第十八話
3.仲良しの噂をされる程度の仲良しそれなりに



あれから、奇跡的に幸村にバレないながら、立海の一年…いや今は二年生のテニス部員と交流してきた。交流と言っても「霊感少女」という噂を盾にしたからかい(むしろ中学生の軽いいじめ?)をどこからか現れては定期的に続けられていて、
もう私は疲れ果てている。

…まあそれが、未だに幸村と朝の五分、十分お手軽交流を続けている私の観察だということは分かってる。
そうだよね、あんなにモテモテ幸村くん…あ言ってて寒くなるけど過激なモテを見せてる幸村に今まで見なかった女子が、しかも霊感少女(噂)がくっついてるとなったら幸村が宗教とか霊感商法とか怪しいツボでもつかまされてるんじゃないかと違う意味で心配になるよね。

…あれ、言ってて悲しい。
…まあ今言いたいのはそういうことじゃなくて、つまり定期的に絡んでくるモテモテ(棒)テニス部員との接触を他生徒に一切見られないというのが無茶な話で、
幸村との交流は屋上庭園になんの恐ろしい逸話でもあるのか知らないけど、人が近づかないから成せていてることであって。


「…ねえ、さっき丸井くんと仁王くんに怒鳴りつけてなかった…?」
「一緒に居たの、見たから。…何?もーしかして、丸井くんの背後に霊がいます、とか言って?」
「さっき変な手の動きさせてたけどお祓いごっこ?そんなんで仁王くん達の気を引こうって?」
「でも知ってるよ、うちら。クラスメイトだもんね?…本命は幸村くんなんでしょ、最低女」


…見られないはずがなかった。
もう追っ払うのに必死でポーカーフェイスも若干崩れ気味で恐ろしい顔つきでしっし!とか猫でも追い払うおばあちゃんみたいな手つきしてた。
ガァッと「お前ら暇人か!テニスしろテニス!」と普段なら言わないような口調で怒鳴った。
……そして「霊感少女」という肩書き(他称)が仇になって、こんな解釈をされたらしい。

…ああ!普通の少女漫画みたいなイケメン王子様に近づいて校舎裏に呼び出し、とかなら人生経験として私は楽しめただろうに、こんな混沌とした呼び出し楽しめない…!
──手の動きがお祓い?いやいや霊じゃなくて生意気な手に噛み付く猫を追い払ってただけでして。
──背後に霊が居る?いやいやいや、こんなことばっかして遊んでると背後に魔王(幸村)が迫ってきますよ、っていう優しい忠告で。
──本命は幸村?ちょっと待ってそれはクラスメイトだから何か関連付けられたの?ああ転校初日の案内が効いてるのかな未だに、あの、

…勘弁してください。


「聞いてる──…っひ!?」
「な、なに、また霊感ごっこ!?」


私は手をスッと上げた。これが正面に、ならどうやら幸村派と呼ばれてる彼女達(そういえばこの子達クラスメイトだ)に待て、をしてるように見えるけど、手の平は背後を向いてる。
霊感少女扱いしてる生徒にかかれば、手をあげたりとか妙な動きをしただけで不気味に思うだろうに、それが背後を向いてるとなると更に不気味。
…何か背後にいるのか?って意味で。正面ならまだしも普通背後に手の平向けないしね…。でもこれは正解。

彼女らはガミガミと雷親父が説教するが如く私に思いの丈をぶつけていたから分からなかったんだろうけど、どうやら近くにテニス部員の彼らがまだいるらしい。
なんで分かったかと言うと上履きのキュッていう音。
あの子ら運動部だけあって動きが大げさなので頻繁にあのキュキュ音が鳴る。
だけと彼女らは気付かない。
今更ここでキュキュ音言わせるってことはなんらかのアクションを起してくるはず。

──まさか私が押しかけた訳でもなく、彼らが一方的にいつも絡んできてるせいで私がこんないじめ紛いなことに発展してるのに、助けも何もしないなんて、
私は一方的に「そんなはずない」と決め付けた。それはちょっとないんじゃないの、っていう希望願望もあったけどね、断言出来たのはあそこにはジャッカル君が居るから。多分彼なら見捨てない。ジヤッカルくんはそんなことしない!他赤髪と銀髪はどうか分からないけど彼ならしない。これ言葉の通り願望希望、いや理想だ。
でもブラジル料理派なのに京都の料理についてあんなにマシンガントークする私に、うんうん、と律儀に相槌を打ってくれる私の中の良心的ジャッカル君がそんなこと!

…あ、こんなことファンの人に聞かれたらそれこそ何様ぁ!?って殺されるな、とぼけっと思考に耽った瞬間。


「…む、無視してんじゃねーよ!」
「そーいうの嫌だって言ってるのわかんないの!?迷惑なんだけど!やめてよ!」



ガゴン。
いい音が響いた。10点。…いや暢気に点数つけてる場合じゃなかった。
ドンッとお決まりのように張り手をされて私はよろけた、というか結構勢いよく背後へとぶっ飛んだ。アドレナリン大放出した女子の力を侮ってはならない。
…いい音したから体のどこかがぶつかったんだろうとは思ったけどまさか自分の頭が窓にぶつかって、しかも見たら窓ガラスにヒビ入ってる。

……あらら…これはしかられる…「どうして窓ガラスにヒビなんて!?」って先生に聞かれて「さんを張り手で突き飛ばしたら頭がぶつかってヒビが」なんて正直にゲロったら彼女達どうなることやら。

