第九話
1.来来世─暗黒部分
屋敷にたどり着くと炭治郎が血の匂いを察知し、善逸が耳を押さえて顔色を悪くしていた。
子供達を発見した。善逸が屋敷の中に戦いについて行く行かないの問答が続けられた。
炭治郎がこちらを振り返った。
私の名前を呼んだ……
──のを最後に、私の記憶はプツリと途絶えている。
「きみの顔に文句はない!!」
炭治郎の声で目が覚めた。ぱちりと目を開くと、空が見える。
「こじんまりとしていて色白でいいと思う!!」
「殺すぞテメェかかってこい!」
「駄目だもうかかっていかない」
「もう一発頭突いてみろ!!」
「もうしない!きみはちょっと座れ、大丈夫か」
寝起きに聞えてきたのは炭治郎の口説き文句。
何やってんだあの子はと起き上がってみると、確かにこじんまりとしていて色白な子がいた。
ただし筋骨隆々な男子だ。上半身裸だ。
なんだ男か…と落胆してもう一度二度寝をしようとした。
だってもう全身が痛いし。前後の記憶を失い、目が覚めるのは、もう何度目だろう。
何が起こったかは分からないけど、どうしてこうなったのかは分かる。
もう一人の自分が覚醒し、力を振るってしまったのだ。
その後、心優しい炭治郎が伊之助君を煽りに煽り、亡くなった人達の埋葬を手伝わせるという事件があった。
どうやら兄も救出されたらしい、三人の兄妹達も立派に埋葬を手伝ってくれた。
彼らと別れ、人の名前を憶えない伊之助と格闘しつつ、親のいない山育ちだという身の上話を聞きつつ、鴉にせっつかれ、藤の家紋とやらが門に記された屋敷へとたどり着いた。
鬼殺隊に助けられた事のある一族が、援助してくれる仕組みになっていると聞いた。
怪我をした私達は、揃ってお世話になる事になる。
医者を呼んで問診してもらい、風呂や食事を用意してもらい、布団を敷いてもらう。
屋敷の主である老婆から、至れり尽くせりの奉仕を受けた。
食事時。
伊之助はライバル意識でも燃やしているのか、炭治郎のおかずを奪って挑発した。
が、しかし。
「そんなにお腹がすいているなら、これも食べていいぞ」
にこりと笑って自分の食事をさらに分け与えた。
お前は顔をちぎって渡すアンパンの化身か?と言いたくなる。
「じゃあ私の分を炭治郎にあげるよ…」
切なすぎて、私は泣きながら自分の分の小鉢を思わず炭治郎に差し出していた。
炭治郎は迷う素振りもなく、首を横に振るばかり。
「それじゃがお腹がすくだろう」
「私は幼女だし、女だし、胃袋小さいから…」
そんな幼女の私から、伊之助は駄目押しとばかりにおかずを奪って行った。
まじかよと愕然としてしまう。分かってた事だけど、譲り合いの精神とかないらしい。
しかしやはり「コラッ年下になんて事するんだ」と叱るだけで、やはり挑発に乗らない炭治郎に伊之助は地団太を踏んでいた。長男に末っ子、もしくは一人っ子が喧嘩売ってもろくな事にはならんいい例題であった。
「みんなはエビは尻尾まで食べる派?私はその日の気分で優雅に楽しむかな」
夕食に出て来た天ぷらに思いを馳せ、心底どうでもいい話題を提供すると、それにノッてくれたのは善逸だけだった。
人望がないのではない。伊之助がやたらと炭治郎につっかかるため、二人とも口論に忙しいのだ。
禰豆子は時間帯のせいもあってか、消耗したからか、未だ箱の中で眠っている。
善逸は相当話題にノり辛そうにしていて、「か、考えた事ないからわからない…」とだけ言った。私もなんかつらかった。
「あのさ…ちゃんつらくないの?怖くない?不安じゃない?」
「なにがどうして?」
「その…さ、人格が分かれてるんだってね。普段のちゃんからは伺えない、秘めたる力があるんだって炭治郎に聞いて…
確かに戦ってる時のちゃんは全然音が違って…別人って感じだった」
