第十一話
3.バレた ─曰く、友達が出来たらしい
わたしは若干困っていた。
「やーめーてーよー!!わたしもうお家かえらなきゃいけないのにー!!」
「こんな朝っぱらから大人ぶって散歩ですかィ?コーヒーの味も分からないガキが一丁前にねェ」
「いたたたた!やだやだ離してよー!!だいたいわたしコーヒー牛乳派じゃないしー!風呂上りはフルーツ牛乳派なのに!」
「そんなモン飲んでるからお前は駄目だ。もう駄目だ。希望はないんでさァ」
「牛乳なんて信じない!背が伸びるとかカルシウムとか世間は過信のしすぎよ!」
「いーや牛乳を舐めちゃいけねェ」
「総悟ォオオ!!てめェまた!」
「土方さんイライラしちゃいけねぇ。牛乳飲んだらどうですかィ?」
「土方さんイライラしちゃ損よ。カルシウム取ったら?」
「お前ら毎度毎度息合わせてきてなんなんだよ面倒臭ッ!」
朝の散歩。最近はそれにハマっている。今はまだ誰もいない空が白んできた頃…
と、言いたい所だったんだけど。
いつの間にかバス停のベンチに腰を下ろしたまま、日々の疲労過多から眠っていたみたいで、わたしは突然鼻を摘まれ息が出来なくなってグガッと豚のような悲鳴を上げて起床した。
目の前には寝起きドッキリを仕掛けてゲラゲラと笑う可愛らしい顔した男の子が。
名を沖田という。…尤も中身は可愛くもなんともないけどねえ…しんでくれ。
気が付けばいつの間にか通勤時間も過ぎた時間帯で、朝のバスも走っていない時間帯だからこのベンチに腰掛けたのに、これは多大な迷惑をかけたかもしれない…と罪悪感に潰れそうになりながら、口論から流れで沖田に腕を捻り上げられつつ、やってきた土方にいつものノリでからかいを仕掛ける。
仕事をサボる沖田を締め上げる…のは毎日のようなことだったんだろけど、サボリに+して最近コイツは要約すると「幼女虐待を疑われるようなことはやめろ」のような注意を受けることになったらしい。
…おい、幼女って誰のことだテメェ、マヨラー。
「じゃ!今日は急いでるんでばいなら!」
そしていつもの土方の幼女よぅじょのお説教が始まった隙にわたしは堂々と逃げた。
ヤツらには追う理由もない。
だいたい出くわせば世間話の代わりにこんな風に土方をからかい、いつの間にかすぐに消えているのがいつものことなので、別れを告げたことにきょと、としつつも当たり前のように追っ手もなく、背中に声をかけられることもない。
イコール、わたしは平凡な怪しまれることのない善民だと思われてるということなので、わたしは安堵で笑顔をこぼしながら公園に入り込み公衆トイレで手提げに入っていたヅラを装着。そして地味な柄の着物を隠すように着物に合う羽織を着込み、
早足で帰宅した。
「あ、姉上!朝から見当たらないと思ったら…出かけてたんですね、おかえりなさい」
「おはよう新ちゃん、起きてたのね。……ええ、ちょっと牛乳を切らしてて」
「ああ、牛乳は健康維持には欠かせませんもんね」
玄関をくぐればちょうど自室から出てきた新八くんと出くわし、口実のためにコンビニで買ってきた牛乳を見て納得していた。
お前もか牛乳信者。牛乳飲んだって背は伸びないんだぞ!ばーか!なんて悪態つきつつも、お妙として、を疑われない完璧を求めたがために、コンビニで牛乳を買うという出費に泣きそうだ。スーパーと比べたら割高すぎる。一円単位でも切り詰めて節約してんのになきたいよ…。
そして早朝のうちに散歩から帰るつもりが居眠りしてしまっていて、
朝食の準備も出来ていないために珍しくトーストや目玉焼き、等の手軽な洋食で朝食を済まし、これもまた奇既製品の惣菜なのだ、と目玉焼き如きで嘘をつかなくてはならないこの家の常識(お妙の作る料理はぜったいにダークマター化される)に涙して、
万事屋へと向かう新八くんを見送ったのであった。
そして…
「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうごさいます。……はじめて、ですよね?」
夜になり、キャバ嬢が輝く時間。ざわざわと騒がしい店内の一つのテーブルで、わたしは内心緊張して心臓が痛かった。
最近は新規のお客さんに氏名されてもお妙になり切って対応すればなんてこともなかったのに…!
