第十六話
4.探し人と探し物─気付きと手紙
昼間、スーパーで買い物を済ませた後にチャイナ娘こと、神楽ちゃんと出会った。
「姉御ォ!」
「…あら神楽ちゃん、あなたもお買いもの?」
「ウン!酢昆布買いにきたネ!」
「今日はいい酢昆布日和だものね、空が…あの雲なんてホラ」
「ほんとネ!アレ酢昆布違いないネ!あ…」
「…ラ○ュタね」
「ぎぎぎ銀ちゃあああん!!!」
大変動揺して去っていく背中に、ありえない会話のキャッチボールをしたと自覚していたけど、なんか、もう、このくらい適当でいいのかもしれない、この世界の人とは…と引きつり笑いをしてしまった。
たまに出くわす彼女とは、未だに距離感を図りかねてる。…まあ志村妙として神楽ちゃんと接すればいいだけなんだけど突拍子もないあの無邪気な性格はいいキャラしてると思うんだけど、そう突拍子がない。思いもつかない切り替えしをされることがある。
つまりは神楽ちゃんは嫌いなはずがないむしろ大好きなんだけど、
演技するにあたってはとても苦手なタイプだった。
わたしはこうして日々、かぶき町の住人として生きている。志村妙として疑われることなく順調に生きていた。
「…よし、いい感じ」
例えば朝、新八くんが目を覚ます前に朝食を作って惣菜だと誤魔化すこと。その後すまいるに出勤してキャバ穣として働くこと。セクハラするおじさんをあしらうこと。
掛け持ちしたバイトにもこなれてちょっとだけではあるけど金銭的に余裕を作れたこと。
志村家の家計簿を当たり前のようにつけること。勝手知ったるとでもいうように家の掃除をすること。日常の何もかもをこなすこと。
全てが順調。全てか当たり前へと変わる。それが異常だと分かってても尚そうする他ないし、どうでもいい、と全て投げ捨てられる程に非情にもなれないし。
デメリットだけじゃなくメリットもある。それは戸籍のないわたしが志村妙になることで飢えることなくまともに働いて生きれること。母の指輪まで売ってまで生きたい理不尽に死にたくない、と望んだくらいなんだからある意味では成り代わりくんとはギブアンドテイクなのかもしれない、これでいいのかもしれない、例え他人を騙していたんだとしても、と納得して誤魔化すように生きる日々。
「いってらっしゃい新ちゃん」
「いってきます。…あ!今日朝刊取るの忘れてた…!」
「今朝は慌しかったものね。私が取っておくわ。ホラ遅刻」
「あ、はい!いってきます!」
こんな風に姉として弟を送り出すのにも慣れてきて、完全に姿が見えなくなった頃、そういえば今日はすまいるの仕事もバイトもないや、久しぶりだなあ、と息をついてポストを開けた。
朝刊と昨日取り出し零したのか葉書やらなんやらが入ってる。どうせどこかの店舗からの物だろうとおざなりに確認して一まとめにしたんだけども。
ひとつ。見慣れない白い封筒が目に入った。…手紙だ。こんな畏まった手紙を送って来られることは今までなかった。
知人からの郵便物も葉書で近況報告、くらいの簡易的なものしかなかったし、それはそれで嬉しいものなんだろうけど、と差出人を確認しようとひっくり返してみたけど書いてない。
ただ「志村妙様」と達筆な字で書いてあっただけだから…たぶん、成り代わりくん宛。でも彼はいないから…
プライベートの侵害とは思っても急ぎの用だったらということを考えるとわたしが開封した方がいいのかも、そういうこともひっ包めて任された、成り代わりの成り代わりをしてる、っていうことで、と理由付けて玄関をあがり、居間へと向かい。
机の上に新聞をバサバサとおいて、カッターで開封した。
そしてわたしは。
「……、……」
わたしは、字を追ってからどれくらい経っただろう。
声も上げずに表情も変えることもなく、ただただ、涙をこぼして泣いてた。
差出人の名前はついぞ明確には書かれてなかったけど、文章の中で自己紹介されてた。
例えばこれは間違って新八くんが読んでしまっても誰が読んでも、まるで暗号のようでわたしにしか分からない理解できないような言葉を選んで。
便箋には確かに『志村妙様』と宛名が書かれていたけどこれは正真正銘『わたし』へと差し出された手紙であり。
差出人は、深く考えなくても決まっていた、わかってた、だから。
今度こそわたしは、声をあげて泣いた
