第十一話
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
幸村精市は、最近朝の五分未満、または長くて十分程度しかない交流をしているに対して、穏やかで、でも賢く頭も回って、気遣いが出来る、どちらかというと静かな印象を抱いていた。
彼女の口から人の悪口など聞いたことがないし、何に対しても批判的な言い方をしているのを聞いたことがない。
最近は挨拶から始まり、ガーデニングの話をするようになり、数ヶ月もすれば趣味の話、私生活の話を少しばかりするようになってきた。
意外とそうすると話が弾むのが分かり、踏み込みすぎないよう、でも一言二言、意見を交わす。それだけでも彼にとっては劇的な変化だった。
──穏やかなは、俺がどんなに失礼な物言いをしてからかっても、怒りもしないし笑ってからかい返す。笑って流すしか出来ない人種ではなく、ただ大らかに物事を受け止める、穏やかとしか現しようがない性格をしてると思う。
そんな物思いに耽りながら、幸村は自分の教室へ戻るために廊下を歩き階段を目指した。
しかし、彼はいつものように階段の踊り場まで下りようとしていたが、すぐに踵を返すことになる。まるでいつかの時と同じように。
「…でさ、マジさんこわいんだよアレ…」
「つーか、授業中ずっと幸村くんのこと見てられるって羨まし過ぎる!転校生だからってさあ!席替えの時からずっと前か後ろか、狙ってたのに!」
「あの時も幸村くんに案内なんかしてもらって、…まさか…惚れたりしてないよね?」
「まじそれ身の程知れって感じじゃんか、おめーみたいな地味女に幸村くんも誰も構わないから!」
「つーか本当に誰一人構ってないしね」
「あっはは!」
それはいつかの状況に似ている、と思ったが、本当に同じシチュエーションを再現してしまったらしい。彼女らはいつの日かも、の陰口をこの場でひっそり、いや周りからすれば堂々としていたグループだった。
この時間、あのクラスメイトのテニス部ファン、
及び「幸村派」と呼ばれる彼女達のたまり場になってるらしい、と学習して彼は何がなんでも遠回りをしてでも近づかないと心に決めた。
ただでさえ、こういった陰湿な陰口を好まないというのに、それが今は毎朝のように親しいといえば親しくしているかもしれないのことについてだなんて、
対象が見知りすぎてる知り合いな分気分が悪くてたまらなかったのだ。
──未だにについてこんなこと言ってる子いたんだ…まさか霊感少女とかいう噂も生きてるのかな?そうなると、ちょっとのことで噂が酷くぶり返したりしそうだ……
そう思うと、今は見つからないでいる屋上庭園での関係も危険なのかもと思った。実際運よく難を逃れたが、が屋上庭園に居る時、女子生徒がやってきたことがある。
あの時は「毎朝の習慣」ではなかったからたまにあることだった。今は朝の習慣に変わり認識されつつある。でも、絶対じゃない。
そんな風に脆くて危うい関係だと言うのに、「やめよう」とも言えず、そもそもお互いが秘密裏に話そうと示し合わせて居るのではなく、幸村とて本来は自分の仕事のためにあの場にやって来ている。やめると言っても何をやめたら良いのか、話すこと?近くに居ること?視線を合わせること?…例えば、何気なくあの本やあの花のことについてと語らいたいと思うこと。
考えても周りに咎められなくてはならない行為では決してないはずで、自分が悩んでいるのかも彼には分からなくなってくる。
その日の放課後、いつものように部活動に励むも、その姿は一生懸命に打ち込んだ力強いもの…と言ったら聞こえがいいが、幸村と親しい部員は、必死に何かを振り払うようにラケットを振るい、
身体を鍛え上げ、何かを流すようにドリンクを呷っているようにしか見えなかったらしい。
「ねえ、はクラスメイトとは話さないの?」
