第十七話
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
「おい、来たぜぃ」
…って。そんな軽いノリで来られても困ります、とも言う気力もなく、私は無視を決め込んでスタスタと廊下を早足で歩いた。廊下は走っちゃいけませんので。いいや本当は走りたいんだけど。多分テニス部員の彼らじゃ追いかけるのなんて容易いんだろうなあ、と思いながら、私はいつもより酷い状況に頭が痛んだ。
…いつもは一人一人、代わる代わるにやってくる。
テニス部員の全てを把握なんてしてないし、幸村と自ら私の元へ足を運んできた彼ら数人の存在しか知らないし、それ以外の情報を私は噂話程度にしか知らない。
顔を直接知ってるのは赤髪の確か…丸井という彼と銀髪の仁王という彼と、スキンヘッドのジャッカル桑原君。彼ら三人が幸村との関係を暴こうと代わる代わるやってくる。(ジャッカル君に関しては一度たりともそんなことされてないし食に関しての話で盛り上がっては部活の時間には帰っていく)
…だからこそ、まだ大丈夫だった。むしろ一人を相手にあしらってるのがギリギリで、限界だったのに。
「今日も本の虫じゃのぉさんは」
「お、今日は食べ物の本じゃないんだな」
「なんだよぃ、どうせなら流行のスイーツ雑誌でも持ってりゃいいのによ」
「スイーツ雑誌?」
「スイーツの特集が一つでもある雑誌ならなんでもスイーツ雑誌だろぃ」
「何でもスイーツ雑誌じゃのぉ」
…なんで三人まとめて来たの…?この子ら…
私は早足で歩き進める。早く、早く、もうついてきてしまうのは仕方ないし振りほどくのもこの子らが飽きない限り無理なことは学んだから人気がない所へ。
なんで三人。なんで三人!?もう一度いうけど三人も、三人もコントロールして静かに事を運べる自信がないよ私…!
いくら極端に見目がいいとは言え、会話の内容を聞いてもそこら辺に転がっているようなこんな普通の男子中学生にしか見えなくても、この学校の生徒達からすればアイドルだ。テレビに映るアイドルとなんら代わりがない扱いを受けてる神なのである。(とある女子生徒談)
それが霊感少女と一緒に、見方によれば親しげに話していたら、というか一方的にでも話しかけられているのを見られたらどうする?
……この学校に明日には噂が広まってるだろう…
ここの学校の生徒達にかかればどんな風に変化して広まるかは分からない。ただストレートに、「っていう生徒とアイドル達が親しげに話してた!」とそのままで伝わらないことは確かだ。こちらとしては親しいつもりはないんだけど絶対奇天烈な噂に変化するに決まってる。
しかしそんな彼らも学習する。
「お、もう喋っていいか?」
「さんもお堅いのぅ」
「堅いっちゃ堅いけど仕方ねーだろ」
私がそういったことを避けていて、絶対に何がなんでも人気がある場所では口を開かないこと。
どうしても振りほどけないことが分かった瞬間から、こうして人気のない校舎裏だとか、私のせいで心霊スポットと成り果てた人が一切寄り付かなくなった中庭の木の木陰だとか、無言でそういった場所に誘導してから口を開くようにしたのだ。
そうしたら学習してくれたことだけがせめての救いだ。この子らがアイドル的存在じゃなかったら、最近霊感少女キャラを意図的に作るようにして来ている私でも、ここまでしなかったけど。
でも本当にそうしなきゃどうなるか、って分かりきってるのに、彼ら自身に自覚がないなんて…!と若干恨みがましい目で見たけど私はふと、ある瞬間から悟りを開いたかのようにため息をついて、そこから考えるのをやめた。
「…はあ。もう、いいよ。仕方ない」
あまりの態度の急変にきょとんとしていた彼らだけど、思えば当然だったのにね。
男子中学生に本物のアイドルがするようにスキャンダル(絶対中学生に使う言葉じゃない)を徹底的に避けろなんて、ねえ?