耳がいいという善逸はそういう所まで察知できるらしい。へえーと耳より情報を聞いた気分で半分気分よく、半分絶望し、私はふと笑って頷いた。
炭治郎に、過去の暗黒部分を告げ口をされたかのような、打ちのめされた気分だった。
炭治郎には…そんなつもり全然これっぽっちも無いのに…
そういうモヤを振り払うかのように首を振って、私は善逸の疑問に答えた。
「全然つらくないよ。だって、もう一人の私は、きっと天使みたいな女の子なんでしょ?」
花が綻んだかのように柔らかく笑うと、
「え……?」
と、困惑した様子の善逸がぽつりと声を漏らした。
おろおろと戸惑っている様子だった。
「誰がそんな事言ったの!!!?」
「だれも言ってない。自分の想像」
「なんだ妄想か…よかった…」
「何が妄想でよかった?」
「だって、そんな嘘はあんまりに陰湿だからさぁ!!!」
話が違うだろう。こういうとき、覚醒する人格というのは、天使のように出来た少女・または少年であり、みんなを惹きつける人格者だったりするのだ。
それとも蠱惑的な妖精〜フェアリ〜のような子だろうか。
馬鹿強いというのは、鬼との乱戦の中でこうも生き残っている所を見れば、もう分かっている。
その半分鬼とかいう日本人が萌えそうな属性で持って、儚かったり可愛かったりする人格をチラつかせれば、もう落ちない男も女もいない。全人類が私の虜となり、ハーレム状態になるのは間違いがないというのに。
暫く前、炭治郎に「目の色は変わってなかった?虹色とかに」と聞くと、「どうして?」と心底わからなさそうにきょとんとされたのが辛く苦しくて、深くは事情を聞いていない。
アレ+、善逸のこの様子を見ると、きっと全くもって天使のような性格はしていない、ゴリラのような女の子なんだろう。別人格の私というやつは。
なるほどギャグ枠か。失望してしまった。これじゃ第二の人格(笑)がつくのであろう。
「…炭治郎…誰も聞かないから俺が聞くけど…鬼を連れてるのはどういう事なんだ?」
「!!善逸…わかっていて庇ってくれたんだな…」
善逸は、禰豆子が入った箱を伊之助に攻撃されそうになり、身を挺して庇ってくれたらしい。
鬼が入ってると悟れば普通鬼狩りならすぐさま狩るだろう。
伊之助の行動は正しいものであった。
それなのに、善逸は、炭治郎がアンパンの化身のごとく優しいやつだという事を察していて、鬼の事も追及しないでいてくれたらしい。
伊之助は話題に上がっている箱の中身の事もわすれ、食事に夢中になってモリモリ食っていた。私も天ぷらに夢中だった。
「善逸は本当にいいやつだな…ありがとう」
「おまっそんな褒めても仕方ねえぞ!!うふふ」
善逸は嬉しすぎたのか畳の上にドッと倒れ込んだ。
鼻が利く炭治郎と耳のよい善逸はお互いが優しい事に気が付いていたという。
無能な私はやはり何も感じない。地道に対話で人となりを知るしかない。
それが普通だと思う。だから泣いてはいない。
その後、禰豆子が起きたようで、カタカタと箱から物音を立てた。
最初から鬼が入っていると分かっていても、いざ出て来るとなると怖いらしく、酷く怯えていた。
伊之助は敷かれた布団の上で寝入っている。お前の野性はどこへ消えた。
禰豆子は危険な鬼ではないけど、そうは言ってももっとなんか違う反応があるんじゃないのか。
善逸は中に美少女が入っているなどさすがに思いもしなかったようで、炭治郎に恨み辛みを吐き散らす。
いいご身分だなと憤ってる。どうやら私という幼女は美少女枠には入らないらしい。
不平不満がたまってしまった私は布団に転がり、羊を1000まで数える。
2000まで数えた頃も善逸の叫びは止まず、一方その頃私は来世では美少女に生まれようと決意していた。