目の前でわたしを指名し、ソファーに掛けて待っていたその男を見て。わたしは思わず少し上ずった声で確認をした。
…えっと。初めてだよね。うん。すまいるで務めてからこの人が来たことはない。そしてわたし…というかお妙ちゃんを指名したことも一度もない。
…ということは…
わたしは今日、この男を口説き落とさねばならないらしい。
「お久しぶりです。…なーんて、覚えてないですよね、はは」
目の前で白い歯を見せて人好きのする笑顔を惜しみなく浮かべているのは、真選組局長、近藤勲。
今日を境にお妙ちゃんのスートーカーになる予定の男。
スナックすまいるに自身のボーボーなケツ毛をコンプレックスとして、キャバ嬢なんだと思ってんだ、のような愚痴をぶちぶちと言ったあと、
お妙ちゃんのまるで菩薩のような言葉に心動かされ愛に生きることになる。
…言うのか…
わたしは「ケツ毛ボーボーな俺なんてモテるはずがない、お妙さんだって彼氏がそうなら嫌でしょう!」と愚痴る男に、「わたしならケツ毛ごと愛します」と言わなくてはならないのか。
…だからなんでキャバに来てまでケツ毛相談ー!?と内心ヒートアップするところだったけれど。
…あれ?何これ、まるで何処かで会ったことのある…みたいな言葉。あ、この間の朝、
道端で出くわして挨拶した時のことかな?
それなら覚えてるけど…と少し戸惑い言いあぐねていたら、「いえ、いいんです。…さーて、まずは一杯」なんて軽く笑ってはぐらかされた。
…あれ、なんだこれ。
…な、なんだこれ。近藤さんがなんかちょっと違う。なんというか、ちょっと切なげで寂しげで憂いを帯びているような、いつも明るく活発なこの人からは違った印象が引っかかる、話している最中もなんだか一瞬の違和感が引っかかって話に集中できなくて、
何この感じ純情な少女マンガのヒロインかムズがゆっ!とハッとしてからは、思った通りにケツ毛の話を切り出してきたこの男に「ケツ毛ごと愛します」を切り返して…
切り返して…
「…じゃ、俺はそろそろ」
「だ、大丈夫ですか?足取りが…」
「なんのこれくらい〜。大丈夫ですよ、また来ます、また、ぜったい」
……切り返そうと思ったんだけど。
…ケツ毛の話を切り出されることなくそれに切り返すことなくそろそろ帰る、という言葉で接客は終わり、
何かを忘れるように酒を呷り酔い、千鳥足になってしまったその男、近藤の背を見送ってしまった。
…終わって、しまった。
近藤さんはケツ毛の話を切り出し菩薩のようなお妙ちゃんに惚れることなく、フツーに世間話して酒飲んで終わってしまった。今か今かと近藤さんのケツ毛の話をドキドキしながら待っていたわたしはいったいなんだったのか。変態とかそんなチャチなモンじゃないわよソレ。どうしてくれる…!
…あれ、あれれ、あれ、…え。まさか…こんな所で原作に綻びが…
…まさか、やっぱりトリッパーの偽者は高が知れてて、わたしなんかじゃ菩薩にはなりきれなかった!?菩薩オーラ滲み出てなかったとか!?妙ちゃん半端ない!やばい!ていうか!
