともに喋ったことがない!って気が付いたから、滅茶苦茶急いで走った。
早く黒鋼さんをからかってあのガァッとキレのあるツッコミをもらいたい!小狼君に押せ押せして滅茶苦茶戸惑ってる所みて和みたい!サクラさんのぽわぽわな所を観察して一言でいいから可愛い声でなまえを呼んでもらいたい!
…モコナは、まだちょっとがっつり話しかけるのは早いけど、でも…いつかは…っ
「……まあ、これくらいは、ねー」
いつかは、みんなにちゃんと。
「次はどんな所かなぁ」
「知るか!白まんじゅうに聞け!」
そして、そんな皆と世界移動を始めるらしい。
この世界で感じていたという強い力は。水底にあった大きな魚から発せられていたモノらしく、羽根がないことが分かったから。
その魚のモノだという大きなウロコを持ち帰っていたことを知った時は…もう気絶してしまうくらいにびっくりしたけどなんとか持ち堪えた。
すんごい光ってるし、これはただの魚のウロコですーなんて冗談でも言えない。
ウロコにびくびくしながら、未だに死の穴感覚が抜けないガバリと開いたモコナのお口にびくびくしながら。
この人はまたそんな私を察したかのように手を取ってくるし。
にこりと笑ってる。
む、っとして滅茶苦茶腹が立って、いっぺんその手をはらってやろうかと思ったけどとりあえず落ち着くことにして。そうだ、大人にならなきゃいけない、私が今ここで成長するときなんだよ…
…私は大人になるんだからー!
……あーあ、でも。黒鋼さんに背中から飛びついてやろうと思ってたのになあ……。
既に準備万端で構えててさー。あーあ、残念。がっかり。まあ、またチャンスはあるだろうきっと。旅はまだ先は長いんだから、そうきっと。
…次はどんな国なんだろー。
4.存在しない選択肢─霧の国
……?
なんだか、暖かい。いや、少し肌寒いままなんだけど。服は湿気ってるから、どうしてもそこは…。
でも手が暖かくて、誰かが握ってくれてる。…京はもうちょっと暖かいし、
お父さんとお母さんはもうちょっと乱暴に握ってくるし眠ってても容赦ないし。
あの男の子はもっと小さいし。
…こんなに上品に、というか、壊れ物を扱うように握ってくる人、私は知らないし、学校の友達は悪友みたいな感じだから手なんて握ったらぎゃーっ!って感じだし、
なら、
なら、
「…あ、起きた」
「…………なんのマネですか……?」
「んー、こんなマネー?」
……こんな握り方してくるの、どう考えてもこの人しか居ないしさー…。
目が覚めた一瞬でスゥ…っと頭が冷えた。相当寝起きの悪い私がこんなことが出来ようになるなんて、人生に一度限りでもあると思ったことはない…。
し、か、も、膝枕なんて気色悪いくらいのゲロ甘なことしてくるのはどう考えても私の今までの知り合いには居ないし、
この手はお父さんよりも大きくてしっかりしてて、それでいて綺麗な手だし。
この寒気がするくらいで悪寒が走るくらいで背筋が震えるくらいで砂を吐きそうな行為を平気でしてしまうのは、この旅仲間……ファイさんか、それか二次元に住まう男の子くらいしか居ないんだから。
…ちょっと私は漫画の中の人物との夢でも見てるのかと思ってしまってた。
流石のこの人でもこんなこと…こんなことが、あっていいと思わなかったからねぇー…。
「……ぁ゛ー……」
こて、っと現実逃避するように一気に真っ青になった顔を傾けると、いい感じに気絶でもしてくれそうな気がする。
……でも私は早くこの魔の手から逃れなきゃいけない…というか手というかまずは膝の上から…一体何がどうなってこんなことになってるんだよ…
私が居眠りなんてしてしまったのが悪かったのか。
…もしかして、上着のこと怒ってたりする?嫌がらせだったりするのこれ…!?
