第二十二話
6.新たな問題発生─やっとそれっぽく疑われてきた
とりあえず都合悪くなったら例のウィッグ被って妙のふりして凌げ、と言われて実行しながら過ごすことなり、わたしはお妙のような着物は常備していたのだった。もうそれには慣れっこであり苦痛というものもあまりない。
成り代わりくんが帰ってきた今一人で悩むという苦しみから解放されたのもあってむしろ前よりも快適に街を練り歩けたのだった。
街中で偶然出くわすと心臓が悪い意味でドンドコと痛みだす沖田とその時もすれ違ったけど無視。心臓は痛まない。だっていつもコイツと出くわす時ってヅラしてないすっぴんの時だけだったし、志村妙としてなら絡まれるような接点築いてないから!
と。
「なんでィ、オメー身長でも伸ばす手術にでも手ェ出したか?」
「え」
「あ〜駄目だな〜いくらタッパ伸ばしたからって顔に出ちゃってるモンな〜染みったれたおこちゃま精神がな〜残念だな〜ァ」
「ど、ど、どち、どちち、どちらさまま」
「どちち?どちちらさままま何てダサい名前してませんぜ舐めてんのかチビ」
「…あああああっ!!!」
舐めてた。舐めてかかってた。調子ぶっこいて歩いてた。心臓はヅラをしてない時に出くわした時よりも痛んだ。ついでに胃もキリキリと痛み出した。
なんで沖田にも銀さんと同じ作用が働いてんのかー!
と、いうのが事の発端で。ネチネチと絡まれつつも転がるようにソイツから逃げ出し、
志村家に帰宅したあとの本日の緊急家族会議の議題(とか言ってみるけど実際は翔太くんとわたしだけ)だ。
「マジでか」
「マジでよ」
「源外さんに聞いてみないとわかんねぇな…銀さんには効かないようにしたはずだけど」
「あれくんの仕業かよぉ!」
「よしよし女の子が汚い言葉使わないの。…んーでもそうすると困ったなあ」
「…くん私のこと凄い子供扱いするのね」
「ああ、なんか妹みたいで」
「んん、でも絵面はいい」
「お妙の姿じゃ姉と妹だよなぁ。格好つかねぇな」
「ぜんぜん格好ついてるの私思うの」
そして家族会議だとか言いながらただの雑談(女子トークまがい)に脱線していき、結論は五分もかからず出た。源外さんに聞く他ないと結論付けたわたしたちはさっそく彼の元へと向かう。わたしはもちろんお妙ちゃんが二人!なんてなっても困るから今回ばかりは開き直ってヅラを外してくんの隣へと。
尋ねると彼は相変わらず油に塗れてせっせと何かに取り組んでいたけれど、わたし達がきたことに気がつくと作業を中断して汗を拭った。気さくに「よっ」「よォ」とか挨拶してるのを見るに親しかったのかもしれない、と少し驚いた。
そして本日の議題、
ヅラの作用が坂田銀時以外に沖田にも作用している件について、を相談してみると。
あんぐり。もう唖然とするしかなかった。
「俺ァあの時坂田銀時なんて野郎は知らなかったんだから、ピンポイントで坂田銀時にだけ効果を外すなんて出来なかったんだよ」
「…と、いうと?」
くんが神妙な面持ちで眉を寄せて問いかけると、源外さんは細かに説明してくれる。
「使用者が心から信用してる相手にだけ無効にさせることにした。心音と体温で察知するようにな。呼吸も同じくだな」
「あのウィッグ心音とか体温まで感知してんの?すげー。流石源外」
「褒めても醤油くらいしかでねーぞ」
「あ、醤油は出るんだ」
なにそれすごい流石!と素直に感心したい所だけど源外さんは源外さんだったし、あ、お醤油切れてたんだよねちょっと欲しい、と台所事情を思い出してそんな風に考えてしまったわたしもわたしだけど、ちょっと待ってほしい。
待て。それだとさ、おかしいんじゃないでしょうか。
「ちょ、ちょ、あの…ちょっと待って、二人ちょっと待って、なんで、銀さんは分かるよ、わたし最初から一番当て…けふっ信用してたから、」
「当てって言っちゃったよ」
「でもね、待ってほしい、沖田総悟が当てになる人物なのか、今一度考えてほしい」