次の日の朝、若干の疲労感を残した彼、幸村はいつものように屋上庭園へと足を運んだ。最近読書にハマっているらしい彼女は自分より早く来てることが多くなり、
自分が後からやって来ても本から顔を上げず、慣れたようにひらひらと手を振るだけであった。
元々の自分の目的は庭園の植物の手入れ。そして彼女はベンチで最近は読書をするだけ、以前は邪魔にならないように植物を眺めるだけ。
失礼といえば失礼な態度だが、そのまま沈黙が続いても一向に構わないし苦ではない。そんな緩い関係だった。
…が。幸村はふと、問いかけてしまった。いつもとは違う彼女に踏み込んだ問いかけを。
苦い顔を珍しくした幸村だけど、それは彼女に背を向けているからこそのことであり、
尚且つ背を向けていたとはいえ、彼女だからこそ「ずっと笑顔を作る」ということをやめられる、いつの間にかそんな距離まで近づいている。
しかし、彼は気がつかない。記憶喪失を信じられる決定打がなくとも、という生徒のなんの意図もなく、緩やかで、主張せず、時には無視したり適当にあしらわれたりと、
丁寧というよりも、そんな失礼な雑さを持つ彼女だからこそ。ある意味での信頼がゆっくりと、僅かながらではあるが。築き上げられてるということに。
友人とは、そうしてゆっくりと信頼関係が結ばれるものだということに。
彼は知っていたはずなのに、気がつけない。
「…なんで?」
「……いや…」
彼女は顔を上げず、文字を追いながらおざなりに問い返した。
なんで、と言われても答えられない幸村は口ごもるが、そんな様子を見て彼女は本をパタン、と閉じて空を眺めだした。
庭園に水が撒かれる繊細な音と風の音だけが空間に木霊し、暫くするとは口を開いた。
「……なんかね、人間ってそんな物だ、って思ったの」
すると幸村は思わず目を見張り、力が抜けて水を撒くホースを手から離しそうになったが踏みとどまり、平静を保つよう努力しながら言葉を反芻させた。
…そんな物、だ?人間なんて?
まるで自分のようなことを言う、と驚いた。そして驚きの理由は他にも、
という人間は批判的に取れる物言いをしたことは一度もなく。物事全てに可能性を見出し程度を作るような人間ではなかったからだ。
…例えば、「人間なんて高がこんな物だ」とか。
高が、というような物事を見切るような言葉を使わない。それがという穏やかな人間。ガラガラと彼女のイーメジが自分の中で崩れていく音がしたけれど、
彼は自分がそれでどんな気持ちになっているのかは自覚できない。
「人の悪口も言うし、批判だってするし、友達は当たり前に選ぶし。…私はもう転校初日からこういう人、って噂も認識も出来ちゃったし、面倒臭いから貫かざるを得ないだけで、それならもういいや、って」
…そう、それは幸村自身も、つい昨日また痛いほど感じたのだ。
他でもないに対して批判的に悪口を言うクラスの女子グループ。多分、は馬鹿じゃないし人間観察が趣味というくらいなので、そのに対して批判的な彼女達の存在に気がついていることだろう。
…そして、その他にも他人を評論家のように評論し続ける生徒達の存在も、誰ともつるまない彼女だからこそ知っている。
「…でも……」
彼はでも、という言葉に何が続くのか、聞きたいような、でも強く聞きたくないと思うような、複雑な感情の波に飲まれていた。
なんで自分はこんな風に言葉一つでかき乱されているんだろう。問いかけたのは自分なのに、なんで、ああ、失敗した、なんて気持ちになっているんだろう。
彼はわからない。
しかしながら、はテレパシーが使えるような人間じゃない為に、胸のうちを察して言葉を打ち止めることは出来なかった。
故に。
「……でもね、そんな人間が、今は面白いなって思うんだ。…あ、馬鹿にしてるんじゃなくてね。豊かだなって思うの。
喜怒哀楽の四つだけじゃ現せない複雑な感情を持ってる、今喜んでる、怒ってる、だけじゃその気持ちを現せない。だからそんな物、とか、こんな物、高が、とか、たったひとつのことだけで…、簡単に人を縛れないと思った。