結構、私の頭の具合的な意味でも彼女達の今後的な意味でも厄介なことになってしまった…。
…どーするのこれ?とメンタル的な意味で頭が痛くなったし流石に頭自体もたんこぶできて痛いんだけど、道は一つだった。そう一つ。分かりきっていたことなため、スッと、一瞬にして私は口を開けた。



「ごめんなさい」
「……は、…あ…?」
「な、なに言ってんの…?」


まさか突き飛ばして頭があんなにぶつかってしかも窓ガラスヒビ入るくらいって、打ち所悪かったら意図せず殺人事件になってしまってもおかしくない状態に青ざめた彼女らは、拍子抜けするようなそれこそ意図しない私の言葉に声が裏返った。

痛む頭も揺らすと結構な具合になるんだけど、ちゃんと頭も深々と下げて。
…いや、だってですね。彼女らが突き飛ばすまでに発展したのは、私が話半分で彼女達の不満をちゃんと聞かなかったのと、テニス部員の彼らを悟られないようにストップかけるためとは言えあんなポーズして、
最後突き飛ばしたのって多分怖かったからだよね…なんか若干朦朧としてきたけど「嫌だって言ってる」「迷惑わからない?」って言われたし、
本当にそういう悪ふざけ(お前の肩に手が…)とかそういうのだって本気で怖い子だって居るんだからさ、
「霊感少女」っていうお遊びの噂に不快感を示す子だっているでしょう。
そしてその霊感少女が「抜け駆け禁止」とされてる学校のアイドル達に怒鳴って(るように見えて変な手の動きしてるように見えて)たら、そりゃあ怒る。

私が無意識にだけど、いらない挑発と恐怖心を煽ってしまったような物だし、この子達、ホラーとかオカルト嫌いなんだろうね、女の子らしくて可愛いと思うし、少なくとも「呪詛百選」とかいう本読みふける女よりずっと可愛い。

…ってことで


「ずっと考え事してて、あなたた達の話、真面目に聞いてなかったし、変な手の動きさせてあなた達を怖がらせてしまったから。…噂はね、ただの噂だけど、それを私が否定したことは一度もないから、ある意味自業自得で、だからずっと噂のままで、…それであなた達は怖かったよね。クラスで男子に怖がらされてたの見たことあるからね。…だから…今のも私が怖がらせてしまったからこうなったし、話を聞いてなかったら誰だって怒るし…ので、あなた達は悪くない。今までのことと、さっきのことに対して、本当にごめんなさい。…テニス部のことに関してはノーコメで」」


話してる間はちゃんと顔を上げて目を合わせたけどペコリ、とまた深く下げて謝罪した。世の中がオカルトとかホラー映画や番組が好きな人だとか、怖いものみたさであったとしても見ることが出来るような人間ばかりだと思っちゃいけない。
しかもそれを強要しちゃいけない。
オカルトマナーである。…あれ初耳だぞこのマナー名称は、いやどうでもいいけど、
全面的にその噂を面倒臭いからって否定して否定して否定して根絶やしにしなかった私が悪いし多分彼女達以外も怖がってる生徒いただろうし、
話を聞かないのはとんでもなく失礼な態度だし、今無意味に怖がらせてパニックにさせてしまった。申し訳ないと今この瞬間、心から思ってることだ。 …面倒臭いからと放置するのも考え物だな、と思う。他人に迷惑かけている以上どうにかしたいけど如何せん、噂の大きさがスケール大きすぎるので今下手に動いてもなあと難しい所だ。

しかし最後のテニス部についてだけは私悪くない。だからノーコメ。
一番の話の要はテニス部員のことだったんだろうけど、何が何やらこの展開、というか現状にパチパチ瞬きしている彼女達は最後の適当な一言について何も言わなかった。
「この窓ガラスも私の責任、ということで帰っていいよ、そろそろ暗くなるしね」と言って彼女らを帰らせる。

すると明らかにホッと安堵した様子の彼女達は素直に背を向けて帰っていく。うんうん素直でよろしいパタパタした足音が可愛い。…やっぱり女友達が欲しいかもしれない、あれこれ動機不純かな



「で、割れた窓ガラスについてはどう説明するんじゃ?」
「下手なこと言ったらセンセー達カンカンだろぃ」
「というかヒビ入るって、頭大丈夫か!?」
「ジャッカルくんジャッカルくん、心配してくれて涙出るほど嬉しいけどその言い方つらい」
「あっワリィ!」


どこかに隠れていたのやら、キュキュ音と共に颯爽と現れた彼らは頭に可哀想なタンコブを作ってる私のことなど気にかけた様子もなく言い訳について興味津々って。それならタンコブのスケールに「スゲー!」とスケール大きめにテンション上げてくれた方が同じ不謹慎でも微笑ましかったのに。男子中学生め。
自分の言い訳の参考にしようとか思ってるんじゃないでしょうね。完全な偏見だけど私彼らは呼び出しとかされてそうなイメージなんだけど。
そしてやっぱりジャッカルくんは優しい良心だ…きっと二人は助けようなんて考えなかったけどあの勢いあるキュキュ音はジャッカル君のものだったに違いない!うん。

…ということで。


「…言い訳は教えない。ので、知ろうと動く者があればこの窓ガラスにヒビが入る程度の制裁を覚悟の上でお願いします」
「微妙に制裁の度合いが上手く伝わらないから余計に怖ぇ」
「制裁って霊感的なかのぅ?」
「強度あるはずの窓ガラスにヒビが入る程度っていうんだからつまりそれなりだな…」
「制裁なら受けるぜぃ。…ジャッカルがな」
「俺かよ!その手には乗らないからなブン太!」


……言い訳をしに行こう。
2016.4.23