知る意味と決意と思い初めて
1.自称ボーカロイドを拾った日
食いつくところは、そこだろうか。
…いや、そんな、どんな姿とか、性別とか、いったいなんなんだと思いつつも、だいぶ興奮した様子のカイト兄さんにゆっくり思い出しながら告げた。
「え、えーと…黄色い…金色の髪してた、かな…」
「金色の…髪、結ってた?」
「うん、確か。このくらいの背丈で、セーラー服着てたよ」
「……レン、だなぁ…比較的レンは沢山…」
「うん?」
私が告げた言葉に、だなぁ、と何か納得したように頷かれても、私には全くわからない。
混乱しながらも、しっかり問いただせば、カイト兄さんは説明してくれた。
「…レン?カイト兄さん、その子のこと知ってるの?」
「知ってるっていうか…鏡音レンっていうんだけど、その子は比較的有名なボーカロイドで。ネットで広まってる特徴と一致してる、かな」
比較的有名ってことは、他にもボーカロイドって沢山いるんだろうなぁ…外見が一緒と言うのと、ただの自称。
それだけで信用してしまうのはあまりに鵜呑みにしすぎに思える。が、ちらりと見た兄さんは、否定するでもなく、疑問に思うでもなく、受け入れているように思える。
そこで顔色を窺ってしまう辺りからもわかるだろうけど、私は兄さんを信用している。人格もだけど、彼の物知りと言われる知識は絶対的だ。
つまり、なのかなぁ…
それにしたって、非現実的すぎてぼんやりとしか考えられない。
「そうなの…?カガミネ、レン…っあー、私あんまりボーカロイド知らないからなぁ…」
「…は、その子のことが知りたい?」
「あ、うん…あのまま出て行っちゃったし、心配だし。…それに…」
「…それに?」
「一緒に住むこと、考える、って。せっかく言ってくれたんだから、仲良くなりたいし」
あそこは誰でも受け入れる、憩いの場。誰かが帰るホーム。もしかしたら、色んな住民たちが出払ってしまった今も、ここが自分の故郷なのだと思ってる人も未だに居るかもしれない。
行く当てもなくさまよい歩き、受け入れてもらえたときの嬉しさ、安心感、私は誰かと生活したことはないけど、きっと誰かと共に暮らしたときの気持ちはかけがえのないものになったんだと思う。
ここは、無くした人ばかりが集まるから。にこ、と笑いながら告げると、彼は気が抜けたように、ふにゃりと笑う。
そのまま穏やかに言う。
「……うん、俺も、のこと、信じてるから」
「…?あ、ありがとう…?」
「だから」
その子のこと、何があっても、拒絶しないであげてね
そんな話をした後、ふらりと別れてから、色んなことを聞けないままだと気が付きながらも、帰宅した私はぼーっと考え続けていた。
「拒絶…ねぇ…」
物知りのカイト兄さんがあそこまで焦りながら言うんだから、たぶん、存在しているんだろうなぁ、ボーカロイド。
多くの人間が知らない間にこの世界で生きてる。
カイト兄さんが知らないことはない、って断言するくらい私は彼の知識を信頼してるし。多分、公表すれば何かの賞を取れるくらいに、新しい発見もしていると聞いたことがある。
凄く真剣で、凄く痛そうて、それで、…最後には、気が抜けたように笑った。
「…あんなカイト兄さん、みたことない」
…事態は深刻なり、かな。たぶん、行くあてがない、って言うんだし、カイト兄さんの言葉からしても、
もしかしたら、あの子は、捨てられた?生まれたはずの何処かに居れないというのなら、そうなのだろう。
うーん、でもなぁ。なんかなぁ。
「わっかんないなぁ…てか、げっ…もう夕方…?」
気が付けば何時間も経っていて、今日のこなすべきノルマも炊事洗濯、何もかもしていないことに驚き、少し落ち込んだ。
…考えても考えてもわからないことを何時間も考えるくらいなら、ネットで調べた方が早いよね。
パソコンを起動して、"ボーカロイド"と入力しててカーソルを検索ボタンへと合わせる。世間で騒がれてないということは、ネットにはたぶん期待するほどの情報はないと思う。
あっても都市伝説級かもしれない。
でも。
「人間、生きている?」
「ぎゃああああ!?」
何度も何度も色んなページに訪れたあと、またワードを変えて検索ボタンを押して、ついに検索結果が表示される、そんな時、背後から声が聞こえた。
何か得体の知れないものが化けて出たようにビックリしたのにそのままバッと振りかえってしまったのは、多分期待してた声とおんなじ声だったからだと思う。
そこには彼がいた。来てくれたんだ…!と感動こそしたが、すぐにピタリと硬直した。
…私…、鍵、閉めてたよね…?