1.来来世─暗黒部分
屋敷にたどり着くと炭治郎が血の匂いを察知し、善逸が耳を押さえて顔色を悪くしていた。
子供達を発見した。善逸が屋敷の中に戦いについて行く行かないの問答が続けられた。
炭治郎がこちらを振り返った。
私の名前を呼んだ……
──のを最後に、私の記憶はプツリと途絶えている。
「きみの顔に文句はない!!」
炭治郎の声で目が覚めた。ぱちりと目を開くと、空が見える。
「こじんまりとしていて色白でいいと思う!!」
「殺すぞテメェかかってこい!」
「駄目だもうかかっていかない」
「もう一発頭突いてみろ!!」
「もうしない!きみはちょっと座れ、大丈夫か」
寝起きに聞えてきたのは炭治郎の口説き文句。
何やってんだあの子はと起き上がってみると、確かにこじんまりとしていて色白な子がいた。
ただし筋骨隆々な男子だ。上半身裸だ。
なんだ男か…と落胆してもう一度二度寝をしようとした。
だってもう全身が痛いし。前後の記憶を失い、目が覚めるのは、もう何度目だろう。
何が起こったかは分からないけど、どうしてこうなったのかは分かる。
もう一人の自分が覚醒し、力を振るってしまったのだ。
その後、心優しい炭治郎が伊之助君を煽りに煽り、亡くなった人達の埋葬を手伝わせるという事件があった。
どうやら兄も救出されたらしい、三人の兄妹達も立派に埋葬を手伝ってくれた。
彼らと別れ、人の名前を憶えない伊之助と格闘しつつ、親のいない山育ちだという身の上話を聞きつつ、鴉にせっつかれ、藤の家紋とやらが門に記された屋敷へとたどり着いた。
鬼殺隊に助けられた事のある一族が、援助してくれる仕組みになっていると聞いた。
怪我をした私達は、揃ってお世話になる事になる。
医者を呼んで問診してもらい、風呂や食事を用意してもらい、布団を敷いてもらう。
屋敷の主である老婆から、至れり尽くせりの奉仕を受けた。
食事時。
伊之助はライバル意識でも燃やしているのか、炭治郎のおかずを奪って挑発した。
が、しかし。
「そんなにお腹がすいているなら、これも食べていいぞ」
にこりと笑って自分の食事をさらに分け与えた。
お前は顔をちぎって渡すアンパンの化身か?と言いたくなる。
「じゃあ私の分を炭治郎にあげるよ…」
切なすぎて、私は泣きながら自分の分の小鉢を思わず炭治郎に差し出していた。
炭治郎は迷う素振りもなく、首を横に振るばかり。
「それじゃがお腹がすくだろう」
「私は幼女だし、女だし、胃袋小さいから…」
そんな幼女の私から、伊之助は駄目押しとばかりにおかずを奪って行った。
まじかよと愕然としてしまう。分かってた事だけど、譲り合いの精神とかないらしい。
しかしやはり「コラッ年下になんて事するんだ」と叱るだけで、やはり挑発に乗らない炭治郎に伊之助は地団太を踏んでいた。長男に末っ子、もしくは一人っ子が喧嘩売ってもろくな事にはならんいい例題であった。
「みんなはエビは尻尾まで食べる派?私はその日の気分で優雅に楽しむかな」
夕食に出て来た天ぷらに思いを馳せ、心底どうでもいい話題を提供すると、それにノッてくれたのは善逸だけだった。
人望がないのではない。伊之助がやたらと炭治郎につっかかるため、二人とも口論に忙しいのだ。
禰豆子は時間帯のせいもあってか、消耗したからか、未だ箱の中で眠っている。
善逸は相当話題にノり辛そうにしていて、「か、考えた事ないからわからない…」とだけ言った。私もなんかつらかった。
「あのさ…ちゃんつらくないの?怖くない?不安じゃない?」
「なにがどうして?」
「その…さ、人格が分かれてるんだってね。普段のちゃんからは伺えない、秘めたる力があるんだって炭治郎に聞いて…
確かに戦ってる時のちゃんは全然音が違って…別人って感じだった」