パチリと目を開くと、そこにはまだ濡れたままの小狼君や、黒鋼さんやサクラさんも居た。サクラさん、目が覚めたみたいだ、よかったー…少し顔色がいい。
そしてこのセクハラ男もいるし、…不思議生物も居るし…無言でじーーーーーーっとその糸目でこっちを見つめてる。
私も目を細めてじーーーーーっと見つめ返してみた。
……が。すぐに。
「そういえば、湖の中、大丈夫だったー?すっごい光ってたけどー」
「あ!町があったんです!」
「ぎゃっ」
思わぬ言葉に大変驚いて、ずっこけてしまった。ずっこけ、というか膝からずり落ちた、ってのが正しいんだけど…。
無意味に視線が集まってしまったから「続けて、続けて」と手で引きつり笑いしながらジェスチャーしといたけど、
……だって湖の中に町って何事だと思うじゃん、湖が発光するなんてびっくりするじゃんー!?…まあ異世界だから、の一言で済まされてしまうことなんだけど…あまりに現実的じゃないことだ。
この口ぶりじゃあ、湖に沈んでしまった古い古い建物、って訳じゃなかろうしー…
すんごい目がキラキラしてる。小狼君はこういう、まだ見ぬ不思議なものを発見するのが好き、らしい。
遺跡発掘に携わってたとも聞いたような気がする。
……ザ・男の子って感じだなぁ……
……ん?…あれ!て、て、てててていうか。
「……ぷぅ!」
「………ッ」
……な、鳴いた。ファイさんの肩越しに、肩に乗ってる不思議生物が、私の方を向いて初めて鳴いた…
この生物は私をどう思ってるのか知らないけど、無言でじーーーーーっと見つめるばかりで話しかけてきたことはなくて。
懐っこくて明るくて、その場を和ませるムードメーカーのような生き物だったのに、
不自然なくらい私に話しかけてきたことはない。
そして私はその生物を、悲鳴を上げることなくさっきはじーーーーっと暫く見つめ続けていて…
その後、この生物はぷぅ、と鳴いて、いや、喋って、
「ぷ、ぷぅ……?」
「みたいな!」
……初めて意思疎通のようなものをしたかもしれない。いやもう会話にもなってない会話なんだけど。
…今初めて、もしかして…と思い始めたことがある。この不思議生物、モコナは…
私が怖がってることに気が付いていて、少しでも慣れてくれる時を待っていてくれて、こうして少しだけまともに目を合わせられるようになった時に。
一言だけ、あくまで一言、いつもの押せ押せなマシンガントークではなく、
喋りかけてくれたのではないかと…
な、な、…なに、そ、れ、…
「〜〜〜っ!!!」
…〜〜〜かわいい!!!
すっごい可愛いじゃんこの生物…いや、モコナちゃん?くん?…前の国で、私は生きる目標が出来た。そのために生きるんだって。
強くならなきゃいけないんだって、明確なものができて、
"普通"の日常じゃなくても受け止めなくちゃいけないって分かったから。
一歩進めるようになった。そう思ってたけど…本当に私は少しだけ、こんなこと皆にとっては当たり前の理解不能なことだろうけど…、
私にとっては大きな一歩、大きな成長で、それに…
…凄くかわいいし…
不可解で得体が知れないから怖かっただけで、一見して仕草も姿も性格もみんな可愛いのはわかってた。
これがアニメのマスコットキャラだったら真っ先に溺愛してた所だし。
…でも
「、顔赤いよー」
「…ひ、ひぃっ!!?」
「……よかったね」
…私の大きな一歩を。
小狼君だったら苦笑してしまうだろうことを、黒鋼さんだったら絶句してもしくは嘲笑してしまいそうなことを、サクラさんだったら一緒に喜んでくれても理屈はわからないだろうことを、
そんなおかしなことをにこりと笑顔で声をかけてくれる人がいて、
「……うん」
なんとなく少し嬉しくて、素直に頷いてしまった。相変わらず腹立つ人だけど。
そういう所は純粋に、からかったりしないで真正面から声をかけてくれるから、私は照れ隠ししたりしないで頷くことが出来て、
モコナ=モドキというあの子に関するあまりの事態に、顔赤いのわかってたけど…
情けない顔だっただろうけど。
笑えた。
でも恥ずかしいからその人…ファイさんにすぐ背を向けて逃げた。
思えば私、小狼君たちとまともに喋ったことがない!って気が付いたから、滅茶苦茶急いで走った。
早く黒鋼さんをからかってあのガァッとキレのあるツッコミをもらいたい!小狼君に押せ押せして滅茶苦茶戸惑ってる所みて和みたい!サクラさんのぽわぽわな所を観察して一言でいいから可愛い声でなまえを呼んでもらいたい!
…モコナは、まだちょっとがっつり話しかけるのは早いけど、でも…いつかは…っ
「……まあ、これくらいは、ねー」
いつかは、みんなにちゃんと。
「次はどんな所かなぁ」
「知るか!白まんじゅうに聞け!」
そして、そんな皆と世界移動を始めるらしい。
この世界で感じていたという強い力は。水底にあった大きな魚から発せられていたモノらしく、羽根がないことが分かったから。
その魚のモノだという大きなウロコを持ち帰っていたことを知った時は…もう気絶してしまうくらいにびっくりしたけどなんとか持ち堪えた。
すんごい光ってるし、これはただの魚のウロコですーなんて冗談でも言えない。
ウロコにびくびくしながら、未だに死の穴感覚が抜けないガバリと開いたモコナのお口にびくびくしながら。
この人はまたそんな私を察したかのように手を取ってくるし。
にこりと笑ってる。
む、っとして滅茶苦茶腹が立って、いっぺんその手をはらってやろうかと思ったけどとりあえず落ち着くことにして。そうだ、大人にならなきゃいけない、私が今ここで成長するときなんだよ…
…私は大人になるんだからー!
……あーあ、でも。黒鋼さんに背中から飛びついてやろうと思ってたのになあ……。
既に準備万端で構えててさー。あーあ、残念。がっかり。まあ、またチャンスはあるだろうきっと。旅はまだ先は長いんだから、そうきっと。
…次はどんな国なんだろー。