気付きと芽吹き
3.選ばれた手─阪神共和国→高麗国
今私が何をしようとしていたか、分かってたのか
それがどんなに重要な一歩であるのか。
「サクラ姫はじめましてー、ファイ・D・フローライトと申します。…で、こっちはー」
「黒鋼だ」
「で、このふわふわ可愛いのがー」
「モコナ=モドキ!モコナって呼んでっ」
「………で、この子が」
彼は、分かっていた?
分かってて、進もうとする私の肩に手を置いて、ストップをかけた、私は足が引っ込んだ、それはとても重要なことで、とても大きな失敗で、私はそのままぐずついてしまって、そのまま、
そのまま、
…、
……。
………。
だとしたら、
彼は本当に見透かしたような顔で笑う天使で悪魔みたいだなと、その笑みにつられて私も笑った。
「もう行くんか」
「はい」
「まだわいとハニーの愛のコラボ料理を堪能させてへんのにー」
次の日、
その探し物だというサクラさんの羽根も見付かったことだし、
正義君達にもあのお好み焼き屋さんで挨拶をして、下宿屋に戻って嵐さんと空汰さんにもお礼を言って。
旅立つらしい。
あの下宿屋の外で。目が覚めたサクラさんの手を引く小狼君と、モコナを引き連れた黒鋼さんと、このにっこり笑顔なままのファイさんと。
旅は続くだろう。これからも。
探し物がいつまで続くかは分からないけど…
少なくとも私は定住地を持たないようにずっとずっと異世界を転々としていなきゃいけないし、いつかは仲間との旅も終わりが来る。
…その旅の終わり、と。
「ほんとうに有り難うございました」
「なんの!気にするこたぁない」
「次の世界でも、サクラさんの羽根が見付かりますように」
私が一歩進めるようになるのと、進めないまま"終わり"を迎えて選択するの。
どっちの方が、早いんだろうか。
昨日進もうと持ち上げた足は、肩を押されて押し戻されて、不発に終わった。
自分がサクラさんに自己紹介のきっかけを作ってくるからーっていう仕草にも一見見える。
いや、一見も何もそうなんだよ。
…でも、まさか、気が付いてたなんてことはないよね…?だってそんなの気が付いてたらエスパーだもんね、怖い怖い、
それにわざとお荷物になるように進むことを邪魔するなんて、まさかー。
だったら違う。理屈をこねて、理由付けして、それに基づいて考えて仮説を立てて、
…絶対に違う。
「……っぅ…!」
一歩踏み出せそうだったことに心の底から歓喜していた私は、押し戻されてしまったことに大変ダメージを食らったらしくて、
散々お世話になった嵐さんと空汰さんにもまともにお礼も言えず気が抜けた状態でモコナの口の中に吸い込まれた。
……死の、穴だ。だって本当にあの店ではこの口の中は死後の世界に繋がってるのだと信じてたから、今でもぞっと背筋が寒くなる。だってだって不思議生物の"口の中"なんて、
根本から怖いよーふつー!
…怖い、怖い、目を瞑ってよう、次の世界はどんな所だろう、考えると不安だけどまずこのぐんにゃりした空間を切り抜けなきゃ、
だから。
…あれ?ていうか…
「……みんな、居ない……」
ここ、どこ?本当にあの不思議生物の口の中?
だって移動中はみんなと一緒になるようになってるんじゃないの?
……あ、凄く先の方にみんながいる。…やっばい!早く追いつかなきゃこの空間に置き去りとかないよねー!?お、泳ぐかこの中を!!
………いやいやいやいや一歩どころか半歩も進まない、いつまで経ってもここから動かない、なんで私だけ…!
