告白
2.初めてのお留守番の変化の出会い
2.初めてのお留守番の変化の出会い
そこで次の日、家にやってきたカイトに話があるのだと言われて、一旦朝ごはんを食べてから隣人宅へ呼ばれると、
珍しくボーカロイドらしくせかせか動きまわるカイトを見てぎょっとする。オッサンは普通そう。
ソファーに座り込むと、オッサンがトン、とテーブルを叩けばカイトがお茶の一式を用意し、俺にはミルクティーを用意しだして、オッサンには酒を出していた。
朝っぱらから酒飲む時点でもおかしいというのに濃度が高い。
あ、このオッサンダメだ…とじと目で見ながら、話を聞くことにした。少しばかりの嫌な予感にざわめきながら。
「俺はよ、一応放浪してっけど、本業は科学者やってんだわ」
「……は?その成りで?」
馬鹿にしたような言い方をしながらも、心の臓辺りが軋んでるんだと思う。
科学者、嫌な空気、珍しく神妙な面持ち、そもそもこんな風に呼び出しするだけで何かがおかしい、まさか。
その時点でもう勘付いてしまっていた。す、っと目を薄めたオッサンが、珍しく噛み付くことなく告げた。
「一応、お前ら開発する仕事も手伝ってんだよ。加わったのは最近の話だけどよ、乗り気じゃねェってのに、ほら、オレ有能だから、うっせーんだよ」
「……うざ」
「んだと!?…あーあーあー、その生みの親は、なんでこんな生意気な性格設定したんだか。みんなの父さん、だっけか?海外においやられたって。過激発言がどうとか」
「!」
「その父さんに、一番寵愛を受けてたボーカロイドがいたとかどうとか。」
見定めるような目が、普段おちゃらけてる姿からかけ離れすぎていて、
こんなんでもちゃんとした見極める目くらい持ってるんだと思った。しかも、こいつ…
いらない情報、持ってる
そんなの、一番いらない情報だ、俺が欠陥品だとか、イカれてるとか、ズレてる壊れてる歌えない心がないただそれを告げるだけじゃなくて、もっと、もっと、そんなの
要らないのに。
「まだ事情は話してないのか」なんて言われても、おいそれと言えるはずがないのに。
でも。
「…言ってないよ。言わなくても生活できてたし」
タイミングが掴めなかった。
いったい、平和な生活のどこで爆弾を投下すればいいのか。
平和な生活が、どこで一変するのか。恐れていたのかもしれない。
でも目の前のソイツの目は、咎めるように、見透かしたように俺を見てる。…ああ、嫌だ。やっぱり嫌いだ。
大嫌いだ。
こんな子供じみた感情というものがあったなんて。
「…言えば、いいんだろ、マスターに」
「おお、言っておけ。手遅れになる前にな」
「…余計な手出し、しないで。これからも、ずっと、一生」
もう、沢山だ。
「マスター」
「どうしたの?レン、あ、楽譜なんか間違ってた?」
「……」
「…レン?」
あの後すぐにケロッと元に戻り、永遠と聞いてもないあることないこと喋りだしたオッサンにその場に拘束されながら、
やっと家に帰ったのはもう日が傾いた頃。
マスターは帰るのが遅かった俺を見て、ほっとした様子で出迎えてくれた。その安堵したような柔らかな表情に胸がきゅっとした。
言えば、幸せになれるなら、楽になれるなら、いうよ。そうすれば何もない。俺の重荷もなくなるし、
何かが起こる前に防ぐことが出来る。
「ねぇ、マスター」
「…なに?」
よくできました、よく言えましたねってことになるのが一番お利口な選択なんだろう。
もう沢山だと思う。もう聞き飽きたとも思う。もうそんな胸の重さも、とっくに飽きてた
「もし、俺が、フツウのボーカロイドより」
「…うん」
「変で、間違って出来上がってて、みんなに恐がられる存在で、そのせいで捨てられて、誰かを傷つけることもあるかもしれない、危険なものなんだって言ったら」
「…うん」
「マスターは、どうする」
それが一番楽な選択なんだ。賢いんだ。わかってる、わかってる。でも、でもさ
「今までと、何も変わらないよ」
きっとマスターならこう言うってわかってたから、重たかったんだよ。
他のボーカロイドと同じく等しく与えられる愛、そんな眩しくて明るいものが重い、
