第三話
1.神様と人の役割─共同生活開始
食料は台所にある程度が蓄えられていた。蓄えられてから三日目の食料たち、痛んだ様子があるものはない。
…そう、どうやら。初対面の際に倒れてからなんと三日も昏睡していたらしいなんて。 何が原因で倒れこんだかなんて、今起きてから寝続けていたとも思わないくらいに軽い身体では計り知れないけど。
三日も倒れた人間の傍で先ほどのようにはらはらと涙を流させてしまっていたのかと思うと胸が痛む。
思い上がりも甚だしい、と思われそうだけど、事実この神様は泣いた。ひとりの人間において行かれそうだったのが怖かったのだと、その人間に縋ってしまうような優しい神様。
どんな背景から人間においていかれる、なんてことが怖くなったのか。そもそも死んだ私がこれ以上どこへ行くのかあてもないのだけど、人間からの視点では想像は出来てもきっと分かれそうもない。
というか、このお方。神様は神様でも、刀剣の付喪神、らしくて、
戦うのはこの刀剣の神様。私はその神様に指示を出す、主、なんて呼ばれるような立場の人間に当たるらしくって、今度は私が絶叫した。
…そんなこと出来るはずがない。いや、出来ない戦をするのはかえって迷惑をかけることになるんだから、刀剣の神様というだけあって分野なんだろうこの神様に任せた方が、神様のためにも私のためにもいい。
出来ないことを出来ます!と意地を張ること程迷惑なことはない。ただ戦うことが出来るようになれるなら努力したいとは思うけど、戦とはどういったものなのか。
それにしたって、あるじ?上に立つ?私が、神様を?指示?
そんな馬鹿げた世界がどこにあるっていうのか。
神様がもしも人の子という生き物を可愛いと、慈しんでくれたからと言って錯覚しちゃいけない。神は、神。神様、だ。人間は神に縋る。困った時ほど苦しい時ほどどうしようもない困難で神に縋る。
それほどの存在なはずだ。だからこそ人は手を組んだり、合わせてみたりとか。
実際死んでみるとこの世界のギャップに驚く。
神様が居るという事実はどういう訳か漠然と人間は知っていたらしいのに、こんな世界が死後、あるなんて、そんなの。
────私は、この神様に逢うためにきっとここに来た。
そう思えるのはどうしてか?
「い、いただき、ます」
「…い、いただき、ます!」
この拙い始めて作ったオムライスという簡単な洋食に、可愛らしいまでに嬉しそうに頬張るこの神様に。
私は縋りに来たのでも、縋ってもらいに来たのでも、上に立つためでも下に立つためでもなんでもない。
ただ一言でいい。たった一言、それだけをきっと求めてた、はず。
神様というただひとりの存在に。
「…おいしい?かな?…食べたことないですし、作ったこともないので、あの、多分…それなり…?」
オムライスの作り方くらい、洋食の一切というほど作ったことも食べたこともほぼとんどなかった私でも。単純だから普段の和食の手料理にさえ慣れていれば難しいことはなかった。
小学校は給食という存在で洋食も当たり前だったけれど、なんせうちは根っからの和食家庭。かつ、そのうちにお弁当持参の中学生に早代わりしてしまったせいで本当に久々の洋食の味だ。
「多分、おいしい…俺も初めてだからわかんないけど…うん、主が作ったものなら、きっとなんでも美味しいよ」
「……あるじ…」
「主?」
「…その、主っていうのは…ちょっと…」
もぐもぐ。お互い土俵は違えど初めての経験を現在進行している最中で、視線がオムライスに下がってしまっていたけど、それ以上を言う前にかしゃん、と何かがが落ちる音て視線をあげた。
スプーンを落としてしまっている。神様が、いや、
加州清光、という名らしい、その人が。唖然と真っ青な顔をして。口をぱくりとさせて。
息を吸って、吐いて。
…私は、この神様になぜ、こんな顔ばかりさせてしまうんだろう。
初めて顔を合わせてから、逢ってから。悲しくさせてばかりだ。私という存在は神様に、この人に、喜びや幸福を与えられるような人間ではないらしい。
「…俺の主に、なりたく、ない…?あつかいづらいから?俺が、なにかしたから?」
「いや、そうじゃなく、いやもうあのおお、もう泣かないでください!は、はんかち、ティッシュ…わあ絶対ないええとええと!」
それを無念に思ったりするよりも前に、子供のように喜怒哀楽の激しいこの神様を前に、私は頭を垂れることも出来ず、ただどうしたら泣き止ませられるかに必死で。
ああ、私は何をしているんだろう。もしかしたら神を自称した人間の青年を相手にしているのでは、とさえ思う。
だけれど、触れて知った。いや初めて縋られた時からなんとなく感じ取っていた。
この人はやっぱり、人間の体温とは違う。冷たい、暖かくない、とかじゃない。
触れて感じ取れるものが人間とは違うと漠然と感じていた。
それが何かを頭で理解するよりも否が応にも察っしてしまう。感じ取らせる。それが神様か。
「あの私、主だとか呼ばれるような大層な人間じゃありません!なんなら名を呼び捨てでも、お前とか、あんたとか、この野郎とか、なんでも構いませんから、だから、」
そう言い切る前に、神様のはらはらとした涙が止まる。
そして息を呑むのが分かった。
