第十四話
3.仲良しの噂をされる程度の仲良しそれなりに


──幸村には、友達が居たのか。しかもこんな赤毛で校内で堂々とガム膨らませているような友達が。
私が最初、「お前、幸村の何?」としらーっと冷めた目で見られながら聞かれた瞬間思い浮かんだのは幸村にとんでもなく失礼な言葉だった。
…危ない、こんなの聞かれたら幸村に笑顔で威圧かけられる…。
…しかし。威圧云々の前に私は今という瞬間を切り抜けなれればならない。

…えーと、これは幸村とどういう関係なんですかぁ?という問いかけであり、今まで接点があるなんて誰にもバレなかったのに、いつバレたのか。どういうタイミングでバレてどういう認識でいられどういう意図で問いかけられているのか。
それさえも分からないから、ちょっと下手なこと言えないなぁ、と思った。
ここで答えたことは私だけでなく幸村の生活をも左右することだと思ったから。

…ので。私は自分の立ち位置を有効活用させてもらうことにした。



「……おい、何とか言えよぃ」
「………」
「…は?まさか本当に喋れないのか?…いやいやさっき喋ってただろぃお前」
「……」
「……その顔やめろ、黙って見つめられてもよぉ、つーか何でそんな冷たい目、つか無表情、…………いや、なんで俺の右肩そんな凝視して、まさか、…」


彼はじり、っと後退して、若干青ざめた様子でたじろぎ始めた。そして暫くの沈黙の後に。限界突破。


「…………お、覚えてろぃ!」


彼は脱兎の如く逃げ出した。相当怖かった…というか不気味だったらしい。私でもこんなのやられたら不気味だしね…

…勝った。私、やったよ幸村。若干、いやとても虚しい思いはあるけど、何も口を割らずに勝ったよ私…。
…そうです。この男の子が「うわっ喋った」と口にしたのを聞いて、思いついたんです。
…「無表情で喋らなくて霊感があるかもしれなくて常時怖い顔をしてる苗字さん」という学校中の私への認識を使えないか、と。

いつの日だったか、じーっと学校の木を見ていたら「オイ、があの木を見つめてるぞ」「何か悪しき霊とか憑いてんじゃね…!?」「おいおいもう俺達近寄れねぇよ!」というなんともデタラメな解釈をされて、噂になりその木は悪しき霊がついてる学校内心霊スポットとなった。
実際は私、ああ、あの木の葉っぱ、病気になってくちゃくちゃになってる…と可哀想に思っていただけなのに中学生って本当に単純で可愛いものだ。あとこんなくだらないこと一日やそこらで広めるなんて相当暇なのかな。いや実はそれある意味凄い能力だと思うよ。


「…いや、でもそれをじゃあ将来どんなことに役立てられるのか聞かれても答えられないなあ私…」


そんな凄い勢いで全校生徒レベルでいつの間にか広がりつつある、ということは=結構な信憑性があるんじゃないか、現実味を帯びてるんじゃないか、という、全てが真実でなくともこれだけの数が口々に言うのだから、もしかしたらどれかは真実…と思ってしまう人間の心理でもあるし、

ただ単にみんなが言ってるから、と単純に同調してしまうという人間の性でもある。
彼は私の小細工、というか子供だましに騙されたのではなく、子供騙し+数に負けたらしい。雰囲気に呑まれたみたいな?
それかあの彼が極端にホラー苦手だったりするのかという説もあるけど、
そして仮にも同学年の女子生徒に対してそれでいいのか男の子、という虚しい思いはあったりもするんだけどね、とりあえず…

…と、いうことです。これ見よがしに赤い髪のガムの子の右肩を見つめていたら、捨て台詞を吐かれて逃げられた。
…私、悪くない。何か言及されたら「虫がついてました」とでも言おう。そうしよう。
…しかしこれで勝ったと思っていた私は甘かったらしい。