耳がいいという善逸はそういう所まで察知できるらしい。へえーと耳より情報を聞いた気分で半分気分よく、半分絶望し、私はふと笑って頷いた。
炭治郎に、過去の暗黒部分を告げ口をされたかのような、打ちのめされた気分だった。
炭治郎には…そんなつもり全然これっぽっちも無いのに…
そういうモヤを振り払うかのように首を振って、私は善逸の疑問に答えた。
「全然つらくないよ。だって、もう一人の私は、きっと天使みたいな女の子なんでしょ?」
花が綻んだかのように柔らかく笑うと、
「え……?」
と、困惑した様子の善逸がぽつりと声を漏らした。
おろおろと戸惑っている様子だった。
「誰がそんな事言ったの!!!?」
「だれも言ってない。自分の想像」
「なんだ妄想か…よかった…」
「何が妄想でよかった?」
「だって、そんな嘘はあんまりに陰湿だからさぁ!!!」
話が違うだろう。こういうとき、覚醒する人格というのは、天使のように出来た少女・または少年であり、みんなを惹きつける人格者だったりするのだ。
それとも蠱惑的な妖精〜フェアリ〜のような子だろうか。
馬鹿強いというのは、鬼との乱戦の中でこうも生き残っている所を見れば、もう分かっている。
その半分鬼とかいう日本人が萌えそうな属性で持って、儚かったり可愛かったりする人格をチラつかせれば、もう落ちない男も女もいない。全人類が私の虜となり、ハーレム状態になるのは間違いがないというのに。
暫く前、炭治郎に「目の色は変わってなかった?虹色とかに」と聞くと、「どうして?」と心底わからなさそうにきょとんとされたのが辛く苦しくて、深くは事情を聞いていない。
アレ+、善逸のこの様子を見ると、きっと全くもって天使のような性格はしていない、ゴリラのような女の子なんだろう。別人格の私というやつは。
なるほどギャグ枠か。失望してしまった。これじゃ第二の人格(笑)がつくのであろう。
「…炭治郎…誰も聞かないから俺が聞くけど…鬼を連れてるのはどういう事なんだ?」
「!!善逸…わかっていて庇ってくれたんだな…」
善逸は、禰豆子が入った箱を伊之助に攻撃されそうになり、身を挺して庇ってくれたらしい。
鬼が入ってると悟れば普通鬼狩りならすぐさま狩るだろう。
伊之助の行動は正しいものであった。
それなのに、善逸は、炭治郎がアンパンの化身のごとく優しいやつだという事を察していて、鬼の事も追及しないでいてくれたらしい。
伊之助は話題に上がっている箱の中身の事もわすれ、食事に夢中になってモリモリ食っていた。私も天ぷらに夢中だった。
「善逸は本当にいいやつだな…ありがとう」
「おまっそんな褒めても仕方ねえぞ!!うふふ」
善逸は嬉しすぎたのか畳の上にドッと倒れ込んだ。
鼻が利く炭治郎と耳のよい善逸はお互いが優しい事に気が付いていたという。
無能な私はやはり何も感じない。地道に対話で人となりを知るしかない。
それが普通だと思う。だから泣いてはいない。
その後、禰豆子が起きたようで、カタカタと箱から物音を立てた。
最初から鬼が入っていると分かっていても、いざ出て来るとなると怖いらしく、酷く怯えていた。
伊之助は敷かれた布団の上で寝入っている。お前の野性はどこへ消えた。
禰豆子は危険な鬼ではないけど、そうは言ってももっとなんか違う反応があるんじゃないのか。
善逸は中に美少女が入っているなどさすがに思いもしなかったようで、炭治郎に恨み辛みを吐き散らす。
いいご身分だなと憤ってる。どうやら私という幼女は美少女枠には入らないらしい。
不平不満がたまってしまった私は布団に転がり、羊を1000まで数える。
2000まで数えた頃も善逸の叫びは止まず、一方その頃私は来世では美少女に生まれようと決意していた。