第十二話
原作始まった人見知りじゃないけど人見知り

因幡さんの助手としてあの事務所で働き出し、普通じゃないツッコミ必須な出来事も割と見てきたはずだけど。
あの時の普通じゃないことは…なんというか、もう色々な意味で忘れられない。
まずその数日前から因幡さんが弟探しをしていたというのもびっくりだったし、こっそり一人でそんなの水臭い!とやきもきしてしまってビラを作って一緒に探そうとして。
いざその白い弟さんに驚きの展開で再会した時にその隣に白い女の子が居た。弟さんよりも小さいけれど白い肌や髪に赤目なんて、色合いがもう瓜二つで並ぶとそれが際立つ。
いやいやまさかー、因幡さんそんなこと言ってなかったのに流石に…と思ってたら今度は驚きの妹(しかもまた驚きのアルビノ)がいたなんて、もう水臭いの域を超えすぎて問い詰めたら、

男性恐怖症と対人恐怖症で兄さえも怖がるためにカメラを向けられず写真はない。しかし無いながら探そうとすると怖がってしまうかもしれないしなんと言っていいのか分からず明かさなかった、いや明かす言葉がどうしてもあの場では簡単には見つけられなかった。
しかし、俺が見たその妹さんは兄さえも怖がると聞いた傍から隣の白いもう一人の兄の背にダイレクトに逃げ隠れた。わあ、話とちがうー。
真顔になるほどの話と違う仲良しっぷりに隣の因幡さんも「あんなに仲良しになって…!」と感極まってえぐえぐ泣いてる極度のブラコンシスコンでありながらハブにされてる因幡さんに哀れみを感じたたけど、それも一瞬のことだった。


「言え」
「あ、あの…わ、私もー…やっぱりびっくりすることに…ウサギさん…だったみたいだよー…?」


途中からなんかおえええと妹さんが嘔吐したりして突っ込みは絶えなかったけど、ガッと掴まれた頭を無理やり回転させられ、確かにドスの効いた低音、しかしいい笑顔のままにの言葉により即座に妹さんも引きつった笑顔で隣の白いのの真似をしてウサギと名乗った。
明らかに言わされてる、脅されてる、強制されてる、驚きの関係性が浮き彫りになってるのに因幡さんも妹さんの意思だと真に受けてるしヤギも「そうだったかー」と超納得してるしやっぱりびっくりすることにって驚きの言い回しに何故引っかからない!

なんか、あの子からは同類の臭いが気がした。よくわからないけどなんとなく。

帰ってから落ち込んでる因幡の話をぽつぽつ聞くに「原因不明の男性恐怖症で、ちょっぴり内気で恐怖心から重度な嘔吐癖が出来ちゃってるけど、めちゃくちゃ天使な妹なんだ…」だと説明受けたけど最後の辺りで台無しだとはとてもこの落ち込んだブラコンシスコンに向けて言えなかった。
が。なんかほんのり何故あちら側に居るのかは垣間見えた気がするけど。弟さんの驚きのにーにの構ってくれなかった殺す発言聞いて顔そむけてドン引きしてたし。それに共感してあそこに居るようにとてもじゃないけど色んなちまちまとした物をあの短時間で見て思えなかったんだけど、色々複雑な事情があるんだろうなあ、と思って納得させて。





謎の因幡さんの白い弟さんと妹さんとの再会は割りと早くきた。
ある日因幡さんの事務所に訪ねてきたお客さんはなんと二匹の大きな猫だった。もうこれはモフるしかないと思い思う存分モフってるうちに猫さん二匹は俺をどこかへ連れていき、猫の国に本気で連れて行ってくれるんだ!とあの時は夢心地だったけど、結論。



「猫屋敷!?」
「君って本当に馬鹿なんだね」
「…ん?…アレ?…遥…さん…、と、……さん…」
「…、まだわかんないの?君誘拐されたんだよ」



弟さんの罠でした。
なんか寂れた屋敷に連れてこられた物だから猫屋敷かと思ってきゅん!としてしまったけどそこには白い弟さんと妹さんがいて、妹さんはわざわざご丁寧に机の上に飲み物をくれた。薄っすらと曖昧に笑いながらも物腰低く会釈されたので、思わずつられて頭を下げた。ほらやっぱりなんかああは思えない。
そしてその後俺は誘拐されたのだと説明し、今から猫好きな俺が犬好きになるまで洗脳するのだと丁寧に説明され、自分には嘘は通じないとも説明された。
頃合を見て洗脳にかかったふりをすればいい、と思った瞬間のことで、それは因幡さんの能力を見てもありえない話じゃない。

弟さん…いやもう呼び捨てにすると決めたすっげー性格悪い遥は心が読める。
もうちょっと察してしまってたけどすっげー歪んでる性格悪すぎる!
因幡さんの今の葛藤する心の声は最高だとかなんとかかんとか、やっぱりそれに対して顔を背けてドン引きしてる妹さんの方は共感してると思えないし。
なんか時々哀れみの目を向けてくるし。

その後ヤバさプンプンの洗脳椅子に猫さん二匹(着ぐるみ)に座らされたあと、犬好きに洗脳され見事に大まかに言えば犬である遥にも、猫さんの中の人の犬二匹、勿論さんも犬好きの対象に含まれて、
不本意ながら普段俺が猫にそうするように他三人に対してめいっぱい愛情表現したけれど、さんは最後まで遥、そして他の二人によって全力で俺の手から守られて指一本触ってない。曰くの、他二人がされていたような変身後の遥の能力による操作…、手足、操り人形と呼んでいた状態に妹さんがされることもなかった。




「なーんか…」


その後助けに来てくれた因幡さんと優太くんによって洗脳は解けたけど、あの時の記憶が消えたんじゃないので思い出すと本当に引っかかる。
あの屋敷から三人で帰路につきながら日が傾き始めた道を歩きながらぽつり。うん。


「………さんって、遥と仲良いよね」
「うっ」
「ついでに他の二人とも仲良いのかな」
「うううぅ!」
「ほんとは遥に良いように脅されてあっち側に居るのかなー、って思ったけど、わかんなくなったなあちょっと」
「何言ってんだよ、あの二人は圭の言う通り超仲良しだぞ?…毎日荻におにーちゃんハブなんだって泣きつくくらいには…」
「うわぁ当時の荻さんの苦労が手に取るように分かっちゃうのが虚しい」
「だから脅されてるなんてありえねーよ」
「じゃあ自ら望んで兄の敵に回ったんですね!」
「ヴッ」
「優太くん繊細なおにーちゃんの傷抉らないであげて!話振っちゃった俺も俺だけど!」



悲しそうにぷるぷるしてる因幡さんを見てあーごめんわざわざ改めてする話じゃなかったかとアイツがどうであれ反省したけど、たった三人のきょうだいなんだし、
あの二人が仲良いのかも…向こうの人たちとも仲良いのかも…とは思い始めた。脅されただけではないのか、と。

だけど『言え』と可愛い妹の頭を掴んでいい笑顔で脅していた兄の姿は忘れるはずもなく。謎だけが残る兄妹だ、因幡きょうだいだ、と消化不良のままその日は終わった。
2016.4.23