…それは赤髪の子が訪問してきた、次の日の放課後のことだった。



「のぅ、さん。俺にも何か憑いてないかみてくれんかのぅ?最近肩が重くてならんくての。もしかしたらトイレの花子さんがついてきとるかもしれん」


……この生徒達、いや今更だけどさ…いったい私のことなんだと思ってるのかな…?
まさか己という存在に学校の七不思議を自身に背負わせてしまっているかもしれない、と真面目な顔してとんでもない事実に打ちのめされながらやって来た彼は、銀髪長髪。この間の赤髪ガムの子といいこの学校大丈夫かな、と不安に思ったのはもう今更だしいいんだけど…
今までこんなに堂々と接触してくる生徒は、好奇心よりも恐怖心、不気味さが勝って驚いたことに一人もいなかった。
…なら、なんで突然に私に訪問ラッシュ?…多分恐らく、この銀髪の子も赤髪の子と同じなんだろう。

…ねえ幸村、中身が結構、って言ったって君校則破ったりとかはしたがらない割と普通な男子生徒なのに、友達の髪の毛の色結構すぎない?
普段あんな穏やかそうな顔してて交友関係が意外だわ、と思ったけれど、彼らが「幸村の友達」と断定できた瞬間から、ああまあこんなに派手でも仕方ないか、と納得していたりする。

…多分この子達、噂のファンクラブ結成される程の美形完璧集団、テニス部の子らだよね?
人間観察、植物鑑賞だけが学校内での趣味というか楽しみの私が耳にちらとでも聞かない訳がなかった。…言ってて悲しくなんてありません決して。


「いや、理科室の人体模型が背後に来てるかもしれん。どうにかしてくれんか?」


…さて、この人を最大限にまでおちょくったような物言いをする男の子を、どうしてくれようか。
私はいつか幸村がやっていたように、痛む頭をなんとかしようとこめかみを指でもんでやる。すると「それは何かのまじないかのぅ?」と明らかに人を小ばかにしているであろう彼へ向けて、ここまで一度も崩していない無表情を保ったままに言う。


「……あなたが本当に恐れているのは人体模型でも花子さんでもないでしょう」
「…へぇ。なら何か?」
「それはこれから自分の目で確かめたらいい」


そしてくるりと彼へと背を向けて、絶妙な角度で顔だけ振り返りながら目は笑わず、口元だけで笑った。声も恐らくおどろおどろしい物だったように思える。
そうして廊下を進み、階段を下りても彼は追ってこなく、はぁ、とため息をついた頃には先ほど彼と私が居ただろう廊下辺りが一気に騒がしくなり、「たるんどる!」だとか嫌に覇気がある声が聞こえたり、あまり声量が大きくないために聞き取れはしなかったけど、多分幸村の声が聞こえた。

…たるんどるの人はどうか分からないけど、幸村は怖いでしょうあの子も。
だって私だって一応は友好的な関係築いてるはずだけど、あの笑顔の威圧は未だに怖いから…
とっくに部活が始まってるであろうこの時間、
きっと彼を迎えにくる部活仲間は居るだろうし、まさか幸村直々に、とは思わなかったけれど、部活というかテニスに関しては並々ならぬ思いを抱いてる厳しい彼は、きっと笑顔で威圧するのだろうな、と思い、「自分でこれから確かめろ」と言った訳だけども。
…大成功!やったよ幸村!口を割らなかったよ私!でもね!



「……」



どうかあなたを「怖いもの」扱いしてダシにして逃げたことを怒らないで欲しい。
あと多分どうしてか部員達、というかお友達?に幸村と朝雑談してることがもうバレてるらしいから、多分言及されるだろうけど私もあなたも同じようなくらい周囲に気付かなかったお間抜けだったってことで、お願いだから威圧しないでください。

…そうして次の日の朝、若干ビクビクしながら屋上庭園へ向かったんだけど。
…幸村は、昨日のことについて何も言わないし、そして怒っている様子もない、本当に普段のままのある意味穏やかな彼のままだった。
………あれ?
2016.3.13