第十八話
4.探し人と探し物─気付きと手紙
しかし、だ。
「フルーツ牛乳派はお前達を決して許さない」
「上等だフルーツ牛乳派かかって来いやァアアアア!!!!つかオメーフルーツ牛乳派なの風呂上りにゴクゴク飲んじゃうの?こわっ」
「いちご牛乳は甘え、コーヒー牛乳は子供の背伸び、フルーツ牛乳こそ至高」
「てめっいちご牛乳は確かに甘いけど甘くねえよ!!
…あれっ甘くないけど甘い、甘いけど甘い、甘くないけど甘くて甘くてあまくて」
「こわい。いちご牛乳を飲み続けるとああなるのね。こわいよ私お母さん。」
「お前いつの間にそんな荒んだ目ェするようになったの、つかキャラ変わってね」
途中で彼とわたしの相容れない点を発見した。知ってたけど忘れてた。
そう彼はわたしの宿敵いちご牛乳派だ。対してわたしはフルーツ牛乳派。もしここでただのプレーンな牛乳派とコーヒー牛乳派がやってきたら更なる戦争が起こってる。敵はいちご牛乳派だけにあらずだ。
これは目玉焼きに何をかけるのか、たけのこなのかきのこなのか、卵は半熟なのか卵を薄く焼いて包む派なのか。
そんな相容れない何かなのだ。…ちっさ!と言われればちっさいことこの上ないけど、食の拘りって結構深いわよね。食べ物の恨みは恐ろしい、みたいな。
そしてキャラ変わってね?というツッコミに対してはスルー。顔バレしてる人間に作るキャラなんてもうない。ただ他の人が居たらお妙ちゃんに成らせて頂きますけれど。
バチバチと火花を飛ばして、通りすがりの道行く人が逃げてく位には舌戦を繰り広げたけど決着がつくはずもなく。
「おう、この勝負はまたつけっかよい子は寝る時間だかんな」
「そうねよい子は寝る時間ねっていうかよい子どころか大人も寝る時間ね夜中の3時半っていったいどうなってんの」
「お前家に連絡入れてねーだろ、新八が大好きな姉上の朝帰りなんて知ったらどうなるか、」
「わぁあああ帰る!帰るから!坂田銀時っていう男に理不尽に拘束されて(フルーツ牛乳への言葉の)乱暴されたっていっとく!」
「()の中もちゃんと説明しとけよてめっ俺がどうしようもない大人だって勘違いされたらどうすんの!?」
「大丈夫もうそれは分かってると思うから」
「おうおうおうおう言ってくれんな大人の魅力も分かんねェお子ちゃまがよォオ帰って寝ろフルーツ牛乳!」
「帰って手洗いうがいしてちゃんと布団で寝なさいよいちご牛乳」
「あれやさしっ」
そんなこんなで姉上の朝帰り事件は新八くんにとって案の定上司の姉上に拘束乱暴事件へと発展したりして、なんだかんだ賑やかで楽しい日々が続いた。
新八くんと坂田銀時のやり取りが笑えること。坂田銀時とのポンポン続くやり取りの楽しいこと。
なんだかんだ彼に救われた自分がいる。なんだかんだ神にも等しい存在だと勝手に思ってる彼にやっと救われたんだと思い込んでる自分が居る。
あれは確かにお妙に向けてだけれど、わたしという存在を認識した上で。
お妙として偽ったのではない、わたし自身が投げかけた言葉への救いの言葉だったと。
あのふざけた言葉で安らかになってしまってるのだからわたしもほんと、馬鹿みたいだ。
それでも志村妙としての生活は続く。今日もキャバ嬢としての仕事を終えて朝帰り…というか朝あがりというか、日の出と共に帰路につく。
また生活習慣どうにかしなきゃなあ、とぽつぽつ呟きながら歩いていると、
…目の前になんとなくデジャヴ。
「だ、いじょぶですか!?」
目の前に人が倒れてる。いったい何があったのか褌一丁で倒れてる。白目むいて倒れてる。
大方この街、こんな風に倒れてると博打でもして大負けしてひん剥かれた大人ってのが多いんだけども、現代日本人としてはこれだけ異質な光景はなかなか見慣れないし自業自得でも一大事だと瞬間的に動いちゃうし、何より見るに耐えない、
