始まりの日
0.プロローグ
彼女は俺の光だった。
道を示してくれる海辺の灯台のように、道路で誘導してくれるように設置されている看板のように、指を指してくれる矢印のように、途中で足を止めて一人待ってくれる本の栞のように。

彼女は俺の、俺たちの。どんな人間にとっても必要な全て。あらゆるもの達。
あるいは特定のひとつ。
それが俺にとって彼女ただ一人だったというだけだった。

彼女は俺の手を引いてくれた。冷たい手も溶かすような体温を分け与えてくれた、
時間をくれた。先をくれた。未来になってくれた。
彼女は俺の全てだ。
あの瞬間から、俺の世界は彼女で形成されてる
妄信的に狂信的に。それがおかしな思想だとわかっていてもそれが俺にとっての当たり前に変わった。それほどその思想が日常になってしまうほど。
ただ一つのことだけを毎日願って。


俺は彼女を待ってる。
必然が、この場所へ彼女を導いてくれることを。
ずっと待っている。



「……こんばんは、次元の魔女さん」
「今はこっちではこんにちは、よ。…久しぶりね」
「……ええ、久しぶりです。…とても」
「…ここは願いを叶える店。ここに入れるのは、願いがある人間、入る必要のある人間だけ。…さあ、あなたの願いは、何?」
「…やだなぁ、わかってるくせに。……願いなんて、ずっと昔からただひとつですよ、魔女さん。」



俺は願ってた。
毎日、毎日、それだけを考えて生きてる。ただそれだけしか出来ない人間になってしまっても。


「──どうしても、殺したい人がいるんです」


──必然が、どうか当たり前のように、彼女をこの場所へ導いてくれることを。
あの時から俺は、ずっとずっと。信じてる。