なんで、この、部屋に締め忘れなんて、チキンな私がするはずがない。
「どうやって、家の中に」
「…?ピッキング、人間の技術、ないですか?」
「普通の人間は使わない技術だよぉおおうわあああ!!!」
わかった。
ていうか、薄っすら感じてたけど、この子、凄くズレてる。
ぜーはーと息切れしながらも、痛む頭を揉んでから、問いかけた。今度はハッキリ彼の名前がわかる。
「鏡音、レンくん?」
「……」
「最初は本当に疎くてわからなかったけど、ボーカロイドってぼんやり聞いたことあるくらいで…」
「……存在、信じる?」
「まあ、色々あってね」
盲目に信じ続けるのも如何なものかと思うけど、疑ってかかったって、何も始まらないし変わりやしないのだ。
こんな非科学的なことはあり得ない?いやいや、某漫画からの言葉を借りたらあり得ないなんてことはあり得ないというか?
実際科学では解明されない超常現象的なことは沢山起こってるんだから。そうあり得ないということはない。極論を言えば100%と0%はこの世には存在しない、と。
何度目かわからないことを、また彼に告げた。
「行く所、ないなら、ここで生活してみない?」
彼は今度はじ、っとこちらを見詰めるだけだった。そこに不信感というものは、昨日よりは割合が低いと、思う。
見れば、ネットで調べた特徴と一致しすぎている。声も、同じなんじゃないかな。
あの機械的な言葉の繋ぎがまったく無くなって、滑らかになった感じ。そんなことをぼーっと考えて居たとき、彼は言葉に迷いながらもついに言う。
「…生、活…それは」
「うん?」
「生きる、こと、ですか」
「い゛…」
生きること…
確かにそうとも言うけど、生活という単語をここまで重く受け止めるとは…そう、だよね。生活すること、毎日を生きること…
そう考えて、確かに頷いた。すると、レン君は言う。
「…ボーカロイド、は、マスターが居なくては、生きれない、ただの思考する、機械と、一緒」
「マスター…?え、え?マスター?」
待って、マスターってどういう意味だっけ、なんかちょっと響きがあれな気が…
なんというか、司令塔じゃないけど、つまりは自分の上に立つ人でしょ?
その人がいなきゃ生きていけないなんて、その人がいなきゃ生きていないなんて、そんなの、違うだろうと思って仕方ない。
でも、見方によれば、ちょっと納得することもある。そこに主従関係なんてものは一切無くして。
「自分ではわからないことがあるから、マスターと定めた人に、教えてもらうの?」
「…、」
「自分では出来ないことを、自分には知らないことを教えてもらう、
そんなパートナーみたいな人が傍にいるってことはいいと思う。でも、それは支えあい、だよ。
マスターが居ないと自分は生きてないっていうのは、違うと思う。
わからないことがあるなら、出来ることなら全部わたしが教えるから」
「……」
「ここでは、好きなように、生きていいんだよ」
そう言ってから、顔から火が出るほど臭すぎるセリフに熱くなったし、偉そうに言い過ぎたと思って蒼白になるか、交互に変わりすぎて、頭がくらくらしてきた。
ああ、なんか、思ったことを言い切ったつもりだけど、彼はなんて思うだろう気に障っただろうか。
それが恐くて、恐る恐る顔を上げた。でも、その恐怖も不安も全てすぐにすっ飛んだ。
「…あなたが、俺の、」
「うん?」
「マスター?」
「ん…?」
あれ、なんか、違う
いや、教えるとは言ったけど、マスターがそういう役割を持ってるなら、その人が居ないと生きれないっていうなら教えるって言ったけど。
つまり、それって、私が。この子のマスターになりますっていう発言と同列だった?
あれっあれぇええ!!なんか違う、っ違うよ凄く!でも、でも、なんて言えば訂正できるかな!?
でも、
「…変な人…」
「…ッ!」
その時本当に薄っすらとだとしても、初めて見せた、レンの笑顔にわたしのハートはギュンッと打ち抜かれ。マスターなんて言って偉ぶるつもりはないけど。
こんなにこの子が喜ぶなら、と妥協してしまう辺りで。もう落とされてしまったも同然だった。
なんか、雛鳥のようで、親バカに、なりそうだ…今までまともに観察する余裕もなかったけど、この子、凄く、超絶かわいい。
顔が整ってるっていうのもあるけど、その雰囲気とか、声とか、まつげの一つまで、全て胸を打ち抜いて仕方がない。
つまりはツボなのだ。ドンピシャだ。
恋だとか一目ぼれなんて言うつもりはないけど、なんだか親になったような心境でこの子を見てしまう。ああ、なんだろう。もう、じっとしてらんない!