今まで散々厳しく辛くあたってた世界が、世間が、目が、声が、
全て一変して、柔らかくて優しいものだけに変わった。
それは不協和音に近い。
当たり前だったものがまったく変わるんだ。当たり前だと思ってたことが違ったんだ。
そんなの、なら、どうやって、俺は生きていけばいいんだ
「変わらないことが、俺にとっては、一番変わったことなんだよ、マスター」
「…そっか。辛い?」
「今までと違いすぎて、居心地が悪い。痛くて仕方ない。苦しいのかもしれない」
「なら、私は辛く当たればいいの?そうすれば、楽になると思う?」
「…ッ」
「あなたがベストだと思うこと、一番楽だと思えることは何?…私はそれに応えたい」
「…マスター、だから?責任、感じてんの?拾ったから、義務感、」
「違うよ。…レンのこと、好きだから。気に入ってるの。同居人としても、人としても、ボーカロイドとしても、家族みたいに。それじゃ駄目?」
家族はね
「無条件に愛を与えられる、唯一の存在はずなの……多分、きっと」
私はそう信じたいんだ
「私には、そんな家族はいないから、そうなりたくて、今まで生きてきたから。…そんな押し付けは、苦しいかねー?」
「…馬鹿みたいだって、呆れてる」
「反発する心がないなら、もう家族だよ。…というか、私は、そう思いたいなー。少しくらい楽観的な方が、幸せでしょ」
もったいない。
こんなの、もったいない。なんて言えばいいんだろう。
一番幸せになってはいけないはずの存在が、こんな、大きな、絶対的な幸せを得てしまった
今でも俺を呪ってるはずの欠陥品たちになんて言えばいい。誰にも求められず、幸せになりきれなくて、泣いている存在たちに、なんて言えばいい。
ただ、"俺"だけは、幸せということは生きていていい理由にはならない、でも
生きて、いたい
この人と、生きていたいと思ってしまう
朽ちるまで、朽ちてしまうまで生きてみたい。
なんで。なんで生きてるんだろう。
なんで、世界が存在するんだろう。空がなんで青いのかと疑問に思うくらいに、ふと、思う
なんでなんだろう。
……父さん。
珍しくボーカロイドらしくせかせか動きまわるカイトを見てぎょっとする。オッサンは普通そう。
ソファーに座り込むと、オッサンがトン、とテーブルを叩けばカイトがお茶の一式を用意し、俺にはミルクティーを用意しだして、オッサンには酒を出していた。
朝っぱらから酒飲む時点でもおかしいというのに濃度が高い。
あ、このオッサンダメだ…とじと目で見ながら、話を聞くことにした。少しばかりの嫌な予感にざわめきながら。
「俺はよ、一応放浪してっけど、本業は科学者やってんだわ」
「……は?その成りで?」
馬鹿にしたような言い方をしながらも、心の臓辺りが軋んでるんだと思う。
科学者、嫌な空気、珍しく神妙な面持ち、そもそもこんな風に呼び出しするだけで何かがおかしい、まさか。
その時点でもう勘付いてしまっていた。す、っと目を薄めたオッサンが、珍しく噛み付くことなく告げた。
「一応、お前ら開発する仕事も手伝ってんだよ。加わったのは最近の話だけどよ、乗り気じゃねェってのに、ほら、オレ有能だから、うっせーんだよ」
「……うざ」
「んだと!?…あーあーあー、その生みの親は、なんでこんな生意気な性格設定したんだか。みんなの父さん、だっけか?海外においやられたって。過激発言がどうとか」
「!」
「その父さんに、一番寵愛を受けてたボーカロイドがいたとかどうとか。」
見定めるような目が、普段おちゃらけてる姿からかけ離れすぎていて、
こんなんでもちゃんとした見極める目くらい持ってるんだと思った。しかも、こいつ…
いらない情報、持ってる
そんなの、一番いらない情報だ、俺が欠陥品だとか、イカれてるとか、ズレてる壊れてる歌えない心がないただそれを告げるだけじゃなくて、もっと、もっと、そんなの
要らないのに。
「まだ事情は話してないのか」なんて言われても、おいそれと言えるはずがないのに。
でも。
「…言ってないよ。言わなくても生活できてたし」
