第七話
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
一年生の秋の初めにという女子がね幸村精市のクラスへと転校してきて一月半が経つ。
「霊感少女の転校生」などという面白おかしい噂話もすぐに沈下して、また違う新たな噂を飛び交わせて行き、
彼女が好奇心でじろじろと大人数に遠巻きに見られることもなくなったらしい。
しかし、彼女の扱いが変わったかといえばNOと断言できる。相変わらず「霊感があるかもしれなくて」「無表情で冷たくて」「喋ったところを誰もみたことがない」なのである。
しかし一切喋らない、など学校生活を送っていればあり得なく、クラスの人間は授業なりなんなりで聞いたはずなので、それは所詮面白おかしい噂である。
そして、と幸村精市の関係も、緩やかに変化を遂げていた。
「最近幸村くんが知らん女子と一緒にいる」
と、彼、幸村不在の部室内で部員の誰かが噂話を始めた。
「……いやいや、あの幸村に限ってお前それは」
「幸村の人嫌いは俺たちより根深いからのぅ」
すると少しフリーズした色黒の部員の男はすぐさま否定をした。もう一人の銀髪の訛り口調の男も相変わらず否定をする。
「特に女子生徒は最初から壁が厚いですし、でも…」
「もし本当なら、おまんらは何があったと思う?」
しかし、でも。いや、もしかして。
ここに居る部員らは総じて度合いは違えど人間不信気味な所がある。
しかしそれが一番酷いのは、彼の性格や気質のせいか、過去体験したことのせいか、彼幸村精市なのである。
しかしもしかしたら。もしもあの幸村と付き合える、恋人とまでは行かなくても仲のいい、もうこの際男でも女でも性別は問わないが、いやしかしながら、もしうっかり間違って女の友達なんかが出来ちゃっていたなら…?
「……やべえ、想像つかねえ」
「一目惚れとかもあり得ないし友達になるにも何かあったって過程も想像つかねえ」
「どうやって口説けば落とせるんですかね」
「謎じゃのぉ」
「く、口説き落とすなど、たるんどる!」
そしてそこに後から合流してきた幸村が過去情報通、と称した柳という男がやって来て、「なあなああのさ、」と誰かが彼に話題を振った。勿論幸村を口説き落としたかもしれないまだ見ぬ誰かの話で花を咲かせるためである。
そんなことは彼、幸村は露知らず。
そして時はその日の放課後の彼らの楽しげなその場面から、朝に遡り。
花壇や屋上庭園の世話のごく一部を植物の負担にならないように、昼休みから早朝の五分、十分へと緩やかに切り替え、器用に他の役割を昼休みへと転換しつつある彼、幸村は。
「なんでそこで土を掘りすぎるのかな?肥料過多にするのかな?水をあげすぎるの?根腐れしたらどうするつもり?わかるよね、それは」
笑顔でとんでもない威圧をしていた。その威圧している相手は勿論である。
時期はもう真冬、寒くて手がかじかむようなこの季節、
それも厭わず彼女からかわいらしい手袋を剥ぎ取り、少し古びた軍手に変えさせ、土いじりをさせているのである。
事の始まりはただ何気なく花壇の世話をする光景を見ていたに幸村が、「水、やってみる?」となんの意図もなくただ持ちかけただけだった。
すると彼女は思いの他喜んだ。「っえ!いいの!」と初めて文章に起せば語尾に記号がつきそうな勢いで喜ばれたため、彼は珍しくて水遣りを一任してみせたら、 効率もよく出来ていて、興味があるので植物に関しての知識を教えられるのは苦ではなくむしろ喜ぶ、
中学生にしては珍しい彼女だったからこそ、彼は彼女の同意の元(物凄く喜んだ)、土いじりを共に始めさせてみたのだが…
とりあえず花壇の水やりから始め、花の名前を教え、季節を教え、暑さや寒さに弱いだの強いだの特性はこうで肥料は少なめで、と教えるとスポンジのように吸収するから面白い、教えがいがある。でも、だ。
一つだけ許せない。
