第二十一話
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
幸村精市はいつからか、が記憶喪失だとか信じるだとか信じないだとか女だとか何も知らないだとか関係なく、
「話していて楽しい、楽になれる」という気持ちが全てだと結論づけていた。
話上手は聞き上手とも言うが、は典型的なソレで、彼にとって心地いい言葉を選べる話上手であり、尚且つ機嫌を取ろうと媚びへつらっているのではなくそれが素であり、
自身も勿論自分が話したいくだらない話も持ち出すし、幸村と話すことに楽しみを感じている。
が、やはりは無意識の聞き上手だった。それも、対、幸村精市の。
結局の所いくら趣味や価値観が合わなかろうと何故か離れがたく話も弾み、妙にピッタリ来る友人や親友は「波長が合う」とも称するし、この二人は息が合う。
いい友人になれる素質を持ち合っていたのだ。
だからこそ、彼は焦燥感に駆られる。
と話す時間は部活でもない、学校でもない、家庭でもない、外でも内でもない不思議な空間で、その空間が最近学校に前以上に不快感や不信感を感じている彼にとっての支えになっていた。
しかしそれもという転校生の存在による学校生活の乱れであり調和。
結局の所はプラマイゼロなのだが。
彼は思う。
「を信じる、信じない」だとかいう目的が無くなったのなら自分はとどう付き合って行くのだろう。
…どんな理由で、どんな着地点を目指して付き合っていけばいいのだろう。
本来ならただの友人などそんなに深い理由もなくただ「傍にいて心地いいし楽しいから」だけで十分なことなのだが、
自身の肥やしにするために付き合っていたなど、もう過去の話といえど負い目を感じるのには十分な勝手な押し付けであり、
そもそもの身体的な事情を自身の事情で「疑う」や、下心などないテニス部のテの字もない、全くの一般生徒を端から嫌悪してかかったり、
全ての物にはこちらにはこちらの、あちらにはあちらの事情が、と言えど、目的が達成されてしまった今、
そしてと純粋な心地いい友情が出来上がってしまった今だからこそ、幸村精市は悩むのだ。
…きっと、それさえもどこか高みから客観的に、
例えが仰々しいが、まるで空から神が人間を覗いて微笑むかのように、どこか遠くからこちらを見て「許して」しまうような寛容すぎる彼女ならば、本当に「許して」しまうのだと分かってしまうからこそ、更に彼は思い詰める。
……──許してくれるって分かってて謝りに行くって、なんかズルいね俺
そう思うと面倒臭い性格をしている彼は更に謝れなくなり、真実を告げることも出来ず、そもそも事実を明るみに出すことは正しい選択なのかと思い悩むみこのままズルズルと心地いいぬるま湯のような朝だけのとの日常を送って行く…
…ように思えた、が。
彼の与り知れぬ所で動いていたソレが、見え隠れしてしまうことになる。
「、大丈夫か、その…」
「………大丈夫、とは…」
「お前、入院してたんだって?」
「……ええ。どちら様かが見捨ててくださったおかげで。勿論一人の心優しい中学生は助けてくれようとしましたけど」
「それは頭打って脳震盪でも起したってことかのぅ?」
「脳震盪でも起してあなた方のこと忘れられたらどんなに素晴らしいことか分かりませんが」
「って意外と…いやなんでもない…」
「……お前、結構な性格してるぜぃ……」
「本当にか?饒舌じゃし辛らつな言葉を吐くようになったなんて、俺らのさんじゃないぜよ」
「俺らのさんという言葉について30文字以上1000文字以内で答えてください早く」
「俺らの心霊アイドルさんじゃ」
「とても簡潔だけどとても意味がわかりません。……えーと…におうくん、だっけ」
「おいその言い方だと仁王が臭うくんみたいなニュアンスで聞こえるからやめてやれよぃ」
「仁王が臭う…ぶっ!」
「プリッ」
「待って私そんなこと一言もあと今のプリッてなににおうくんっ」
……昼休み。