「ねえ、写真撮っていい…?ていうか撮るね!」
「え」
「かっかわいーッきょとんとした顔かわいいーッうわあああー!!!!」
「……」
レンは凄く微妙そうな顔をしてた。
1.自称ボーカロイドを拾った日
食いつくところは、そこだろうか。
…いや、そんな、どんな姿とか、性別とか、いったいなんなんだと思いつつも、だいぶ興奮した様子のカイト兄さんにゆっくり思い出しながら告げた。
「え、えーと…黄色い…金色の髪してた、かな…」
「金色の…髪、結ってた?」
「うん、確か。このくらいの背丈で、セーラー服着てたよ」
「……レン、だなぁ…比較的レンは沢山…」
「うん?」
私が告げた言葉に、だなぁ、と何か納得したように頷かれても、私には全くわからない。
混乱しながらも、しっかり問いただせば、カイト兄さんは説明してくれた。
「…レン?カイト兄さん、その子のこと知ってるの?」
「知ってるっていうか…鏡音レンっていうんだけど、その子は比較的有名なボーカロイドで。ネットで広まってる特徴と一致してる、かな」
比較的有名ってことは、他にもボーカロイドって沢山いるんだろうなぁ…外見が一緒と言うのと、ただの自称。
それだけで信用してしまうのはあまりに鵜呑みにしすぎに思える。が、ちらりと見た兄さんは、否定するでもなく、疑問に思うでもなく、受け入れているように思える。
そこで顔色を窺ってしまう辺りからもわかるだろうけど、私は兄さんを信用している。人格もだけど、彼の物知りと言われる知識は絶対的だ。
つまり、なのかなぁ…
それにしたって、非現実的すぎてぼんやりとしか考えられない。
「そうなの…?カガミネ、レン…っあー、私あんまりボーカロイド知らないからなぁ…」
「…は、その子のことが知りたい?」
「あ、うん…あのまま出て行っちゃったし、心配だし。…それに…」
「…それに?」
「一緒に住むこと、考える、って。せっかく言ってくれたんだから、仲良くなりたいし」
あそこは誰でも受け入れる、憩いの場。誰かが帰るホーム。もしかしたら、色んな住民たちが出払ってしまった今も、ここが自分の故郷なのだと思ってる人も未だに居るかもしれない。
行く当てもなくさまよい歩き、受け入れてもらえたときの嬉しさ、安心感、私は誰かと生活したことはないけど、きっと誰かと共に暮らしたときの気持ちはかけがえのないものになったんだと思う。
ここは、無くした人ばかりが集まるから。にこ、と笑いながら告げると、彼は気が抜けたように、ふにゃりと笑う。
そのまま穏やかに言う。
「……うん、俺も、のこと、信じてるから」
「…?あ、ありがとう…?」
「だから」
その子のこと、何があっても、拒絶しないであげてね
そんな話をした後、ふらりと別れてから、色んなことを聞けないままだと気が付きながらも、帰宅した私はぼーっと考え続けていた。
「拒絶…ねぇ…」
物知りのカイト兄さんがあそこまで焦りながら言うんだから、たぶん、存在しているんだろうなぁ、ボーカロイド。
多くの人間が知らない間にこの世界で生きてる。
カイト兄さんが知らないことはない、って断言するくらい私は彼の知識を信頼してるし。多分、公表すれば何かの賞を取れるくらいに、新しい発見もしていると聞いたことがある。
凄く真剣で、凄く痛そうて、それで、…最後には、気が抜けたように笑った。
「…あんなカイト兄さん、みたことない」
…事態は深刻なり、かな。たぶん、行くあてがない、って言うんだし、カイト兄さんの言葉からしても、
もしかしたら、あの子は、捨てられた?生まれたはずの何処かに居れないというのなら、そうなのだろう。
うーん、でもなぁ。なんかなぁ。
「わっかんないなぁ…てか、げっ…もう夕方…?」
気が付けば何時間も経っていて、今日のこなすべきノルマも炊事洗濯、何もかもしていないことに驚き、少し落ち込んだ。
…考えても考えてもわからないことを何時間も考えるくらいなら、ネットで調べた方が早いよね。
パソコンを起動して、"ボーカロイド"と入力しててカーソルを検索ボタンへと合わせる。世間で騒がれてないということは、ネットにはたぶん期待するほどの情報はないと思う。
あっても都市伝説級かもしれない。
でも。
「人間、生きている?」
「ぎゃああああ!?」
何度も何度も色んなページに訪れたあと、またワードを変えて検索ボタンを押して、ついに検索結果が表示される、そんな時、背後から声が聞こえた。
何か得体の知れないものが化けて出たようにビックリしたのにそのままバッと振りかえってしまったのは、多分期待してた声とおんなじ声だったからだと思う。
そこには彼がいた。来てくれたんだ…!と感動こそしたが、すぐにピタリと硬直した。
…私…、鍵、閉めてたよね…?