…ずっと離れた所から自分をおいてけぼりにしてみてたら、そう思うようになったんだ」
そのテレパシーが使えなかったばかりに続けられた言葉で、幸村は…す、っと。
心の大きな大きな窮屈な縛り続けられたしこりが少しだけ、解けたような気がした。確かにその通りだった。人間という生き物ほど複雑に出来ている生物はある意味、いない。
面倒臭い生き物だからこそ彼は面倒だ、そんな物だ、最低だ、なんで、と疑問に思ったり憤ったり心乱されたりする。
そしていつの間にか出来上がった固定概念で言った。「人間なんてそんなものだ」と。
でもそれは違うと知っているはずだったのに。考えれば分かったはずなのに。人間ほど分からない生物は居ない、故に、「こんな程度」という制限はない。
「高が」という言葉で縛れる程シンプルな生き物ではない。
あの陰口ばかりの女子グループも、
に対しては一つの「嫉妬」という感情だけでない、色々な要因に突き動かされ、彼女らの価値観が今の今まで積み重ねられた結果あの言葉が飛び出た。なんとも難解な仕上がりで、ああなる。
そして幸村自身も難解がいくつも積み重ねられた結果、先ほどへと問いかけるに至ったのだ。
「…そう、だね…」
…自分でも分かっていたはずなのに、すっかり忘れかけていた事実を再確認させられた。
すると、流石にすっかり信頼を失ってしまったクラスメイト達を魔法のように許せなくとも、「高が」と端から否定して頑なになり向き合うのは何だか違う、
…そんな縛りは、最初から意味がないのだと、自覚した。再確認をした。自分はクラスメイトの彼らの難解な積み重ねの数々を、一つたりとも知らないのだから。
そして…
少しだけ周りに対する認識が変わったのと共に、朝、という人間についての認識も少しだけ変わる。
「……いつかの朝に、そう思ったよ」
そして朝という短い時間は、自身の認識も変えていったのだ。
3.仲良しの噂をされる程度の仲良し─それなりに
幸村精市は、最近朝の五分未満、または長くて十分程度しかない交流をしているに対して、穏やかで、でも賢く頭も回って、気遣いが出来る、どちらかというと静かな印象を抱いていた。
彼女の口から人の悪口など聞いたことがないし、何に対しても批判的な言い方をしているのを聞いたことがない。
最近は挨拶から始まり、ガーデニングの話をするようになり、数ヶ月もすれば趣味の話、私生活の話を少しばかりするようになってきた。
意外とそうすると話が弾むのが分かり、踏み込みすぎないよう、でも一言二言、意見を交わす。それだけでも彼にとっては劇的な変化だった。
──穏やかなは、俺がどんなに失礼な物言いをしてからかっても、怒りもしないし笑ってからかい返す。笑って流すしか出来ない人種ではなく、ただ大らかに物事を受け止める、穏やかとしか現しようがない性格をしてると思う。
そんな物思いに耽りながら、幸村は自分の教室へ戻るために廊下を歩き階段を目指した。
しかし、彼はいつものように階段の踊り場まで下りようとしていたが、すぐに踵を返すことになる。まるでいつかの時と同じように。
「…でさ、マジさんこわいんだよアレ…」
「つーか、授業中ずっと幸村くんのこと見てられるって羨まし過ぎる!転校生だからってさあ!席替えの時からずっと前か後ろか、狙ってたのに!」
「あの時も幸村くんに案内なんかしてもらって、…まさか…惚れたりしてないよね?」
「まじそれ身の程知れって感じじゃんか、おめーみたいな地味女に幸村くんも誰も構わないから!」
「つーか本当に誰一人構ってないしね」
「あっはは!」
それはいつかの状況に似ている、と思ったが、本当に同じシチュエーションを再現してしまったらしい。彼女らはいつの日かも、の陰口をこの場でひっそり、いや周りからすれば堂々としていたグループだった。
