第二十三話
7.絶交と解決─絶交しようとしたら解決した
「ということでね、わたしね、沖田と絶交することにしたの」
それを目の前の男にいうと、ガッと男の手がわたしの頭を掴んだ。
ガチガチの体格のいい男という訳でもないけれど、刀を振る青年の手はわたしの頭には凶器だった。いたいたいたい痛いミチミチいってる!ぎちぎち言ってる!いたい!わたしが何をしたっていうのよー!
…────突拍子もないしいきなり失礼すぎることを言った覚えはあるけれど。
目の前の男、沖田総悟…サディスティックの星に生まれた生粋の彼は、口を開いて尚もそのままわたしの頭を離しはしなかった。
「ということでに何が凝縮されてんのか知らねェが本人目の前にしていい度胸してんなチビ」
「やめて!やめてつむじ押さないで!」
「これ以上よ〜お前に伸び代なんてねぇんだからさ〜いっそのこと止めさしといた方がいいんじゃないかな〜」
「違う!つむじ押すと腹下すんだよ!」
「ちげーよ。つむじは成長と言う希望に絶望を落とし踏みにじる為のスイッチでィ」
「違うもん!腹下すって言ってたもん!っじゃなくて!沖田私と絶交してよ!」
「唐突に本人に、しかも屯所に来てまで申し立てるたぁいい度胸してんじゃねーか。てかお前、背ェどうしたんでィ。急激に伸び縮みするたァどういう了見してんだ」
そんなこんなで、
「いつもの沖田と得体の知れない近所の小さな女の子とのやり取りが始まった」といつの間にやら黙認されて日常と化してきたこの光景も、
屯所でざわざわと「絶交だってよ」と騒ぎが起こり軽く野次馬ができるまでに発展して。
なんだよ暇か!働けー!そして土方に怒られろー!こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際だっていうのに、野次馬っていうか山崎さんがミントンしてるし。ブレない。ブレなさすぎる。
頭は現在もミチミチと嫌な音を立てている気がする。苦痛に歪む不細工なわたしの面をみてニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるこいつはサドでしかない。
わたしといえば真逆のエムにはなれないというのに、この身長差、力差があれば沖田をなんかいい感じにサドることもかなわない。というかわたしが体格のいい男だったとしてもこんな男サドれないわ…
「わたしがビッグになる為に絶好してってばー!」
「オメーは一生底辺でさァ」
「……おい。オメーら締め出されてェのか」
背後から地を這うような声が聞こえてきたが、それも当たり前の日常すぎてびっくりすることも最早ない。
部外者が遊び気分で来てんじゃねぇ!と土方に追い出されるのもいつものこと。ここ最近町で出くわした流れだったり、山崎さんに誘われたり、近藤さんにつられたりしてなんやかんやで屯所におやつを食べにきていたりする。その都度これなのだから、もう慣れないはずがない。
その追い出される間際、沖田と二人で土方をいじることも常だ。
「やだねェ。年寄りは無粋だからいけねえ」
「聞きましたの?今の発言。子供が無邪気に遊んでるのにあの言い草〜。○ファリンに優しさでも分けてもらったらどうかしら〜」
「バ○リンでも補えない程の人間でさァ、ヤツは」
「やっぱ遊びに来てんじゃねーか!つーかいい度胸だ表に出ろォオオ!!」
やっぱりそのまま追い出されてしまったのは言うまでもない話だった。
「……どうしよう…」
結局、いつもの沖田とのじゃれあいにしかならず、
絶交しようぜ!と突拍子もないことをぬかしただけで何も成果は得られず帰宅。
なんてことよ。おやつさえもありつけなかったなんてこんなの、本当に何もない無駄足でしかなかったわよ…
だめだだめだ。本当にどうにかしないと。
だって沖田に見えてるなら、他の人がヅラをかぶってるわたしがお妙に見えてても、綻んでしまう。わたしはお妙です!と繕うことが通用しない。そうしたら…
「こ、戸籍、ノー戸籍」
やばい。やばすぎる。この問題は、いくらくんが帰ってきてくれてフォローしてくれるとなっても、いつかは直面する問題すぎる問題だ。
「銀時くーんいますかー」