「なんでこんなにも繊細な動作が壊滅的なのか」ということを。まだ慣れていないから加減が分からないのだろう、と思っていても一向に直らないその動作に、 部室で見せるような威圧がいつの間にか日常生活にまで侵食しつつあることを自覚しているのかいないのか。
するとはええー…とその謎の威圧に戸惑いつつ、押され気味に反論する。
「…わ、わかってるけど、わたし手先が…」
「手先が?」
「……不器用、みたい。知らなかったけど…勢いがよすぎたりしちゃうから……うん…」
「……それは…重症だね…」
──何それ、不器用にも程かあるだろう。
幸村は呆れつつも、納得した。
道理で頻繁に教室で筆箱を落として「祟りの前兆か!」だとかクラスメイトに騒がれる訳だ。
近くに居ながら気が付かないフリして手伝わない彼も彼だが彼とて我が身が可愛い。
面倒事は面倒、面倒臭い。
転校初日だけなら理由になる、だがしかしそんなことで頻繁にに構えばまた根も葉もない噂が尾ひれをついて出回り面倒事が起きる。
…そんな風に、「面倒だ」とか、一件冷たく、そして実際は自身の意思に反しながらも行動を窮屈に縛るのも、勿論理由はある。
人懐こい性格の好青年ではなくとも、それなりに良心くらいは存在していた。
──あの頃…まだ中学に入学したばかりの頃。勿論も居なかった頃、彼は一年生でありながらテニス部のレギュラーを勝ち取った。
まだあまり現状が理解できない"ただの少し上手いテニス部"のクラスメイトのつもりで女子生徒の消しゴムを拾い、
そしてその手が重なって女子生徒が頬を染めただけで彼女は過激すぎるいじめに合った。
テニス部をいったい運動部以外のなんだと思っているのかファンクラブ、
なんて物が密かに結成され始めたばかりの当時は統制を取り秩序というものも保とうてする人間も居ずそれは悲惨で、彼は、彼達はあの頃から、あれをきっかけに、そしてその後の様々なことを理由にして変わった。
変わってしまった、変わらざるを得なかったのだ。
分厚い壁で自分達を守るようになり、壁に触れる人間には問答無用で刃を向ける。
そんな中学生らしくない、ただのテニスに夢中になる男子中学生にしては、とても悲しく寂しくも思える学校生活を強いられていたのだ。
それは自分だけではなく、他人を傷つけることはもう、ないようにと。
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
一年生の秋の初めにという女子がね幸村精市のクラスへと転校してきて一月半が経つ。
「霊感少女の転校生」などという面白おかしい噂話もすぐに沈下して、また違う新たな噂を飛び交わせて行き、
彼女が好奇心でじろじろと大人数に遠巻きに見られることもなくなったらしい。
しかし、彼女の扱いが変わったかといえばNOと断言できる。相変わらず「霊感があるかもしれなくて」「無表情で冷たくて」「喋ったところを誰もみたことがない」なのである。
しかし一切喋らない、など学校生活を送っていればあり得なく、クラスの人間は授業なりなんなりで聞いたはずなので、それは所詮面白おかしい噂である。
そして、と幸村精市の関係も、緩やかに変化を遂げていた。
「最近幸村くんが知らん女子と一緒にいる」
と、彼、幸村不在の部室内で部員の誰かが噂話を始めた。
「……いやいや、あの幸村に限ってお前それは」
「幸村の人嫌いは俺たちより根深いからのぅ」
すると少しフリーズした色黒の部員の男はすぐさま否定をした。もう一人の銀髪の訛り口調の男も相変わらず否定をする。
「特に女子生徒は最初から壁が厚いですし、でも…」
「もし本当なら、おまんらは何があったと思う?」
しかし、でも。いや、もしかして。
ここに居る部員らは総じて度合いは違えど人間不信気味な所がある。
しかしそれが一番酷いのは、彼の性格や気質のせいか、過去体験したことのせいか、彼幸村精市なのである。
しかしもしかしたら。もしもあの幸村と付き合える、恋人とまでは行かなくても仲のいい、もうこの際男でも女でも性別は問わないが、いやしかしながら、もしうっかり間違って女の友達なんかが出来ちゃっていたなら…?