幸村はいつものように図書室で本を借りに行く…ということも最近は少なくなってきており、借りっぱなしのまま放置しそうになりそうだった図書室の本を返しに行く途中だった。
何故図書室と疎遠になったかというと、朝の短い時間交流を深めているという人物が、どこの本屋を贔屓にしてるのか分からないが、中学生にしては金に糸目をつけずに面白おかしい奇天烈な本ばかり学校に持参してきて、「目移りしちゃうから幸村出来るだけ持ってって!」と押し付けられ、と言えば聞こえが悪いが幸村自身も興味を持ちつつ拝借して行くようになったからだ。
図書室の本だって空間だって好きだ。でもあんなに目移りしてしまうような奇抜なタイトルばかり揃えてくるがいけない、と責任転換して少しばかりいつもより返却が遅くなった本を抱えて廊下を歩いて、
…いたら。
「……ちょっと、昼休みだっていうのに目立つから…そんなに絡んでくるなら場所移動してせめて…」
「俺達をどこに連れ込む気かのぅ?」
「ついてってやるよ。…ジャッカルがな!」
「俺かよ!もうこれいいからブン太!」
昼休みの廊下で見てはいけない物を彼、幸村は見た気がした。
いや、今の会話の流れが、とかではなく、自分にとって見たくない物を見てしまった気がしたのだ。
…──何、これ。いつの間に、あいつらと仲良くなってるの?いや、仲良くっていうには一方的で凄く嫌そうな顔してるけど、珍しく怒ったような顔が見れたけど、
…なんて数ヶ月付き合ってきた幸村はの表情から心情を察しられたが、外野から見ればそのやり取りは仲のいい昼休みの学生のじゃれ合いにしか見えない。
…なんで?いつの間に?まさかがテニス部員を取り込もうとしてるなんて思ってないし、取り込もうとして取り込まれる程馬鹿じゃないし、そもそも嫌がってるを囚われた宇宙人みたいに無理やり丸井と仁王が両側から引きずってジャッカルが宥めてるんだけど、そうじゃなくて、
…朝だけに自分とだけ交流があったはずの。なのに、という独占欲というよりも、いつ見られたのか、いつ知られたのか、いつからちょっかい掛けられていたのか、
いつからこうなのか、いつから自分は知らないままだったのか、
──見捨てた?
──脳震盪?
──入院?
何かしらのボロを出して記憶喪失がバレたのかと思っていたが、言葉から察するにうちのテニス部員も関わった理由で、外傷が加わるような何かが起こって入院をした、のか?
そう思い至った瞬間に、幸村の頭に色んな物がフラッシュバックした。
気分が落ちた時、口角を上げるという癖も思い出せない程に一気に表情や胸の内、感情がすとん、と無に陥る程の、強烈な映像。
どういった経緯で、どういった理由で部員達が関わる形でそうなったのかは分からない、彼らは自分ととの関係をちらとでも知っているのか、
頭が、という理由で検査入院になったのは担任の言葉からも確実、でも脳震盪というあれが茶化すような冗談ではない、は流さなかった、は傷つけられた?部員が関わる場所でといったら学校内で?あんなに穏やかにじゃれ合ってるのだから多分、
穏やかに丸く収まったのだろう、何かあれば流石に隠蔽なんてせずとも彼らは俺達に話をしてくるはず、もうこれは個人だけの問題ではない、
では、なんで、どうして、
──はもしかして、
彼は、す、っと笑顔をその顔に浮かべると、じゃれ合ってる彼らと彼女の傍へと静かに歩み寄る。
そして、笑いながら声をかけた。
彼はその笑顔とは裏腹に、心の内では泣きそうになりながら思う。
「ねえ、」
──君が俺のこんな身勝手を許してくれるというのなら、許してほしい。
許して欲しいんだ、本当は。
「……何か俺に言うこと、ないかな?」
凍りついた彼達三人と、フリーズした状態の彼女一人は、後に言う。
──アレ程までに恐怖を抱いた瞬間はないだろう、と。
ホラー映像を見せられた訳でもない、グロテスクな過激映画を見たのでもない、目の前でただ笑いかけられただけ、なのにあんなに恐怖を抱かされるのは、後にも先にも彼だけだろう、と。