ぴんぽーん、と軽快なチャイムが鳴り響く。が、家の中からはカタリとも音がしない。気配もない。人が動いた様子が、ない。
だとしてもわたしは知ってる。ここに尋ねてきたことはまだそう多くはないけれど、チート的なあれこれの知識で絶対にこれはあれだ、居留守の確率が大だ、とわかっていたのだから、すうっと大きく息を吸い込んで準備おーけい。
────尋ねてきたのは万事屋銀ちゃん。屯所から追い出されてからどうもそのまま帰宅する気にもなれずふらりとやって来てしまった。
万事屋に用事、というよりも坂田銀時その人に用があった。
「銀時くぅううううううううううん」
「うるせェエエエー!!!今何時だと思ってんだうぷっぎもぢわ゛る」
「またお酒?もう午後よー。やだわ、こんな大人にはなりたくないわ」
「オメーも頻繁に友達のお家感覚で遊びに来てんじゃねえよ万事屋だぞあれだぞ社会人だぞオメーみたいなチビが頻繁に来てたらあれだよあれ、変態のレッテル貼られるだろご近所さんに…ロリポン、ポリゴン、お゛え゛え゛」
「だいじょーぶよ、神楽ちゃんが住んでる時点でもうレッテルは背中に張り付いてるから」
「嘘だ。ちょっ見て一回背中みてくんない、そんなハズない、そんなハズないからお願い」
玄関先でずるりと這っている天パも気にもとめず、そのままずかずかとお友達の家感覚、というより最早勝手知ったる我が家のようにするりとお邪魔して靴を脱いだ。
最初は坂田銀時、主人公なんてまるで神様でも見るような────、事実、ある意味この世界での神様たる存在はこの目の前の飲んだ暮れの天パなのだけど、
いつでも目の前でびくびくと崇拝することも馬鹿らしくなってしまって。
おかげで図太くこんなこともできるようになってしまった。
まあそれでも心の中では崇拝したままだ、この人は特別、この世界の人の中でもわたしは一番信用するに足りる人であり、同時に恐れる人だから。
「ねえ、銀ちゃん。友達と絶交するにはどうしたらいいの?」
「なんだよ嫌なヤツとでも友達っちゃったのなんでそれを相談にくるの俺んとこに、つーか嫌いなのソイツのこと」
「ううん一緒にいると楽しいよ」
「だったら絶交なんてする必要ねーじゃねぇか」
ずるずると坂田銀時を居間まで引きずり、どっかりとソファーに座り、お水をくんできて酒田銀時に渡し、そのまま世間話でもするようにさらっと聞いてみた。
するとさらっと至極当たり前の、
それでもこの人が言うとそれこそがこの世のすべての真理なのだ、とでも感じるような、単純でいてこう、ぐさっとくる一言になるのだから怖い。
単純だからこそ刺さるんだよなあ。ああ痛いいたい。このことに限らずこの人の言葉はとても痛い。
「それは、大人のつごー?」
「都合をひらがな発音にしか出来ないヤツは大人にはなれねぇよ。…まあ、お前が楽しくて、相手も楽しくてダチやってんなら無理に絶交なんて必要ねーんじゃね」
「ダチっていうかペットと主人みたいな関係だけどまあ楽しいかな」
「待てお前どんな狂った関係築いちゃってんの年頃の娘が」
がたがたとソファーから坂田銀時がずり落ちた。
わたしは水をキャッチしておかわりをくみに行った。ただの水道水だけどちゃっちゃか酒を抜いてしまえ。
「勿論私が主人だと思ってるけど相手も主人だと思ってると思う」
「あー駄目。S同士は相容れないね。何故ならSはMが居ないと成り立たない。駄目だね。つーかお前ら主張激しすぎるからこんがらがってねーか思い当たる節あるでしょ」
「どっちがボケてどっちがツッコミするかで口論して殴り合いに発展したことはある」
「くだんねえ次元で争ってんじゃねえよごめんやっぱりお前らお似合いだよ」
酒は抜けなくてもこの人は本当にブレないままだ。
やっぱり結論は出なかったけど、出たも同然だった。
7.絶交と解決─絶交しようとしたら解決した
「ということでね、わたしね、沖田と絶交することにしたの」
それを目の前の男にいうと、ガッと男の手がわたしの頭を掴んだ。
ガチガチの体格のいい男という訳でもないけれど、刀を振る青年の手はわたしの頭には凶器だった。いたいたいたい痛いミチミチいってる!ぎちぎち言ってる!いたい!わたしが何をしたっていうのよー!