…ああいつかの日もあの川原でそうだったな、と思い出せばああもうデジャヴの再来。
倒れてる彼は、近藤さんだった。
近藤さんだと気がつくより前に反射的に差し出したハンカチが日の出の光を浴びた。
日の出の光を同じく神々しいまでに浴びながら倒れる彼はパチリと目をあけてこちらを見て、ガハリと勢いよく身体を起こす。
酒臭い。呑んで忘れて彼も博打でもしてハッスルしたい夜があったんだろうか。見ればちょっと目の下に隈があるかもしれない。
ハンカチを差し出した手をそのままに固まるわたしの姿を見て近藤さんはまたいつかのように眉を下げて笑う。
────お妙ちゃんならばこんな風にこの人に対して殊勝に振舞わないと気がついたのは今この瞬間か、今彼の口から出た言葉を聞いてからだったのか。
「君は優しい、…それでいて悲しそうに笑う、お妙さんとよく似てるけど、やっぱり違う」
その言葉がどんな意味を持つのか。すぐに分かるものではない。なんせ突然の言葉と突然のシチュエーションに混乱しているので。
けれど考えれば分かってしまう。考えればそれはとっても単純なことだったから。
わたしには手にとるように分かってしまうことだったから。
可能性やもしかしたら、という考えならひとつしか浮かばない。
────成り代わりくんは、お妙ちゃんとして近藤さんに、姿を消してしまってからも会っていたのだろうか。それ以前にもしかしてわたしの知らない所で他の知り合いの前にも姿を現してた?
近藤さんは聡くお妙ちゃんへのラブフィルター故にか気がついてしまったようだけど、今まで姿形がどれだけ一致していようと中身別人のわたしが疑われなかったのは、
…本物がちょくちょく姿を見せて違和感を緩和させてくれた、とか、
いやそれは深読みのしすぎか、と思ってたら「昨日蹴りをくれたお妙さんは勿論優しい、…が、同じように悲しそうに笑いながらも、凛々しい」と近藤さんが裏付けるようなことを言ってくれた。惚気たようにふにゃふにゃしてるし、酒のせいか呂律が回ってない。これ半分意識のない寝言なんだろうなあ。きっといつものように酒が入ってなかったら笑って悲しそうに笑いつつ、黙認していてくれたんだろうか。優しいこの人はいつまでも。
というか、あの、昨日て。つい昨日て。探しても見つからなかったすれ違いもしなかった成り代わりくんがこんな近くでずっと近くでつい昨日て。
あとツッコミたい所があるとすれば「蹴りをくれたお妙さん」「蹴りをくれなかったお妙さん」で区別する近藤さんにドン引きした。
成り代わりくんが結構な立ち振舞いしてるというかそういう性格してるのかというのはちょっと察してた。あの働いてたお店での強盗撃退の件とか。
この区別の仕方を見るに結構蹴りいれられたり殴られたり手足が出るタイプなんだろうなあとか。新八くんは「いつもはこんなゴリラじゃないんですぅうう」とか言ってたことあったから彼の前では割かし本物よりもしとやかな姉上でいたのかもしれないけど、うん、
…近藤さんと会った時思わず手が足が出たんだね。よく考えたら外見お妙ちゃんのまま女だから近藤さんに男としてアプローチされたのかもしれないけど、中身の男心としては「ゲェッ!」だっただろうと容易に想像できてしまって。
それで。
「お妙さんに、よろしく」
彼の今度は悲しそうじゃない、彼らしい優しい笑顔と共にかけられた言葉に、
わたしは。
4.探し人と探し物─気付きと手紙
しかし、だ。
「フルーツ牛乳派はお前達を決して許さない」
「上等だフルーツ牛乳派かかって来いやァアアアア!!!!つかオメーフルーツ牛乳派なの風呂上りにゴクゴク飲んじゃうの?こわっ」
「いちご牛乳は甘え、コーヒー牛乳は子供の背伸び、フルーツ牛乳こそ至高」
「てめっいちご牛乳は確かに甘いけど甘くねえよ!!
