あざとい二人とお願い
3.変わり行く日常と来襲
思わずレンを両手で目隠ししてしまった。
なんとなく衝撃的でアブノーマルな絵面にしか見えなかったのだ。
レンは大人しくピクリともせず成すが儘になってるから逆に不安を感じて我に帰れたけど、本当にいったい何なんだろう。

何がどうなって年端もいかない少女に土下座…あっ隣人さんスリッパで叩かれた容赦無い。

呆然と成り行きを見守って居ると、
リンちゃんは大きく息を吸い込み声を荒らげた。

「愛媛みかんに媛まどんなはっさくにブラッドオレンジ!冷凍みかんにカラマンダリン!リンのみかんをごちゃ混ぜにぶちまけたあげく二人して食べた!?酷いよっ」
「「ごめんなさい!!!」」


成る程過度な平謝りの理由はわかったけど…
驚くべきはリンちゃんのみかんへの執念だ。

みかんの名産を各品種取り揃え尚且つ綺麗に箱分けし冷凍みかんさえ完備する。クールなまま持ってくるのは手間だろう。
なんて執念だ。なんて意思だ。
果物…というかみかん好き?凄く可愛いけど。
そう言えばうちのレンも一番始めに果物図鑑を読んでたな…もしかして、果物好きなのかな?

ちらとレンに視線をやるとこて、っとあざとく首を傾げていて、ナチュラルになんてスキルを…!と身を震わせていると。


「カイトおにーちゃんも、ますたーも、キライっばかぁっ」
「「ありがとうございます!!」」

リンちゃんが頬を膨らませながらツンと顔を背けたナチュラルスキルを見てしまい。
…このきょうだい、あざとさの気質が備わってるんだろうなあと少女に罵られ気持ち悪いくらいに喜ぶ男二人を見ながら思った。

悪いのは二人のM気質ではない。
厄介なのは天然もののあざとさである。


「鏡音リンですっよろしくお願いしまーす!」
「今日から俺の妹です」
「今日から俺の娘だ」
「お嫁になんて行かせません」
「どこのどいつだ」
「何この人たち全体的に気持ち悪い」

お家に上がらせてもらい、だだっ広いリビングで自己紹介をしてもらう。
デレデレになって言う台詞はおかしくはない…はず、なのに、ちょっと純粋に見れない気がする。

…まあまともな人たちだという確証はあるから安心はしてるけど。

それでもドン引きしながら事の経緯を見守っていれば、男二人はこちらの視線の含みに気がついてあちゃぁ…みたいな顔をしながらもただただ無言でそこに在るのみ。
うん。言い訳しないのは潔いです。

リンちゃんはといえば、「わーい!あそぼーあそぼーっ」と喜んでいて。その弟レンはふわぁと退屈そうにあくびする。

…この空間には自由人しかいないようである。

そして、「ご飯、一緒に食べていかない?」というカイトの言葉により、この場は一気に腹減りムードに一変していった。カイトの作るご飯おいしいんだもん。仕方ないね、…ということで


「おい、ちょっとお前に頼みてぇことがあるんだよ」
「んぅむ?」
「マスター、飲み込んでから喋らないと」
「はふ」


そして、お隣さんたちとの昼食にて。
なんだかんだみかんの片付けやリンちゃんの荷物の整理整頓を手伝っていたら、
とうに昼食の時間もすぎていて慌てたけどカイトが既に準備していたようで、「ご飯だよー」呼びかけた時にはあまりの主夫っぷりにびっくりしたものだ。

そしてそのレンにもこうして行儀を正される始末で、
やり切れない思いの中お隣さんの話を聞いたのだった。


「リンの服がこのセーラー服一着しかないんだよ」
「ああー…それは不便ねー色々」
「不便っつーか、まずいだろ」
「は?」
「こんなあからさまにボーカロイドのデフォルト服着て街中闊歩したらよ」


それを聞いて、目から鱗とは少し違うが、驚いた。
…確かにこんなに声質もそっくりで、容姿もそっくり服装も一緒、そんな子が歩いていたら目立つ。
世は今音声ソフトボーカロイドが流行りに流行る時代なのだから。

…そして、こんな風に意思疎通も出来る、尚且つ自身の自我というものを立派に持ったアンドロイドが世間に知れ渡れば、いったいどうなるんだろう。

大混乱に陥るに違いない。
今の技術じゃこんなこと、あり得るはずがない、夢のまた夢だったんだから。


「…とりあえず、私の服貸したげるね。ちょっと大きいかもだけど」
「ほんとー!?わーいっお着替えっ」
「それで、もしよかったら私と買い物に行こうよ。女の子の買い物なんて、この二人頼りならなさそうだしねー」


そういたずらっぽく笑いながら言うと、「「その通りでございます…」」と息ピッタリに頭を垂れ出した。

…なんだかんだ付き合い長いのか、波長が合うのか、この人たち息ピッタリだな。
いや、意外とカイトの私服はセンスよかった気もしたけど、
女の子の服を見繕うと言ったら別物なのだろうか。

そんなことをぼーっと考える私に隣人さんから「ほらよ」とがま口のカエルを模した財布を投げ渡され、その持つだけでわかる重量感にぴくりと口元を引きつらせたのだった。


「ねぇ、レン」
「……」
「…レン?」


あらかた皆食事を終えて、いつものようにスープを飲むだけで済まさせてしまったレンの様子を見ると、少しだけ残っていた。
…いつも残したことなんてないのに。
所違えば、というか、家庭によって味付け違うし、もしかして好みじゃなかったのかな、と思いながらレンの顔を覗き込んでみると、くい、っと私の服を掴まれた。

そして漸く上げた顔は、心なしが眉が下がっているようで。
服の裾掴み+縋る子犬のような表情のコンボにやられてう゛っと声を詰まらせた。

…あざとい。この子あざとい。どうしようなんなのこの子。
…でも、まあ、これの意図には大方予想は付く。


「レンも一緒に買い物、行ってくれる?」
「……、」


こくん、とゆっくり頷いたレンが可愛すぎてもうどうしようかと思っていると、「レンはリンのお買い物するのすごいんだからーっ」と背後からリンちゃんに飛びつかれ、

意図せず首をギリギリ絞められてる形になってもうどうにでもなれ…と思いながらも無言でリンちゃんの腕を、そっと緩めてあげるのだった。