第十一話
原作始まった─人見知りじゃないけど人見知り
時が経つのは案外早い。楽しい時間は早く過ぎるし、何かやることに忙しなく追われていれば本当に早い物だし、加えれば歳をとるともっと…
最後のはまあ、中身を合計すればあり得る話だけど身体年齢を見ると考えたくはないもので。
けれど事実時早い!とびっくりしてしまうことが何度もあるので全てを否めない。実際楽しいし忙しないし精神年齢重ねてるし。
けれど。まさか洋兄の下から離れて秘密警察犬やめてもう二年で、しかも原作がさあ今からすぐに開始するよ!なんて不意打ちで宣言されたら。
…息が止まる。比喩なく止まった。驚きで心肺停止しなかっただけこの身体のスペックにしてはマシだと思った。
「ヤギさんとお友達になったんだ」
「……そう…」
「そのかわいそうな物を見る目は何?…マフィアとね、手を組んだんだよ、昨日」
「昨日!?だからいなかったの!?ええいやいやそんな風に思わないからだってわたし!」
「……何そのかつて無いくらいの取り乱し…テロリストになって二年も経つのにマフィアがどうとかくらいで」
「そう…だよね…二年……」
時早。その一言に尽きる。もう兄がテロリストになりますお前も一緒にやろう拒否権ないよ、とか正義の立場から悪の組織にコロリと身を置き換えても、マフィアがどうたら言ったって驚かない。ただその内容どこかで聞き覚えありすぎる。あと確実にヤギとお友達って言った。この兄は言った。
普段使わない声帯をフル稼働させて、どこぞの常識人くんのツッコミのようにキレのあるツッコミのような真似事をしてしまって喉が死んだ。脆い。けれどそれ所の話じゃあない。
私、今日明日で洋兄と再会する。それでもって原作というこの世界の軸の中に、流れの中に飛び込み始める。
それはもう私にとってはとても重大なことて出来ることなら逃げてしまいたい。けれどもう野羅なんていうテロリストと二年も時早に仲良ししておいて無理。もう無理。逃げられないしそもそも因幡さんちに生まれてしまった時点でどんな形でかはともかく絶対に逃れられなかった。
春。桜の季節。春は出会いと別れの季節だけれど再会と始まりの季節なのか。あんまり嬉しくない。逃れられないことは分かっててもせめて事前に知らせて欲しかった、と嘆くも、私が彼らの動きを察せ無かったのが悪い。むしろ毎日夏輝ちゃんときゃっきゃして楽しんで人生エンジョイしててごめんなさい。
そして案の定「今から行くよ」とにっこり珍しくいい笑顔を私へと向ける兄に、聞きたくはないけれど問いかけた。「どこに?」と。
「にーにの所」
語尾にはーとがつきそうな弾んだ言葉に私は反対に語尾が消え入るように小さくなる。
「………ハイ……」
おそらく洋兄は探してる。自分の弟妹を。因幡遥は兄の下へ向かう。そして妹が行かない訳にいくものか。再会拒絶なんていいご身分だ。
違う、洋兄に会いたくないというかもうその渦中に私と言う存在が飛び込むのが荷が重い、既に吐きそう、目に見えて憔悴しだした私は周りから見れば二年ぶりの兄との再会に複雑な思いを抱いてるのか、というようにしか見えないだろうけれど。心も探れないというんだから。
複雑は複雑だけどもっと複雑。
私、どう立ち回ればいいんだろう。これから起こる怒涛の混沌の展開へ。ノリよく混ざれる気がしない。…向こう側から眺めてる時は楽しげだったあのノリも、自分があのノリで、しかもこの足枷しかない低スペックなモヤシの身体で入り込めなんて無茶振りがすぎる。
へろへろと嬉々として再開の場所へと向かおうとする兄と聡明さん、今回は夏輝ちゃんと弥太郎くんはお留守番ということで本気で心細く思いながら足取り重く向かう。
ああ、無茶振りだ。本当に無茶振り。
