第十四話
原作始まった─人見知りじゃないけど人見知り
「実感わかなくなる時ない?今が現実か分からなくなる時」
三人揃って事務所へと出勤しようと扉を開ける三秒前くらいの時。なんとなく因幡さんがちょっとん?と近づく前から首を傾げてたのは知ってたけど、
扉を開ければ流石に目は悪くないので気がついた。
そこに居る存在に。
「…メガネかけながら寝てる!」
「…俺もたまにやる」
「あ、そういうモンですか?ていうかあの妹さんいるけど」
「あ゛っ!」
「妹よりメガネを取るなんて先生…」
「毛フェチよりも何よりも因幡さんまさかのメガネフェチ」
「圭棚上げだ!棚上げだそれは!わああ名前ー!」
「久しぶり、洋兄」
「あっ再会が割りと軽い」
色々とあらかた突っ込みおえてから今にも妹さんに飛びつこうとした因幡さんも、ハッとして動きを止めて、じりじりとそのままゆっくりと怯える小動物でも追いかけてるのかというフォーメーションでこわくないぞー、と妹さんへ迫った。
どう考えても実の兄と妹の図じゃない。
妹さん恐怖症って言ってたっけ、どうするかなあ、助けた方がいいのかなあ、とハラハラしてたら、視線を少しだけさまよわせたあと、おずおずと手を因幡さんへと向けて伸ばした。
それは同じくゆらゆらとゆっくりと伸ばされた因幡さんの手に触れて、握手する。
といっても本当に軽い軽い表面が触れるだけのようなものだったのに、何故だかそれが軽いとは思えない。
「…あの、ごめんね…」
「……名前…、お前…」
「えと…ちょっと良くなった、よ…触れるし、あの、自分からならもう、吐かないし、…だから…」
広げられた妹さんの両手がその言葉通りの合図らしく、感激のあまり号泣してる因幡さんが例えるなら病み上がり子に対して容赦なく突っ込んでいった。
オイオイ!と思ったものの本当に自分から心構えをすれば大丈夫だったらしくホッとしたけど、因幡さんが前に言ってた嘔吐癖て。嘔吐癖あったんだ自己申告するほどに。
嘔吐癖のある天使だったのか。なるほど兄に向ける遥と同じようで同じじゃない一切邪気も裏もなさそうな控えめな笑顔は可愛らしいかもしれない。
「妹ってほんと癒しだよね…」
「うわっシスコンだ」
「その荒んだ目はあそこに居る因幡さんにこそ向けてくれないかなあ優太くん!?」
自分も癒される妹が居る身としてはこの光景にちょっと感動してしまったんだけど、隣の優太くんが荒んだ目をしてこちらを見て身を引くものだから思わず俺の心も荒む。
というか妹さん抱き潰し殺されそうだし長年のアレが溜まって我を忘れてモヤシっ子(名前さんも遥並みの虚弱体質だと因幡さんに聞いた)の息の根が止まりかけなのも気がつかないしああなんかもうそこの寝てる彼はこの喧騒の中でも起きないしとやきもきしてると。
「?なんか…気の流れが変ですよ、別人みたい」
「え?この流れで唐突にそんな?…えーそう言われても俺には全然わかんないよ」
「ちょっと押してみますか先生」
「おう押したれ!」
「妹浮かれしすぎて適当になってない因幡さん!?」
「よっ」
「ああなんか出たー!」
ソファーで熟睡してるメガネの彼の中から、ズルリと何か黒い物体が出てきて驚き一色に染まる俺傍で小さく「おとーさん…」と呆れたような小さい小さい呟きは、今にも名前さんが死にそうだったことに気がついて危機感を抱いていた俺にしか聞こえなかったと思う。
一番傍にいる因幡さんはもう目の前が見えてなかったし。いや待て。
…おとーさん?
