第十三話
3.バレた 曰く、友達が出来たらしい
また、すれ違いですね、と男は言った。
切なげなその声が、やけに耳に残る。その全ては多分…







決闘は、坂田銀時の圧勝だった。


圧勝、というには語弊があるけど一枚上手だったのは確かだ。…それが近藤さんに渡した木刀に汚い手で細工をして、一振りすればたちまち折れて使い物にならないようにして、慌てたその隙にボコボコにする、というガチな"汚い手"であったとしても。
頭を使い相手の裏をかいたんだから圧勝の手段を問わなければこれは圧勝。坂田銀時の勝ちだ。

新八くんとチャイナっ娘の神楽ちゃんは見損なった!と言わんばかりに上司の坂田に飛び蹴りして、新八くんや神楽ちゃんなんて「暫く休暇をもらいます」「二度と私の前に現れないで」とまで言って去っていってしまった。子供は純粋が故に不正は不正で善しとは出来ないんだろうなあ。
橋の上からわたしも傍観していた訳だけど。これは酷い。色んな意味で。
でも「これで全て上手く丸く収まった」だなんて言った坂田銀時は結局自分が泥かぶってしまったけど、
みんなその泥かぶりは他人のためだ。今までも、これからも。
……まあわたし的には丸く収まった、ありがと、で良いんだけど、でも…


「う、わ、わわ……」


橋の上から見下ろした、川原の砂利の上に白目で横たわる近藤さんの哀れな姿といったらない。
まず倒れ伏してるのはいい。だけど着物が肌蹴て褌が露出されていて本当に不憫でならない。橋の上の野次馬も不憫そうに見やっては野次を飛ばして去っていく。
わたしは時間がない中一つの決断をした。
…これから橋の上に真選組の土方が通りかかるはず。その前に出くわす前に。かわいそうな近藤の褌の露出だけはなんとかしてあげておこう、と。
だって、だって!もう見てられない!紙面で見た時も思ったけど生でみたらもう泣きたくなる!何これこのお父さんが人前で凄い恥ずかしい失敗しちゃった時の思春期の娘みたいな心情!むずい!むずがゆい!
わたしは邪魔な保温のための羽織やマスクを取り払い、身軽な格好で橋の下へと降りて砂利の上を駆ける。石に足を取られそうになりながらも最速で着物を直す!よし!気絶したままだ!

逃げるぞ!
…と。意気揚々と背を向けると。



「…はは…また、すれ違いですね…」


背後からか細い声が聞こえてきた。わたしはやばい!起きた!でも逃げなきゃ!と構わず走ったから返事なんてしなかったんだけど、いや橋の上に土方らしき男の姿が見えて何がなんでも逃げなくては!と本気で恐ろしくて逃げ出したんだけど。
今お妙の姿だしここで見つかると原作が狂う。

…でも、走って走って自宅の道場へとたどり着いた頃には何度もさっきの近藤さんの寝言とも取れるか細い言葉を、頭の中で反芻していた。


「また、すれ違い…」


って、なに。わたし近藤さんとすれ違った覚えはない、いやすれ違ってる気分ではあるけど、だって何のアクションも無しにすぐにプロポーズ&ストーカーだし、いやでも…
近藤さんってあんなに切なげにお妙ちゃんに話しかけるものなのか。語りかけるものなのか。
実際にこの世界にやってくるとセリフだけじゃない、一コマの中の一瞬の表情だけじゃない、些細なことまで伝わって気にしてしまう。
今、彼らに触ろうと思えば触れて体温さえも吐息さえも感じられる、実感という物はいつまで経ってもわかないけど、今わたしは漫画の世界がリアルになり、彼らと共に生きている。

…やけに耳に残る。でもそれはあまりにも切なげで加護欲が働いて…とかそんなんじゃなくて、多分、
独り言のような、誰に問いかけたでもない。わたしに、お妙に問いかけたでもないような、宙へ放っただけのように聞こえるその言葉がわたしは。
思えば彼はいつだってそうだったと気がついてからは、気になるけれどもう深く考えてはいない。

キャバクラへは、みんな何かを求めてやってくる。
癒しだとか、話し相手だとか、愚痴を聞いて欲しいとか、人恋しいとか、ただ単にスケベ目的だとか。まあとにかく女の子に何かを求めて男はやってくる。
だからきっとあれから何度かすまいるへ足を運ぶ近藤さんも、わたしに、お妙に何かを求めているんだから。わたしはそれに答えて、"それでいいよ"と態度で了承を得たならそれを続けるのみ。
キャバ嬢は色んな求める手に自身の手を、どんな形でか、差し伸べる仕事、といったら綺麗に聞こえるかもしれないけど、それは甘ちゃんなわたしだからこそ言える言葉なのかもしれないけど…


きっと、それでいいはずだ。
成り代わりくんがいなくなってからもう、三ヶ月そそれと…
2015.11.27

QLOOKアクセス解析