いや違う、これは進まないんじゃなくて…
『……ごめんね……なにも、なにもできなかったの……』
「……え……」
『せめて、最期にこれだけ』
…私の服を、制服を、引っ張ってる"何か"が居るんだ。
…そこには、小さな女の子が居た。俗に言う幼女、である。
神秘的に思える綺麗なクリーム色の長い髪、ふわふわのスカートが広がる妖精さんみたいな格好をしていて。その瞳は金に光ってる。
そんな子が私の指先に口付けをして、
その瞬間指先から熱いものが身体に広がった。…いや違う、これ、熱いんじゃなくて暖かいんだ。…これ感じたことある。知ってる。いつだって、阪神共和国で感じていた胸に広がるような暖かさだ。
指先、そういえば街中の乱闘で降ってきた破片で怪我してたんだけど、手間かけさせたくなくて私、みんなに黙ってた。
その小さな切り傷が、治ってく、
…じゃあ!やっぱり貴方は私の巧断なの?じゃあ、じゃあ、やっぱりこの国に来たとき私の大怪我を治してくれたのは…!
『……ちがうの、できなかった、できなかったの…なにも、だからせめて、いま……』
「…じゃあ、あれはなんで……?」
『……ねぇ、わたしくしの主さま……主さま、はやく、はやく、きがついてあげてね……』
…違う?何も出来なかった?治す力を持ってる巧断なのに?何故?
ずっと出てこなかったのは何で?
今は治してくれて、でも、そんな悲しそうな顔で、切なそうな顔で言うこの子の言葉、
それは、
『またあえたら、なにかかわることはあるでしょうか、主さま。……さよなら…またあいましょう…』
それは、それは、
「……ッ待って妖精さん!!」
私は何に気が付けばいいの……?
伸ばした手は空振って、空を掴んでどんどんどんどん流されてく。…ああ、妖精さんに何も聞けなかったし、それに、小狼君たちもう居ない、
ヤバイ、まさか私取り残されたんじゃ…!!
そう思ってた矢先のこと。
「っうわぁー!!」
ドタン、と。私は荒々しい音を立てて。
地面へと落とされたようだ。…空気、風。匂い。よかったここ外だー!
…いや、外っていうか、窓が開いて風が入り込んでるだけの、中華風のお家…?
ていうか待って待って、おい、待て、着いて早々なんなの、これ、
小狼君もサクラさんも、黒鋼さんもファイさんも居る、不思議生物モコナは今私を吐き出したみたいでぷぅ、とか鳴いてるし、
傍に見知らぬ小さな黒髪の女の子が居て、
そして、
「外に出ちゃ駄目だ!!」
バァンと荒々しい音を立ててついに完全に開ききった窓からどんどん強い風が吹く。…これもしかして竜巻じゃないのー!?
外になんて出ない出ない!着いて早々これかっ
ていうか、他の四人は一瞬目が合ったけど、落ち着いてたように見えた、
多分私より先にこの世界に着いたんだと思う。
だったら、
着いて早々竜巻に巻き込まれる私って、なんてアンラッキーなんだろうよ…!!
ガバッと腕をクロスして頭や顔を咄嗟に守ったけど、
家がどんどん壊れて剥がれて割れていく、崩壊の音が聞こえてくる。
……ああ、南無。実は竜巻的なものは住んでいた地域の不運で、小さいものだけど体験したことがあったりして、
少し頭は落ち着いてる。
「…大丈夫ー?」
「……まあ、それなりに……」
あんまり怖くなかったのは、多分それのおかげだ。
実際体験したってのもあるし、それなりに竜巻って起こる自然災害だし、もの凄く異端な訳じゃないし…
何よりも。
「自然の風じゃないね、今の」
「領主だ…
あいつがやったんだ!!」
自然だろうと何だろうと、気が付けばファイさんがあの街中の乱闘の時のように庇ってくれちゃってるんだから。それ以上どう怖がれというんだろう。この人はとても強いし、弱くない、分かってる、
そういう所については信用してる、なら怖がる理由なんて無い訳で、不安になる訳なくて、
でも何か理由があるとすれば。
「……」
なんでこの人、また私のこと庇ったんだろう。
笑顔で、それが至極当然であるように、何も疑問を感じてないとでも言いたげに、流れるような動作で、そんな。
みんなは女の子と一緒に"領主"だとか"秘術"だとか色んな話をしているけど、
正直頭は冷静でも心臓は煩いし、分からないことだらけだし、
移動したばかりで状況は掴めないし。
私がしっかり状況を把握できたのは、それから暫く、黒鋼さんたちが女の子の家の修繕作業に入ってからという大変遅くなってからのことだった。
3.選ばれた手─阪神共和国→高麗国
今私が何をしようとしていたか、分かってたのか
それがどんなに重要な一歩であるのか。
「サクラ姫はじめましてー、ファイ・D・フローライトと申します。…で、こっちはー」
「黒鋼だ」
「で、このふわふわ可愛いのがー」
「モコナ=モドキ!モコナって呼んでっ」
「………で、この子が」
彼は、分かっていた?