…あれっ甘くないけど甘い、甘いけど甘い、甘くないけど甘くて甘くてあまくて」
「こわい。いちご牛乳を飲み続けるとああなるのね。こわいよ私お母さん。」
「お前いつの間にそんな荒んだ目ェするようになったの、つかキャラ変わってね」
途中で彼とわたしの相容れない点を発見した。知ってたけど忘れてた。
そう彼はわたしの宿敵いちご牛乳派だ。対してわたしはフルーツ牛乳派。もしここでただのプレーンな牛乳派とコーヒー牛乳派がやってきたら更なる戦争が起こってる。敵はいちご牛乳派だけにあらずだ。
これは目玉焼きに何をかけるのか、たけのこなのかきのこなのか、卵は半熟なのか卵を薄く焼いて包む派なのか。
そんな相容れない何かなのだ。…ちっさ!と言われればちっさいことこの上ないけど、食の拘りって結構深いわよね。食べ物の恨みは恐ろしい、みたいな。
そしてキャラ変わってね?というツッコミに対してはスルー。顔バレしてる人間に作るキャラなんてもうない。ただ他の人が居たらお妙ちゃんに成らせて頂きますけれど。
バチバチと火花を飛ばして、通りすがりの道行く人が逃げてく位には舌戦を繰り広げたけど決着がつくはずもなく。
「おう、この勝負はまたつけっかよい子は寝る時間だかんな」
「そうねよい子は寝る時間ねっていうかよい子どころか大人も寝る時間ね夜中の3時半っていったいどうなってんの」
「お前家に連絡入れてねーだろ、新八が大好きな姉上の朝帰りなんて知ったらどうなるか、」
「わぁあああ帰る!帰るから!坂田銀時っていう男に理不尽に拘束されて(フルーツ牛乳への言葉の)乱暴されたっていっとく!」
「()の中もちゃんと説明しとけよてめっ俺がどうしようもない大人だって勘違いされたらどうすんの!?」
「大丈夫もうそれは分かってると思うから」
「おうおうおうおう言ってくれんな大人の魅力も分かんねェお子ちゃまがよォオ帰って寝ろフルーツ牛乳!」
「帰って手洗いうがいしてちゃんと布団で寝なさいよいちご牛乳」
「あれやさしっ」
そんなこんなで姉上の朝帰り事件は新八くんにとって案の定上司の姉上に拘束乱暴事件へと発展したりして、なんだかんだ賑やかで楽しい日々が続いた。
新八くんと坂田銀時のやり取りが笑えること。坂田銀時とのポンポン続くやり取りの楽しいこと。
なんだかんだ彼に救われた自分がいる。なんだかんだ神にも等しい存在だと勝手に思ってる彼にやっと救われたんだと思い込んでる自分が居る。
あれは確かにお妙に向けてだけれど、わたしという存在を認識した上で。
お妙として偽ったのではない、わたし自身が投げかけた言葉への救いの言葉だったと。
あのふざけた言葉で安らかになってしまってるのだからわたしもほんと、馬鹿みたいだ。
それでも志村妙としての生活は続く。今日もキャバ嬢としての仕事を終えて朝帰り…というか朝あがりというか、日の出と共に帰路につく。
また生活習慣どうにかしなきゃなあ、とぽつぽつ呟きながら歩いていると、
…目の前になんとなくデジャヴ。
「だ、いじょぶですか!?」
目の前に人が倒れてる。いったい何があったのか褌一丁で倒れてる。白目むいて倒れてる。
大方この街、こんな風に倒れてると博打でもして大負けしてひん剥かれた大人ってのが多いんだけども、現代日本人としてはこれだけ異質な光景はなかなか見慣れないし自業自得でも一大事だと瞬間的に動いちゃうし、何より見るに耐えない、