…────突拍子もないしいきなり失礼すぎることを言った覚えはあるけれど。
目の前の男、沖田総悟…サディスティックの星に生まれた生粋の彼は、口を開いて尚もそのままわたしの頭を離しはしなかった。
「ということでに何が凝縮されてんのか知らねェが本人目の前にしていい度胸してんなチビ」
「やめて!やめてつむじ押さないで!」
「これ以上よ〜お前に伸び代なんてねぇんだからさ〜いっそのこと止めさしといた方がいいんじゃないかな〜」
「違う!つむじ押すと腹下すんだよ!」
「ちげーよ。つむじは成長と言う希望に絶望を落とし踏みにじる為のスイッチでィ」
「違うもん!腹下すって言ってたもん!っじゃなくて!沖田私と絶交してよ!」
「唐突に本人に、しかも屯所に来てまで申し立てるたぁいい度胸してんじゃねーか。てかお前、背ェどうしたんでィ。急激に伸び縮みするたァどういう了見してんだ」
そんなこんなで、
「いつもの沖田と得体の知れない近所の小さな女の子とのやり取りが始まった」といつの間にやら黙認されて日常と化してきたこの光景も、
屯所でざわざわと「絶交だってよ」と騒ぎが起こり軽く野次馬ができるまでに発展して。
なんだよ暇か!働けー!そして土方に怒られろー!こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際だっていうのに、野次馬っていうか山崎さんがミントンしてるし。ブレない。ブレなさすぎる。
頭は現在もミチミチと嫌な音を立てている気がする。苦痛に歪む不細工なわたしの面をみてニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるこいつはサドでしかない。
わたしといえば真逆のエムにはなれないというのに、この身長差、力差があれば沖田をなんかいい感じにサドることもかなわない。というかわたしが体格のいい男だったとしてもこんな男サドれないわ…
「わたしがビッグになる為に絶好してってばー!」
「オメーは一生底辺でさァ」
「……おい。オメーら締め出されてェのか」
背後から地を這うような声が聞こえてきたが、それも当たり前の日常すぎてびっくりすることも最早ない。
部外者が遊び気分で来てんじゃねぇ!と土方に追い出されるのもいつものこと。ここ最近町で出くわした流れだったり、山崎さんに誘われたり、近藤さんにつられたりしてなんやかんやで屯所におやつを食べにきていたりする。その都度これなのだから、もう慣れないはずがない。
その追い出される間際、沖田と二人で土方をいじることも常だ。
「やだねェ。年寄りは無粋だからいけねえ」
「聞きましたの?今の発言。子供が無邪気に遊んでるのにあの言い草〜。○ファリンに優しさでも分けてもらったらどうかしら〜」
「バ○リンでも補えない程の人間でさァ、ヤツは」
「やっぱ遊びに来てんじゃねーか!つーかいい度胸だ表に出ろォオオ!!」
やっぱりそのまま追い出されてしまったのは言うまでもない話だった。
「……どうしよう…」
結局、いつもの沖田とのじゃれあいにしかならず、
絶交しようぜ!と突拍子もないことをぬかしただけで何も成果は得られず帰宅。
なんてことよ。おやつさえもありつけなかったなんてこんなの、本当に何もない無駄足でしかなかったわよ…
だめだだめだ。本当にどうにかしないと。
だって沖田に見えてるなら、他の人がヅラをかぶってるわたしがお妙に見えてても、綻んでしまう。わたしはお妙です!と繕うことが通用しない。そうしたら…
「こ、戸籍、ノー戸籍」
やばい。やばすぎる。この問題は、いくらくんが帰ってきてくれてフォローしてくれるとなっても、いつかは直面する問題すぎる問題だ。
「銀時くーんいますかー」