「い、いやいや〜初指名の時じゃなくて、回数重ねた後かもしれないもの〜」
…なーんて自分を納得させようとするも、初対面なのに、という描写があった気がしてでもそこまでは思い出せなくて悶々としながら仕事を終えて朝日を浴びて。 次の日が店の定休日なのをいいことにわたしは混乱した頭をたっぷりと休ませるために家に帰りすぐ布団で眠った。軽い風邪気味だと新八くんに嘘をついて家事を放棄してまで。
ごめん、心配させてほんとごめんね、なんて謝るけど、よく眠れない。
…まさか、わたしのせいで、原作はもうゆっくりと崩壊の兆しを見せてしまっているなんてことは…
いやいやそんな事はないない、と。どうしても断言できなくて、わたしはその日ばっちりと目の下に隈を作ってしまった。キャバ嬢(仮)にあるまじきだ。
3.バレた ─曰く、友達が出来たらしい
わたしは若干困っていた。
「やーめーてーよー!!わたしもうお家かえらなきゃいけないのにー!!」
「こんな朝っぱらから大人ぶって散歩ですかィ?コーヒーの味も分からないガキが一丁前にねェ」
「いたたたた!やだやだ離してよー!!だいたいわたしコーヒー牛乳派じゃないしー!風呂上りはフルーツ牛乳派なのに!」
「そんなモン飲んでるからお前は駄目だ。もう駄目だ。希望はないんでさァ」
「牛乳なんて信じない!背が伸びるとかカルシウムとか世間は過信のしすぎよ!」
「いーや牛乳を舐めちゃいけねェ」
「総悟ォオオ!!てめェまた!」
「土方さんイライラしちゃいけねぇ。牛乳飲んだらどうですかィ?」
「土方さんイライラしちゃ損よ。カルシウム取ったら?」
「お前ら毎度毎度息合わせてきてなんなんだよ面倒臭ッ!」
朝の散歩。最近はそれにハマっている。今はまだ誰もいない空が白んできた頃…
と、言いたい所だったんだけど。
いつの間にかバス停のベンチに腰を下ろしたまま、日々の疲労過多から眠っていたみたいで、わたしは突然鼻を摘まれ息が出来なくなってグガッと豚のような悲鳴を上げて起床した。
目の前には寝起きドッキリを仕掛けてゲラゲラと笑う可愛らしい顔した男の子が。
名を沖田という。…尤も中身は可愛くもなんともないけどねえ…しんでくれ。
気が付けばいつの間にか通勤時間も過ぎた時間帯で、朝のバスも走っていない時間帯だからこのベンチに腰掛けたのに、これは多大な迷惑をかけたかもしれない…と罪悪感に潰れそうになりながら、口論から流れで沖田に腕を捻り上げられつつ、やってきた土方にいつものノリでからかいを仕掛ける。
仕事をサボる沖田を締め上げる…のは毎日のようなことだったんだろけど、サボリに+して最近コイツは要約すると「幼女虐待を疑われるようなことはやめろ」のような注意を受けることになったらしい。
…おい、幼女って誰のことだテメェ、マヨラー。
「じゃ!今日は急いでるんでばいなら!」
そしていつもの土方の幼女よぅじょのお説教が始まった隙にわたしは堂々と逃げた。
ヤツらには追う理由もない。
だいたい出くわせば世間話の代わりにこんな風に土方をからかい、いつの間にかすぐに消えているのがいつものことなので、別れを告げたことにきょと、としつつも当たり前のように追っ手もなく、背中に声をかけられることもない。
イコール、わたしは平凡な怪しまれることのない善民だと思われてるということなので、わたしは安堵で笑顔をこぼしながら公園に入り込み公衆トイレで手提げに入っていたヅラを装着。そして地味な柄の着物を隠すように着物に合う羽織を着込み、
早足で帰宅した。
「あ、姉上!朝から見当たらないと思ったら…出かけてたんですね、おかえりなさい」
「おはよう新ちゃん、起きてたのね。……ええ、ちょっと牛乳を切らしてて」
「ああ、牛乳は健康維持には欠かせませんもんね」
玄関をくぐればちょうど自室から出てきた新八くんと出くわし、口実のためにコンビニで買ってきた牛乳を見て納得していた。
お前もか牛乳信者。牛乳飲んだって背は伸びないんだぞ!ばーか!なんて悪態つきつつも、お妙として、を疑われない完璧を求めたがために、コンビニで牛乳を買うという出費に泣きそうだ。スーパーと比べたら割高すぎる。一円単位でも切り詰めて節約してんのになきたいよ…。
そして早朝のうちに散歩から帰るつもりが居眠りしてしまっていて、
朝食の準備も出来ていないために珍しくトーストや目玉焼き、等の手軽な洋食で朝食を済まし、これもまた奇既製品の惣菜なのだ、と目玉焼き如きで嘘をつかなくてはならないこの家の常識(お妙の作る料理はぜったいにダークマター化される)に涙して、
万事屋へと向かう新八くんを見送ったのであった。
そして…
「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうごさいます。……はじめて、ですよね?」
夜になり、キャバ嬢が輝く時間。ざわざわと騒がしい店内の一つのテーブルで、わたしは内心緊張して心臓が痛かった。
最近は新規のお客さんに氏名されてもお妙になり切って対応すればなんてこともなかったのに…!