向かうのは警官服を着た人がわんさか居るような場所。飛んで火にいる夏の虫のようだ、向かった先にはあの兄もいるのに、……と普通は思うけれど。
なんかこう、久しぶりに会った兄は人間版ゴ○ブリホイホイみたいのに引っかかって、しかも警官服のコスプレを元・相棒の荻さんと共にしていて、どこに突っ込んでいいやらなんで入ったんだどうしてそうなったのか「警察官立ち寄り所」って看板掲げたホイホイに流れるように吸い込まれるってちょっと、と突っ込んでいいのかそして隣の遥のご機嫌さったら気持ち悪くてもう、
…目の前に同じく嬉々としてホイホイへ引っかかった兄と荻さんの下へ向かう、二足歩行の人語を操るちんまりしたサイズのヤギをこの目で初めて見てる私のドン引きさったら。
今までありえないことの連続ではあったけれどこれはリアルな非現実だ。ありえない。ありえない。まじか。すごい。とても。
ホイホイに引っかかった間抜けは誰だ!と嬉しそうに扉を開けたヤギ…遥たち野羅、テロリストがお友達になったマフィアのトップ。
あけたホイホイの窓の向こうにはえげつない顔をした兄と荻さん。
それを楽しそうに嬉しそうに見つめる遥との板ばさみになった私。
やっぱりこの場のノリにノリきれなくてもうとんでもないアウェーだった。いっそ誰か私を気絶させてください。
「久しぶりだね、にーに」
「遥!」
「遥…って弟さん!?」
「うん」
そしてホイホイ越しに警官コスをした兄と二年ぶりの再会。この二年で出来た兄の大切な人、私たちを探すために開いた探偵事務所で雇ってる小さな黒髪と金髪の男の子の助手さん二人がこちらをびっくりしたように見てる。うち金髪の方は女装男子だけれど。
遥を見た時は納得したよな顔してたけど、私を見ると黒髪の助手さんがきょとんとして指差して問いかけた。
「えーと…こっちの子は…?」
「…俺の妹…やっぱり遥と一緒だったんだな」
「妹ォオ!?弟だけでもちょっとびっくりしたのに妹まで!?ていうかなんで弟さんのこと話したあの時言ってくれなかったの!?因幡さんさらに水臭すぎるよ!」
「いや…だって色々あって名前の写真持ってないし……その…俺のこともこう…」
「この子男性恐怖症とちょっと対人恐怖症気味だから、カメラ向けられるの嫌がるし、兄のことも怖がるし。ビラ探しとかも色々不都合だったんでしょう。ね?にーに」
「男性恐怖症がめちゃくちゃ男性(兄)にダイレクトに隠れてるゥ!!」
「お前たちそんなに仲良しになって…!」
「超仲いいじゃん!」
もう一挙に視線向けられるのが恐ろしすぎて、とりあえず遥の背後に隠れた。そしてその一挙一動に隙なくツッコミを入れてくる黒髪助手さんに恐れ入る。
話が脱線したものの、私含め因幡洋という秘密警察犬(狼)の弟妹なのだと理解したヤギさんが、その狼嫌いが故にこちらに凄い目を向けて叫ぶ。
今の今まで調べなければ見た目だけじゃあ人間と変わらないから分からない。遥と私に限っては普通と変わったことと言えば真っ白で赤目なアルビノなことだけど、他と違うことといえば人間的には今は無いので驚くのも無理はない。
なので。それでも。いくら白くても。逃れるためのいい訳だとしても。
「何!ということは、貴様狼であろー!」
「え?うさぎさんだよ?」
「おふえぇ…」
「今妹さんの方何か吐かなかったかな」
遥のめちゃくちゃあざという首かしげ+うる瞳+上目遣い+自分ウサギさんだよ?アピールに物凄く砂吐く。影で小さくそれをしたつもりが常識人、そして誰よりもツッコミ人な黒髪助手さんの目からは逃れられず瞬時に無い握力使って頭をガッと片手で掴まれた。言わずもがなウサギさん(棒)の兄に。
「じゃあよかろー」
騙されないでヤギ、とバレる=私自身の危機だとしても応援したくなってしまう。そんな馬鹿な。色んな意味で馬鹿な。