4.探し人と探し物─気付きと手紙
昼間、スーパーで買い物を済ませた後にチャイナ娘こと、神楽ちゃんと出会った。
「姉御ォ!」
「…あら神楽ちゃん、あなたもお買いもの?」
「ウン!酢昆布買いにきたネ!」
「今日はいい酢昆布日和だものね、空が…あの雲なんてホラ」
「ほんとネ!アレ酢昆布違いないネ!あ…」
「…ラ○ュタね」
「ぎぎぎ銀ちゃあああん!!!」
大変動揺して去っていく背中に、ありえない会話のキャッチボールをしたと自覚していたけど、なんか、もう、このくらい適当でいいのかもしれない、この世界の人とは…と引きつり笑いをしてしまった。
たまに出くわす彼女とは、未だに距離感を図りかねてる。…まあ志村妙として神楽ちゃんと接すればいいだけなんだけど突拍子もないあの無邪気な性格はいいキャラしてると思うんだけど、そう突拍子がない。思いもつかない切り替えしをされることがある。
つまりは神楽ちゃんは嫌いなはずがないむしろ大好きなんだけど、
演技するにあたってはとても苦手なタイプだった。
わたしはこうして日々、かぶき町の住人として生きている。志村妙として疑われることなく順調に生きていた。
「…よし、いい感じ」
例えば朝、新八くんが目を覚ます前に朝食を作って惣菜だと誤魔化すこと。その後すまいるに出勤してキャバ穣として働くこと。セクハラするおじさんをあしらうこと。
掛け持ちしたバイトにもこなれてちょっとだけではあるけど金銭的に余裕を作れたこと。
志村家の家計簿を当たり前のようにつけること。勝手知ったるとでもいうように家の掃除をすること。日常の何もかもをこなすこと。
全てが順調。全てか当たり前へと変わる。それが異常だと分かってても尚そうする他ないし、どうでもいい、と全て投げ捨てられる程に非情にもなれないし。
デメリットだけじゃなくメリットもある。それは戸籍のないわたしが志村妙になることで飢えることなくまともに働いて生きれること。母の指輪まで売ってまで生きたい理不尽に死にたくない、と望んだくらいなんだからある意味では成り代わりくんとはギブアンドテイクなのかもしれない、これでいいのかもしれない、例え他人を騙していたんだとしても、と納得して誤魔化すように生きる日々。
「いってらっしゃい新ちゃん」
「いってきます。…あ!今日朝刊取るの忘れてた…!」
「今朝は慌しかったものね。私が取っておくわ。ホラ遅刻」
「あ、はい!いってきます!」
こんな風に姉として弟を送り出すのにも慣れてきて、完全に姿が見えなくなった頃、そういえば今日はすまいるの仕事もバイトもないや、久しぶりだなあ、と息をついてポストを開けた。
朝刊と昨日取り出し零したのか葉書やらなんやらが入ってる。どうせどこかの店舗からの物だろうとおざなりに確認して一まとめにしたんだけども。
ひとつ。見慣れない白い封筒が目に入った。…手紙だ。こんな畏まった手紙を送って来られることは今までなかった。
知人からの郵便物も葉書で近況報告、くらいの簡易的なものしかなかったし、それはそれで嬉しいものなんだろうけど、と差出人を確認しようとひっくり返してみたけど書いてない。
ただ「志村妙様」と達筆な字で書いてあっただけだから…たぶん、成り代わりくん宛。でも彼はいないから…
プライベートの侵害とは思っても急ぎの用だったらということを考えるとわたしが開封した方がいいのかも、そういうこともひっ包めて任された、成り代わりの成り代わりをしてる、っていうことで、と理由付けて玄関をあがり、居間へと向かい。
机の上に新聞をバサバサとおいて、カッターで開封した。
そしてわたしは。
「……、……」
わたしは、字を追ってからどれくらい経っただろう。
声も上げずに表情も変えることもなく、ただただ、涙をこぼして泣いてた。
差出人の名前はついぞ明確には書かれてなかったけど、文章の中で自己紹介されてた。
例えばこれは間違って新八くんが読んでしまっても誰が読んでも、まるで暗号のようでわたしにしか分からない理解できないような言葉を選んで。
便箋には確かに『志村妙様』と宛名が書かれていたけどこれは正真正銘『わたし』へと差し出された手紙であり。
差出人は、深く考えなくても決まっていた、わかってた、だから。
今度こそわたしは、声をあげて泣いた
2016.1.28
