第一話
1.生まれ生きる─
怖かった。毎日が、人の目が、風が空が暖かさが声が雲が草が花が言葉が、
私には、全部。
この世界の何もかもが怖くてたまらなかったのだ。
『……つまらない』
『……え…』
『…ほんとつまらない。…ふつーじゃないし、きもちわるいし、…僕にはにーにだけ、…にーにだけいてくれればよかったのに…こんな妹がほしかったんじゃない…!』
当時私が6歳の時に投げかけられた言葉。
その言葉を投げかけられる日が来ることを、ずっと恐れていたんだろうと思う。
私には兄が二人いた。8歳離れた兄と、2歳離れた兄。
分かりやすく弟と妹を猫かわいがりする上の兄と相性が合わないのか妹と距離を置く下の兄。
反りが合わないんだろうな、下の兄…遥という彼からしたら。私がとっつきにくい子だとは色んな意味で当時からわかってることだった。うん、そう思われても仕方ない。
でも。
ここまでズバッと言われる日が来るとは思ってなかった。
いや、きっといつかはこんなことを言われるのだと分かってたんだろうけど…私はきっと分かりたくなかったんだ。分からないふりをしていたかったんだろうと今では思う。
その日は明らかな嫌悪が浮かんだ顔で言われたこのセリフで三日三晩寝込んだっけ、私。仕方ない、仕方ないと飲み込んで四日目笑顔で日常に復帰した。我ながら図太いんだか図太くないんだか…。
こうなるのも、仕方ない。特殊な色んなことが重なって、仕方なかったんだとそれから数年微妙な距離感で過ごした。
周りからは仲が険悪な兄妹、としての認識が広がりいつの間にかそれが周知の事実に変わる。
「……、ぅう…」
胃が痛い話だけど。
ある時にはすれ違い様に舌打ちをされある時は伝達のために話しかけてもガン無視。ある時は口論に発展して壁ドン(と言えば色めき立つ単語のように思えるけどアレはマジで殺してやる5秒前みたいな殺気)、ある時には食事にビンの中の七味を全てぶちまけられ泣く泣くすすり泣きながら完食、ある時には靴を踏まれて…
…あれ、なんか小学生レベルな嫌がらせな気がするけど思い返せばもっと酷い事件もあった。とてもたくさん。語り切れない。私の生まれてから何年かの蓄積されすぎたこのストレスも。
……きっと私はこれからも毛嫌いされてこの人生を生きていくんだろうな…せめてもの救いは上の兄、洋兄が兄として私という妹に愛情をそそいでくれることだ…と慰めて日々生きて、
遠い目をして諦めていきていたのに。
「、行くよ」
「え、あ、…あ、の、さ、さわ、」
「男性恐怖症とか馬鹿みたい、仮にも兄相手に男性意識とか」
「だ、ってそんなの、どうしようも、」
「だってとか、そういう言い訳はみっともないから」
「……ごめん、」
「すぐ謝る癖もどうにかしなよ。せっかく見れる見てくれなのに、背筋伸ばして歩かなきゃにーににも泣かれるよ」
「……う、ん…」
「ほら、手、かして」
「…こどもじゃ、」
「は?」
「は、はい!はい!」
「はいは一回で良いって習った気がするけど」
「はい!」
…あれ?