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
幸村精市はいつからか、が記憶喪失だとか信じるだとか信じないだとか女だとか何も知らないだとか関係なく、
「話していて楽しい、楽になれる」という気持ちが全てだと結論づけていた。
話上手は聞き上手とも言うが、は典型的なソレで、彼にとって心地いい言葉を選べる話上手であり、尚且つ機嫌を取ろうと媚びへつらっているのではなくそれが素であり、
自身も勿論自分が話したいくだらない話も持ち出すし、幸村と話すことに楽しみを感じている。
が、やはりは無意識の聞き上手だった。それも、対、幸村精市の。
結局の所いくら趣味や価値観が合わなかろうと何故か離れがたく話も弾み、妙にピッタリ来る友人や親友は「波長が合う」とも称するし、この二人は息が合う。
いい友人になれる素質を持ち合っていたのだ。
だからこそ、彼は焦燥感に駆られる。
と話す時間は部活でもない、学校でもない、家庭でもない、外でも内でもない不思議な空間で、その空間が最近学校に前以上に不快感や不信感を感じている彼にとっての支えになっていた。
しかしそれもという転校生の存在による学校生活の乱れであり調和。
結局の所はプラマイゼロなのだが。
彼は思う。
「を信じる、信じない」だとかいう目的が無くなったのなら自分はとどう付き合って行くのだろう。
…どんな理由で、どんな着地点を目指して付き合っていけばいいのだろう。
本来ならただの友人などそんなに深い理由もなくただ「傍にいて心地いいし楽しいから」だけで十分なことなのだが、
自身の肥やしにするために付き合っていたなど、もう過去の話といえど負い目を感じるのには十分な勝手な押し付けであり、
そもそもの身体的な事情を自身の事情で「疑う」や、下心などないテニス部のテの字もない、全くの一般生徒を端から嫌悪してかかったり、
全ての物にはこちらにはこちらの、あちらにはあちらの事情が、と言えど、目的が達成されてしまった今、
そしてと純粋な心地いい友情が出来上がってしまった今だからこそ、幸村精市は悩むのだ。
…きっと、それさえもどこか高みから客観的に、
例えが仰々しいが、まるで空から神が人間を覗いて微笑むかのように、どこか遠くからこちらを見て「許して」しまうような寛容すぎる彼女ならば、本当に「許して」しまうのだと分かってしまうからこそ、更に彼は思い詰める。
……──許してくれるって分かってて謝りに行くって、なんかズルいね俺
そう思うと面倒臭い性格をしている彼は更に謝れなくなり、真実を告げることも出来ず、そもそも事実を明るみに出すことは正しい選択なのかと思い悩むみこのままズルズルと心地いいぬるま湯のような朝だけのとの日常を送って行く…
…ように思えた、が。
彼の与り知れぬ所で動いていたソレが、見え隠れしてしまうことになる。
「、大丈夫か、その…」
「………大丈夫、とは…」
「お前、入院してたんだって?」
「……ええ。どちら様かが見捨ててくださったおかげで。勿論一人の心優しい中学生は助けてくれようとしましたけど」
「それは頭打って脳震盪でも起したってことかのぅ?」
「脳震盪でも起してあなた方のこと忘れられたらどんなに素晴らしいことか分かりませんが」
「って意外と…いやなんでもない…」
「……お前、結構な性格してるぜぃ……」
「本当にか?饒舌じゃし辛らつな言葉を吐くようになったなんて、俺らのさんじゃないぜよ」
「俺らのさんという言葉について30文字以上1000文字以内で答えてください早く」
「俺らの心霊アイドルさんじゃ」
「とても簡潔だけどとても意味がわかりません。……えーと…におうくん、だっけ」
「おいその言い方だと仁王が臭うくんみたいなニュアンスで聞こえるからやめてやれよぃ」
「仁王が臭う…ぶっ!」
「プリッ」
「待って私そんなこと一言もあと今のプリッてなににおうくんっ」
……昼休み。