わたしが必死な形相で言うと「一番信用しちゃいけねーヤツだな」とスッパリとくんはいった。
「サディスティック的な意味で。つーかすげー開き直ったな」
「馬鹿ー!なんで沖田が無効なのー!あてにするよあんなんでもアレでアレだしー!」
「嬢ちゃんそりゃあ自分の胸に聞くしかねえよ」
「心当たりないの?」
自分の胸に聞け、とか言われても彼の人となりを一方的に知りすぎてるわたしだからこそ、そういった意味で信用なんてするはずがない。出来るはずがないサディスティック的な意味で。
源外さんやくんはオッサンのようにニヤニヤと恋でもしちゃってんじゃね〜の〜?とこちらを見てるけどありえないと思いつつ、こんなことになってしまった以上何かしらの理由があるんだから…!と言われた通り自分の胸に問いかけてみても沖田の意地の悪い顔やら悪すぎる顔をした姿やらサディスティック的な行動で他人をいたぶってる所やらたまに街中でペットを連れて歩いてドン引きしたことやら土方さんに凄い嫌がらせをしてる場面とか、もうどう足掻いても信用なんて出来るはずもない場面ばかりしか浮かばない。
…あ、でも土方さん…そうか、土方さんでちょっと思い出したかもしれない…
ハッと心当たりがある、という表情へと変えたわたしに目ざとく気がついた翔太くんは身を乗り出して問いかけてきてそんなに可愛い姿しながらオッサンでしかないよ、と冷めた視線を送りながらも、「わた、し…」と口開く。
わたし、
「……そういえば……」
お?まさか恋でもしたか?お?お?とにやけた正真正銘の生粋のオッサンと精神年齢が既に転生したことでオッサンの二人へと告げる。
「沖田と土方をおちょくってる時が一番楽しい」
「「………」」
その事実は惚れた腫れただのという甘酸っぱい物とは程遠く、土方がとことん可哀想になるソレでしかなく、二人はなんともいえない視線をこちらへやって目をそらした。
「しかしいくら源外でもよくあんな高性能なグッズ作れたな、幻覚とかさ」
「そーねー。チートだよね」
「ああ、ありゃあ物凄くチートな科学者技術者がこぞって創り出した、お色気時にチートな幻覚を発動させるただのカツラだ。それに手ェ加えただけだからな。それがツテから俺に渡ってきただけだ」
「…それって……つまり……」
「やだ…やだ…そんなの今まで装着してたなんてやだ……不潔…大人って不潔…ふけつふけつふけつ…」
「天才は昔から変人って言われてきたからな……可哀想に……」
「元はといえばくんがぁああ!うわぁあん馬鹿ぁああ」
「よしよし心の底から悪かった俺もちょうドン引き」
「男のロマンが分からないヤツらだな」
6.新たな問題発生─やっとそれっぽく疑われてきた
とりあえず都合悪くなったら例のウィッグ被って妙のふりして凌げ、と言われて実行しながら過ごすことなり、わたしはお妙のような着物は常備していたのだった。もうそれには慣れっこであり苦痛というものもあまりない。
成り代わりくんが帰ってきた今一人で悩むという苦しみから解放されたのもあってむしろ前よりも快適に街を練り歩けたのだった。
街中で偶然出くわすと心臓が悪い意味でドンドコと痛みだす沖田とその時もすれ違ったけど無視。心臓は痛まない。だっていつもコイツと出くわす時ってヅラしてないすっぴんの時だけだったし、志村妙としてなら絡まれるような接点築いてないから!
と。
「なんでィ、オメー身長でも伸ばす手術にでも手ェ出したか?」
「え」
「あ〜駄目だな〜いくらタッパ伸ばしたからって顔に出ちゃってるモンな〜染みったれたおこちゃま精神がな〜残念だな〜ァ」
「ど、ど、どち、どちち、どちらさまま」
「どちち?どちちらさままま何てダサい名前してませんぜ舐めてんのかチビ」
「…あああああっ!!!」
舐めてた。舐めてかかってた。調子ぶっこいて歩いてた。心臓はヅラをしてない時に出くわした時よりも痛んだ。ついでに胃もキリキリと痛み出した。
なんで沖田にも銀さんと同じ作用が働いてんのかー!