…ああいつかの日もあの川原でそうだったな、と思い出せばああもうデジャヴの再来。
倒れてる彼は、近藤さんだった。
近藤さんだと気がつくより前に反射的に差し出したハンカチが日の出の光を浴びた。
日の出の光を同じく神々しいまでに浴びながら倒れる彼はパチリと目をあけてこちらを見て、ガハリと勢いよく身体を起こす。
酒臭い。呑んで忘れて彼も博打でもしてハッスルしたい夜があったんだろうか。見ればちょっと目の下に隈があるかもしれない。
ハンカチを差し出した手をそのままに固まるわたしの姿を見て近藤さんはまたいつかのように眉を下げて笑う。
────お妙ちゃんならばこんな風にこの人に対して殊勝に振舞わないと気がついたのは今この瞬間か、今彼の口から出た言葉を聞いてからだったのか。
「君は優しい、…それでいて悲しそうに笑う、お妙さんとよく似てるけど、やっぱり違う」
その言葉がどんな意味を持つのか。すぐに分かるものではない。なんせ突然の言葉と突然のシチュエーションに混乱しているので。
けれど考えれば分かってしまう。考えればそれはとっても単純なことだったから。
わたしには手にとるように分かってしまうことだったから。
可能性やもしかしたら、という考えならひとつしか浮かばない。
────成り代わりくんは、お妙ちゃんとして近藤さんに、姿を消してしまってからも会っていたのだろうか。それ以前にもしかしてわたしの知らない所で他の知り合いの前にも姿を現してた?
近藤さんは聡くお妙ちゃんへのラブフィルター故にか気がついてしまったようだけど、今まで姿形がどれだけ一致していようと中身別人のわたしが疑われなかったのは、
…本物がちょくちょく姿を見せて違和感を緩和させてくれた、とか、
いやそれは深読みのしすぎか、と思ってたら「昨日蹴りをくれたお妙さんは勿論優しい、…が、同じように悲しそうに笑いながらも、凛々しい」と近藤さんが裏付けるようなことを言ってくれた。惚気たようにふにゃふにゃしてるし、酒のせいか呂律が回ってない。これ半分意識のない寝言なんだろうなあ。きっといつものように酒が入ってなかったら笑って悲しそうに笑いつつ、黙認していてくれたんだろうか。優しいこの人はいつまでも。
というか、あの、昨日て。つい昨日て。探しても見つからなかったすれ違いもしなかった成り代わりくんがこんな近くでずっと近くでつい昨日て。
あとツッコミたい所があるとすれば「蹴りをくれたお妙さん」「蹴りをくれなかったお妙さん」で区別する近藤さんにドン引きした。
成り代わりくんが結構な立ち振舞いしてるというかそういう性格してるのかというのはちょっと察してた。あの働いてたお店での強盗撃退の件とか。
この区別の仕方を見るに結構蹴りいれられたり殴られたり手足が出るタイプなんだろうなあとか。新八くんは「いつもはこんなゴリラじゃないんですぅうう」とか言ってたことあったから彼の前では割かし本物よりもしとやかな姉上でいたのかもしれないけど、うん、
…近藤さんと会った時思わず手が足が出たんだね。よく考えたら外見お妙ちゃんのまま女だから近藤さんに男としてアプローチされたのかもしれないけど、中身の男心としては「ゲェッ!」だっただろうと容易に想像できてしまって。
それで。
「お妙さんに、よろしく」
彼の今度は悲しそうじゃない、彼らしい優しい笑顔と共にかけられた言葉に、
わたしは。
2016.3.13