私が9歳、そして10歳になった頃にはアレ?と思うことが次第に確実に増えてきた。上の兄洋の過保護はともかくとして、下の兄の遥が君は私のおかーさん?と言いたくなるような過保護…のような発言やら行動やらスキンシップが多くなり、いや確かに9歳、10歳もついでに11歳でも保護者が必要な子供ではあるのかもしれないけれど、と前世の年齢からの目線で脱線したことを考え現実逃避するけれど、あれ?の数が増えすぎて逃避も難しくなってくる。
増えて増えて増えて増えて増えてふえてふえて、
疑り深い私でもようやっと確信した。
私はいつの間にか嫌悪されて「気持ち悪い」「ふつーじゃない」「つまらない」と宣言されいじめ抜かれて嫌がらせをされ抜かれ、修正不可能な仲だと思われた下の兄遥と、ちょっと不器用な兄妹関係をいつの間にか築いていることに。
私自身にそんな自覚はなかった。ほんとうにいつの間にやら、という言葉が似合って、戸惑う。とても戸惑う。
だってあの日の言葉は未だにトラウマで未だに夢にみて魘されて朝起きるとボロ泣きしてるのに。
ある意味私という存在の核心に触れた言葉を始めて本心で投げかけられたから。しかも近しすぎる兄に。
だから。
────輪廻転生という物がある。その名称を知っている物は多いだろう。
だけど「私は輪廻転生したことを覚えてる」と言い出す人間が居たら、きっと普通の人間なら気味悪がって遠ざかるに違いない。
痛い子だとか、狂ってるだとか異常な子扱いするに違いない。
そんな確信が私にはあって、だからそれひた隠しにして生きてきた。
────ここまで言えば分かる人には簡単に分かるだろうけれど。私は輪廻転生をした元女子高生で、記憶を引き継いで新たな人生を歩んでる。
…自分でもこの発言が痛いとか異常だとか、自覚してるからこそ言いたくない。怖い。とても恐ろしいことだ。人が遠ざかることは、普通とは違うんだという目で自分を見るのは。普通そんな目を他人に好んでされたくはないだろうけど、そんなような類の目を私はいつの日か、どこかでよく見たことがあるような気がしたからもっと怖くなる。
…────それに加えて転生してからは男性恐怖症へと変化、なんて面倒くさいことこの上ない特典てんこ盛り。男性恐怖症って。なんだそれ、と自分でも苦笑してしまう。
ああ、だけど、そうなってしまったからこそ。生まれ変わったからこそ私はそうなんだろう、きっとそうなってしまったんだろう、と一人自分の中で自問自答の自己解決を繰り返す。
私はこの下の兄遥が、伸ばされる手が、とても怖くて仕方がない。
この伸ばされた手はそんな遥との新たな関係性の、始まりの合図だったらしい。
1.生まれ生きる─
怖かった。毎日が、人の目が、風が空が暖かさが声が雲が草が花が言葉が、
私には、全部。
この世界の何もかもが怖くてたまらなかったのだ。
『……つまらない』
『……え…』
『…ほんとつまらない。…ふつーじゃないし、きもちわるいし、…僕にはにーにだけ、…にーにだけいてくれればよかったのに…こんな妹がほしかったんじゃない…!』
当時私が6歳の時に投げかけられた言葉。
その言葉を投げかけられる日が来ることを、ずっと恐れていたんだろうと思う。
私には兄が二人いた。8歳離れた兄と、2歳離れた兄。
分かりやすく弟と妹を猫かわいがりする上の兄と相性が合わないのか妹と距離を置く下の兄。
反りが合わないんだろうな、下の兄…遥という彼からしたら。私がとっつきにくい子だとは色んな意味で当時からわかってることだった。うん、そう思われても仕方ない。
でも。
ここまでズバッと言われる日が来るとは思ってなかった。
いや、きっといつかはこんなことを言われるのだと分かってたんだろうけど…私はきっと分かりたくなかったんだ。分からないふりをしていたかったんだろうと今では思う。
その日は明らかな嫌悪が浮かんだ顔で言われたこのセリフで三日三晩寝込んだっけ、私。仕方ない、仕方ないと飲み込んで四日目笑顔で日常に復帰した。我ながら図太いんだか図太くないんだか…。
こうなるのも、仕方ない。特殊な色んなことが重なって、仕方なかったんだとそれから数年微妙な距離感で過ごした。