ヤギ頑張って。周りももっと頑張って目を開いてみて。ウサギなんていないし居るとしたらもっとこう怖い生き物だと思うので真実を。
「うさぎの僕と聡明さんは狼が天敵なの、食べられちゃうんだー」
「おお同志よ、まったく狼はひどい奴であろー」
「コラ遥ーっそんなヤギと仲良くするなーッ」
私は突っ込まない何も見てない聞いてない言わない。洋兄の目が遥から縋るように私へと向かうも私は目をそらした。
が。掴まれた頭はモヤシのくせに奮闘してくれて、ぐるりと洋兄の下へと向かわせられる。男モヤシの両手と私の頭ひとつじゃ同じモヤシでも力負けした。
「言え」
「あ、あの…わ、私もー…やっぱりびっくりすることに…ウサギさん…だったみたいだよー…?」
…いや今世では私びっくりすることに狼女なんですけど、と思いながら遥の砂を吐きそうな上目遣いのうるっとした猫かぶりを口元引きつりながらも真似すると、遠くの洋兄が悶えてた。
隣の遥は失礼なことにやれよ、と脅しをかけた身でありながら沈黙した。今は小さな羊のぬいぐるみに入ってる聡明さんは割りといつもより増し増しに楽しげにモコモコ言ってた。
ヤギは「そーであったかー」と納得してたし。
もう正直これは自分にはキツいと思ってたけど、因幡の優秀な遺伝子を受け継いだこの容姿ならば、中身がどんなに伴ってなくてもまあ補正されるだろうと開き直ったけど、結局は死んだ目をしてたし。
「いや妹さん脅さてるけど!本人も予想外だったらしいけど!」
「そんなことなかろー」
「…うん、びっくりすることに、私も、うさぎ、だった、みたい、だからー…ねー…」
「そーであろー、こんなにもウサギであろー」
「びっくりするくらい妹さん目が死んでる!」
とりあえず四方八方からの視線が痛かったので役目は終わったと言わんばかりに遥の背に帰った。これからもこういうことがあったならここを盾にさせてもらおう。
それさえ許さないのなら本当に洋兄のところに帰る。ほんと帰る。それがギリギリの恐怖症患ってる実はウサギさんらしかった私のギリギリのラインだ。
黒髪助手さん、本当に色々と代弁してくれてありがとう。
まさかの妹からの寝返り発言を真に受けて脅されてるとは微塵も思ってない洋兄が泣いてる。
「にーにの頭の中が泣いてても笑っていても僕でいっぱいになってくれればそれでいいんだ」なんて、とても幼いことを言う兄。
ずっと秘密警察犬としての仕事に追われて洋兄に置いてけぼりにされてずっとずーっと寂しく思っていたという遥の隣に私もいたけれど、気持ちは分かるけれど分からない。
伊達に精神年齢は重ねていないので遥のこれは歪んでしまってはいるけれど子供の幼い寂しさからくる駄々こねのように聞こえる。 私は洋兄が私たちを支えに頑張っていたのも自分の意思とは裏腹に生まれて背負った役目として「仕事」しなきゃいけないのも構いたくても構えなかったのもなんとなくわかるし、
反対に遥の寂しいも本当に私が幼かった昔を思い出せば分かってしまうから、何も言えず結局の所中立だ。
ただ。
「僕より先に仕事なんだもん、何度殺してあげようと思ったか」と狂気すぎる発言をしたこの隣のウサギさんだったらしい兄に私も恐れを抱く。一気にぞぞっと背筋が寒くなった…。
仲が険悪だったあの頃、一歩間違えたら私本当に殺されてたかも嫌悪から。
今この兄が私に対してどう思ってるかは…、探ろうと思えば私は探れるのかもしれない。
目覚めなきゃそろそろ大変だなあ、と思っていた私もついにとあることをきっかけに能力に目覚めている。しかもある意味異例の能力、らしい。ウサギじゃなくて狼女なので、警察犬なので。今では一端の能力持ちだ。
だけどしない。しなくていいと思ってる。少なくともお仕事でやれと言われない限りは私はそれをしない、それが私のここで生きる上の自分なりのルールだった。
