驚愕と驚愕と嬉しい心と不協和音
1.自称ボーカロイドを拾った日
なんで。
まさか。
「…ユーレイ…?」
いやいや、そんな馬鹿な。いやいやいやいや、でも
昨日の午前中の出来事から一夜明け、必死に眠った私は、耐え切れなくなり荒々しく家を出た。コンビニでもなく図書館でもなく警察でもなく何処でもなく。
向かう先はこんな勢いのスピードを出すまでもない。
玄関口から向かって左に曲がり、隣の家の一軒家のインターホンを鳴らし続けた。間延びしない音は、押す度に途中で音が途切れて凄まじい勢いを現している。
「兄さん兄さん兄ちゃん兄ちゃん!!!!にーちゃん!!」
「ハイハイハイ!今行くいからインターホン連打しないでねー!」
思いっきり叫びながらインターホンを押し続ければ、隣の家の知り合いの、尋常じゃないレベルと思われるほどの物知りな兄さんが出てきた。
きょとん、としていた背の高い彼。
きっちりと青系統で決められた服も、この早朝の今ばっかりはくたびれた寝巻きであった。…ごめん、兄さん、と思いながらも、私のはやる気持ちは止まらない。
「…どうしたの?珍しいね、そんな、…神妙な面持で…」
その言葉をきっかけに、畳み掛けるように問いかけ続けたわたしは、口を開いたままもう閉ざさなかった。
「ボーカロイドって、何?」
「え゛っ!?なっな、なんで…?」
その言葉に、過敏すぎるほど反応した兄さん。いつもへたれてはいるけども、しっかりしている彼がここまで本気で動揺しているのは見たことがない。
が、かける言葉も見つからず、そのまま申し訳なく思いながらも問いかけを続けた。
「…話せば長くなるんだけど…、あのさ、ボカロって、あれでしょ?今人気のバーチャル電脳アイドル?だっけ」
「………うん、そう、知られてるね」
「それが実体化して、この世界に存在するって、在り得るのかな?…いやー、本当に非現実的なことだって分かってるんだけどその…」
「………」
そういうと、彼は口を閉ざした。その彼こそが神妙な面持というにふさわしいと思う。
私がこんな突拍子もない問いかけをするのは、唯一彼が残した自分を示す言葉が、これしか存在しなかったから。
現実的に考えたら有り得ない。でも、事実はどうあれ、その言葉の意味の欠片だけでも知っているなら教えてもらいたかった。
…そう、確かにあり得ない話をしているとは自覚してるし突拍子がないとしても、この様子はいったい…?
どうしたのかと不思議に思い、首をかしげながらも彼に言葉をかける。が、彼は自分のことについてではなく、何を言うのか、
不思議な問いかけをしてきた。
「…兄さん?」
「…もし……」
「うん?」
「もし、存在するのなら、…ならどうする?」
「どうする、って…」
そう言われても、ね。どうするって、何をするとか、そういうこと?
意図を測りかねていると、兄さんは言う。
「……やっぱり、気持ち悪い、とか」
「いや、なんていうか…うん」
もしもそんな存在が居るとして。まだ知らぬその子たちと、もしかしたら、なんてただの自称ボカロっ子を本物と仮定したとして。そう。仮定だ。
気持ち悪いなんて思うはずがないし、話してみたいというのが本音だ。端からまだ知らぬ誰かに好意なんていうものは抱いてないし、興味からではあるけど。
でも、それでも、いつか、出会えたなら、
「仲良く、なりたいと思う…かな。きっと」
「ッ…」
どんな存在だとしても、出会いというものは尊いものである。その繋がり一つ一つを大事にしたい。良し悪しなんて関係ない。
嫌な思いをしても、嬉しいことがあっても、極論ではあるけども、何もかもがプラスにしか働かないと思う。
経験とはそういうものだ。いや、そう思いたいと願っている、ってのが事実だけど。騙されたら未来で学習して見抜く力を、失ったら大事にする気持ちを。
どん底まで落ちないように足掻けば、きっと。
…っていうか、そうだそうだ
「そうそう、それでねカイト兄さん、昨日ね、自称ボーカロイド君を拾ったんだよ私」
「ええぇええ!?うっそぉ!?どんな姿の子?君ってことは男の子?」