と、いうのが事の発端で。ネチネチと絡まれつつも転がるようにソイツから逃げ出し、
志村家に帰宅したあとの本日の緊急家族会議の議題(とか言ってみるけど実際は翔太くんとわたしだけ)だ。
「マジでか」
「マジでよ」
「源外さんに聞いてみないとわかんねぇな…銀さんには効かないようにしたはずだけど」
「あれくんの仕業かよぉ!」
「よしよし女の子が汚い言葉使わないの。…んーでもそうすると困ったなあ」
「…くん私のこと凄い子供扱いするのね」
「ああ、なんか妹みたいで」
「んん、でも絵面はいい」
「お妙の姿じゃ姉と妹だよなぁ。格好つかねぇな」
「ぜんぜん格好ついてるの私思うの」
そして家族会議だとか言いながらただの雑談(女子トークまがい)に脱線していき、結論は五分もかからず出た。源外さんに聞く他ないと結論付けたわたしたちはさっそく彼の元へと向かう。わたしはもちろんお妙ちゃんが二人!なんてなっても困るから今回ばかりは開き直ってヅラを外してくんの隣へと。
尋ねると彼は相変わらず油に塗れてせっせと何かに取り組んでいたけれど、わたし達がきたことに気がつくと作業を中断して汗を拭った。気さくに「よっ」「よォ」とか挨拶してるのを見るに親しかったのかもしれない、と少し驚いた。
そして本日の議題、
ヅラの作用が坂田銀時以外に沖田にも作用している件について、を相談してみると。
あんぐり。もう唖然とするしかなかった。
「俺ァあの時坂田銀時なんて野郎は知らなかったんだから、ピンポイントで坂田銀時にだけ効果を外すなんて出来なかったんだよ」
「…と、いうと?」
くんが神妙な面持ちで眉を寄せて問いかけると、源外さんは細かに説明してくれる。
「使用者が心から信用してる相手にだけ無効にさせることにした。心音と体温で察知するようにな。呼吸も同じくだな」
「あのウィッグ心音とか体温まで感知してんの?すげー。流石源外」
「褒めても醤油くらいしかでねーぞ」
「あ、醤油は出るんだ」
なにそれすごい流石!と素直に感心したい所だけど源外さんは源外さんだったし、あ、お醤油切れてたんだよねちょっと欲しい、と台所事情を思い出してそんな風に考えてしまったわたしもわたしだけど、ちょっと待ってほしい。
待て。それだとさ、おかしいんじゃないでしょうか。
「ちょ、ちょ、あの…ちょっと待って、二人ちょっと待って、なんで、銀さんは分かるよ、わたし最初から一番当て…けふっ信用してたから、」
「当てって言っちゃったよ」
「でもね、待ってほしい、沖田総悟が当てになる人物なのか、今一度考えてほしい」
わたしが必死な形相で言うと「一番信用しちゃいけねーヤツだな」とスッパリとくんはいった。
「サディスティック的な意味で。つーかすげー開き直ったな」
「馬鹿ー!なんで沖田が無効なのー!あてにするよあんなんでもアレでアレだしー!」
「嬢ちゃんそりゃあ自分の胸に聞くしかねえよ」
「心当たりないの?」
自分の胸に聞け、とか言われても彼の人となりを一方的に知りすぎてるわたしだからこそ、そういった意味で信用なんてするはずがない。出来るはずがないサディスティック的な意味で。
源外さんやくんはオッサンのようにニヤニヤと恋でもしちゃってんじゃね〜の〜?とこちらを見てるけどありえないと思いつつ、こんなことになってしまった以上何かしらの理由があるんだから…!と言われた通り自分の胸に問いかけてみても沖田の意地の悪い顔やら悪すぎる顔をした姿やらサディスティック的な行動で他人をいたぶってる所やらたまに街中でペットを連れて歩いてドン引きしたことやら土方さんに凄い嫌がらせをしてる場面とか、もうどう足掻いても信用なんて出来るはずもない場面ばかりしか浮かばない。
…あ、でも土方さん…そうか、土方さんでちょっと思い出したかもしれない…
ハッと心当たりがある、という表情へと変えたわたしに目ざとく気がついた翔太くんは身を乗り出して問いかけてきてそんなに可愛い姿しながらオッサンでしかないよ、と冷めた視線を送りながらも、「わた、し…」と口開く。
わたし、
「……そういえば……」
お?まさか恋でもしたか?お?お?とにやけた正真正銘の生粋のオッサンと精神年齢が既に転生したことでオッサンの二人へと告げる。
「沖田と土方をおちょくってる時が一番楽しい」
「「………」」
その事実は惚れた腫れただのという甘酸っぱい物とは程遠く、土方がとことん可哀想になるソレでしかなく、二人はなんともいえない視線をこちらへやって目をそらした。
「しかしいくら源外でもよくあんな高性能なグッズ作れたな、幻覚とかさ」
「そーねー。チートだよね」
「ああ、ありゃあ物凄くチートな科学者技術者がこぞって創り出した、お色気時にチートな幻覚を発動させるただのカツラだ。それに手ェ加えただけだからな。それがツテから俺に渡ってきただけだ」
「…それって……つまり……」
「やだ…やだ…そんなの今まで装着してたなんてやだ……不潔…大人って不潔…ふけつふけつふけつ…」
「天才は昔から変人って言われてきたからな……可哀想に……」
「元はといえばくんがぁああ!うわぁあん馬鹿ぁああ」
「よしよし心の底から悪かった俺もちょうドン引き」
「男のロマンが分からないヤツらだな」