原作始まった─人見知りじゃないけど人見知り
時が経つのは案外早い。楽しい時間は早く過ぎるし、何かやることに忙しなく追われていれば本当に早い物だし、加えれば歳をとるともっと…
最後のはまあ、中身を合計すればあり得る話だけど身体年齢を見ると考えたくはないもので。
けれど事実時早い!とびっくりしてしまうことが何度もあるので全てを否めない。実際楽しいし忙しないし精神年齢重ねてるし。
けれど。まさか洋兄の下から離れて秘密警察犬やめてもう二年で、しかも原作がさあ今からすぐに開始するよ!なんて不意打ちで宣言されたら。
…息が止まる。比喩なく止まった。驚きで心肺停止しなかっただけこの身体のスペックにしてはマシだと思った。
「ヤギさんとお友達になったんだ」
「……そう…」
「そのかわいそうな物を見る目は何?…マフィアとね、手を組んだんだよ、昨日」
「昨日!?だからいなかったの!?ええいやいやそんな風に思わないからだってわたし!」
「……何そのかつて無いくらいの取り乱し…テロリストになって二年も経つのにマフィアがどうとかくらいで」
「そう…だよね…二年……」
時早。その一言に尽きる。もう兄がテロリストになりますお前も一緒にやろう拒否権ないよ、とか正義の立場から悪の組織にコロリと身を置き換えても、マフィアがどうたら言ったって驚かない。ただその内容どこかで聞き覚えありすぎる。あと確実にヤギとお友達って言った。この兄は言った。
普段使わない声帯をフル稼働させて、どこぞの常識人くんのツッコミのようにキレのあるツッコミのような真似事をしてしまって喉が死んだ。脆い。けれどそれ所の話じゃあない。
私、今日明日で洋兄と再会する。それでもって原作というこの世界の軸の中に、流れの中に飛び込み始める。
それはもう私にとってはとても重大なことて出来ることなら逃げてしまいたい。けれどもう野羅なんていうテロリストと二年も時早に仲良ししておいて無理。もう無理。逃げられないしそもそも因幡さんちに生まれてしまった時点でどんな形でかはともかく絶対に逃れられなかった。
春。桜の季節。春は出会いと別れの季節だけれど再会と始まりの季節なのか。あんまり嬉しくない。逃れられないことは分かっててもせめて事前に知らせて欲しかった、と嘆くも、私が彼らの動きを察せ無かったのが悪い。むしろ毎日夏輝ちゃんときゃっきゃして楽しんで人生エンジョイしててごめんなさい。
そして案の定「今から行くよ」とにっこり珍しくいい笑顔を私へと向ける兄に、聞きたくはないけれど問いかけた。「どこに?」と。
「にーにの所」
語尾にはーとがつきそうな弾んだ言葉に私は反対に語尾が消え入るように小さくなる。
「………ハイ……」
おそらく洋兄は探してる。自分の弟妹を。因幡遥は兄の下へ向かう。そして妹が行かない訳にいくものか。再会拒絶なんていいご身分だ。
違う、洋兄に会いたくないというかもうその渦中に私と言う存在が飛び込むのが荷が重い、既に吐きそう、目に見えて憔悴しだした私は周りから見れば二年ぶりの兄との再会に複雑な思いを抱いてるのか、というようにしか見えないだろうけれど。心も探れないというんだから。
複雑は複雑だけどもっと複雑。
私、どう立ち回ればいいんだろう。これから起こる怒涛の混沌の展開へ。ノリよく混ざれる気がしない。…向こう側から眺めてる時は楽しげだったあのノリも、自分があのノリで、しかもこの足枷しかない低スペックなモヤシの身体で入り込めなんて無茶振りがすぎる。
へろへろと嬉々として再開の場所へと向かおうとする兄と聡明さん、今回は夏輝ちゃんと弥太郎くんはお留守番ということで本気で心細く思いながら足取り重く向かう。
ああ、無茶振りだ。本当に無茶振り。