この時間、あのクラスメイトのテニス部ファン、
及び「幸村派」と呼ばれる彼女達のたまり場になってるらしい、と学習して彼は何がなんでも遠回りをしてでも近づかないと心に決めた。
ただでさえ、こういった陰湿な陰口を好まないというのに、それが今は毎朝のように親しいといえば親しくしているかもしれないのことについてだなんて、
対象が見知りすぎてる知り合いな分気分が悪くてたまらなかったのだ。
──未だにについてこんなこと言ってる子いたんだ…まさか霊感少女とかいう噂も生きてるのかな?そうなると、ちょっとのことで噂が酷くぶり返したりしそうだ……
そう思うと、今は見つからないでいる屋上庭園での関係も危険なのかもと思った。実際運よく難を逃れたが、が屋上庭園に居る時、女子生徒がやってきたことがある。
あの時は「毎朝の習慣」ではなかったからたまにあることだった。今は朝の習慣に変わり認識されつつある。でも、絶対じゃない。
そんな風に脆くて危うい関係だと言うのに、「やめよう」とも言えず、そもそもお互いが秘密裏に話そうと示し合わせて居るのではなく、幸村とて本来は自分の仕事のためにあの場にやって来ている。やめると言っても何をやめたら良いのか、話すこと?近くに居ること?視線を合わせること?…例えば、何気なくあの本やあの花のことについてと語らいたいと思うこと。
考えても周りに咎められなくてはならない行為では決してないはずで、自分が悩んでいるのかも彼には分からなくなってくる。
その日の放課後、いつものように部活動に励むも、その姿は一生懸命に打ち込んだ力強いもの…と言ったら聞こえがいいが、幸村と親しい部員は、必死に何かを振り払うようにラケットを振るい、
身体を鍛え上げ、何かを流すようにドリンクを呷っているようにしか見えなかったらしい。
「ねえ、はクラスメイトとは話さないの?」
次の日の朝、若干の疲労感を残した彼、幸村はいつものように屋上庭園へと足を運んだ。最近読書にハマっているらしい彼女は自分より早く来てることが多くなり、
自分が後からやって来ても本から顔を上げず、慣れたようにひらひらと手を振るだけであった。
元々の自分の目的は庭園の植物の手入れ。そして彼女はベンチで最近は読書をするだけ、以前は邪魔にならないように植物を眺めるだけ。
失礼といえば失礼な態度だが、そのまま沈黙が続いても一向に構わないし苦ではない。そんな緩い関係だった。
…が。幸村はふと、問いかけてしまった。いつもとは違う彼女に踏み込んだ問いかけを。
苦い顔を珍しくした幸村だけど、それは彼女に背を向けているからこそのことであり、
尚且つ背を向けていたとはいえ、彼女だからこそ「ずっと笑顔を作る」ということをやめられる、いつの間にかそんな距離まで近づいている。
しかし、彼は気がつかない。記憶喪失を信じられる決定打がなくとも、という生徒のなんの意図もなく、緩やかで、主張せず、時には無視したり適当にあしらわれたりと、
丁寧というよりも、そんな失礼な雑さを持つ彼女だからこそ。ある意味での信頼がゆっくりと、僅かながらではあるが。築き上げられてるということに。
友人とは、そうしてゆっくりと信頼関係が結ばれるものだということに。
彼は知っていたはずなのに、気がつけない。
「…なんで?」
「……いや…」
彼女は顔を上げず、文字を追いながらおざなりに問い返した。
なんで、と言われても答えられない幸村は口ごもるが、そんな様子を見て彼女は本をパタン、と閉じて空を眺めだした。
庭園に水が撒かれる繊細な音と風の音だけが空間に木霊し、暫くするとは口を開いた。
「……なんかね、人間ってそんな物だ、って思ったの」
すると幸村は思わず目を見張り、力が抜けて水を撒くホースを手から離しそうになったが踏みとどまり、平静を保つよう努力しながら言葉を反芻させた。
…そんな物、だ?人間なんて?