ぴんぽーん、と軽快なチャイムが鳴り響く。が、家の中からはカタリとも音がしない。気配もない。人が動いた様子が、ない。
だとしてもわたしは知ってる。ここに尋ねてきたことはまだそう多くはないけれど、チート的なあれこれの知識で絶対にこれはあれだ、居留守の確率が大だ、とわかっていたのだから、すうっと大きく息を吸い込んで準備おーけい。
────尋ねてきたのは万事屋銀ちゃん。屯所から追い出されてからどうもそのまま帰宅する気にもなれずふらりとやって来てしまった。
万事屋に用事、というよりも坂田銀時その人に用があった。
「銀時くぅううううううううううん」
「うるせェエエエー!!!今何時だと思ってんだうぷっぎもぢわ゛る」
「またお酒?もう午後よー。やだわ、こんな大人にはなりたくないわ」
「オメーも頻繁に友達のお家感覚で遊びに来てんじゃねえよ万事屋だぞあれだぞ社会人だぞオメーみたいなチビが頻繁に来てたらあれだよあれ、変態のレッテル貼られるだろご近所さんに…ロリポン、ポリゴン、お゛え゛え゛」
「だいじょーぶよ、神楽ちゃんが住んでる時点でもうレッテルは背中に張り付いてるから」
「嘘だ。ちょっ見て一回背中みてくんない、そんなハズない、そんなハズないからお願い」
玄関先でずるりと這っている天パも気にもとめず、そのままずかずかとお友達の家感覚、というより最早勝手知ったる我が家のようにするりとお邪魔して靴を脱いだ。
最初は坂田銀時、主人公なんてまるで神様でも見るような────、事実、ある意味この世界での神様たる存在はこの目の前の飲んだ暮れの天パなのだけど、
いつでも目の前でびくびくと崇拝することも馬鹿らしくなってしまって。
おかげで図太くこんなこともできるようになってしまった。
まあそれでも心の中では崇拝したままだ、この人は特別、この世界の人の中でもわたしは一番信用するに足りる人であり、同時に恐れる人だから。
「ねえ、銀ちゃん。友達と絶交するにはどうしたらいいの?」
「なんだよ嫌なヤツとでも友達っちゃったのなんでそれを相談にくるの俺んとこに、つーか嫌いなのソイツのこと」
「ううん一緒にいると楽しいよ」
「だったら絶交なんてする必要ねーじゃねぇか」
ずるずると坂田銀時を居間まで引きずり、どっかりとソファーに座り、お水をくんできて酒田銀時に渡し、そのまま世間話でもするようにさらっと聞いてみた。
するとさらっと至極当たり前の、
それでもこの人が言うとそれこそがこの世のすべての真理なのだ、とでも感じるような、単純でいてこう、ぐさっとくる一言になるのだから怖い。
単純だからこそ刺さるんだよなあ。ああ痛いいたい。このことに限らずこの人の言葉はとても痛い。
「それは、大人のつごー?」
「都合をひらがな発音にしか出来ないヤツは大人にはなれねぇよ。…まあ、お前が楽しくて、相手も楽しくてダチやってんなら無理に絶交なんて必要ねーんじゃね」
「ダチっていうかペットと主人みたいな関係だけどまあ楽しいかな」
「待てお前どんな狂った関係築いちゃってんの年頃の娘が」
がたがたとソファーから坂田銀時がずり落ちた。
わたしは水をキャッチしておかわりをくみに行った。ただの水道水だけどちゃっちゃか酒を抜いてしまえ。
「勿論私が主人だと思ってるけど相手も主人だと思ってると思う」
「あー駄目。S同士は相容れないね。何故ならSはMが居ないと成り立たない。駄目だね。つーかお前ら主張激しすぎるからこんがらがってねーか思い当たる節あるでしょ」
「どっちがボケてどっちがツッコミするかで口論して殴り合いに発展したことはある」
「くだんねえ次元で争ってんじゃねえよごめんやっぱりお前らお似合いだよ」
酒は抜けなくてもこの人は本当にブレないままだ。
やっぱり結論は出なかったけど、出たも同然だった。
