第二十一話
6.新たな問題発生やっとそれっぽく疑われてきた
真選組に嗅ぎ回られてる。
それは確定していた。なんでかってこの間のことがあったから当然…というのもあった気がするけども、なんていうか…あんぱんの人が…あんぱんの人としか言えないあの人がストーカー(偵察ともいう)をしてる気がするんだよね。
ちょこちょこ姿見える気がするんだよね。現代日本の女子高生に気取られるレベルのアレって大丈夫なの真選組、いいのかそれで。

そんな緩々としたアレでアレだとしても困ったことに変わりはない。
わたしはくんに相談することにした。
志村家に我が物顔で居座っているけれど、新八くんも新八くんで快く迎えてくれて居心地が良いことこの上ない。
…というかここ暫く新八くんは知る由もないけどずっと暮らしてた勝手知ったるなんとやら。居心地がよくないはずがなかった。




「ありのままを話せばいいんじゃねぇの?」


すると、万事屋のバイトで新八くんがいないことを良いことに、お妙ちゃんの姿でガサツにあぐらをかいて、男言葉で話すくんは、見かけが見かけだけにシュールだった。
こういう女の子がいてもおかしくないのは分かる。
でもお妙ちゃんはそんなことしないのでいつまで経ってもシュールにしか見えないものでして。

…脱線したけど、ありのまま?わたしの全部を話せって?それはまずいんじゃないのお…?芋ずる式にもしかしたら運悪くくんのことまでバレてしまうかもしれないのに。


「え?トリッパーですって?大胆ね」


若干呆れたように言うと、「ちげーって」と否定の言葉がすぐ出て来た。


「ちげーって。だからこの世界での事実を話せばいい」
「んえー…?……あ、そっか」
「な?」


すると補足されたその言葉はよくよく考えると妙案で。
単純なことだったのに何故気がつかなかったのだろうと目からウロコ。
全部が全部上手く行ってくれるとは思わないけど誤魔化すのには都合がいいことだった。
…なんていうか、意外と。


くんあったまいーね。回転速いっていうか」
「伊達に妹の妄想話聞いてきてねぇよ」
「妹さん根っからの……、うん、だったんだね」
「兄をこっちの世界に引きずり込もうとする妹なんてアイツくらいしかいねーよ」
「なんでちょっと誇らしげ?」


ちょっと見直したー、と思っていたら最後の最後で株が下がって元通りになった。
シスコンは大いに結構、微笑ましいとは思うけど、素直に夢の世界に引き込まれる誇らしげな男子学生は日本中探してもくんしかいないんじゃ、とまで思うほどに珍しいと思うわよ、わたし。
ちょっと違うけど腐男子とかいう言葉も流通してきたくらいだし、夢男子…
うんそれもどうなのかしら、と思いながらお茶をすする。
ああ今日も平和だあー…。
わたしは沖田の言う通り無職に舞い戻ってしまっている。ただ、これからはチートグッズがあるんだから分担して行こうよ、名前くんの負担も減るしわたしももう慣れてるしさ、ただ飯食らい嫌だし、という感じになっているので、
脱無職を目指したいところである。

そんなこんなで。





「補導やら深夜の徘徊やらが続いて流石に俺たちとしても仕事上見逃せなくてな、お前のことを調べさせてもらった。…それで今日は呼び出しした訳だけどな…
……まあ言わなくても理由はお前自身分かってるだろうが」


平和な日常もつかの間。
呼び出しくらいました。誰にって、お巡りさんに。真選組、警察、深夜徘徊の未成年を見過ごせない義務、そして個人情報を吐き出さないために独自で調べた。
するととんでもない事実が発覚。
…この顔見知りの少女はなんと戸籍がなかった!それだけならこのご時勢まだまだ悲しきかな、よくある孤児として受け止められても、
それよりもっととんでもない事実が明るみになってしまった────
…ってことで?

言わんとしてることはわかる。「戸籍がない」こと、それだけがただ問題になってるんじゃないことも、分かる。
自分の蒔いた種とはいえ馬鹿正直に「異世界から来た女子高生なんです!」なんてお涙頂戴する気もない、…したくも、ない。わたしはわたしのことを、軽はずみに話せるはずがない。だって、なんて言えばいい。自分のことを言い訳に使いたくない。
優しい人向こうの人たちのことを、そんなことに。

だったら。


「母は(この世界では)いません。父も(同じく)居ません、存在自体を認めてもらえませんでした(トリップしても戸籍ないパターンだったから)今まで隠れて(お妙として)生きてきました、日の出を浴びたのは(お妙の皮を脱いだのは)今回が初めてです」

と、言葉の裏の何もかもが分からない無垢な少女のふりをしてお涙頂戴、とでもいうように俯き震えた声で言うと、
あくまでこっそりと出生届も出されず生まれた子供だということを言わんとしてるのだと分かっただろう。
そこで「そうじゃない」と追求されるだろうか、と思っていたら意外にもあっさり。


「悪かった」


土方のその言葉を聞いた瞬間思わず目を見張ってしまったけど、俯いていたので分からないと、…たぶん思う。

無罪放免。何も知らない無垢は向こう側だった?いやいやまさか。
警察が調べてそんな爪の甘いことを、そもそも警察云々の前に"この人たち"に限ってそんなことはないでしょお…

それでも。わたしはそれに乗っかるしかない。


「ううん。わたし、そこらへん全然気にしてないの、う、それよりドラマの再放送新シリーズ始まるから帰っていい?」
「…ああ、まあ」
「ばいびー!また会う日までアデュー!」


その彼らの言葉の裏はわからない。けれど、裏の裏以前に、裏も何もかも。ぜんぜん知らない無垢な少女の顔で、乗ってあげる。
それでもきっと彼らと正面から向き合う日は来るのだろうと思いながら。








「…そういうガキが居ないとは言わねぇ。確かに日の出を浴びれないガキはいる。だが…」
「歩いた時に足跡が残らないようじゃ、ソイツは人間じゃない足の無い幽霊みたいなモンですねィ」
「その例えやめろォォ!!」


「あー!くっそ面倒くせぇ、再放送始まっちまったよ、録れてんだろうな」
「あんな低レベルな次元の話は俺の趣味じゃねェ。…アン○ンマン録りましたぜィ」
「幼児返りにも程があるだろうがァアアアなんでだよォオオ!!」
「山崎があんパン食いたいって言ってたから叶えてやろうと思いましてねィ」
「次元は越えられねぇんだよ、越えたくても越えられねぇんだよ、どんなに美味そうなマヨネーズがそこに映ってても手には入らねぇんだよ」
「あ〜夕日がきれいだな〜」
「もうお前帰れ」
2016.6.30

QLOOKアクセス解析