幸村はいつものように図書室で本を借りに行く…ということも最近は少なくなってきており、借りっぱなしのまま放置しそうになりそうだった図書室の本を返しに行く途中だった。
何故図書室と疎遠になったかというと、朝の短い時間交流を深めているという人物が、どこの本屋を贔屓にしてるのか分からないが、中学生にしては金に糸目をつけずに面白おかしい奇天烈な本ばかり学校に持参してきて、「目移りしちゃうから幸村出来るだけ持ってって!」と押し付けられ、と言えば聞こえが悪いが幸村自身も興味を持ちつつ拝借して行くようになったからだ。
図書室の本だって空間だって好きだ。でもあんなに目移りしてしまうような奇抜なタイトルばかり揃えてくるがいけない、と責任転換して少しばかりいつもより返却が遅くなった本を抱えて廊下を歩いて、
…いたら。
「……ちょっと、昼休みだっていうのに目立つから…そんなに絡んでくるなら場所移動してせめて…」
「俺達をどこに連れ込む気かのぅ?」
「ついてってやるよ。…ジャッカルがな!」
「俺かよ!もうこれいいからブン太!」
昼休みの廊下で見てはいけない物を彼、幸村は見た気がした。
いや、今の会話の流れが、とかではなく、自分にとって見たくない物を見てしまった気がしたのだ。
…──何、これ。いつの間に、あいつらと仲良くなってるの?いや、仲良くっていうには一方的で凄く嫌そうな顔してるけど、珍しく怒ったような顔が見れたけど、
…なんて数ヶ月付き合ってきた幸村はの表情から心情を察しられたが、外野から見ればそのやり取りは仲のいい昼休みの学生のじゃれ合いにしか見えない。
…なんで?いつの間に?まさかがテニス部員を取り込もうとしてるなんて思ってないし、取り込もうとして取り込まれる程馬鹿じゃないし、そもそも嫌がってるを囚われた宇宙人みたいに無理やり丸井と仁王が両側から引きずってジャッカルが宥めてるんだけど、そうじゃなくて、
…朝だけに自分とだけ交流があったはずの。なのに、という独占欲というよりも、いつ見られたのか、いつ知られたのか、いつからちょっかい掛けられていたのか、
いつからこうなのか、いつから自分は知らないままだったのか、
──見捨てた?
──脳震盪?
──入院?
何かしらのボロを出して記憶喪失がバレたのかと思っていたが、言葉から察するにうちのテニス部員も関わった理由で、外傷が加わるような何かが起こって入院をした、のか?
そう思い至った瞬間に、幸村の頭に色んな物がフラッシュバックした。
気分が落ちた時、口角を上げるという癖も思い出せない程に一気に表情や胸の内、感情がすとん、と無に陥る程の、強烈な映像。
どういった経緯で、どういった理由で部員達が関わる形でそうなったのかは分からない、彼らは自分ととの関係をちらとでも知っているのか、
頭が、という理由で検査入院になったのは担任の言葉からも確実、でも脳震盪というあれが茶化すような冗談ではない、は流さなかった、は傷つけられた?部員が関わる場所でといったら学校内で?あんなに穏やかにじゃれ合ってるのだから多分、
穏やかに丸く収まったのだろう、何かあれば流石に隠蔽なんてせずとも彼らは俺達に話をしてくるはず、もうこれは個人だけの問題ではない、
では、なんで、どうして、
──はもしかして、
彼は、す、っと笑顔をその顔に浮かべると、じゃれ合ってる彼らと彼女の傍へと静かに歩み寄る。
そして、笑いながら声をかけた。
彼はその笑顔とは裏腹に、心の内では泣きそうになりながら思う。
「ねえ、」
──君が俺のこんな身勝手を許してくれるというのなら、許してほしい。
許して欲しいんだ、本当は。
「……何か俺に言うこと、ないかな?」
凍りついた彼達三人と、フリーズした状態の彼女一人は、後に言う。
──アレ程までに恐怖を抱いた瞬間はないだろう、と。
ホラー映像を見せられた訳でもない、グロテスクな過激映画を見たのでもない、目の前でただ笑いかけられただけ、なのにあんなに恐怖を抱かされるのは、後にも先にも彼だけだろう、と。