そんな世渡りする術も持たないだろうし、なんで自分がそんなこと周りのために!って反抗的になってもおかしくない。割り切るには幼すぎる年齢だ。
いい年した大人だってそんなこと割りきれるかどうかも分からないのにね。
それを私が当たり前のように彼らに求めるのは、いくら私が被害を被ることとは言えそれこそ私が幼かった。配慮もなかった、…考えれば、子供に対してすることじゃない。
腹のうちでどう思っていようと、完璧に周りに求められているそれを卒なく涼しい顔でこなしてる幸村がある意味では異常なんだから。
普段反抗、してるのかは分からないけど。この子達みたいに少しは投げ出してもいいのにね、と遣る瀬無い気持ちになる。
そうなってしまった以上彼らも当事者として配慮は必要だ。
どうして自分達が?と疑問に理不尽に思っても当事者がそれをしなかったら、見る限り神を崇めるように崇拝さえしてる女子生徒がいるようなこの学校、
過激な何が起こるかもわからない。女子中学生なんて感情的になってナンボだ。
器用に制御なんて出来ない年頃なんだから。ここで感情的になって、もしかしたら当り散らしてしまうかもしれず、大人になって行くうちに良くも悪くも失敗を重ねて反省を踏まえて器用さを学んでいく。
外野から見るからこそ適当なことを言えるんだけど、でもねえ。
「いいんじゃないのかな、少しくらい緩くても」
適当なことが言いたくなる。堅く堅く縛られるのは窮屈。
子供じゃあ、いや大人にだって割り切れない、いい子に受け止められない現実がある。
本当は窮屈に配慮しなくちゃいけない。でもどうにもその現状を彼らが自ら招いたようには見えなくて、幸村を見ていると関係ないのにどこか遣る瀬無い。
全くこれらとは種は違えど生きていく中でいつか、どこかで必ず誰もが強いられる縛りを見てしまったようで、記憶がない世間知らずな私なのに、知ったようなことを考えるんだな、とおかしくなった。
「仕方ない」
もう一度呟いて緩く笑うと、いつも煩い彼らは珍しく、口を噤んだ。
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
「おい、来たぜぃ」
…って。そんな軽いノリで来られても困ります、とも言う気力もなく、私は無視を決め込んでスタスタと廊下を早足で歩いた。廊下は走っちゃいけませんので。いいや本当は走りたいんだけど。多分テニス部員の彼らじゃ追いかけるのなんて容易いんだろうなあ、と思いながら、私はいつもより酷い状況に頭が痛んだ。
…いつもは一人一人、代わる代わるにやってくる。
テニス部員の全てを把握なんてしてないし、幸村と自ら私の元へ足を運んできた彼ら数人の存在しか知らないし、それ以外の情報を私は噂話程度にしか知らない。
顔を直接知ってるのは赤髪の確か…丸井という彼と銀髪の仁王という彼と、スキンヘッドのジャッカル桑原君。彼ら三人が幸村との関係を暴こうと代わる代わるやってくる。(ジャッカル君に関しては一度たりともそんなことされてないし食に関しての話で盛り上がっては部活の時間には帰っていく)
…だからこそ、まだ大丈夫だった。むしろ一人を相手にあしらってるのがギリギリで、限界だったのに。
「今日も本の虫じゃのぉさんは」
「お、今日は食べ物の本じゃないんだな」
「なんだよぃ、どうせなら流行のスイーツ雑誌でも持ってりゃいいのによ」
「スイーツ雑誌?」
「スイーツの特集が一つでもある雑誌ならなんでもスイーツ雑誌だろぃ」
「何でもスイーツ雑誌じゃのぉ」
…なんで三人まとめて来たの…?この子ら…
私は早足で歩き進める。早く、早く、もうついてきてしまうのは仕方ないし振りほどくのもこの子らが飽きない限り無理なことは学んだから人気がない所へ。
なんで三人。なんで三人!?もう一度いうけど三人も、三人もコントロールして静かに事を運べる自信がないよ私…!
