第四話
─?

最近片割れの帰りが遅くなった。「最近何してるの?新しい学校で友達でもできた?寄り道?」と不機嫌オーラ全快で聞くと流石怯んだ様子もなく「ちょっとそこまでー」とご機嫌な様子だ。
あまりここまでご機嫌になる片割れは見ない。いつも楽しそうではあるけどご機嫌になるのは滅多にない。何が片割れをこうさせたのか、まさか彼氏が出来た?そんなの許せないこんなに可愛い俺の妹で世界一の女の子なのに適当などこの馬の骨とも知れない男になんて、どこのどいつ?なんて自分はカノジヨを作っておいて片割れだけは駄目、なんていう理不尽な怒りをふっかけて、
──新しい学校では何もないか、片割れの仕草から表情から声色まで逃さず見つめる。
きっと前の学校のあの時のことを語ることは両親も、片割れも、もう無いだろう。…俺は…わからない。でも語って欲しくないのなら語らない。片割れが望むことはなんでもしてあげたい。片割れの譲れない部分は守りたい。尊重したい。でも。



「はなれたく、ない」



幼いころ、家族は居るのに。両親は愛を与えてくれたのに。友達は優しかったのに。幼稚園の先生も小学校の先生も大人も誰もが優しく、時に厳しく、日々それなりに生きていたのに。毎日世界に独り取り残された気分だったのは間違いなく。
双子だから、血が繋がっているから、片割れだから。双子のテレパシーだとかよく言われるけど、そんな厄介な物で繋がっているから俺は片割れをこんなにも、……だと思うと、いっそのことあの時に。そうんな風に極端に、突き放すように。全てを放棄するように考えてしまいたくなってしまう。



──↓──


今日も今日とて観察を、する。片割れの試合を応援しに行ったことくらいあるからそれなりに色んなチームを見てきたけれど、こんなにも飽きないチームは始めてだった。
烏野を転校先に選んだのは色んな条件が求めていたものと合っていたから、に過ぎなかったけれど、選んでよかったと心から思う。
にこにこ、笑顔が溢れる。惜しみなく。



「どこかで見たことあるような…」
「?影山、知り合いか?」
「……名前聞けば…たぶ、ん…?」
「多分かい。大地もしらんの?……んー俺もあの子見たことないし、クラスも知らないなあ…」
「俺も知らないなあ…。いつの間にか現れていつの間にか消えてるね、あの子」
「旭ビビらすなよ」
「び、ビビらせないよ!」
「つーか何しに来てんだ?冷やかし?ハッまさか女子ファンがつ、ついにここに…!」
「うぉおおおぉおマジかぁああああ」
「いやいや、バレーみたいから来てるんじゃないの?」
「えー…見てどうすんですかねえ?」
「楽しいんじゃないの?」
「スガさんあれが楽しそうな顔に見えるんすか!?」
「……みえない、……というか」
「……アレ、観察されてるような……、…やっぱあの感じ、俺どこかで…」



こそこそ練習を中断してまで(一部はちゃんと手を止めないでやってるけど)内緒話をしてるも、丸聞こえだなあ、なんか本当にプレーだけじゃなくて部員達みんな見てて飽きないよなあ、とまたじーっと見つめていると。

ぬっ、っといつかのようにまた何かが気付かぬうちに伸びてくる。



「つかまえたー!ねえねえ君何してんの!?バレーすき!!?」
「!!?日向おま、何やってんだボケェ!!ソレ!ボケが!」
「も、元の場所に返しなさい!」
「いやそんなお前たち犬みたいに女の子を!」

「……なにこれ?」


小柄な割りには力強く私の腕引っ張り立ち上がらせ、肩を引っつかんで捕ったどー!みたいに興奮するいつかのすばしっこい彼に、私はぽかんとするだけだった。
そして部員達で日向と呼ばれたこの子を私から引き剥がし、いつかのデジャヴでぎゃいぎゃいと騒ぎ出すので、その隙にこっそりと抜け出して出て行く。
ごめんねまた来ます。両手を合わせて拝んでおいたけど、アレなんかこれ違う、と自分で自分にきょとんとしていたら何だか凄い目でこちらを見ている長身眼鏡くんと目があった。多分何やってんだこいつ、って呆れた視線だったと思う。まあそうだよに、とそのままその日は特に気にせず開き直りながら帰った。


2016.1.28

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