1.神様と人の役割─共同生活開始
食料は台所にある程度が蓄えられていた。蓄えられてから三日目の食料たち、痛んだ様子があるものはない。
…そう、どうやら。初対面の際に倒れてからなんと三日も昏睡していたらしいなんて。 何が原因で倒れこんだかなんて、今起きてから寝続けていたとも思わないくらいに軽い身体では計り知れないけど。
三日も倒れた人間の傍で先ほどのようにはらはらと涙を流させてしまっていたのかと思うと胸が痛む。
思い上がりも甚だしい、と思われそうだけど、事実この神様は泣いた。ひとりの人間において行かれそうだったのが怖かったのだと、その人間に縋ってしまうような優しい神様。
どんな背景から人間においていかれる、なんてことが怖くなったのか。そもそも死んだ私がこれ以上どこへ行くのかあてもないのだけど、人間からの視点では想像は出来てもきっと分かれそうもない。
というか、このお方。神様は神様でも、刀剣の付喪神、らしくて、
戦うのはこの刀剣の神様。私はその神様に指示を出す、主、なんて呼ばれるような立場の人間に当たるらしくって、今度は私が絶叫した。
…そんなこと出来るはずがない。いや、出来ない戦をするのはかえって迷惑をかけることになるんだから、刀剣の神様というだけあって分野なんだろうこの神様に任せた方が、神様のためにも私のためにもいい。
出来ないことを出来ます!と意地を張ること程迷惑なことはない。ただ戦うことが出来るようになれるなら努力したいとは思うけど、戦とはどういったものなのか。
それにしたって、あるじ?上に立つ?私が、神様を?指示?
そんな馬鹿げた世界がどこにあるっていうのか。
神様がもしも人の子という生き物を可愛いと、慈しんでくれたからと言って錯覚しちゃいけない。神は、神。神様、だ。人間は神に縋る。困った時ほど苦しい時ほどどうしようもない困難で神に縋る。
それほどの存在なはずだ。だからこそ人は手を組んだり、合わせてみたりとか。
実際死んでみるとこの世界のギャップに驚く。
神様が居るという事実はどういう訳か漠然と人間は知っていたらしいのに、こんな世界が死後、あるなんて、そんなの。
────私は、この神様に逢うためにきっとここに来た。
そう思えるのはどうしてか?
「い、いただき、ます」
「…い、いただき、ます!」
この拙い始めて作ったオムライスという簡単な洋食に、可愛らしいまでに嬉しそうに頬張るこの神様に。
私は縋りに来たのでも、縋ってもらいに来たのでも、上に立つためでも下に立つためでもなんでもない。
ただ一言でいい。たった一言、それだけをきっと求めてた、はず。
神様というただひとりの存在に。
「…おいしい?かな?…食べたことないですし、作ったこともないので、あの、多分…それなり…?」
オムライスの作り方くらい、洋食の一切というほど作ったことも食べたこともほぼとんどなかった私でも。単純だから普段の和食の手料理にさえ慣れていれば難しいことはなかった。
小学校は給食という存在で洋食も当たり前だったけれど、なんせうちは根っからの和食家庭。かつ、そのうちにお弁当持参の中学生に早代わりしてしまったせいで本当に久々の洋食の味だ。
「多分、おいしい…俺も初めてだからわかんないけど…うん、主が作ったものなら、きっとなんでも美味しいよ」
「……あるじ…」
「主?」
「…その、主っていうのは…ちょっと…」
もぐもぐ。お互い土俵は違えど初めての経験を現在進行している最中で、視線がオムライスに下がってしまっていたけど、それ以上を言う前にかしゃん、と何かがが落ちる音て視線をあげた。
スプーンを落としてしまっている。神様が、いや、
加州清光、という名らしい、その人が。唖然と真っ青な顔をして。口をぱくりとさせて。
息を吸って、吐いて。
…私は、この神様になぜ、こんな顔ばかりさせてしまうんだろう。
初めて顔を合わせてから、逢ってから。悲しくさせてばかりだ。私という存在は神様に、この人に、喜びや幸福を与えられるような人間ではないらしい。
「…俺の主に、なりたく、ない…?あつかいづらいから?俺が、なにかしたから?」
「いや、そうじゃなく、いやもうあのおお、もう泣かないでください!は、はんかち、ティッシュ…わあ絶対ないええとええと!」
それを無念に思ったりするよりも前に、子供のように喜怒哀楽の激しいこの神様を前に、私は頭を垂れることも出来ず、ただどうしたら泣き止ませられるかに必死で。
ああ、私は何をしているんだろう。もしかしたら神を自称した人間の青年を相手にしているのでは、とさえ思う。
だけれど、触れて知った。いや初めて縋られた時からなんとなく感じ取っていた。
この人はやっぱり、人間の体温とは違う。冷たい、暖かくない、とかじゃない。
触れて感じ取れるものが人間とは違うと漠然と感じていた。
それが何かを頭で理解するよりも否が応にも察っしてしまう。感じ取らせる。それが神様か。
「あの私、主だとか呼ばれるような大層な人間じゃありません!なんなら名を呼び捨てでも、お前とか、あんたとか、この野郎とか、なんでも構いませんから、だから、」
そう言い切る前に、神様のはらはらとした涙が止まる。
そして息を呑むのが分かった。