「……やべえ、想像つかねえ」
「一目惚れとかもあり得ないし友達になるにも何かあったって過程も想像つかねえ」
「どうやって口説けば落とせるんですかね」
「謎じゃのぉ」
「く、口説き落とすなど、たるんどる!」
そしてそこに後から合流してきた幸村が過去情報通、と称した柳という男がやって来て、「なあなああのさ、」と誰かが彼に話題を振った。勿論幸村を口説き落としたかもしれないまだ見ぬ誰かの話で花を咲かせるためである。
そんなことは彼、幸村は露知らず。
そして時はその日の放課後の彼らの楽しげなその場面から、朝に遡り。
花壇や屋上庭園の世話のごく一部を植物の負担にならないように、昼休みから早朝の五分、十分へと緩やかに切り替え、器用に他の役割を昼休みへと転換しつつある彼、幸村は。
「なんでそこで土を掘りすぎるのかな?肥料過多にするのかな?水をあげすぎるの?根腐れしたらどうするつもり?わかるよね、それは」
笑顔でとんでもない威圧をしていた。その威圧している相手は勿論である。
時期はもう真冬、寒くて手がかじかむようなこの季節、
それも厭わず彼女からかわいらしい手袋を剥ぎ取り、少し古びた軍手に変えさせ、土いじりをさせているのである。
事の始まりはただ何気なく花壇の世話をする光景を見ていたに幸村が、「水、やってみる?」となんの意図もなくただ持ちかけただけだった。
すると彼女は思いの他喜んだ。「っえ!いいの!」と初めて文章に起せば語尾に記号がつきそうな勢いで喜ばれたため、彼は珍しくて水遣りを一任してみせたら、 効率もよく出来ていて、興味があるので植物に関しての知識を教えられるのは苦ではなくむしろ喜ぶ、
中学生にしては珍しい彼女だったからこそ、彼は彼女の同意の元(物凄く喜んだ)、土いじりを共に始めさせてみたのだが…
とりあえず花壇の水やりから始め、花の名前を教え、季節を教え、暑さや寒さに弱いだの強いだの特性はこうで肥料は少なめで、と教えるとスポンジのように吸収するから面白い、教えがいがある。でも、だ。
一つだけ許せない。
「なんでこんなにも繊細な動作が壊滅的なのか」ということを。まだ慣れていないから加減が分からないのだろう、と思っていても一向に直らないその動作に、 部室で見せるような威圧がいつの間にか日常生活にまで侵食しつつあることを自覚しているのかいないのか。
するとはええー…とその謎の威圧に戸惑いつつ、押され気味に反論する。
「…わ、わかってるけど、わたし手先が…」
「手先が?」
「……不器用、みたい。知らなかったけど…勢いがよすぎたりしちゃうから……うん…」
「……それは…重症だね…」
──何それ、不器用にも程かあるだろう。
幸村は呆れつつも、納得した。
道理で頻繁に教室で筆箱を落として「祟りの前兆か!」だとかクラスメイトに騒がれる訳だ。
近くに居ながら気が付かないフリして手伝わない彼も彼だが彼とて我が身が可愛い。
面倒事は面倒、面倒臭い。
転校初日だけなら理由になる、だがしかしそんなことで頻繁にに構えばまた根も葉もない噂が尾ひれをついて出回り面倒事が起きる。
…そんな風に、「面倒だ」とか、一件冷たく、そして実際は自身の意思に反しながらも行動を窮屈に縛るのも、勿論理由はある。
人懐こい性格の好青年ではなくとも、それなりに良心くらいは存在していた。
──あの頃…まだ中学に入学したばかりの頃。勿論も居なかった頃、彼は一年生でありながらテニス部のレギュラーを勝ち取った。
まだあまり現状が理解できない"ただの少し上手いテニス部"のクラスメイトのつもりで女子生徒の消しゴムを拾い、
そしてその手が重なって女子生徒が頬を染めただけで彼女は過激すぎるいじめに合った。
テニス部をいったい運動部以外のなんだと思っているのかファンクラブ、
なんて物が密かに結成され始めたばかりの当時は統制を取り秩序というものも保とうてする人間も居ずそれは悲惨で、彼は、彼達はあの頃から、あれをきっかけに、そしてその後の様々なことを理由にして変わった。
変わってしまった、変わらざるを得なかったのだ。
分厚い壁で自分達を守るようになり、壁に触れる人間には問答無用で刃を向ける。
そんな中学生らしくない、ただのテニスに夢中になる男子中学生にしては、とても悲しく寂しくも思える学校生活を強いられていたのだ。
それは自分だけではなく、他人を傷つけることはもう、ないようにと。