まるで自分のようなことを言う、と驚いた。そして驚きの理由は他にも、
という人間は批判的に取れる物言いをしたことは一度もなく。物事全てに可能性を見出し程度を作るような人間ではなかったからだ。
…例えば、「人間なんて高がこんな物だ」とか。
高が、というような物事を見切るような言葉を使わない。それがという穏やかな人間。ガラガラと彼女のイーメジが自分の中で崩れていく音がしたけれど、
彼は自分がそれでどんな気持ちになっているのかは自覚できない。
「人の悪口も言うし、批判だってするし、友達は当たり前に選ぶし。…私はもう転校初日からこういう人、って噂も認識も出来ちゃったし、面倒臭いから貫かざるを得ないだけで、それならもういいや、って」
…そう、それは幸村自身も、つい昨日また痛いほど感じたのだ。
他でもないに対して批判的に悪口を言うクラスの女子グループ。多分、は馬鹿じゃないし人間観察が趣味というくらいなので、そのに対して批判的な彼女達の存在に気がついていることだろう。
…そして、その他にも他人を評論家のように評論し続ける生徒達の存在も、誰ともつるまない彼女だからこそ知っている。
「…でも……」
彼はでも、という言葉に何が続くのか、聞きたいような、でも強く聞きたくないと思うような、複雑な感情の波に飲まれていた。
なんで自分はこんな風に言葉一つでかき乱されているんだろう。問いかけたのは自分なのに、なんで、ああ、失敗した、なんて気持ちになっているんだろう。
彼はわからない。
しかしながら、はテレパシーが使えるような人間じゃない為に、胸のうちを察して言葉を打ち止めることは出来なかった。
故に。
「……でもね、そんな人間が、今は面白いなって思うんだ。…あ、馬鹿にしてるんじゃなくてね。豊かだなって思うの。
喜怒哀楽の四つだけじゃ現せない複雑な感情を持ってる、今喜んでる、怒ってる、だけじゃその気持ちを現せない。だからそんな物、とか、こんな物、高が、とか、たったひとつのことだけで…、簡単に人を縛れないと思った。
…ずっと離れた所から自分をおいてけぼりにしてみてたら、そう思うようになったんだ」
そのテレパシーが使えなかったばかりに続けられた言葉で、幸村は…す、っと。
心の大きな大きな窮屈な縛り続けられたしこりが少しだけ、解けたような気がした。確かにその通りだった。人間という生き物ほど複雑に出来ている生物はある意味、いない。
面倒臭い生き物だからこそ彼は面倒だ、そんな物だ、最低だ、なんで、と疑問に思ったり憤ったり心乱されたりする。
そしていつの間にか出来上がった固定概念で言った。「人間なんてそんなものだ」と。
でもそれは違うと知っているはずだったのに。考えれば分かったはずなのに。人間ほど分からない生物は居ない、故に、「こんな程度」という制限はない。
「高が」という言葉で縛れる程シンプルな生き物ではない。
あの陰口ばかりの女子グループも、
に対しては一つの「嫉妬」という感情だけでない、色々な要因に突き動かされ、彼女らの価値観が今の今まで積み重ねられた結果あの言葉が飛び出た。なんとも難解な仕上がりで、ああなる。
そして幸村自身も難解がいくつも積み重ねられた結果、先ほどへと問いかけるに至ったのだ。
「…そう、だね…」
…自分でも分かっていたはずなのに、すっかり忘れかけていた事実を再確認させられた。
すると、流石にすっかり信頼を失ってしまったクラスメイト達を魔法のように許せなくとも、「高が」と端から否定して頑なになり向き合うのは何だか違う、
…そんな縛りは、最初から意味がないのだと、自覚した。再確認をした。自分はクラスメイトの彼らの難解な積み重ねの数々を、一つたりとも知らないのだから。
そして…
少しだけ周りに対する認識が変わったのと共に、朝、という人間についての認識も少しだけ変わる。
「……いつかの朝に、そう思ったよ」
そして朝という短い時間は、自身の認識も変えていったのだ。