基本的に俺基準での癒される妹気質なのでは、と思ってきたけれど、この事務所を開けた時ドアの隙間からちょうど聞こえてきた独り言かなにか、あの呟きを取ってもなんにせよ、会えば会うほど分からなくなる不思議気質な人だなあともだんだんと分かってきてしまっていた。あの遥の妹だからと言っていいのか因幡さんの妹だからと言っていいのかよくわからない。
原作始まった─人見知りじゃないけど人見知り
「実感わかなくなる時ない?今が現実か分からなくなる時」
三人揃って事務所へと出勤しようと扉を開ける三秒前くらいの時。なんとなく因幡さんがちょっとん?と近づく前から首を傾げてたのは知ってたけど、
扉を開ければ流石に目は悪くないので気がついた。
そこに居る存在に。
「…メガネかけながら寝てる!」
「…俺もたまにやる」
「あ、そういうモンですか?ていうかあの妹さんいるけど」
「あ゛っ!」
「妹よりメガネを取るなんて先生…」
「毛フェチよりも何よりも因幡さんまさかのメガネフェチ」
「圭棚上げだ!棚上げだそれは!わああ名前ー!」
「久しぶり、洋兄」
「あっ再会が割りと軽い」
色々とあらかた突っ込みおえてから今にも妹さんに飛びつこうとした因幡さんも、ハッとして動きを止めて、じりじりとそのままゆっくりと怯える小動物でも追いかけてるのかというフォーメーションでこわくないぞー、と妹さんへ迫った。
どう考えても実の兄と妹の図じゃない。
妹さん恐怖症って言ってたっけ、どうするかなあ、助けた方がいいのかなあ、とハラハラしてたら、視線を少しだけさまよわせたあと、おずおずと手を因幡さんへと向けて伸ばした。
それは同じくゆらゆらとゆっくりと伸ばされた因幡さんの手に触れて、握手する。
といっても本当に軽い軽い表面が触れるだけのようなものだったのに、何故だかそれが軽いとは思えない。
「…あの、ごめんね…」
「……名前…、お前…」
「えと…ちょっと良くなった、よ…触れるし、あの、自分からならもう、吐かないし、…だから…」
広げられた妹さんの両手がその言葉通りの合図らしく、感激のあまり号泣してる因幡さんが例えるなら病み上がり子に対して容赦なく突っ込んでいった。
オイオイ!と思ったものの本当に自分から心構えをすれば大丈夫だったらしくホッとしたけど、因幡さんが前に言ってた嘔吐癖て。嘔吐癖あったんだ自己申告するほどに。
嘔吐癖のある天使だったのか。なるほど兄に向ける遥と同じようで同じじゃない一切邪気も裏もなさそうな控えめな笑顔は可愛らしいかもしれない。
「妹ってほんと癒しだよね…」
「うわっシスコンだ」
「その荒んだ目はあそこに居る因幡さんにこそ向けてくれないかなあ優太くん!?」
自分も癒される妹が居る身としてはこの光景にちょっと感動してしまったんだけど、隣の優太くんが荒んだ目をしてこちらを見て身を引くものだから思わず俺の心も荒む。
というか妹さん抱き潰し殺されそうだし長年のアレが溜まって我を忘れてモヤシっ子(名前さんも遥並みの虚弱体質だと因幡さんに聞いた)の息の根が止まりかけなのも気がつかないしああなんかもうそこの寝てる彼はこの喧騒の中でも起きないしとやきもきしてると。
「?なんか…気の流れが変ですよ、別人みたい」
「え?この流れで唐突にそんな?…えーそう言われても俺には全然わかんないよ」
「ちょっと押してみますか先生」
「おう押したれ!」
「妹浮かれしすぎて適当になってない因幡さん!?」
「よっ」
「ああなんか出たー!」
ソファーで熟睡してるメガネの彼の中から、ズルリと何か黒い物体が出てきて驚き一色に染まる俺傍で小さく「おとーさん…」と呆れたような小さい小さい呟きは、今にも名前さんが死にそうだったことに気がついて危機感を抱いていた俺にしか聞こえなかったと思う。
一番傍にいる因幡さんはもう目の前が見えてなかったし。いや待て。
…おとーさん?
基本的に俺基準での癒される妹気質なのでは、と思ってきたけれど、この事務所を開けた時ドアの隙間からちょうど聞こえてきた独り言かなにか、あの呟きを取ってもなんにせよ、会えば会うほど分からなくなる不思議気質な人だなあともだんだんと分かってきてしまっていた。あの遥の妹だからと言っていいのか因幡さんの妹だからと言っていいのかよくわからない。