目の前でわたしを指名し、ソファーに掛けて待っていたその男を見て。わたしは思わず少し上ずった声で確認をした。
…えっと。初めてだよね。うん。すまいるで務めてからこの人が来たことはない。そしてわたし…というかお妙ちゃんを指名したことも一度もない。
…ということは…
わたしは今日、この男を口説き落とさねばならないらしい。
「お久しぶりです。…なーんて、覚えてないですよね、はは」
目の前で白い歯を見せて人好きのする笑顔を惜しみなく浮かべているのは、真選組局長、近藤勲。
今日を境にお妙ちゃんのスートーカーになる予定の男。
スナックすまいるに自身のボーボーなケツ毛をコンプレックスとして、キャバ嬢なんだと思ってんだ、のような愚痴をぶちぶちと言ったあと、
お妙ちゃんのまるで菩薩のような言葉に心動かされ愛に生きることになる。
…言うのか…
わたしは「ケツ毛ボーボーな俺なんてモテるはずがない、お妙さんだって彼氏がそうなら嫌でしょう!」と愚痴る男に、「わたしならケツ毛ごと愛します」と言わなくてはならないのか。
…だからなんでキャバに来てまでケツ毛相談ー!?と内心ヒートアップするところだったけれど。
…あれ?何これ、まるで何処かで会ったことのある…みたいな言葉。あ、この間の朝、
道端で出くわして挨拶した時のことかな?
それなら覚えてるけど…と少し戸惑い言いあぐねていたら、「いえ、いいんです。…さーて、まずは一杯」なんて軽く笑ってはぐらかされた。
…あれ、なんだこれ。
…な、なんだこれ。近藤さんがなんかちょっと違う。なんというか、ちょっと切なげで寂しげで憂いを帯びているような、いつも明るく活発なこの人からは違った印象が引っかかる、話している最中もなんだか一瞬の違和感が引っかかって話に集中できなくて、
何この感じ純情な少女マンガのヒロインかムズがゆっ!とハッとしてからは、思った通りにケツ毛の話を切り出してきたこの男に「ケツ毛ごと愛します」を切り返して…
切り返して…
「…じゃ、俺はそろそろ」
「だ、大丈夫ですか?足取りが…」
「なんのこれくらい〜。大丈夫ですよ、また来ます、また、ぜったい」
……切り返そうと思ったんだけど。
…ケツ毛の話を切り出されることなくそれに切り返すことなくそろそろ帰る、という言葉で接客は終わり、
何かを忘れるように酒を呷り酔い、千鳥足になってしまったその男、近藤の背を見送ってしまった。
…終わって、しまった。
近藤さんはケツ毛の話を切り出し菩薩のようなお妙ちゃんに惚れることなく、フツーに世間話して酒飲んで終わってしまった。今か今かと近藤さんのケツ毛の話をドキドキしながら待っていたわたしはいったいなんだったのか。変態とかそんなチャチなモンじゃないわよソレ。どうしてくれる…!
…あれ、あれれ、あれ、…え。まさか…こんな所で原作に綻びが…
…まさか、やっぱりトリッパーの偽者は高が知れてて、わたしなんかじゃ菩薩にはなりきれなかった!?菩薩オーラ滲み出てなかったとか!?妙ちゃん半端ない!やばい!ていうか!
「い、いやいや〜初指名の時じゃなくて、回数重ねた後かもしれないもの〜」
…なーんて自分を納得させようとするも、初対面なのに、という描写があった気がしてでもそこまでは思い出せなくて悶々としながら仕事を終えて朝日を浴びて。 次の日が店の定休日なのをいいことにわたしは混乱した頭をたっぷりと休ませるために家に帰りすぐ布団で眠った。軽い風邪気味だと新八くんに嘘をついて家事を放棄してまで。
ごめん、心配させてほんとごめんね、なんて謝るけど、よく眠れない。
…まさか、わたしのせいで、原作はもうゆっくりと崩壊の兆しを見せてしまっているなんてことは…
いやいやそんな事はないない、と。どうしても断言できなくて、わたしはその日ばっちりと目の下に隈を作ってしまった。キャバ嬢(仮)にあるまじきだ。
2015.11.26