タイミングが掴めなかった。
いったい、平和な生活のどこで爆弾を投下すればいいのか。
平和な生活が、どこで一変するのか。恐れていたのかもしれない。
でも目の前のソイツの目は、咎めるように、見透かしたように俺を見てる。…ああ、嫌だ。やっぱり嫌いだ。
大嫌いだ。
こんな子供じみた感情というものがあったなんて。
「…言えば、いいんだろ、マスターに」
「おお、言っておけ。手遅れになる前にな」
「…余計な手出し、しないで。これからも、ずっと、一生」
もう、沢山だ。
「マスター」
「どうしたの?レン、あ、楽譜なんか間違ってた?」
「……」
「…レン?」
あの後すぐにケロッと元に戻り、永遠と聞いてもないあることないこと喋りだしたオッサンにその場に拘束されながら、
やっと家に帰ったのはもう日が傾いた頃。
マスターは帰るのが遅かった俺を見て、ほっとした様子で出迎えてくれた。その安堵したような柔らかな表情に胸がきゅっとした。
言えば、幸せになれるなら、楽になれるなら、いうよ。そうすれば何もない。俺の重荷もなくなるし、
何かが起こる前に防ぐことが出来る。
「ねぇ、マスター」
「…なに?」
よくできました、よく言えましたねってことになるのが一番お利口な選択なんだろう。
もう沢山だと思う。もう聞き飽きたとも思う。もうそんな胸の重さも、とっくに飽きてた
「もし、俺が、フツウのボーカロイドより」
「…うん」
「変で、間違って出来上がってて、みんなに恐がられる存在で、そのせいで捨てられて、誰かを傷つけることもあるかもしれない、危険なものなんだって言ったら」
「…うん」
「マスターは、どうする」
それが一番楽な選択なんだ。賢いんだ。わかってる、わかってる。でも、でもさ
「今までと、何も変わらないよ」
きっとマスターならこう言うってわかってたから、重たかったんだよ。
他のボーカロイドと同じく等しく与えられる愛、そんな眩しくて明るいものが重い、
今まで散々厳しく辛くあたってた世界が、世間が、目が、声が、
全て一変して、柔らかくて優しいものだけに変わった。
それは不協和音に近い。
当たり前だったものがまったく変わるんだ。当たり前だと思ってたことが違ったんだ。
そんなの、なら、どうやって、俺は生きていけばいいんだ
「変わらないことが、俺にとっては、一番変わったことなんだよ、マスター」
「…そっか。辛い?」
「今までと違いすぎて、居心地が悪い。痛くて仕方ない。苦しいのかもしれない」
「なら、私は辛く当たればいいの?そうすれば、楽になると思う?」
「…ッ」
「あなたがベストだと思うこと、一番楽だと思えることは何?…私はそれに応えたい」
「…マスター、だから?責任、感じてんの?拾ったから、義務感、」
「違うよ。…レンのこと、好きだから。気に入ってるの。同居人としても、人としても、ボーカロイドとしても、家族みたいに。それじゃ駄目?」
家族はね
「無条件に愛を与えられる、唯一の存在はずなの……多分、きっと」
私はそう信じたいんだ
「私には、そんな家族はいないから、そうなりたくて、今まで生きてきたから。…そんな押し付けは、苦しいかねー?」
「…馬鹿みたいだって、呆れてる」
「反発する心がないなら、もう家族だよ。…というか、私は、そう思いたいなー。少しくらい楽観的な方が、幸せでしょ」
もったいない。
こんなの、もったいない。なんて言えばいいんだろう。
一番幸せになってはいけないはずの存在が、こんな、大きな、絶対的な幸せを得てしまった
今でも俺を呪ってるはずの欠陥品たちになんて言えばいい。誰にも求められず、幸せになりきれなくて、泣いている存在たちに、なんて言えばいい。
ただ、"俺"だけは、幸せということは生きていていい理由にはならない、でも
生きて、いたい
この人と、生きていたいと思ってしまう
朽ちるまで、朽ちてしまうまで生きてみたい。
なんで。なんで生きてるんだろう。
なんで、世界が存在するんだろう。空がなんで青いのかと疑問に思うくらいに、ふと、思う
なんでなんだろう。
……父さん。