分かってて、進もうとする私の肩に手を置いて、ストップをかけた、私は足が引っ込んだ、それはとても重要なことで、とても大きな失敗で、私はそのままぐずついてしまって、そのまま、
そのまま、
…、
……。
………。
だとしたら、
彼は本当に見透かしたような顔で笑う天使で悪魔みたいだなと、その笑みにつられて私も笑った。
「もう行くんか」
「はい」
「まだわいとハニーの愛のコラボ料理を堪能させてへんのにー」
次の日、
その探し物だというサクラさんの羽根も見付かったことだし、
正義君達にもあのお好み焼き屋さんで挨拶をして、下宿屋に戻って嵐さんと空汰さんにもお礼を言って。
旅立つらしい。
あの下宿屋の外で。目が覚めたサクラさんの手を引く小狼君と、モコナを引き連れた黒鋼さんと、このにっこり笑顔なままのファイさんと。
旅は続くだろう。これからも。
探し物がいつまで続くかは分からないけど…
少なくとも私は定住地を持たないようにずっとずっと異世界を転々としていなきゃいけないし、いつかは仲間との旅も終わりが来る。
…その旅の終わり、と。
「ほんとうに有り難うございました」
「なんの!気にするこたぁない」
「次の世界でも、サクラさんの羽根が見付かりますように」
私が一歩進めるようになるのと、進めないまま"終わり"を迎えて選択するの。
どっちの方が、早いんだろうか。
昨日進もうと持ち上げた足は、肩を押されて押し戻されて、不発に終わった。
自分がサクラさんに自己紹介のきっかけを作ってくるからーっていう仕草にも一見見える。
いや、一見も何もそうなんだよ。
…でも、まさか、気が付いてたなんてことはないよね…?だってそんなの気が付いてたらエスパーだもんね、怖い怖い、
それにわざとお荷物になるように進むことを邪魔するなんて、まさかー。
だったら違う。理屈をこねて、理由付けして、それに基づいて考えて仮説を立てて、
…絶対に違う。
「……っぅ…!」
一歩踏み出せそうだったことに心の底から歓喜していた私は、押し戻されてしまったことに大変ダメージを食らったらしくて、
散々お世話になった嵐さんと空汰さんにもまともにお礼も言えず気が抜けた状態でモコナの口の中に吸い込まれた。
……死の、穴だ。だって本当にあの店ではこの口の中は死後の世界に繋がってるのだと信じてたから、今でもぞっと背筋が寒くなる。だってだって不思議生物の"口の中"なんて、
根本から怖いよーふつー!
…怖い、怖い、目を瞑ってよう、次の世界はどんな所だろう、考えると不安だけどまずこのぐんにゃりした空間を切り抜けなきゃ、
だから。
…あれ?ていうか…
「……みんな、居ない……」
ここ、どこ?本当にあの不思議生物の口の中?
だって移動中はみんなと一緒になるようになってるんじゃないの?
……あ、凄く先の方にみんながいる。…やっばい!早く追いつかなきゃこの空間に置き去りとかないよねー!?お、泳ぐかこの中を!!
………いやいやいやいや一歩どころか半歩も進まない、いつまで経ってもここから動かない、なんで私だけ…!