周りからは仲が険悪な兄妹、としての認識が広がりいつの間にかそれが周知の事実に変わる。
「……、ぅう…」
胃が痛い話だけど。
ある時にはすれ違い様に舌打ちをされある時は伝達のために話しかけてもガン無視。ある時は口論に発展して壁ドン(と言えば色めき立つ単語のように思えるけどアレはマジで殺してやる5秒前みたいな殺気)、ある時には食事にビンの中の七味を全てぶちまけられ泣く泣くすすり泣きながら完食、ある時には靴を踏まれて…
…あれ、なんか小学生レベルな嫌がらせな気がするけど思い返せばもっと酷い事件もあった。とてもたくさん。語り切れない。私の生まれてから何年かの蓄積されすぎたこのストレスも。
……きっと私はこれからも毛嫌いされてこの人生を生きていくんだろうな…せめてもの救いは上の兄、洋兄が兄として私という妹に愛情をそそいでくれることだ…と慰めて日々生きて、
遠い目をして諦めていきていたのに。
「、行くよ」
「え、あ、…あ、の、さ、さわ、」
「男性恐怖症とか馬鹿みたい、仮にも兄相手に男性意識とか」
「だ、ってそんなの、どうしようも、」
「だってとか、そういう言い訳はみっともないから」
「……ごめん、」
「すぐ謝る癖もどうにかしなよ。せっかく見れる見てくれなのに、背筋伸ばして歩かなきゃにーににも泣かれるよ」
「……う、ん…」
「ほら、手、かして」
「…こどもじゃ、」
「は?」
「は、はい!はい!」
「はいは一回で良いって習った気がするけど」
「はい!」
…あれ?
私が9歳、そして10歳になった頃にはアレ?と思うことが次第に確実に増えてきた。上の兄洋の過保護はともかくとして、下の兄の遥が君は私のおかーさん?と言いたくなるような過保護…のような発言やら行動やらスキンシップが多くなり、いや確かに9歳、10歳もついでに11歳でも保護者が必要な子供ではあるのかもしれないけれど、と前世の年齢からの目線で脱線したことを考え現実逃避するけれど、あれ?の数が増えすぎて逃避も難しくなってくる。
増えて増えて増えて増えて増えてふえてふえて、
疑り深い私でもようやっと確信した。
私はいつの間にか嫌悪されて「気持ち悪い」「ふつーじゃない」「つまらない」と宣言されいじめ抜かれて嫌がらせをされ抜かれ、修正不可能な仲だと思われた下の兄遥と、ちょっと不器用な兄妹関係をいつの間にか築いていることに。
私自身にそんな自覚はなかった。ほんとうにいつの間にやら、という言葉が似合って、戸惑う。とても戸惑う。
だってあの日の言葉は未だにトラウマで未だに夢にみて魘されて朝起きるとボロ泣きしてるのに。
ある意味私という存在の核心に触れた言葉を始めて本心で投げかけられたから。しかも近しすぎる兄に。
だから。
────輪廻転生という物がある。その名称を知っている物は多いだろう。
だけど「私は輪廻転生したことを覚えてる」と言い出す人間が居たら、きっと普通の人間なら気味悪がって遠ざかるに違いない。
痛い子だとか、狂ってるだとか異常な子扱いするに違いない。
そんな確信が私にはあって、だからそれひた隠しにして生きてきた。
────ここまで言えば分かる人には簡単に分かるだろうけれど。私は輪廻転生をした元女子高生で、記憶を引き継いで新たな人生を歩んでる。
…自分でもこの発言が痛いとか異常だとか、自覚してるからこそ言いたくない。怖い。とても恐ろしいことだ。人が遠ざかることは、普通とは違うんだという目で自分を見るのは。普通そんな目を他人に好んでされたくはないだろうけど、そんなような類の目を私はいつの日か、どこかでよく見たことがあるような気がしたからもっと怖くなる。
…────それに加えて転生してからは男性恐怖症へと変化、なんて面倒くさいことこの上ない特典てんこ盛り。男性恐怖症って。なんだそれ、と自分でも苦笑してしまう。
ああ、だけど、そうなってしまったからこそ。生まれ変わったからこそ私はそうなんだろう、きっとそうなってしまったんだろう、と一人自分の中で自問自答の自己解決を繰り返す。
私はこの下の兄遥が、伸ばされる手が、とても怖くて仕方がない。
この伸ばされた手はそんな遥との新たな関係性の、始まりの合図だったらしい。