なんで、この、部屋に締め忘れなんて、チキンな私がするはずがない。
「どうやって、家の中に」
「…?ピッキング、人間の技術、ないですか?」
「普通の人間は使わない技術だよぉおおうわあああ!!!」
わかった。
ていうか、薄っすら感じてたけど、この子、凄くズレてる。
ぜーはーと息切れしながらも、痛む頭を揉んでから、問いかけた。今度はハッキリ彼の名前がわかる。
「鏡音、レンくん?」
「……」
「最初は本当に疎くてわからなかったけど、ボーカロイドってぼんやり聞いたことあるくらいで…」
「……存在、信じる?」
「まあ、色々あってね」
盲目に信じ続けるのも如何なものかと思うけど、疑ってかかったって、何も始まらないし変わりやしないのだ。
こんな非科学的なことはあり得ない?いやいや、某漫画からの言葉を借りたらあり得ないなんてことはあり得ないというか?
実際科学では解明されない超常現象的なことは沢山起こってるんだから。そうあり得ないということはない。極論を言えば100%と0%はこの世には存在しない、と。
何度目かわからないことを、また彼に告げた。
「行く所、ないなら、ここで生活してみない?」
彼は今度はじ、っとこちらを見詰めるだけだった。そこに不信感というものは、昨日よりは割合が低いと、思う。
見れば、ネットで調べた特徴と一致しすぎている。声も、同じなんじゃないかな。
あの機械的な言葉の繋ぎがまったく無くなって、滑らかになった感じ。そんなことをぼーっと考えて居たとき、彼は言葉に迷いながらもついに言う。
「…生、活…それは」
「うん?」
「生きる、こと、ですか」
「い゛…」
生きること…
確かにそうとも言うけど、生活という単語をここまで重く受け止めるとは…そう、だよね。生活すること、毎日を生きること…
そう考えて、確かに頷いた。すると、レン君は言う。
「…ボーカロイド、は、マスターが居なくては、生きれない、ただの思考する、機械と、一緒」
「マスター…?え、え?マスター?」
待って、マスターってどういう意味だっけ、なんかちょっと響きがあれな気が…
なんというか、司令塔じゃないけど、つまりは自分の上に立つ人でしょ?
その人がいなきゃ生きていけないなんて、その人がいなきゃ生きていないなんて、そんなの、違うだろうと思って仕方ない。
でも、見方によれば、ちょっと納得することもある。そこに主従関係なんてものは一切無くして。
「自分ではわからないことがあるから、マスターと定めた人に、教えてもらうの?」
「…、」
「自分では出来ないことを、自分には知らないことを教えてもらう、
そんなパートナーみたいな人が傍にいるってことはいいと思う。でも、それは支えあい、だよ。
マスターが居ないと自分は生きてないっていうのは、違うと思う。
わからないことがあるなら、出来ることなら全部わたしが教えるから」
「……」
「ここでは、好きなように、生きていいんだよ」
そう言ってから、顔から火が出るほど臭すぎるセリフに熱くなったし、偉そうに言い過ぎたと思って蒼白になるか、交互に変わりすぎて、頭がくらくらしてきた。
ああ、なんか、思ったことを言い切ったつもりだけど、彼はなんて思うだろう気に障っただろうか。
それが恐くて、恐る恐る顔を上げた。でも、その恐怖も不安も全てすぐにすっ飛んだ。
「…あなたが、俺の、」
「うん?」
「マスター?」
「ん…?」
あれ、なんか、違う
いや、教えるとは言ったけど、マスターがそういう役割を持ってるなら、その人が居ないと生きれないっていうなら教えるって言ったけど。
つまり、それって、私が。この子のマスターになりますっていう発言と同列だった?
あれっあれぇええ!!なんか違う、っ違うよ凄く!でも、でも、なんて言えば訂正できるかな!?
でも、
「…変な人…」
「…ッ!」
その時本当に薄っすらとだとしても、初めて見せた、レンの笑顔にわたしのハートはギュンッと打ち抜かれ。マスターなんて言って偉ぶるつもりはないけど。
こんなにこの子が喜ぶなら、と妥協してしまう辺りで。もう落とされてしまったも同然だった。
なんか、雛鳥のようで、親バカに、なりそうだ…今までまともに観察する余裕もなかったけど、この子、凄く、超絶かわいい。
顔が整ってるっていうのもあるけど、その雰囲気とか、声とか、まつげの一つまで、全て胸を打ち抜いて仕方がない。
つまりはツボなのだ。ドンピシャだ。
恋だとか一目ぼれなんて言うつもりはないけど、なんだか親になったような心境でこの子を見てしまう。ああ、なんだろう。もう、じっとしてらんない!
「ねえ、写真撮っていい…?ていうか撮るね!」
「え」
「かっかわいーッきょとんとした顔かわいいーッうわあああー!!!!」
「……」
レンは凄く微妙そうな顔をしてた。