「え、食いつくとこそこですか」
1.自称ボーカロイドを拾った日
なんで。
まさか。
「…ユーレイ…?」
いやいや、そんな馬鹿な。いやいやいやいや、でも
昨日の午前中の出来事から一夜明け、必死に眠った私は、耐え切れなくなり荒々しく家を出た。コンビニでもなく図書館でもなく警察でもなく何処でもなく。
向かう先はこんな勢いのスピードを出すまでもない。
玄関口から向かって左に曲がり、隣の家の一軒家のインターホンを鳴らし続けた。間延びしない音は、押す度に途中で音が途切れて凄まじい勢いを現している。
「兄さん兄さん兄ちゃん兄ちゃん!!!!にーちゃん!!」
「ハイハイハイ!今行くいからインターホン連打しないでねー!」
思いっきり叫びながらインターホンを押し続ければ、隣の家の知り合いの、尋常じゃないレベルと思われるほどの物知りな兄さんが出てきた。
きょとん、としていた背の高い彼。
きっちりと青系統で決められた服も、この早朝の今ばっかりはくたびれた寝巻きであった。…ごめん、兄さん、と思いながらも、私のはやる気持ちは止まらない。
「…どうしたの?珍しいね、そんな、…神妙な面持で…」
その言葉をきっかけに、畳み掛けるように問いかけ続けたわたしは、口を開いたままもう閉ざさなかった。
「ボーカロイドって、何?」
「え゛っ!?なっな、なんで…?」
その言葉に、過敏すぎるほど反応した兄さん。いつもへたれてはいるけども、しっかりしている彼がここまで本気で動揺しているのは見たことがない。
が、かける言葉も見つからず、そのまま申し訳なく思いながらも問いかけを続けた。
「…話せば長くなるんだけど…、あのさ、ボカロって、あれでしょ?今人気のバーチャル電脳アイドル?だっけ」
「………うん、そう、知られてるね」
「それが実体化して、この世界に存在するって、在り得るのかな?…いやー、本当に非現実的なことだって分かってるんだけどその…」
「………」
そういうと、彼は口を閉ざした。その彼こそが神妙な面持というにふさわしいと思う。
私がこんな突拍子もない問いかけをするのは、唯一彼が残した自分を示す言葉が、これしか存在しなかったから。
現実的に考えたら有り得ない。でも、事実はどうあれ、その言葉の意味の欠片だけでも知っているなら教えてもらいたかった。
…そう、確かにあり得ない話をしているとは自覚してるし突拍子がないとしても、この様子はいったい…?
どうしたのかと不思議に思い、首をかしげながらも彼に言葉をかける。が、彼は自分のことについてではなく、何を言うのか、
不思議な問いかけをしてきた。
「…兄さん?」
「…もし……」
「うん?」
「もし、存在するのなら、…ならどうする?」
「どうする、って…」
そう言われても、ね。どうするって、何をするとか、そういうこと?
意図を測りかねていると、兄さんは言う。
「……やっぱり、気持ち悪い、とか」
「いや、なんていうか…うん」
もしもそんな存在が居るとして。まだ知らぬその子たちと、もしかしたら、なんてただの自称ボカロっ子を本物と仮定したとして。そう。仮定だ。
気持ち悪いなんて思うはずがないし、話してみたいというのが本音だ。端からまだ知らぬ誰かに好意なんていうものは抱いてないし、興味からではあるけど。
でも、それでも、いつか、出会えたなら、
「仲良く、なりたいと思う…かな。きっと」
「ッ…」
どんな存在だとしても、出会いというものは尊いものである。その繋がり一つ一つを大事にしたい。良し悪しなんて関係ない。
嫌な思いをしても、嬉しいことがあっても、極論ではあるけども、何もかもがプラスにしか働かないと思う。
経験とはそういうものだ。いや、そう思いたいと願っている、ってのが事実だけど。騙されたら未来で学習して見抜く力を、失ったら大事にする気持ちを。
どん底まで落ちないように足掻けば、きっと。
…っていうか、そうだそうだ
「そうそう、それでねカイト兄さん、昨日ね、自称ボーカロイド君を拾ったんだよ私」
「ええぇええ!?うっそぉ!?どんな姿の子?君ってことは男の子?」
「え、食いつくとこそこですか」