向かうのは警官服を着た人がわんさか居るような場所。飛んで火にいる夏の虫のようだ、向かった先にはあの兄もいるのに、……と普通は思うけれど。
なんかこう、久しぶりに会った兄は人間版ゴ○ブリホイホイみたいのに引っかかって、しかも警官服のコスプレを元・相棒の荻さんと共にしていて、どこに突っ込んでいいやらなんで入ったんだどうしてそうなったのか「警察官立ち寄り所」って看板掲げたホイホイに流れるように吸い込まれるってちょっと、と突っ込んでいいのかそして隣の遥のご機嫌さったら気持ち悪くてもう、
…目の前に同じく嬉々としてホイホイへ引っかかった兄と荻さんの下へ向かう、二足歩行の人語を操るちんまりしたサイズのヤギをこの目で初めて見てる私のドン引きさったら。
今までありえないことの連続ではあったけれどこれはリアルな非現実だ。ありえない。ありえない。まじか。すごい。とても。
ホイホイに引っかかった間抜けは誰だ!と嬉しそうに扉を開けたヤギ…遥たち野羅、テロリストがお友達になったマフィアのトップ。
あけたホイホイの窓の向こうにはえげつない顔をした兄と荻さん。
それを楽しそうに嬉しそうに見つめる遥との板ばさみになった私。
やっぱりこの場のノリにノリきれなくてもうとんでもないアウェーだった。いっそ誰か私を気絶させてください。
「久しぶりだね、にーに」
「遥!」
「遥…って弟さん!?」
「うん」
そしてホイホイ越しに警官コスをした兄と二年ぶりの再会。この二年で出来た兄の大切な人、私たちを探すために開いた探偵事務所で雇ってる小さな黒髪と金髪の男の子の助手さん二人がこちらをびっくりしたように見てる。うち金髪の方は女装男子だけれど。
遥を見た時は納得したよな顔してたけど、私を見ると黒髪の助手さんがきょとんとして指差して問いかけた。
「えーと…こっちの子は…?」
「…俺の妹…やっぱり遥と一緒だったんだな」
「妹ォオ!?弟だけでもちょっとびっくりしたのに妹まで!?ていうかなんで弟さんのこと話したあの時言ってくれなかったの!?因幡さんさらに水臭すぎるよ!」
「いや…だって色々あって名前の写真持ってないし……その…俺のこともこう…」
「この子男性恐怖症とちょっと対人恐怖症気味だから、カメラ向けられるの嫌がるし、兄のことも怖がるし。ビラ探しとかも色々不都合だったんでしょう。ね?にーに」
「男性恐怖症がめちゃくちゃ男性(兄)にダイレクトに隠れてるゥ!!」
「お前たちそんなに仲良しになって…!」
「超仲いいじゃん!」
もう一挙に視線向けられるのが恐ろしすぎて、とりあえず遥の背後に隠れた。そしてその一挙一動に隙なくツッコミを入れてくる黒髪助手さんに恐れ入る。
話が脱線したものの、私含め因幡洋という秘密警察犬(狼)の弟妹なのだと理解したヤギさんが、その狼嫌いが故にこちらに凄い目を向けて叫ぶ。
今の今まで調べなければ見た目だけじゃあ人間と変わらないから分からない。遥と私に限っては普通と変わったことと言えば真っ白で赤目なアルビノなことだけど、他と違うことといえば人間的には今は無いので驚くのも無理はない。
なので。それでも。いくら白くても。逃れるためのいい訳だとしても。
「何!ということは、貴様狼であろー!」
「え?うさぎさんだよ?」
「おふえぇ…」
「今妹さんの方何か吐かなかったかな」
遥のめちゃくちゃあざという首かしげ+うる瞳+上目遣い+自分ウサギさんだよ?アピールに物凄く砂吐く。影で小さくそれをしたつもりが常識人、そして誰よりもツッコミ人な黒髪助手さんの目からは逃れられず瞬時に無い握力使って頭をガッと片手で掴まれた。言わずもがなウサギさん(棒)の兄に。
「じゃあよかろー」
騙されないでヤギ、とバレる=私自身の危機だとしても応援したくなってしまう。そんな馬鹿な。色んな意味で馬鹿な。