いや違う、これは進まないんじゃなくて…
『……ごめんね……なにも、なにもできなかったの……』
「……え……」
『せめて、最期にこれだけ』
…私の服を、制服を、引っ張ってる"何か"が居るんだ。
…そこには、小さな女の子が居た。俗に言う幼女、である。
神秘的に思える綺麗なクリーム色の長い髪、ふわふわのスカートが広がる妖精さんみたいな格好をしていて。その瞳は金に光ってる。
そんな子が私の指先に口付けをして、
その瞬間指先から熱いものが身体に広がった。…いや違う、これ、熱いんじゃなくて暖かいんだ。…これ感じたことある。知ってる。いつだって、阪神共和国で感じていた胸に広がるような暖かさだ。
指先、そういえば街中の乱闘で降ってきた破片で怪我してたんだけど、手間かけさせたくなくて私、みんなに黙ってた。
その小さな切り傷が、治ってく、
…じゃあ!やっぱり貴方は私の巧断なの?じゃあ、じゃあ、やっぱりこの国に来たとき私の大怪我を治してくれたのは…!
『……ちがうの、できなかった、できなかったの…なにも、だからせめて、いま……』
「…じゃあ、あれはなんで……?」
『……ねぇ、わたしくしの主さま……主さま、はやく、はやく、きがついてあげてね……』
…違う?何も出来なかった?治す力を持ってる巧断なのに?何故?
ずっと出てこなかったのは何で?
今は治してくれて、でも、そんな悲しそうな顔で、切なそうな顔で言うこの子の言葉、
それは、
『またあえたら、なにかかわることはあるでしょうか、主さま。……さよなら…またあいましょう…』
それは、それは、
「……ッ待って妖精さん!!」
私は何に気が付けばいいの……?
伸ばした手は空振って、空を掴んでどんどんどんどん流されてく。…ああ、妖精さんに何も聞けなかったし、それに、小狼君たちもう居ない、
ヤバイ、まさか私取り残されたんじゃ…!!
そう思ってた矢先のこと。
「っうわぁー!!」
ドタン、と。私は荒々しい音を立てて。
地面へと落とされたようだ。…空気、風。匂い。よかったここ外だー!
…いや、外っていうか、窓が開いて風が入り込んでるだけの、中華風のお家…?
ていうか待って待って、おい、待て、着いて早々なんなの、これ、
小狼君もサクラさんも、黒鋼さんもファイさんも居る、不思議生物モコナは今私を吐き出したみたいでぷぅ、とか鳴いてるし、
傍に見知らぬ小さな黒髪の女の子が居て、
そして、
「外に出ちゃ駄目だ!!」
バァンと荒々しい音を立ててついに完全に開ききった窓からどんどん強い風が吹く。…これもしかして竜巻じゃないのー!?
外になんて出ない出ない!着いて早々これかっ
ていうか、他の四人は一瞬目が合ったけど、落ち着いてたように見えた、
多分私より先にこの世界に着いたんだと思う。
だったら、
着いて早々竜巻に巻き込まれる私って、なんてアンラッキーなんだろうよ…!!
ガバッと腕をクロスして頭や顔を咄嗟に守ったけど、
家がどんどん壊れて剥がれて割れていく、崩壊の音が聞こえてくる。
……ああ、南無。実は竜巻的なものは住んでいた地域の不運で、小さいものだけど体験したことがあったりして、
少し頭は落ち着いてる。
「…大丈夫ー?」
「……まあ、それなりに……」
あんまり怖くなかったのは、多分それのおかげだ。
実際体験したってのもあるし、それなりに竜巻って起こる自然災害だし、もの凄く異端な訳じゃないし…
何よりも。
「自然の風じゃないね、今の」
「領主だ…
あいつがやったんだ!!」
自然だろうと何だろうと、気が付けばファイさんがあの街中の乱闘の時のように庇ってくれちゃってるんだから。それ以上どう怖がれというんだろう。この人はとても強いし、弱くない、分かってる、
そういう所については信用してる、なら怖がる理由なんて無い訳で、不安になる訳なくて、
でも何か理由があるとすれば。
「……」
なんでこの人、また私のこと庇ったんだろう。
笑顔で、それが至極当然であるように、何も疑問を感じてないとでも言いたげに、流れるような動作で、そんな。
みんなは女の子と一緒に"領主"だとか"秘術"だとか色んな話をしているけど、
正直頭は冷静でも心臓は煩いし、分からないことだらけだし、
移動したばかりで状況は掴めないし。
私がしっかり状況を把握できたのは、それから暫く、黒鋼さんたちが女の子の家の修繕作業に入ってからという大変遅くなってからのことだった。