いくら極端に見目がいいとは言え、会話の内容を聞いてもそこら辺に転がっているようなこんな普通の男子中学生にしか見えなくても、この学校の生徒達からすればアイドルだ。テレビに映るアイドルとなんら代わりがない扱いを受けてる神なのである。(とある女子生徒談)
それが霊感少女と一緒に、見方によれば親しげに話していたら、というか一方的にでも話しかけられているのを見られたらどうする?
……この学校に明日には噂が広まってるだろう…
ここの学校の生徒達にかかればどんな風に変化して広まるかは分からない。ただストレートに、「っていう生徒とアイドル達が親しげに話してた!」とそのままで伝わらないことは確かだ。こちらとしては親しいつもりはないんだけど絶対奇天烈な噂に変化するに決まってる。
しかしそんな彼らも学習する。
「お、もう喋っていいか?」
「さんもお堅いのぅ」
「堅いっちゃ堅いけど仕方ねーだろ」
私がそういったことを避けていて、絶対に何がなんでも人気がある場所では口を開かないこと。
どうしても振りほどけないことが分かった瞬間から、こうして人気のない校舎裏だとか、私のせいで心霊スポットと成り果てた人が一切寄り付かなくなった中庭の木の木陰だとか、無言でそういった場所に誘導してから口を開くようにしたのだ。
そうしたら学習してくれたことだけがせめての救いだ。この子らがアイドル的存在じゃなかったら、最近霊感少女キャラを意図的に作るようにして来ている私でも、ここまでしなかったけど。
でも本当にそうしなきゃどうなるか、って分かりきってるのに、彼ら自身に自覚がないなんて…!と若干恨みがましい目で見たけど私はふと、ある瞬間から悟りを開いたかのようにため息をついて、そこから考えるのをやめた。
「…はあ。もう、いいよ。仕方ない」
あまりの態度の急変にきょとんとしていた彼らだけど、思えば当然だったのにね。
男子中学生に本物のアイドルがするようにスキャンダル(絶対中学生に使う言葉じゃない)を徹底的に避けろなんて、ねえ?
そんな世渡りする術も持たないだろうし、なんで自分がそんなこと周りのために!って反抗的になってもおかしくない。割り切るには幼すぎる年齢だ。
いい年した大人だってそんなこと割りきれるかどうかも分からないのにね。
それを私が当たり前のように彼らに求めるのは、いくら私が被害を被ることとは言えそれこそ私が幼かった。配慮もなかった、…考えれば、子供に対してすることじゃない。
腹のうちでどう思っていようと、完璧に周りに求められているそれを卒なく涼しい顔でこなしてる幸村がある意味では異常なんだから。
普段反抗、してるのかは分からないけど。この子達みたいに少しは投げ出してもいいのにね、と遣る瀬無い気持ちになる。
そうなってしまった以上彼らも当事者として配慮は必要だ。
どうして自分達が?と疑問に理不尽に思っても当事者がそれをしなかったら、見る限り神を崇めるように崇拝さえしてる女子生徒がいるようなこの学校、
過激な何が起こるかもわからない。女子中学生なんて感情的になってナンボだ。
器用に制御なんて出来ない年頃なんだから。ここで感情的になって、もしかしたら当り散らしてしまうかもしれず、大人になって行くうちに良くも悪くも失敗を重ねて反省を踏まえて器用さを学んでいく。
外野から見るからこそ適当なことを言えるんだけど、でもねえ。
「いいんじゃないのかな、少しくらい緩くても」
適当なことが言いたくなる。堅く堅く縛られるのは窮屈。
子供じゃあ、いや大人にだって割り切れない、いい子に受け止められない現実がある。
本当は窮屈に配慮しなくちゃいけない。でもどうにもその現状を彼らが自ら招いたようには見えなくて、幸村を見ていると関係ないのにどこか遣る瀬無い。
全くこれらとは種は違えど生きていく中でいつか、どこかで必ず誰もが強いられる縛りを見てしまったようで、記憶がない世間知らずな私なのに、知ったようなことを考えるんだな、とおかしくなった。
「仕方ない」
もう一度呟いて緩く笑うと、いつも煩い彼らは珍しく、口を噤んだ。