ヤギ頑張って。周りももっと頑張って目を開いてみて。ウサギなんていないし居るとしたらもっとこう怖い生き物だと思うので真実を。
「うさぎの僕と聡明さんは狼が天敵なの、食べられちゃうんだー」
「おお同志よ、まったく狼はひどい奴であろー」
「コラ遥ーっそんなヤギと仲良くするなーッ」
私は突っ込まない何も見てない聞いてない言わない。洋兄の目が遥から縋るように私へと向かうも私は目をそらした。
が。掴まれた頭はモヤシのくせに奮闘してくれて、ぐるりと洋兄の下へと向かわせられる。男モヤシの両手と私の頭ひとつじゃ同じモヤシでも力負けした。
「言え」
「あ、あの…わ、私もー…やっぱりびっくりすることに…ウサギさん…だったみたいだよー…?」
…いや今世では私びっくりすることに狼女なんですけど、と思いながら遥の砂を吐きそうな上目遣いのうるっとした猫かぶりを口元引きつりながらも真似すると、遠くの洋兄が悶えてた。
隣の遥は失礼なことにやれよ、と脅しをかけた身でありながら沈黙した。今は小さな羊のぬいぐるみに入ってる聡明さんは割りといつもより増し増しに楽しげにモコモコ言ってた。
ヤギは「そーであったかー」と納得してたし。
もう正直これは自分にはキツいと思ってたけど、因幡の優秀な遺伝子を受け継いだこの容姿ならば、中身がどんなに伴ってなくてもまあ補正されるだろうと開き直ったけど、結局は死んだ目をしてたし。
「いや妹さん脅さてるけど!本人も予想外だったらしいけど!」
「そんなことなかろー」
「…うん、びっくりすることに、私も、うさぎ、だった、みたい、だからー…ねー…」
「そーであろー、こんなにもウサギであろー」
「びっくりするくらい妹さん目が死んでる!」
とりあえず四方八方からの視線が痛かったので役目は終わったと言わんばかりに遥の背に帰った。これからもこういうことがあったならここを盾にさせてもらおう。
それさえ許さないのなら本当に洋兄のところに帰る。ほんと帰る。それがギリギリの恐怖症患ってる実はウサギさんらしかった私のギリギリのラインだ。
黒髪助手さん、本当に色々と代弁してくれてありがとう。
まさかの妹からの寝返り発言を真に受けて脅されてるとは微塵も思ってない洋兄が泣いてる。
「にーにの頭の中が泣いてても笑っていても僕でいっぱいになってくれればそれでいいんだ」なんて、とても幼いことを言う兄。
ずっと秘密警察犬としての仕事に追われて洋兄に置いてけぼりにされてずっとずーっと寂しく思っていたという遥の隣に私もいたけれど、気持ちは分かるけれど分からない。
伊達に精神年齢は重ねていないので遥のこれは歪んでしまってはいるけれど子供の幼い寂しさからくる駄々こねのように聞こえる。 私は洋兄が私たちを支えに頑張っていたのも自分の意思とは裏腹に生まれて背負った役目として「仕事」しなきゃいけないのも構いたくても構えなかったのもなんとなくわかるし、
反対に遥の寂しいも本当に私が幼かった昔を思い出せば分かってしまうから、何も言えず結局の所中立だ。
ただ。
「僕より先に仕事なんだもん、何度殺してあげようと思ったか」と狂気すぎる発言をしたこの隣のウサギさんだったらしい兄に私も恐れを抱く。一気にぞぞっと背筋が寒くなった…。
仲が険悪だったあの頃、一歩間違えたら私本当に殺されてたかも嫌悪から。
今この兄が私に対してどう思ってるかは…、探ろうと思えば私は探れるのかもしれない。
目覚めなきゃそろそろ大変だなあ、と思っていた私もついにとあることをきっかけに能力に目覚めている。しかもある意味異例の能力、らしい。ウサギじゃなくて狼女なので、警察犬なので。今では一端の能力持ちだ。
だけどしない。しなくていいと思ってる。少なくともお仕事でやれと言われない限りは私はそれをしない、それが私のここで生きる上の自分なりのルールだった。